電離放射線による遺伝子への影響

 人類は体内の安定した内部環境の下で体温を36℃何分に保ち、心臓が一定のリズムを刻む仕組みを作り上げてきた。内分泌系、自律神経系、免疫系の3つが協力しながら、内部環境を良い状態保っている。電離放射線放射線が当たると外側に回っている電子を原子から弾き飛ばし、分子を切断する。遺伝子の切断が密に行われると、修復過程で遺伝子の変成が行われる。1mSv/年という値は人体にある80兆個ある細胞一つずつに1個分子切断を与える非常に危険な線量である。
 α線β線はDNAの鎖を2本同時に切断する。すると異常再結合が起きる場合がある。切断が密に行われるほど、危険度が高く、すぐ近くに切断されたものが複数あるため、修復時に繋ぎ間違えDNAを変成する。人体中では40回も50回も変成が繰り返されて癌になる。強い免疫機能があれば、傷ついた細胞を識別し、それを取り除くが、免疫機能が弱いとそれを判別できなくなり、取り除く力がなくなる。染色体が破壊されたまま細胞が増殖することが癌の引き金になる。脳腫瘍では、症状がでるまで30年近くかかる。
 α線照射によって発生するバイスタンダー効果により、電離放射線を直接照射された細胞だけでなく、その周囲の直接照射されていない細胞(バイスタンダー細胞)にも、遺伝的不安定性、DNA損傷、染色体異常、細胞分裂・増殖阻害、アポトーシス(細胞の自殺)、突然変異の誘発などの放射線の影響がみられる。これにより細胞核の中にあるDNAに傷がつかなくても、近く、或いは隣の細胞に放射線がヒットしても、生物化学的反応が起こってDNAに傷がつく。
 1972年アブラム・ペトカウは「長時間、低線量放射線を照射する方が、高線量放射線を瞬間放射するよりたやすく細胞膜を破壊する」ということを実証研究した。外部被曝35Svで起きる細胞膜破壊が内部被曝7mSvで起きた。線量を単純に計算すれば、内部被曝外部被曝の5000倍も影響力が高いと言える。総じて、内部被曝外部被曝の600倍から900倍の影響があると言われている。
 人間の細胞の分子は最大10eV(エレクトロンボルト)、レントゲンで最大120KeV、γ核種微粒子で最大4MeV、β核種で最大4MeV、α核種で最大8MeVのエネルギーを持つ。天然のウラン238は原子が一個一個バラバラに存在し、α線照射範囲の40μに比べて離れた所同士に存在するので、分子切断の場所が相互作用をしない。人工的な放射性物質は必ずパーティクル(微粒子)になる。1μmの直径の微粒子の中に100万個の100万倍である約1兆個の原子がある。。これが体内に入った場合は、ひとつの場所から次々とα線が放出される。α線の多くは4MeVという高エネルギーを持ち、10万個の分子切断を行う。塊になった放射性物質内部被曝するという事は、極めて確率の高い発がん様式になってしまう。β線は、体の中で大体距離で1cm位まで飛び1MeVのエネルギーを持ち、25000個の分子切断を行う。修復の過程で生まれた異常な再結合、その形質が次々に受け継がれていく。その結果、癌あるいは先天的障害とか免疫異常など様々な病気を生みだす。幹細胞は自己複製により一生新しい細胞を生み出していくが、その幹細胞の一部に放射線被曝が及び、DNAに最初の傷ができ、遅延性のゲノム不安定性を獲得し、染色体遺伝子の不安定性、ミニサテライト突然変異(遺伝的不安定性の誘導と遺伝的変化の蓄積)により、障害が受け継がれていく。最も深刻な電離放射線の作用とは、被曝した両親の子孫に現れる遺伝的欠損である。遺伝性作用、出生異常、先天性形成異常、流産、死産である。
 1927年米国人科学者ハーマン・ジョーゼフ・マラーはショウジョウバエX線照射し、X線量と突然変異の発生が正比例することを発見した。そして一度の照射でも分割した照射でも、突然変異の発生率は同じで総線量に正比例した。7世代にも渡って後続世代に、形成異常、その他の障害が発現することを発見した。この研究により、低線量被曝や天然バックグラウンド放射線でさえもが、変異を誘発し、遺伝作用、あるいは癌誘発性があり、無害の線量域がないと結論づけた。
 琉球大学准教授大瀧丈二が率いる研究チームがヤマトシジミの被曝の影響を調査し、その研究論文が2012年・2014年Nature系英科学誌で発表された。
「研究チームは事故直後の2011年5月、福島県などの10市町でヤマトシジミの成虫144匹を採集。その内、7地域総合で12%に羽や目の異常が認められた。これらのチョウ同士を交配した子世代での異常率は18%に上昇した。同様の7地域で9月に採集を行ったところ、異常率は28%、その子世代では52%に達した。類似の異常は、沖縄個体を外部被爆・内部被爆させた実験でも認められた。」
福島原発周囲に生息している植物をチョウに与えてみたところ、体内の放射能蓄積量が1.9ベクレルに達すると死亡率が50%になることを発見した。また、チョウの体内に0.76ベクレルを超える放射能が蓄積されると、異常発生率が50%を超える事も判明した」
「汚染葉を食べて育った親から生まれた第2世代の幼虫に、親と同じ汚染葉を与えたところ、親以上に生存率は低く、異常発生率は高かった。しかし、汚染されていない葉で育った第2世代は、死亡・異常発生率とも、ほぼ正常に近い水準に戻った。」
 この研究結果が衝撃的だったのは、極めて低い線量でも被曝の影響が出た事であり、被曝第二世代はより一層放射能汚染に敏感であると証明された事である。
 放射線が遺伝子を不安定にすることは明白である。屋内実験と動物研究によって、放射線被曝がある種の遺伝スイッチを押し、それが全般的な変異率の非特異的な上昇をもたらすことが示されている。
 「放射線と市民の健康プロジェクト」ローレン・モレットによると、アメリカにおける小児の歯中のストロンチウム90含有量と原子力発電所年間稼働率上昇とともに直線的に増加を示している。原発の通常運転でも様々な形の有害な放射性物質が環境に出ていて、それによって昆虫や植物とかにも障害が出てくる。また、近くに住んでいる5km圏のみならず、原発から50km圏内に住んでいる人たちの健康障害の問題もある。子供の白血病の発病率が高いとされる。