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2016-06-21

就職先に悩んだら、仕事の内容よりも、一緒に仕事をする人・チームで進路を決めたら良い

大学院を卒業して20年も経つと同世代の進路は本当にそれぞれです。

自ら転職したり、リストラで不本意ながら辞めざるを得なかったり。同じ会社に居続けている方が少数かな。

私の場合も転職を計画していたわけではなく、偶然の成り行きで会社を辞めて大学に転職しました。

転職のときは、大企業の中間管理職を何十年も続けるのはしんどい・つまらないな、と思うと同時に、大きな組織を調整する仕事は自分には向かないという割り切りもありました。

率直にいうと、「この人は将来偉くなって幹部になるだろうな」というエースと比べると、自分はあそこまで我慢強くないから、きっと大組織に居続けるのは無理だろうというあきらめ。

10年以上勤めた会社にはそれなりに愛着もありましたし、OBとなった今でもあります。だから、辞めたと言えども、古巣は頑張って欲しい。

自分が居なくても、このエースの人たちが会社に残れば大丈夫だろう、と思って会社を辞めました。

ところが、大学に移ってから10年近く経ちますが、会社を背負って立つと(私が勝手に)みなしていたエースたちが軒並み辞めていくのです。

これにはショックを受けています。このままでは、会社もやばい。

優秀でバランス感覚やリーダーシップもあり20年以上も会社で頑張り続けたエースが突然辞める。

ご存知の通りこの「会社」というのは東芝で、不適切会計とそれに伴うリストラも転職に影響しているのでしょうが、エースと思われる人が辞めてしまうのは会計騒動の前からです。

会社を辞める事情は人それぞれでしょうが、多くの場合は、不本意な形で辞められている。

他人の人生をとやかく言う資格はないですが、一寸先は闇で、人生わからないものだと痛感します。

日々をしっかり生きるしかない。

結局のところ、社会に出てから20年もたつと、新卒の時に予想したのとは全然違う仕事をしてる人も多い。

では、就職するときに仕事はどうやって選べば良いのか。

残念ながら、どの産業、会社が大丈夫かはわかりません。

例えば今はAI技術者がもてはやされていますが、このブームもいつまで続くことか。

仕事選びとしては、好きなことをやるというのが第一でしょう。

どんな仕事もきついこと、理不尽な目にあうわけですから、好きでないと続かない。損得勘定で仕事を選ぶと、不遇のときに耐えられない。

もしどうしてもやりたいという仕事がなく、進路を迷ってしまうならば、仕事をする相手を重視して進路を決めることが良い。

仕事の中身など実際にやってみないとわかりませんが、一緒に働く人がどんな人かは面接などを通じて察することはできます。

実際のところ、優秀なチームに入った人は、そのチームの中で育てられたり、転職後も当時の人のネットワークを通じて仕事が広がったり。

私も会社を辞めて10年たっても、昔の人的ネットワークやOBのコミュニティに今でも助けられています。

東芝は会計問題で社会に大迷惑を掛けてしまった企業ではありますが、フラッシュメモリの立ち上げを通じて育てていただいたこと、人とのつながりは自分にとってかけがえのない財産です。

東芝時代の10年あまりはフラッシュメモリの立ち上げで、坂の上の雲に向かって駆け上がるという経験ができました。

大学に移って、この10年間は電機産業の崩壊で、下りエスカレーターを必死で駆け上がるような日々でした。

そして古巣の東芝の崩壊。

自分でできることと、自分ではどうしようもないこと、でたくさんの失敗とちょっとした成功を経験できたのは、悪くなかったと思っています。

それもフラッシュメモリの発明者の舛岡先生に就活の時に出会い、舛岡先生が率いるフラッシュメモリチームでどうしても働きたい!と思い、飛び込んだおかげです。

学生の時にフラッシュメモリは全く理解していませんでしたが、「この人たちと働きたい!」という思いから東芝に入社したのは間違いではありませんでした。

私自身もこれからも人との出会いを大切にして、次の10年を創って行きたいと思います。

それに人との出会いがあるから、人生は楽しいですしね。

2016-06-16

ハードとソフトの融合はジョブズの言う「Connecting dots(点と点をつなげること)」

VLSIシンポジウムで論文を発表するためにハワイに来ています。

今回は「データの属性を自ら判断する賢いメモリ」を発表します。

TLCフラッシュメモリーをデータセンターに 中央大学がデータの属性を自ら判別する“賢い”メモリーを開発

企業から大学に移ってから9年近くたちますが、今までやってきたことは、この発表のように、ハードに最適なソフトを作ること。

大学に移った当初はかつての専門であるハードだけをやっていては、企業に負けるだろうと思いました。かつての企業に居た時の自分に負ける、と言っても良いでしょう。

大学というリソースが貧弱な環境(企業に比べて)では、新しい価値を作るには分野を越境するしかない、と思いソフトを手がけるようになりました。

ただ、ソフトのど真ん中の研究をしてしまったらソフトの専門家に勝てるわけもない。あくまでもハードの特徴を活かすソフトの研究です。

そういった、サバイバルのために始めた分野の融合、境界分野の研究ですが、これが今後の技術の潮流になっていくのかな、とも最近は感じています。

先ごろグーグルがディープラーニングを高速に実行するハードウェア(LSIのカスタムチップ)であるTPUを発表しました。

これからはTPUのように、AIなどを使った高度な制御、ソフトとハードウェアが融合していくのでしょう。

学会では今日、グーグルからAIアクセラレータに関する講演「Enabling Future Progress in Machine-Learning」を聞きました。

まだTPU自体は話してくれませんでしたが、これからは

機械学習、ニューロサイエンス、ハードウエアの知見・コミュニティの融合(Connecting dotsと表現)が必要だ」

とグーグルの講演者は言っていました。

Connecting dotsというのはSteve Jobsスタンフォード大学の卒業式の時に語った有名なフレーズです。

それぞれ独立して見える点(たとえば技術分野)と点を結びつける線をひくことで価値が生まれる。

ジョブズの場合は、大学中退後に大学にもぐりこんで受講したCalligraphyがマックの美しいフォントに結びつきました。

ちなみにグーグルの講演者(Olivier Temamさん)自身が大学と企業を越境していて、なかなか魅力的な方でした。

私がやっているソフトとハードの融合も、今から振り返るとConnecting dotsでした。

それぞれ独立して発展してきた複数の分野を理解し、融合するのは決して簡単なことではありません。

しかし、難しいからこそ誰もやっていないし、チャンスが大きい領域である可能性が高い。

果たして分野の融合、境界領域が、前人未踏の豊かな土地なのか、それとも不毛な土地なのかは、やってみないとわかりません。

ただ、トランジスタの微細化・ムーアの法則が減速している今では、個々の技術を極めていくというタイプの技術開発だけでは限界を迎えつつあります。

むしろ今までバラバラだった分野・技術を繋げて行くことから、大きな価値が生まれるのかもしれませんね。

2016-06-15

プレスリリースを行いました。「データセンタ向け、データの属性を判断して読み出し方式をデータに応じて最適化するスマートなメモリ」

VLSIシンポジウムで発表する論文「Versatile TLC NAND Flash Memory Control to Reduce Read Disturb Errors by 85% and Extend Read Cycles by 6.7-times of Read-Hot and Cold Data for Cloud Data Centers」のプレスリリースを行いました。

メモリに記憶されるデータの特徴を判別して TLC フラッシュメモリの読み出し方法を最適化〜読み出し可能回数が 6.7 倍に増加〜クラウドデータセンタ記憶媒体への展開に期待

また、早速、日経オンラインテクノロジが記事を掲載して下さいました。

TLCフラッシュメモリーをデータセンターに 中央大学がデータの属性を自ら判別する“賢い”メモリーを開発

ムーアの法則の終焉と言われているように、トランジスタの微細化が減速してきており、小さくする(ことで大容量化・低コスト化・高速化)というシンプルなルールに則って開発をすればよい時代は終わりつつあります。

その結果、もっと賢い制御をソフトで実装し、ハードとソフトを融合することで新しい価値を生み出すことが重要になると思います。

最近のIoTに向けたAI・機械学習のブームも、そういった文脈になるのではないかと。

今回発表した技術も、ソフト・ハードの融合技術です。

論文の名前も「Memory Control for Data Center」で、データセンタ向けのメモリを制御する技術が、VLSI Technologyというデバイスの学会に採択して頂けたことからも、学会自体もシステムを志向してきているという背景があると思います。

そういえば、半導体のロードマップ委員会ITRSが終息し、半導体を使ったシステムのロードマップ委員会IRDSとして生まれ変わるという報道もありました。

国際半導体技術ロードマップが終了 - IEEEが新たに半導体・コンピュータロードマップを発足

こうした「もの」から、「もの」を使ったシステムへ、という世界的な動きの中で、何とか日本の産業に貢献していきたいと思っています。

2016-06-11

若さとは将来に期待すること、自分がまだ成長できる、何かをなす事ができると信じられること

40代で電機業界にいると、同世代や上の世代の人の現状は悲喜こもごもです。自らの意思で会社を辞めた人も多いし、リストラや早期退職で会社を辞めざるをえなくなった人も多い。

好奇心を失わずに、新しいことに挑戦し続けている人もいれば、昔身に付けたスキルで逃げようと守りに入っている人も。

大学(院)を卒業して入社した時は似たような感じだったのが、驚くほど差ができてしまう。

残酷なことに、両者の差は年々広がるばかりです。

以前のように終身雇用が守られていた時には、両者は待遇という面ではさして違わなかったと思います。

ところが、自分の力で第2、第3の人生を切り開かなければ行けない今では、差は歴然とします。

この差はなぜ生まれたのだろうか?と考えてしまいます。

よく好奇心が若さと言いますが、技術者の場合は、将来に期待すること、自分がまだ成長できる、何かをなす事ができると信じられること、と言い換えられるかもしれません。

自らやりたいことがある、と言っても良いでしょう。

研究や開発はリスクがあるのが当然です。

ひょっとしたら失敗するかもしれないし、難しいからこそ今まで誰も成功していないわけです。

そんな時に、将来の社会をこうやって変えていきたい、それに少しでも自分も貢献したい、どうしてもやり切りたい、という思い・志がなければ、リスクの高い研究などできません。

研究や開発には挫折がつきものですが、守りに入っている人はちょっとした失敗でも、「どうせできないや」と腰砕けになって諦めてしまうのです。

大学の研究室の主体は学生です。学生は否が応でも自分で未来を作っていかなければいけない立場。また、守るべきものもありません。

ですから、若い世代の人たちは、自然と前向きになれるのだと思います。

一方、中高年になると、自分で余程の覚悟がないと、前向きになることは難しいのかもしれません。

これ以上新しいことを学ばなくとも、過去身に付けたスキルで逃げ切れるのではないか、という誘惑に負けてしまう人も多い。

30代までは輝いていたのに、時間が止まったように何も新しいことをしようとせず、40代からいわば「過去の人」になってしまった人もいます。

その人が輝いていた時代を知っているだけに、「過去の人」になってしまった姿を見るのはつらいものがあります。

大学だけでなく企業でも良く見られることでしょうが、守りに入って逃げ切ろうとする中高年を、知識は未熟な若い世代がいとも簡単に追い越していく。

人生は思ったよりも長いし、競争環境は急激に変わります。

いかに過去成功した経験があったとしても、逃げ切りなんて、簡単にはできないのだなと実感しています。

攻撃は最大の防御、ではないですが、自分の身を守るためには何歳になっても自分を変え、挑戦し続けるしかない。

成長すること、自分を期待することを諦めたり、「これまでの知識の貯金で食いつなごう」などと思った瞬間に、自分のコモディティ化が始まるのでしょう。

結局のところ、逃げ切りなど考えもしない人が実際には逃げ切ることができ、逃げ切ろうとした人には居場所がなくなる、という皮肉な結末になりがちです。

難しいことを考えなくても、これは当たり前ですよね。

いかにしてサボるか・楽してお金を貰おうとする人、言われたことしかやらない人よりも、前向きに自ら困難な仕事に挑戦する人の方が、一緒に仕事をしていて楽しいですから。

ベテランの方が転職をする時は、アピールする材料として過去の実績を語るのが一般的でしょうが、技術・知識の陳腐化が早い時代には、過去の実績だけでは、これから仕事ができるかどうかわかりません。

むしろ、自分の過去を語るのか、これから自分が作りたい未来を語るのかで、その人の技術者・研究者としての本質を見ることができるのではないでしょうか。

過去の栄光にすがるのか、未来を自ら作ろうとする意思があるのか。

過去しか語らない人は、その実績がいかに素晴らしくとも、技術者・研究者としてはもはや使い物にならない、賞味期限が切れている、という厳しい現実があります。

逆に、ファイティングポーズを取り続ける人には、何歳になってもチャンスがあるのだと思います。

2016-06-07

理系の技術者が10年前にビジネススクールにMBAを取りに行った意味

スタンフォード大学のビジネススクールに行きMBAを取ったのが2003年ですから、10年以上がたちました。

当時はなぜ技術者がMBAに行く必要があるのか?と言われたものでした。

そして、経営コンサルや投資銀行など、いわゆるMBAが進む仕事に変わるのであれば(キャリアチェンジするのであれば)MBAに行く意味があるが、技術者を続けるのであれば、MBAは意味ないと盛んに言われました。

当時私は電機メーカーに在籍していましたので、自分が作った技術をビジネスとして成功させるには、技術バカではだめで、マーケティングはもちろんのこと、商品企画から売るための仕組み作り、パートナーシップなど、いわゆるビジネスディベロプメントができる必要があると思っていました。

とはいえ、まだ電機メーカーの中での技術者の仕事は縦割りで、細分化された組織の中で、ある特定分野のプロの技術者を目指すというのが一般的だったと思います。

私の場合は大学に移ったので、MBAが非常に役に立ちました。大学の教員は給料を大学から頂ける点では恵まれていますが、研究にかかわるリソース(人・モノ・金)は自分で集めマネジメントしなければいけません。

日々資金繰りに走り回る、と言っても過言ではありません。中小企業の経営者に似ている面もあるかもしれませんね。

また自分が元々の専門とする半導体業界が日本ではひどい状態ですので、現在の大学のポストにつけたのも、単に集積回路の専門家というだけでなく、技術経営・MOTも教えることもできる、という面もあったと思います。

実際、現在の大学に移ってから、工学デザインという、理系の学生に商品企画・MOTを教える授業を始めたくらいですから、MBAで学んだことを学生に伝えることは大学からも期待されていると感じています。

企業から大学に移ったという、やや特殊なキャリアを歩んだ私にとっては、MBAは大変役に立ちました。技術とともに命綱だった、と言えるかもしれません。

一方、企業におられる技術者にとってはどうでしょうか。

最近、IoT(Internet of Things)と言われるように、従来はITが使われていない社会の様々な分野(医療、交通、セキュリティ、農業等々)にIT技術が使われるようになってきています。

そうなると、ITの技術者が接する相手は、ITの専門家では必ずしもありません。むしろ、IT、技術はさほど知らない人を相手に仕事をしなければいけない。

また、IoTでは一社で全ての技術分野をまかなう事も困難です。対象とするアプリケーションが先ほど述べたように広範な上、技術的にも多様なセンサ、AIを使ったデータ処理やネットワークなど広い範囲をカバーしなければいけません。

技術面だけ考えても一社だけでは解決方法を提示できないのです。必然的に異業種と連携することが必要となります。

その時に技術者も、ある特殊な分野だけわかります、では不十分なのです。

技術は分野が異なると使う用語も違うしコミュニケーションさえ難しい。

そこを何とか(完全には理解できなくとも)勘所を理解して、連携をして仕事を進めていくことが必要になる。

もはやある専門分野を深掘りする、単線路線だけを歩んで来たエンジニアには厳しい時代になったと感じています。

実際、大手のメーカーで部長、課長といった管理職をやられた方でも、ある分野だけ、内向きな仕事しかしていない方が実際には多い。

IoTといった異業種の連携が必要な時には全然役に立たない、というケースを目にします。

大学でも同様です。研究資金は国家プロジェクトや企業との共同研究から確保する必要があります。

最近のIoTなどの国家プロジェクトでは、大学が持つコアの技術を開発するだけでなく、その技術を実際の社会で使えるようにする周辺技術を開発してくれるパートナーを集め、最終的に技術を使うサービス事業者と連携することが求められます。

異業種の企業間の連携が必要だからこそ、利害関係が中立的な大学教員には、企業間のWin-Winの連携の仕組みを構築、運営することが求められるのです。

具体的には、自分の持つコア技術を差別化技術として、様々な業種の企業に声がけをして研究チームを作り、IPなど権利関係・契約もクリアできるように調整することが、大学教員に求められていると強く感じます。

私の専門分野とは違うので異分野のことや契約は知りません、では生き残れません。

振り返ると10年前にIoTの出現を予想できたわけではありませんが、MBAで学んだことこそが技術者にとって重要になりました。

この先10年、20年後を予測することはできませんが、技術者・研究者に専門知識だけでなく、より幅広いマネジメント能力(いわゆるGeneral Management)が求められるようになることは変わらないでしょう。

もっとも、良いこともあります。IoTのプロジェクトを始めてから、今まで全く縁のない業界の方々とのお付き合いが始まりました。

いろいろな分野の方にお会いしてお話できること自体がとても貴重な楽しい経験だと感じています。

こちらはJALの羽田の整備工場で航空機のセンサを実際に見せて頂いた時の写真。

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この整備工場はJALの男性社員、岡本さんがキレッキレの踊りを披露して話題になった場所でした。JALさん、ありがとうございました。

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2016-05-29

IoTで直面する人材難

電機メーカーは携帯電話、パソコン、テレビ、液晶ディスプレイ、半導体・・・などからの撤退が相次ぎ、事業再編、リストラも一段落してこれからいかにして成長していくか、前向きに変わろうとしています。

事業が競争力がなくなり、人を減らさなければいけないのは、ご本人だけでなく、残った人にとっても大変つらい経験だったのではないかと思います。

その一方、リストラをしている最中から良く聞かれたのは、人が居ないんですよね・・・という人材難の問題。

つまり、人余りと人材難が同時に起こっている。

ある決まった分野、特にハードウェエア分野のエンジニアならばあまるほど居る。居すぎるからリストラをせざるを得なかったわけです。

ところが、これから事業を変えていかなければいけない時、例えばハードの部品の売り切りビジネスから、ハードに加えてソフトをつけ、ソリューションとしてシステム全体を提供する。更に保守で大きなマージンを稼ぐような、サービスビジネスへの変換が求められているのです。

そんな事業変革の時に、様々な分野を統合し、リーダーシップを取れる人材が居ない、という嘆きを人事部や経営層の方から聞くのです。

もっとも、これは自業自得でもあります。

エンジニアは特定分野の専門家として、ある分野を集中してやり続けろ、という人事制度を続けてきたつけが出ているわけですから。

人材の流動性が少ないこともあり、今までは同じことをし続けた人が高い人事評価を受け、様々な分野を経験しようとする人は、ともすると「変人」、「落ち着きがない」とか「我慢が足りない」などと、どちらかと言うと低く評価されがちだったのではないか。

それがいまさら、幅広い分野をカバーできて、変化に対応できる人材が居ない、と頭を抱えているのです。

特に、IoT(Internet of Things)と言われるように、これから社会の様々なサービス・分野(医療・エネルギー・交通・農業・セキュリティ等々)のIT化が進むと考えれています。

今は「IoTをやれば儲かる!」というやや加熱した雰囲気(バブル?)かもしれませんが、本当かな?と私などは思ってしまいます。

例えばかつての、携帯電話やパソコン、タブレットなど、ある程度使い方がわかっていて、大量に売れる製品では、使われるハードの仕様も予想可能なものでした。

業界で仕様をある程度は標準化し、あとはいかに高性能・低電力・低コストに作るか。

つまり、「何を作るか」については規格化され、そう悩む必要はなかったと思います。

一方、IoTは分野によって千差万別です。

そもそも、顧客に何を提供すればよいのか、誰も・顧客自身も多くの場合は知らないのですから。

例えば、野菜工場とゲノム解析と自動運転では、センサやデータ解析に求められる要求は全く同じとはいきません。

つまりIoTでは、内容が千差万別で、市場規模も(スマホやパソコンと比べれば)比較的地位小さい市場がたくさんある、という状況ではないかと思います。

悪く言うと、小さくてチマチマしていて面倒くさい市場が多種多様に存在する。

組み込み機器の市場と似ているかもしれません。

これは、スマホやパソコンのような、巨大な単一市場がある場合とは、状況が全く異なります。

すなわち、IoTのそれぞれの市場に向けた個別の最適化、要素技術のすり合わせが求められる。

そうなると、ひとつの分野の専門家では厳しい。むしろ、顧客のビジネスの状況を理解したうえで、センサからネットワーク、データ処理まで全体を最適化したソリューションを提案するような人材が必要になってきます。

これは、今までのような「専門家を育成する」という人事制度では難しく、先に述べたような、「人材難」という嘆きにつながるのです。

もっとも、このような困難に直面しているのはどこの国の企業も同じです。

インダストリアル・インターネットを提唱するGEは、「ソフトウァエ企業に転換するんだ」という掛け声の下、社員に対して求められている資質が変わったのだと、意識改革を進めているとも言われています。

大学などの教育も、今までの単一の専門分野を教える教育から、変わらなければいけないのかもしれません。

元々、様々な分野のすり合わせというのは、日本企業が得意とするものでした。

ただ技術をすり合わせて、素晴らしいハードの製品を作るという段階までならば日本は得意なのですが、ビジネスとして裾野を広げるよう、戦略を組み立て普及させる、という意味では不十分だったのではないかと思います。

IoTは企業にとっても個人にとっても、チャンスであるのと同時にピンチでしょう。

今まで「変人」扱いされていたかもしれない、多くの分野に興味を持って全体を統合しようとする人、いわゆる総合者タイプの人材には、チャンスなのでしょうね。

2016-05-25

日経テクノロジーOnlineに掲載「場所を変えるか分野を変えるという選択 次のステップへの準備は就職した時から始まっている」

久しぶりになってしまいましたが、エンジニアのためのMOTに記事を書きました。

場所を変えるか分野を変えるという選択 次のステップへの準備は就職した時から始まっている

電機メーカーの事業再編、リストラも一巡して、私の知り合いもずいぶん転職しました。

転進は人それぞれの事情があるので一般化はできないでしょうが、日本から海外に産業が移ってしまった場合には、海外に行って頑張るのがひとつのパターン。

もうひとつは、前職のスキルを活かしつつ、ちょっと違う分野に移ること。

ただそのためには、事前に違う分野を勉強しいたり、何よりも違う分野の人とのネットワークが必要です。

40代の転職では「即戦力」が求められますから、「新しい分野に転職したら勉強して頑張ります」というわけにはいかないのです。

すでに旧職のスキルを活かして新しい職場で活躍できる、貢献できることを説得できなければいけない。そのためには、やっぱり知り合いがいることが近道ですよね。

若い人にとってはまだ早期退職など先の話と思うかもしれませんが、実は就職した瞬間から次のステップへの準備は始まっているのです。

2016-05-21

グーグルがAI向けの半導体を開発した意味

グーグルがディープラーニングを高速に実行するための、専用LSI(ASIC)を開発し、すでに囲碁AIの「AlphaGo(アルファ碁)」などにも使われていると発表しました。

米Googleが深層学習専用プロセッサ「TPU」公表、「性能はGPUの10倍」と主張

かねてからグーグルは半導体のベンチャー企業を買収したり、私の専門分野でいうとストレージコントローラーを自ら設計しているという噂がありましたので、ディープラーニング専用の半導体を開発してもそう意外なことではありません。

iPhoneiPadに搭載されているCPUはアップルが開発していますし、ITのサービスを手掛ける巨大企業が、サービスの差別化のためにも半導体まで手を出すというトレンドは、これからも続くのでしょう。

半導体の最先端技術の製造は、数千億円もの初期投資が必要で、参入障壁が非常に高い分野です。

一方、半導体の設計については億円単位のフォトマスク代はかかるものの、設計自体はエンジニアさえ集められればできますし、製造はファンドリに委託することができます。

従って、アップルやグーグルが手掛けている半導体の設計は、グーグルやアップルほどの巨大企業であれば、参入が(製造に比べれば)比較的容易な分野ではないかと思います。

こうしてアップルやグーグルのようなITサービスを手掛ける企業が半導体という部品まで手掛けるようになると、これはまるで一昔前の日本の総合電機メーカーのようです。

例えば、ソニーはプレイステーションのゲーム機やソフトだけでなく、ゲーム機に搭載される半導体のチップも自ら(IBM東芝と連携しながら)設計・製造していました。

日本の電機メーカーが凋落して行った時に、自社で半導体という部品から消費者向けの最終製品やサービスまで手掛ける垂直統合は悪で、得意な分野だけに事業を「選択と集中」する水平分業が善、と言われました。

それが、勝ち組の米国企業の方が垂直統合に向かっているとは、皮肉なものです。

結局のところ、垂直統合と水平分業のどちらが良いというよりも、その運用で良くも悪くもなるのでしょう。

こうした垂直統合モデルは、部品からサービスまで、全ての分野で競争力がある時(現在のグーグル)には、相互が連携して大変有効です。

しかし、統合している一部の分野が競争力がなくなり、全体の足を引っ張りだすと、難しい問題に直面します。

例えば、もしインテルnVidiaといった外部のCPUメーカーが、グーグルのAIチップ以上の性能の半導体製品を出してきた時に、グーグルはどうするのか。

グーグルにとってはAIを使ったサービスこそが最も重要でしょうから、場合によっては自社の半導体開発部隊を冷遇してでも、外部の半導体を採用できるのか。

でも、そんなことをされたら、グーグルの中の半導体開発者はやってられません。

また、グーグルのAIチップは外販はしないようです。

グーグルの中でこの半導体を開発している人たちは、外販ができない状態、つまり売り上げが立たない状態で、社内でどのように評価されるのか。

半導体の事業のことだけを考えたら、外部のITサービスベンダ、グーグルのライバルにさえもチップを販売した方がよいのです。

以上述べたことは、かつて垂直統合モデルで事業を展開した、日本の総合電機メーカーが苦しんだことです。

果たしてグーグルやアップルが、どのように垂直統合モデルをマネジメントしていくか、新たな挑戦なのだと思います。

2016-05-17

IoT のリアルタイム処理に向けた高速フラッシュストレージ〜アプリケーションや書き換え回数に応じた動的な誤り訂正の最適化で 3 倍高速化に成功〜

パリで開催中のIEEE IMW(International Memory Workshop)での論文発表にあわせてプレスリリースを行いました。

新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業であるエネルギー・環境新技術先導プログラム「IoT時代のCPSに必要な極低消費電力データセントリック・コンピューティング技術」の成果になります。

改めて研究をご支援頂いているNEDOに御礼申し上げます。

【概 要】

中央大学 理工学部 教授 竹内 健のグループは、IoT のリアルタイムデータ処理に向けた、高速フラッシュストレージ技術を開発しました。アプリケーションに応じて動的に誤り訂正回路を最適化することで、フラッシュストレージの弱点であった、データの長期間保持能力と高速データ処理性能のトレードオフを解決し、記憶したデータを失わずに長期間保持できる高い信頼性と、最大で 3 倍のデータ処理スピートを達成しました。本グループは、本成果を今後さらに発展させることで、データ・セントリック時代のコンピュータ、ストレージを世界に先駆けて開発し、今後発展が期待される IoT の様々なサービスに貢献していきます。

本研究成果は 、2016年5月1 5日から18日にフ ラ ン スで開催 されている「IEEE International Memory Workshop」で発表されました。

論文名:Application Optimized Adaptive ECC with Advanced LDPCs to Resolve Trade-off among Reliability, Performance, and Cost of Solid-State Drives

【研究内容】

1.背景

モノのインターネット (Internet of Things: IoT)注 1では数兆個ものセンサ(トリリオンセンサー)により、多種多様なデータが収集され、データセンタで処理されるようになります。こうして集められたデータをクラウドデータセンタで瞬時に処理し、処理した結果を即座に機器を制御するアクチュエータ等にフィードバックすることで、セキュリティ、製造、医療、災害予測、自動運転、電力網、交通網など実世界の処理を低電力かつ高速、高効率に行えるようになります。

IoT の応用としては、安全・安心分野、製造業・インダストリ 4.0、インターネットサービス、最適医療・予防医療サービス、ピンポイント気象・災害予報、交通サービスなどが考えられます。このようなリアルタイム性の高い IoT のサービスを実現する上では、データを蓄えるストレージ(記憶装置)の高速処理化が必須になっています。

こうした高速化の要求を受け、ストレージの記憶媒体は従来の HDD から高速なフラッシュメモリを使ったソリッド・ステート・ドライブ(SSD)に移行してきています。ところが、フラッシュメモリは書き換えを繰り返すにつれて、メモリセルの信頼性が劣化し、メモリの不良率が高まるという問題がありました。

メモリのエラーは誤り訂正回路(ECC)によって訂正されるので救済が可能ですが、多数の不良を救済できる強力な ECC を採用すると、逆に ECC を処理(デコード)するための時間が長くなり、最終的にはストレージの性能(処理速度)が劣化してしまう、という問題がありました。

2.研究内容と成果

今回の研究では、アプリケーションや書き換え回数に応じて動的に ECC を最適化することで、フラッシュストレージの弱点であった、データの長期間保持能力と高速データ処理性能のトレードオフを解決しました。提案するストレージ・SSD ではアプリケーションや書き換え回数に応じて動的にECC を最適化する AOA-ECC(Application Optimized Adaptive ECC)を SSD コントローラーに搭載しています。

この AOA-ECC に ECC デコードを短時間で行う Quick-LDPC を採用することで、ストレージへの読み出しが頻繁に行われるが書き換え回数は比較的少ないアプリケーションでは、データ処理スピードを2〜3倍高速化することに成功しました。また、書き込みが頻繁に行われるアプリケーションでは、ECC の処理時間がシステム性能へ与える影響は小さいが、書き換えによってメモリの不良が多数発生することから、強力な誤り訂正能力を有する EP-LDPC w/o Upper/Lower cellsを採用しました。その結果、従来の強力な ECC(Soft Decoding LDPC)を採用した SSD と同等の記憶したデータを失わずに長期間保持できる高い信頼性と、従来システムの 1.5 倍も高速にデータを処理できる性能を両立しました。

3.今後の展開

IoT の時代には、ビッグデータを処理するコンピュータも従来の CPU を中心としたプロセッシング・セントリック型から、メモリやストレージを中心としたデータ・セントリック型へ移行します。米国企業を中心に開発が進んだ CPU に対し、日本で発明された半導体メモリはフラッシュメモリの開発も世界を牽引している。本研究グループでは、今般の研究成果を今後さらに発展させることで、データ・セントリック時代のコンピュータを世界に先駆けて開発し、今後発展が期待される IoT の様々なサービスに貢献していきます。

2016-05-11

IoTで儲けるという幻想

最近、IoT(Internet of Things)、AIが大流行ですね。

IoTは「モノのインターネット」と呼ばれるように、社会の至るとこに設置されたセンサが膨大なデータを収集し、インターネットを通じてデータをデータセンタに送る。

データセンタではAIなどを使ってデータを解析し、解析結果を再び現実世界にフィードバック(アクチュエート)することで、インフラ・サービス・製造までも効率化するのが狙いです。

スマホの成長が鈍化している現在では、IoTはエレクトロニクス、通信、ITなどの産業にとっては期待の星、と言えるかもしれません。

ただ、猫も杓子も「わが社はIoTで儲けます」というのは、違和感を感じます。

特に日本の電機メーカーの多くは半導体から撤退を余儀なくされたため、センサを作るというハードビジネスに賭けようとしているようにも感じます。

センサは重要な部品・技術ですが、センサだけ、部品の売り切り商売で大きな収益をあげることは、おそらく難しいのではないでしょうか。

IoTでのビジネスモデルは、センサのようなデバイス自体で儲けるよりも、普及を促進するためにセンサは極めて安く売る。

そして、センサが集めたデータの解析し、現実世界へ「こうした方が良いですよ」とフィードバック(推奨)するようなサービス、コンサルティング事業で儲けるビジネスモデルではないでしょうか。

すでに車載のレーダーでは世界トップの4割もの市場シェアを持つコンチネンタルはハードの部品販売だけではこれからは厳しいと判断。ソフトのエンジニアを大量に採用し、システムインテグレーターへと脱皮しようとしています。

インダストリアル・インターネットを提唱するGEがソフトウェアを強化し、製造業からサービス業へ転換しようとしているのも同じような文脈でしょう。

さて一方、日本はどうでしょうか。

メーカーの中には、「トリリオンセンサー(一兆個以上のセンサ)」の市場ができれば、部品売りでこれだけ儲かる、と仰る方が少なからずいます。

この風景、どこかで見たことがあると過去を振り返ると、10年位前に、SoC(システムLSI)が流行になった時も似ていました。

アナログ、デジタル、センサ、メモリなど多くの機能を一つのLSIに実装すればきっと儲かるだろう。しっかりしたビジネスモデルを打ち立てることなく、何となくの期待感で、日本の大手電機メーカーの多くが突き進んだように見えました。

結局のところ、SoCは部品単体のビジネスでは、大きなマージンを得ることができませんでした。

ハード屋、部品屋の発想から抜け出せず、日本企業のシステムLSIからの撤退が相次ぎ、今でも残っている企業はわずかです。

今のIoTは儲かる、という風潮は、かつて日本の電機メーカーがSoCで辿った道と似ているように感じます。。

政府もIoT・AIに注力するとのことですが、技術開発だけでなく、ビジネスモデルもしっかり考えている事業者を応援して欲しいものです。

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