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竹内研究室の日記 RSSフィード Twitter

2014-03-30

博士論文とは単なる「世界一の成果」ではなく、後世に知の体系を伝えること

STAP細胞は研究成果の疑惑から博士論文のコピペにまでなってます。

あたかも成果さえ出れば博士論文なんてどうでも良いのでは、ということまで言う人が出る始末。

そこで、そもそも博士論文とは何か?、について書いてみようと思います。

まず私は大学院は修士で卒業して博士課程は行っていません。

博士論文は東芝での研究をまとめたもので、論文博士。博士とは何たるか、語る資格が自分にどれだけあるか、自信があるわけではありません。

むしろ、博士課程の学生を指導しながら、自らも博士とは何たるかを学んでいるところもあります。

ですから自分ができているかはさておき、「博士とはこうあるべき」という、いわば自分が理想にしていることについて書こうと思います。

技術や科学は日進月歩で進化するもの。逆に言えば、世界初の成果も、すぐに否定されるのです。

ISSCCのようなトップ学会では、「世界一であるか」が厳しく問われます。

ですから日々の研究では、「世界一のデータを出す」「世界で初めてのコンセプトを生み出す」ように頑張っているわけです。

博士の学生はこうした世界一の成果をまとめて博士論文を書くわけです。

しかし、博士論文というのは、過去の自分の成果を単につなぎ合わせるだけでは不十分なのです。

世界一と思える技術も、半導体のような進化が激しい分野では、数年後にはそれを超える技術が生まれているかもしれないし、せっかく生み出した技術も時代遅れになってるかもしれない。

それではせっかく書いた博士論文の価値も減ってしまいます。

博士論文はで10年、20年と長く人に読んでもらえるような「知の体系」であるべきなのです。

単に「世界一の成果だから博士を取らせて下さい」では不十分なのです。

即ち、世界一の成果を出すことができた背景、なぜそれまでの人は出せなかったのか、新しい技術の理論的背景、そして時代が変わっても生き残る部分は何なのか。

世界トップの成果を生み出すことも大事ですが、その成果の本質的な部分を意義付けすることも、同じくらい重要なのです。

前半はISSCCなど国際会議などでの発表、後半を纏める機会がジャーナル論文や博士論文です。

意義付けの部分は地味ではありますが、時代を経ても長く生き残るのはむしろこちらなのです。

さて、偉そうに書きましたが、実はこの「知の体系」に纏めることに自分は七転八倒しました。

東芝ではフラッシュメモリの技術を開発し、それこそ世界トップの成果を数多く出すことができました。

そういった過去の論文を纏めて博士論文にしようとしたところ、ダメだしされてしまいました。

当時の東芝の上司だった古山さん、渡辺先生(現在、湘南工科大学の教授になられています)に、東大の桜井先生を紹介して頂き、指導教員を引き受けて頂きました。

ところが、なかなか古山さんのOKが出ない。古山さんご自身も博士論文を纏められる時に相当苦労されたのではないでしょうか。

「こんな過去の成果の寄せ集めではダメ。過去の論文の内容を一度バラバラにして、エッセンスを纏めなおしなさい」と厳しくご指導頂きました。

従って、博士論文のもととなる研究成果自体は既にあったにもかかわらず、(知の体系とまではとても行ってないけど)内容をまとめ直すのに2年ほどかかりました。

理論的な裏付けはさておきとりあえず動いて性能が良ければよい、という企業での技術開発と、「知の提供」である博士論文は似て非なる、大きなギャップがあるのです。

論文博士の指導教員を引き受けて下さった桜井先生にも、「表面的な内容を切り捨てて、後世の人に大切にしてもらえる本質的な部分だけ取り出しなさい」とご指導頂きました。

これだけ変化が激しい半導体の技術開発の歴史の中で、「桜井の式」は何十年も生き残っているわけですから。

これからも「世界トップの成果」を生み出すと同時に、後世に伝えることができる本質的な価値を常に考えていきたいと思っています。

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