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竹内研究室の日記 RSSフィード Twitter

2016-02-06

シャープのエンジニアへのエール

経営難のシャープがどうなるのか、産業再生機構といういわば国策としてシャープを救済するようにも言われていましたが、どうやらホンハイ(鴻海)による買収になりそうです。

ホンハイはiPhoneiPadなどのアップル製品の製造を手がけるなど、受託製造の世界トップ企業。

垂直統合から水平分業へのビジネスモデルの転換、という世界的な産業の変化にうまく乗ってホンハイは成長してきました。

ニュースなどでは「ホンハイの支援を受けて、シャープは再建を目指す」などと報道されています。

えっ、買収されるのに、支援?、再生?、記者さんはどのような意図で記事を書いてるのでしょうかね。

ホンハイがシャープを手に入れたいのは、いつまでもアップルの下請けばかりでは成長に限りがある、商品を自分で企画し、自社のブランドで商品を売りたいからではないでしょうか。

いわば、アップルの下請けからの脱皮で、ホンハイにとってもシャープ買収は大きな賭けでしょう。

そう考えると、なぜ日本メーカーはシャープに手を出さず、ホンハイが買収するのかも理解できます。

ブランドが確立している日本メーカーがシャープを買う理由はさほどないでしょう。

パナソニック三洋電機を買収した時も、三洋のブランドは消え、製品ブランドはパナソニックに統一されました。

一方、ホンハイは受託生産の世界では巨大企業ですが、一般消費者へのブランドの浸透はこれからでしょう。

シャープを買収し、ホンハイの製品自体もシャープのブランドで消費者に商品を売ることができたら良い戦略に思えます。

レノボIBMのパソコン事業を買収した後も、自社のブランドではなく、かつてのIBMのThinkPadブランドでパソコンを売り続けているのと同じです。

インスタントカメラで一世を風靡したポラロイドが、経営破綻後に買収され、ブランドを維持したまま全く別の会社として再生したのも同様です。

ですから、シャープがホンハイに対して「技術を盗まないよう、組織温存を交渉」という報道も意味が良くわかりません。

買収ですからホンハイがシャープの技術を事業に使い尽くす、ホンハイの従来の事業にもシャープの技術を移転するのは当然でしょうし、シャープの現在の組織のまま経営するとも思えませんない。

40歳以下の雇用は守る、とホンハイのトップは発言していますから、逆に言うと40歳以上の雇用は厳しいことになるのでしょうね。

65歳の今でも5時間しか寝ないで精力的に働き続ける、とも言われるホンハイの郭会長が、シャープの組織をそのままにするとは、とても思えません。

結局、ホンハイに買収されるのならば、シャープの社員の方はホンハイ・グループの一員として、いかにホンハイに貢献できるかを考えて仕事をしなければいけない。

支援とか再建という、情緒的な言葉はミスリードに感じます。

DRAM事業を手掛けるエルピーダメモリをマイクロン・テクノロジーが買収した時も、再建・救済などと報道されましたが、いつの間にかエルピーダの名前は消滅し、エルピーダの人たちは完全にマイクロンの中に組み込まれました。

買収とはそういうもので、ホンハイがシャープを買収したら、ブランドや雇用は残っても、全く違う会社になるのでしょう。

そして、シャープのエンジニアの方々はホンハイ内で生き残るために、厳しい競争にさらされるでしょう。

競争はおそらく組織だけでなく、エンジニア同士の一対一の勝負になることもあるでしょう。

技術領域が重複すれば2つやる必要はないわけで、良い方だけを採用する、技術者も一方だけで良いというわけです。

ホンハイのエンジニアにとってはシャープのエンジニアは、突然現れたライバルでしょう。

買収した側のホンハイのエンジニアの方が強い立場でしょうが、下手をするとホンハイのエンジニアの方がレイオフされかねないので、彼らも必死でしょうか。

実力のあるシャープのエンジニアであれば、ホンハイグループ内部の競争に勝ち残って、開発した技術が今まで以上に多くの製品に使われることを信じてます。

実は、私はかつてシャープ、エルピーダメモリと抵抗変化型メモリ(ReRAM)を共同で開発していました。

2002年12月のIEDM(International Electron Devices Meeting)でシャープとヒューストン大学が、金属酸化物に電流を流すだけで抵抗が不揮発に変化することを世界で初めて示し、世界をあっと言わせました。

ReRAMはメモリスタとも呼ばれますが、高速・低電力・大容量の「夢のメモリ」。

ReRAMを世界で最初に発表したのはシャープで、シャープの夢を製品として実用化しようとしたのがエルピーダ、ReRAMを使ったコンピュータ・システムを作るのが私という共同開発のチームでした。

新しい技術はそれが画期的であるほど立ち上げるには、10年単位の長い時間がかかります。

夢が実現する前にシャープもエルピーダメモリも倒れてしまいました。

共同研究をしていた私も無念です。

世界ではReRAMの研究は盛んです。共同開発チームでは私だけ取り残されましたが、現在は100年を超える長い間、デジタルデータを記憶するメモリの実現を目標として、JST CRESTの支援を頂きながら、「デジタルデータの長期保管を実現する高信頼メモリシステム」として研究開発を続けています。

買収の話に戻ると、ホンハイによるシャープ買収は、考えようによっては、シャープのエンジニアにはチャンスかもしれません。

資金繰りが苦しい状態が続いたシャープでは研究資金もままならなかったでしょう。これからは要求は厳しいでしょうが、ホンハイの中に入ることで資金面では良くなるでしょう。

ホンハイがReRAMを開発することは無いでしょうが、マイクロンの中でエルピーダ出身のエンジニアが活躍するように、シャープのエンジニアのみなさんがホンハイの中で活躍されることを願ってやみません。

そして、またいつの日か、一緒に研究できる時が来ることを楽しみにしています。

大学も生き残りに必死ですが、またご一緒できる日まで、お互いに頑張りましょう。

Good luck!!

10年後、生き残る理系の条件

10年後、生き残る理系の条件

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