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ベーシック・インカム―基本所得のある社会へ

ベーシック・インカム―基本所得のある社会へ

最初から対談の収録ではじまるのはちょっとびっくりするけど、なかなか面白い本だと思います。著者は、EU大に展開するドラッグストアチェーンの社長さんということで、そこからのセンスがいろいろと活かされているようでもあります。

 具体的な提案としては、最終的には、一人当たり月額20万円程度の給付を考えているようです。BIの導入で給与を引き下げることができるので、(ドイツの)国際競争力も上がる、と主張してます。
 他方、BIによって仕事をやりたがる人がいなくなる、という批判には、そのような心配は必要ない、と言います。人は自分のやりたい仕事に積極的に取り組むことができるようになるから、というわけです。「人間は、働かねばならないから働くのではもはやなく、働きたいから働くようになるのです。」(65頁)
 生産部門の国外への移転についても、著者は「本来肯定的に見るべき事柄」と言います。そのことによって、「他の国の人びとに収入の道を開いて」いるからです。
 現在は労働と所得を切り離すのに適した時期になっている、と著者は見ています。古代ギリシャ人は、働く代わりに奴隷を所有していました。「現代の私たちの奴隷は、生産方式であり機械です」と著者は言います。「そのお陰で、私たちはますます少ない労働でますます多くの財を生産することが可能になる。そして、この生産方式と機械がますます多くの部分を片づけてくれて、人間がもはや労働する必要がなくなれば、私たちは〔ベーシック・インカムによって〕人びとに収入を調達してやる必要があるのです。」(33頁)
 以下のところは、B・バーバー『〈私たち〉の場所』(慶應大学出版会、2007年)の主張とよく似ています。

・インタビュアー(ルイク):そう考えると、失業者をたくさんかかえたドイツ経済はすばらしい状態にあることになりますね!*1
・著者(ウェルナー):そうです。私たちはパラダイス的な状態にあるのです。問題は、社会が産出したものへのアクセスをすべての人びとに可能にするにはどうしたらよいか、ということです。私たちは過去5000年にわたって欠乏に悩まされてきましたが、この欠乏が遺伝的に私たちのなかに伝えられているかのようにみえます。私たちは人類の歴史上初めて過剰のなかに生きているにもかかわらず、多くの人びとはこの新たな現実を正しく理解できずにいます。人間はいわば経験の牢獄に捕われているのです。(53−54頁)


 財源は消費税というのもちょっと目新しいのではないかという気も。著者は、税制は基本的に消費税に一本化するべきだという議論も展開しています。税は生産ではなくて消費にかけるべきだ、ということのようです。「たくさん消費する者はたくさん税を払い、つつましく生活する者は少ない税を払う。」(39頁) 

*1:これは、もちろん皮肉です。念のため。