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おじさんの雑記帳    「20世紀少年」の感想文

2015-12-20

ススキの原っぱ  (第965回)


 前回から一か月も経ってしまった。理由は珍しく仕事が忙しかったからだが、時間や体力が限界を迎えるほど余裕を失くしていたわけでもない。気力の問題。こんな駄文でも、それなりに考えて気合を入れないと書けないことが良く分かった。つくづく作家とか漫画家とか、締切を何本も抱えて何十年も働き続ける人たちが持つ才能というものの凄さの片鱗に触れて感服いたしました。

 小学校の同窓会の途中で、「よげんの書」と秘密基地が話題になり、ケンヂの回想が始まる。そろそろ過去のシーンをセピア色に編集するのは時代遅れだと思うのだが、なんせ時代設定が20世紀だから仕方がないか。昔のアナログ写真はプリントして時間が経つと、化学反応を起こして黄色くなる。20世紀末、デジタルカメラの登場で、そもそも写真は印刷するものではなくなってきた。


 原っぱと夏の少年たちが登場する。原作の四人組に加えてケロヨンもいる。画面にはススキの穂も映っている。確かにあの茅葺き構造の建築物をつくるにあたって、材料に使うにはススキのような長くて細い葉っぱがたくさん必要だ。少年の一人が「痛て」と言っているのは、無造作に扱うとその鋭い葉の端で指などを切る。紙で指を切ったときと同じで、傷が深く出血して酷く痛む。

 最初のうち、この夏草の袋は「隠れ家」であった。それがオッチョの「基地だ」という掛け声一発で、機能が秘密基地になった。隠れ家となると逃避的であり、ここはやはり基地でなくてはならない。戦闘拠点とか南極越冬隊とか登山のベース・キャンプのように、ここから積極的な行動に出るはずであった。


 モンちゃんがカンカラを埋めたそばに立っていたと記憶していた大木も立っている。そのそばに漫画にはない道祖神もある。原っぱの真ん中に道祖神というのも不思議だが、あるものはある。

 映画ではフクベエが思い出したことになっている「よげんの書」を知っていた少年は、後にヨシツネが思い出してサダキヨだったとケンヂに伝えている。同窓会場では、ケンヂの顔をじっと見つめているフクベエの目付きが印象的である。

 ケンヂの思い出にあるサダキヨ少年は、忍者ハットリ君のお面をかぶっており、モンちゃんやユキジと忍者部隊月光ごっこ(三日月はもちろんユキジだ)をしている彼に、「ケンヂくん、遊びましょう」と声をかけている。サダキヨは例の大木の裏に半ば身を隠しており、道祖神と立ち並んでこちらを見ていたが、ケンヂの反応が鈍かったせいか走り去ってしまった。


 夏草と道祖神。松尾芭蕉「おくのほそ道」に出てくる。芭蕉は道祖神に誘われて長旅に出たと前文に記している。道端に立つお守りの神様だとばかり思っていたら、昔は観光誘致も兼任していたらしい。芭蕉は曾良とともに念願の白河の関を越え、松島では絶句して妙な句をこしらえている。

 そのあと道に迷い石巻に出た。この二人は北関東でも迷子になっており、方向音痴なのかもしれない。震災で石巻が甚大な被害を受けたと報道されたとき、内田裕也はこう言った。石巻は、英語で言えばロックンロールだ、と。無闇に流通した「絆」などという言葉より、遥かに立派な応援歌であると思う。でも、ストーン・サークルのほうが近いのでは。


 芭蕉の師弟は、ここから北上川の堤防沿いを歩いて、もう一つの大事な訪問先である平泉に向かっている。北上川は近年、二回、その川面を見ている。一回目は2011年の秋、南三陸町に行く途中で橋を渡るバスの窓から、二回目は2年ほど前、ずっと上流の盛岡市内で見た。芭蕉のころの北上川の河口は石巻にあった。明治以降の治水事業により、川は二手に分かれて、今は北側の岩手県境に近い方に、大きい方の河口がある。

 お江戸隅田川が、河口近くで大川と一般名詞のように呼ばれていたのと同様に、新北上川も海の近くでは大川と呼ばれていたのかもしれない。その名を冠した小学校は、川を遡って北上川の堤防を越えた津波により流された。逃げ始めたばかりだった多くの小学生や先生を連れ去った。合掌。


 平泉はヨシツネがその渾名を頂戴した源義経の最期の地でもある。小学校のころ歴史で習った衣川とは、北上川の支流であり平泉にて合流する。芭蕉の句はおそらく、九郎判官と家来たちへのレクイエムであろう。夏草や兵どもが夢の跡。ちなみに、芭蕉は武家の出だから漢学の素養があり、「おくのほそ道」の冒頭に出てくる「百代の過客」は李白、「国破れて山河あり」は杜甫の詩に由来する。

 ススキの原っぱの秘密基地は、つわものどもの夢だったかどうか知らないが、竣工後の会議の議事録によると、オッチョはラジオで歌番組、ケンヂとマルオは漫画雑誌、ケロヨンはエロガキ方面であり、至って軟弱な発想に支配されている。


 しかも、最初の襲来者はヤン坊マー坊であった。二人はトンボの羽を引きちぎり、映画ではイヤミの口調を真似て去っていく。あっという間に隠れ家に戻った自称基地内では、強い仲間を増やそうという相談が始まる。候補に挙がったのは、最初の池上が弱いという理由ですぐ却下され、次は最強の「オトコオンナ」ユキジであった。ヨシツネが頬を赤らめつつ賛同する。ずっと片思いなのであった。

 しかしケロヨン少年が「あいつ女だぜ」という言わずもがなの、今なら何とかハラスメントと認定されるであろう理由で拒絶している。察するところ、平凡パンチの読書に差支えがあるという事情が絡んでいそうな気がする。そのあとでドンキー案も出た。重要人物の名が出たところで、場面は原っぱからジジババの店に所を変えた。あの恐ろしいババは、研ナオコが怪演している。




(この稿おわり)





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ススキの穂 (2011年10月4日、南三陸町にて撮影)













 らんらんらん らんらんらん
 ススキの原っぱ らんらららん
 すいすすいすい 飛んでる赤とんぼ

          唱歌 (題名忘れた)



































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