おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

目をあけろ  (第1008回)

 息子の不幸で一度死んだオッチョが、死んだままで選んだ師匠が、これまた乱暴なお方で、たまに教えるが、それ以外の時間帯は弟子をイジメて遊んでいる。口も悪くて、「目をあけろ、アリンコ」などと、勝手に渾名まで付けている。

 そういうわけで今回は、スペイン映画「オープン・ユア・アイズ」と、それをリメイクしたアメリカ映画「バニラ・スカイ」の感想文。まだ見ていない方は、読まないでくださいね。もう10年ほど前に、リメイクのほうを先に観た。その制作年に同時多発テロで崩壊したWTCが写っている。

 原作のスペイン版は今年観たばかりで、映画の時代設定は、現実も夢の中も映画が作られた1997年。そう、同じ年。厄年。フィクションの世界だけでなく、私がこの年に住んでいた国は、流血沙汰の大規模なクーデタが起きて大勢、亡くなった。勝ったのは中国寄りの現政権。思い出したくもない。


 筋はほとんど同じなのだが、アメリカ映画は例によって騒々しくも慌ただしく、映画に出るたび必ずトラブルを招くトム・クルーズが走り回っている。それに比べスペイン映画のほうが、展開をゆっくりめに抑えていて怖い。タイム・パラドクスに挑戦したSFとあって、舞台装置も小道具も「20世紀少年」と共通しているものが多い。

 白いマスクに隠された顔。現実のようで現実ではないヴァーチャル・リアリティ。建物から飛び降りようとする男。夢を見たまま、死んだことさえ気づかない人物。主人公は、何度も何度も目を開けて、恐怖に立ち向かわなければならない。どこからどこまでが、夢か真か分からないところも似ている。


 ヒロインは両作品ともペネロペ・クルスです。アメリカ映画では英語を使ってトム君や、蛇女のようなキャメロン・ディアスと張り合ったせいか、熱演だが少し舞い上がっていて、おきゃんになっている。

 この点、母国語を話しているスペイン作品のほうが、何年か先に作られたのに、彼女はコケティッシュで時には優しく時には激しい。良い子は観てはいけないが、大人はこちらの方が見ごたえがある。もっとも私は西語となると、「シー」と「オラ」しか聴き取れない。それと作品中にも出て来た「アミーゴ」...。

 最初に彼女を観たのは、「オール・アバウト・マイ・マザー」だった。その次が「バニラ・スカイ」で、「コレリ大尉のマンドリン」。作品に恵まれている女優である。そのチャンスを逃さない。キャメロンさんは、「マルコヴィッチの穴」で変な役をやっていたな。トム・クルーズは何を演ってもトム・クルーズで、そういう意味では決してハズレが無い。ジジババのアイスの逆。


 私の目には、どう頑張っても夕焼け朝焼けの空がヴァニラ色には見えないのだが、まあいい。モネの絵だというが、アメリカ映画ほうのお楽しみは音楽だろう。主題歌はポール・マッカートニー。全部語ると切りが無いので、ボブ・ディランに絞る。彼の得意技の一つ、三拍子のフォーク・ソング、”4th Time Around”が劇中歌に使われている。

 この曲の歌詞が、私にはよく分からない。「私」と「彼女」の歌のはずなのに、途中でいきなり「君」が出てくるのは、この映画と似ていなくもないが。そもそも、映画以前に曲名の意味がさっぱりわからん。もっとも、この映画で「4回目」は、説明不用だと思うが、分かりやすく出てくる。


 いずれも主人公は冒頭で、誰もいない真昼の都会の街を走る。すでに頭の中か、周囲か、その両方が異変をきたしているのがわかる。「バニラ・スカイ」はニュ―ヨークが舞台とあって、タイムズ・スクエアが出てくる。このころ既に日本にもタイムズ・スクエアができていて、「フクベエが落ちた」。

 拙宅にある邦訳の「ボブ・ディラン自伝」の表紙は、ずいぶん昔の写真のようだが、まず間違いなく本物のタイムズ・スクエアの夜景だろう。道路を見ると雨上がりであることがわかる。また映画の途中で、およそ飾りっ気が無いものばかりのボブ・ディランのアルバム・ジャケットにしては、異色の出来栄えを見せる「フリー・ホイーリン」が堂々と登場する。


 スペイン映画では、雨降る公園でピカソの道化師のような恰好をしたペネロペ・クルスが演じるパント・マイムが哀しい。うちの或るビデオには、何を考えたか白く化粧をしたボブ・ディランがギターとハーモニカで歌っているシーンが写っているものがあるが、彼女もマスクのような白いお化粧をしている。雨粒か涙か、目じりに光る滴があった。

 わけのわからない世界と決着をつけるべく、主人公はビルの屋上の端に立った。ともあれ、ファンタジーの風が吹いている。





(この稿おわり)






イチョウは、若葉よりイチョウなり。
(2016年4月9日)





現代のジジババ。
東京大学のそば。
今どき、BB弾。
(同日撮影)






 Is this the real life?
 Is this just fantasy?
 Caught in a landslide,
 No escape from reality.
 Open your eyes.
 Look up to the skies and see...

    ”Bohemian Rhapsody”  Queen















































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