中学校の英語の授業では、そう教わった。英語の諺、「A rolling stone gathers no moss」の訳である。いま以て、意味不明。でも今は、多くの辞書やネットで「転石苔を生ぜず」のような表現になっている。「君が代」と似ていると不敬なのだろうか。
マディ・ウォーターズのシングル「Rollin' Stone」が、イギリスのバンド名になり、アメリカでは曲名になり、ついでに雑誌の名にもなった。ウォーターズの歌詞は、自分としてはナマズに生まれて泳ぎたかったのだが、誕生前に父親が母親に「生まれてくる子は転がる石だ」と予言され、案の定、落ち着きのない暮らしとなる。
「自分で歌を作ろうと思ったのがいつだったのかはわからない」と、ボブ・ディランは「自伝」の第2章「失われた土地」の中で書いている。そのあとで、会ったことがない昔の人について、けっこう長い文章が続く。ジョー・ヒルという男。アカデミー賞でお馴染みのスウェーデン生まれで、アメリカに移民した。スティーブン・キングの息子と同姓同名だが関係者ではないと思う。
機械工だったらしい。米国移民が強いられる辛い生活について、彼は曲を作って歌い、労働運動の闘士となった。フォーク・ソングの黎明期のころで、ディランは心の師であるウッディ・ガスリーの「さきがけでもあると言われている」というだけで、「充分だった」と書いている。
当時、「アイ・ドリームド・アイ・ソ―・ジョー・ヒル」という労働歌が歌われたらしい。その少し前、ジョー・ヒルは当局に目を付けられ、アリバイの証言をしてくれそうな女の名誉を守るため、その名を口にせず、何の証拠もないのに処刑されたらしい。この部分は、ルービン・カーターと少し似ている。
しかし、ボブ・ディランは、その曲自体は余り買っていない。大先輩のピート・シーガーも歌っているのに。歌詞の一部が少し共通しているウッディ・ガスリーの「ジーザス・クライスト」は評価している。ボブ・ディランによると、「プロテスト・ソングとは、それまでは知らずにいた自分自身の一面に気づくようなものでなければならない。」のだそうだ。
ディランが他にも優れたプロテスト・ソングとして挙げている中に、ビリー・ホリデイが歌った「ストレンジ・フルーツ」がある。少し前にこのブログで、「激しい雨が降る」を聴くと思い出すと書いた歌だ。こういう風に始まる。「body」は死体のことであり、奇妙な果実のことでもある。
Southern trees bear strange fruit,
Blood on the leaves and blood at the root,
Black bodies swinging in the southern breeze,
Strange fruit hanging from the poplar trees.
ディランは、その続きの文章で「ロング・ブラック・ヴェール」という曲も、ジョー・ヒルが唄っているような気がすると書いている。ジョニー・キャッシュが、フォルサムの刑務所ライブでカヴァーしている(「黒く長いベール」)。このジョー・ヒルには、手書きの遺書「My Last Will」という一枚の紙が残っている。
これは散々探した挙句に、ようやくこちら「ヘ短調作品34」さまのブログで教えてもらいました。ありがとうございます。「目に力がある」と、この顔をディランが評している。
http://blogs.yahoo.co.jp/fminorop34/47513814.html
遺書は次のとおり。四行目に、”Moss does not cling to a rolling stone.”と書いてあるのが見える。
http://graphics.nytimes.com/packages/pdf/arts/Joe_Hill.pdf
(おわり)
冬の夜明け (2016年12月9日撮影)
I dreamed I saw Joe Hill last night, alive as you and me.
Says I "But Joe, you're ten years dead"
"I never died" says he, I never died" says he."
”I dreamed I saw Joe Hill” Pete Seeger
I come not to bring you peace, but a sword.
”Jesus Christ” Woody Guthrie
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