おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

大相撲  (第1140回)

 物心ついて初めに覚えたスポーツが大相撲だ。あれをスポーツと呼ぶならば。同居していた父方の祖父が大相撲とプロ野球のファンで、よく一緒にテレビで観ていたものです。野球と比べて、相撲はルールがシンプルだから子供でも楽しめる。

 どういうふうに楽しんだかというと、今でも新聞のスポーツ欄に掲載される星取表(白や黒の楕円が並んでいるやつ)を、幼稚園児が手作りで毎日、更新していたのだ。大新聞より半日早い。紙と鉛筆と来場所の番付表は、祖父が手配してくれる。ひらがなより先に四股名の書き方を覚えたかもしれない。


 拙宅のそばに相撲部屋がある。まだ稽古の見学にいったことはないのだが、お相撲さんがそこらを歩いており、遠くから見ているだけで飽きない。すでに外見からして特殊な世界です。

 まして、欧米人には分からんだろうが、体重別ではない(完全無差別級)という切れ味の良さ。そのかわり土俵は狭いし、手をついただけで負けるから、体が小さくても軽くても、勝ちたければ努力と工夫の余地がある。


 前にも書いたような気もするが、行司は立ち合いの成立を認めるだけであり、試合開始の合図はせず、勝負の始まりを決めるのは力士の側だ。行司は厳しい任務で、判定にいちゃもん(物言い)がつくのが珍しくなく、ひっくり返されたり、やり直しになったり大変なのだ。物言いは土俵下で控えている力士もできる。

 こういう、外人さんには訳が分かるまいというのが文化というもので、国技だ神事だと言いたい人はご自由にどうぞだが、私には全く関係が無い。訳の分かる外人さんなら、強くなると土俵に立てる。
 

 スポーツなのかと問うた。一番似ているのは、プロレスだと思っている。大会と呼ぶよりも、興行と呼ぶにふさわしい。したがって、シナリオがあってよい。私は八百長を奨励しているのではない。賭博も含め、汚れた金に手を出したら終わり。

 勝負が決まってからの手抜きや、スタンドプレーは、野球だってサッカーだって、やっているではないか。もっとも格闘技は、下手に力を抜くと目の肥えたファンに無気力相撲などと言われてしまうので、こっそり真剣にやらなくてはいけない。

 これは今の日本では、まず賛成してもらえない発想だろうなと自分でも思う。規制にしろ処罰にしろ、現代日本の皆さんは厳しいルールが大好きなのだ。すぐ「法的根拠は?」などと言い出す。理由は簡単明瞭で、他者を攻撃する道具に使いやすいからだ。プロレスが廃れたはずだ。


 さて、最近の騒ぎは何たることか。最初に暴力事件があったと新聞で読んだとき、これは日馬富士が辞めるほどのことではないなと思った。デーモン小暮閣下の言う通りではないか。この歳になって悪魔と意見が合うとは、世情もまさに世紀末の様相を呈している。

 もちろん、今となっては手遅れです。書類送検されたんでは終わり。それ以前に、警察沙汰になり本人も認めた段階で、どんな組織でも、どんな重要人物であろうとも、辞めなければならない。反社会組織なら、褒められるかもしれないが。


 つまり貴乃花が警察に出向いた段階で、もう実質的にこうなる運命だっただろう。貴乃花は潔癖な人だと思う。彼が千代の富士を土俵下に放り出したのを中継で観た。新しい時代が来たと思いましたね。そのあとハワイの巨漢相手によく頑張ったものだ。

 その彼が、その後も含めて、かくのごとき奇怪な行動をとり続けるというのが不思議で、そもそも即刻、警察に行くというのは、そこに至るまでに余ほどの軋轢があったに違いない。どんなもめ事なのか、私には全く見当がつかないが。

 本来、力士以外の人に暴力ほか多大な迷惑が無かったのであれば、仲間内で謝罪および金銭解決で済んだかもしれないのに。裏に法律家がいるなら退場願いたい。相撲協会は権力闘争がお好きなのか。そんなに体力を持て余しているなら、シニア場所でも始めたらどうか。


 暴行の被害者までが、まだ精神的に苦しんでいるらしい程の騒ぎになったのは、普段、相撲なんて殆ど興味がないような連中が芸能ネタにして、報道やネットで好き勝手なことを放言し続けているのが一因だ。

 NHKは毎場所、独占中継させてもらっているのだから、興行としての大相撲を守らなくてはいけないだろう。看板力士に疑いがかかったら、まずは味方にならなくては。疑わしきは罰せずというのが公正というものだ。

 しかし、私が毎朝見ている7時のニュースでは、いつもは殺人事件や大事故から始まるのに、日馬富士が引退を表明するまで、ずっとこの件がトップ・ニュースだった。引退が決まった途端に、ニュースの扱いがうんと低くなったが、あれはどういうことか。


 ついでに言えば、苦労人の稀勢の里横綱になるまで、「日本人横綱」が待ち遠しいと言い続けたのもNHKです。街頭インタビューで誰かがそう言うまで取材をしなければならなかった下請けの苦労をねぎらおう。案外さっさと誘導尋問で切り抜けていたかもしれないが。

 この言葉遣いは、モンゴル勢の有力な力士、特に白鵬日本国籍を取得するかもしれないという噂が流れ出してから、「日本人横綱」が「日本出身の横綱」になった。これもどういうことか。まあ、返事はもらえないだろうし、もらえなくても分かります。

 この件で傷ついているのは、モンゴル出身の力士とその親方衆だ。興行面でも、技術面でも、頭数でも、どれだけモンゴルのお世話になってきたか、少しは関係者も考えたらどうなのだろう。元寇じゃないんだから神風は吹かない。このままでは内部崩壊するかもしれない。泉下の祖父が悲しむ。それに怒らせると凄く怖いのだ。




(おわり)
 



 

マリアナの海中より、テニアン島のタガ・ビーチ
(2017年1月13日撮影)









 足柄山の山奥で 獣集めて相撲の稽古 − きんたろう
































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