おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

ばんぱく ばんざい  (第1189回)

 久しぶりに漫画の感想文の出番だ。いつまでもやってる万博なんてあるか、と遠藤ケンヂはあきれていたものだが、数十年ぶりに復活するという万博もあった。以下、大阪万博の関係者の方々におかれては、気分を害するかもしれないことを書きますので予めお断り申し上げます。

 そもそも、前回までの記事で書いたように、税金の使い道はまだまだ他にあると実感し、これで本当に東京オリンピックをやるのかと思っていたら、大阪万博もやるのだそうだ。こちらは、恐怖の夏時間の議論はしなくてもよさそうだが、でも、何をやるのだ。オリンピックは、まだしも定番のメニューがございます。


 先に東京オリンピックの悪口を書いておこう。賄賂の件はどうなった? あの騒ぎは、直後に気の毒な過労自殺の事件があったため、そちらのほうで広告代理店が叩かれ、マスコミもネットも皆そっちを向いてしまい、日本国内では、すっかりウヤムヤになっている。

 海外の情報源には、まだ出ています。金を受け取ったと噂されている元IOCのお偉いさんは、現在、インターポールの国際指名手配を受けつつ海外逃亡中で、どうやらダカールに潜伏しているらしいが、セネガル政府が身柄の引渡を拒んでいる。英語のウィキペディアにも書いてあるし、先日、ル・モンド紙にも出たらしい。


 さて、大阪万博に関しては、浦沢直樹氏が、「あの夢をもう一度なら、やめたほうがよい」と主張していると報じられた。東京オリンピック大阪万博、断念しつつあるらしいが札幌冬季オリンピックと並べてみれば、あれらの夢をもう一度に決まっておろう。議論の余地はない。

 エキスポ70を盛り立てた小松左京岡本太郎松下幸之助手塚治虫も、もういない。何度でも訊くが、誰が何をやるのだろう。地域振興も経済成長もおおいに結構だが、沈没した関空は戻ったのか。会場も似たような立地ではないのですか、大丈夫ですか。


 関西、大阪の経済振興のためと盛んに言っていたようだが、決まってから早速、府知事が国費のおねだりに東京まで来た。ちょっと前まで、大阪府構想って言っていなかったか。

 そう思っていたら、最初から国が三分の一を負担する決まりだったそうだ。この大盤振る舞いは、燃え尽きる前の線香花火が一瞬きらめく姿のようなものか。しかも、目玉商品がカジノらしい。治安が悪くなるぞい。


 次の万博のテーマは、「命かがやく未来社会のデザイン」。これは日本語でも英語でもない。大阪弁で何かの暗号かとも訝ったが、取材に応えて大阪の商店街のおじさんが、この標語は「ピンとこない」と語ってみえたので、やはり無意味らしい。かがやけ、線香花火でどうだ。

 サブテーマが二つある。まず、「多様で心身ともに健康な生き方」。厚生労働省か。もう一つが、「持続可能な社会・経済システム」。これは未来社会の夢ではなく、現在の現実の課題であり、こういうのに夢中になっている政財界の人たちが、いなくなれば何とかなるかもしれない。

  © Naoki Urasawa / Studio Nuts 2001


 浦沢さんが語っていたように、大阪万博は彼が暮らしていた東京ではもちろん、私のような田舎では、「行った奴がクラスで浮いた」というほど貧乏な時代の打ち上げ花火であり、「行かなかったことを未だに自慢している奴がここにもいる」ほど、見事に珍妙な寄席だった。

 話題になっていたのは、月の石と(これがまた、鮮やかに単なる石ころだった)、動く歩道。あのころは懐かしくもソ連がまだまだ元気で、ソユーズの本物を持ち込み、真っ赤なソ連館が天に向かってそびえ立った。


 「20世紀少年」は、顔のない少年が、顔のある塔にこだわる漫画でもある。正面からはどう見ても顔の塔であり、背中にしょった不気味な黒い顔だけが太陽のように見える。期間中に、あの上のほうの顔面に登って目のところに居座った「目玉男」は、「万博は打倒すべき帝国主義の象徴だ」と言った。

 まだ当時は確か、秘密情報保護法も共謀罪も無くて、威力営業妨害で現行犯逮捕されている。イデオロギーはともかくとして、こういう反骨精神が大阪ならではのものだろう。やるなら、見せてほしい。テーマは、「それが、どないしてん」でも良い。


 大阪とくれば、食い倒れだ。京都の学生時代、わざわざ大阪のめし屋に食いに行ったほど安くて美味い。この際だから、全会場を食い物屋で埋め尽くすというのはどうか。西の国から東の国から、全世界の食い物飲み物を一か所に集める。否応なく万博史に残るだろう。二度と選ばれないだろう。どうせ人類は、半世紀たっても進歩も調和もしないんだから、盛り上がれば充分だろう。

 なお、日中国交回復が間に合わず、当時の地図・資料を見ると、台湾(中華民国)は参加国に名を連ねているが、中国館はない。今回どう対処するのか、楽しみだ。並べてはどうか。パレスチナイスラエルも、並ばせる。握手をしようと言ってみる。




(おわり)





もの言えば唇寒し秋の風  (2018年11月13日撮影)

























 大阪は今日も活気にあふれ
 またどこからか人が来る

     「大阪で生まれた女」 BORO

































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