権力の害と権力の欠如の害

・・・そして、一般に、君主のもとに生活する人々は、それが君主政治の欠陥だとおもい、民主政治あるいはその他の主権合議体の統治のもとに生活する人びとは、すべての不都合をコモン−ウェルスのその形態のせいにする。ところが、あらゆる形態において、その形態がかれらを保護するにたりるほど完全であるならば、権力は同一なのである。このばあいかれらは、人間の状態には、何かの不便がないわけにはいかないこと、そして、どれかの統治形態において一般人民に対して生じる可能性のある、最大の不便でさえも、内乱にともなう悲惨とおそるべき災厄にくらべれば、あるいは、諸法への臣従がなく、人びとの手が強奪と復讐とにむかわないように束縛する強制権力がない、支配者のない人々のばらばらな状態にともなう、悲惨とおそるべき災厄にくらべれば、ほとんど感じられないほどのことであることを、考慮しないのである。

リヴァイアサン〈2〉 (岩波文庫)』p49-50