「向井豊昭アーカイブ」に「埴輪の目」が掲載されました。

 向井豊昭の未発表遺稿や旧作が無料で読める「向井豊昭アーカイブ」に、「埴輪の目」(1966)をはじめ、個人誌「手」三号が全文掲載されています。東條慎生さんが、すでに以下のように告知をしてくれていますが、「手」は現在、二部しか現存しておりませんので、きわめて貴重な原稿と言えるでしょう。

今回の更新は、向井豊昭ガリ版刷り個人誌「手」三号よりおよそ百枚の短篇「埴輪の目」を公開します。これは向井自身の夜間学校時代を題材にしたもので、作中の山田陽太郎というアイヌ民具を収集している民族研究家は、在野の民具研究で著名な田中忠三郎がモデルになっています。向井の初の著書『鳩笛』が田中の初の著書『みちのく民俗散歩』と同じ北の街社からでていることなど、「親友」同士の関係は現実のものでもあることがわかります(岡和田晃向井豊昭の闘争』30頁あたりを参照)。

苦しい生活と学校生活、そこへ現われた活動的な転校生が、新聞部創設へむけて、教師の抑圧的態度に反旗を翻すというなかなか王道チックな青春ものの面白みがあり、この山田陽太郎との出会いが主人公にとっての大きな転機ともなっています。

また、結核の療養所で出会った女性と結婚するまでの物語のなかに、北海道のアイヌ差別問題への直面が絡められており、貧困と差別から共産党への関心が出てくるあたり「うた詠み」前史としても読めます。事実「手」四号「あとがき」には、「アカの紐付き」の「日本民主主義文学同盟」で「事務局の大役」を引き受け、「アイヌ問題」を「追求するほど、ぼくは、政治の深みにはまり込んでいくのだ」と書いています。

まあそれはともかく、深い関係を持つことになる友人との出会いや結婚と子供の誕生という語り手の若き日を描いた小説として楽しんでもらえるのではないかと思います。

「手」三号は「埴輪の目」だけが載った号なので、ついでにあとがきと表紙画像も掲載し、全文公開とします。