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この門をくぐる者は一切の高望みを捨てよ

森見登美彦日誌RSS

2015年08月20日

[] 『新釈走れメロス他四篇』(角川文庫


 


 森見登美彦氏の『新釈走れメロス他四篇』が角川文庫の仲間入りをする。

 八月二十五日頃から書店にならぶ予定である。


 注意していただきたいが、この本は祥伝社の『新釈走れメロス他四篇』と内容的には同じであって、登美彦氏はほとんど何もしてない。懐手して奈良でゆらゆらしていたのみ。孫の仕送りを待つ、おジイさんの気持ちであった。

 祥伝社文庫版の『新釈走れメロス他四篇』も、今まで通り買うことができる。


 

新釈 走れメロス 他四篇 (祥伝社文庫 も 10-1)

新釈 走れメロス 他四篇 (祥伝社文庫 も 10-1)


 角川文庫の解説は千野帽子さんが引き受けてくださった。詳細をここで明かすことはしないが、「こんな解説見たことない」というような凝りに凝った解説である。

 そして目を引くのは、中村佑介氏の凝りに凝った表紙である。情熱とアイデアがほとばしりすぎて、できあがった文庫本を手に取ると、鮮やかな表紙がむくむくと膨らんで見えたという。こちらも詳細は読者の方の楽しみのために言わずにおくが、登美彦氏のこれまでの作品を包みこむかのように、じつにさまざまなものが描きこまれている。その全貌を明らかにするためにはドウシテモこの文庫本を買うほかなく、そうして毎日中村氏の絵を眺めていたら、須磨さんの原稿用紙柄のシャツがほしくなることウケアイであろう。

 山の彼方の中村氏に感謝しつつ、登美彦氏の商魂は武者震いした。

 「これは世の人も買わざるを得まいて……」

 中村氏の魔力によって、『四畳半神話大系』『夜は短し歩けよ乙女』『新釈走れメロス他四篇』の三冊をならべたい、という気持ちが世人の胸中に湧き上がるのはきわめて自然ではないか。恐ろしやー。


 四畳半神話大系 (角川文庫) 夜は短し歩けよ乙女 (角川文庫) 新釈 走れメロス 他四篇 (角川文庫)


 登美彦氏は何もしていないのに、文庫本は完成した。

 しかし登美彦氏も好きでゆらゆらしていたわけではない。

 今年の七月から八月にかけて、ふたたび登美彦氏の執筆は暗礁に乗りあげていた。「不調も三年続けば実力」という恐ろしい言葉があるが、もうとっくに三年は過ぎ去り、登美彦氏お馴染みの暗礁は今や実力そのものである。

 あまりにも毎度!あまりにもお馴染み!

 この暗礁のもにゃもにゃした不吉な手触りを登美彦氏は隅から隅まで知っており、もはや可愛くさえあるのだが、その姿は海面下に隠れて決して見えず、毎度同じように難破する。なぜであるか。ひょっとして愛しているのではないか、この暗礁を。

 「いっそのこと暗礁に家を立てて暮らすかナア」

 登美彦氏はそんなことを言っている。

2015年08月13日

[] 「SF宝石2015」および、流しそうめん

 

 

SF宝石2015

SF宝石2015


 森見登美彦氏の掌篇「聖なる自動販売機の冒険」が掲載されている。

 ちなみに『聖なる怠け者の冒険』とは一切関係ない。


 ところで先日、登美彦氏は「流しそうめん」を食べた。

 万城目学氏の呼びかけにこたえて、東京郊外の不思議な料亭に四人の小説家が集まったのである。

 流れるそうめんをつかまえるのはムツカシイ。登美彦氏の箸先を逃れたそうめんは下流へいく。下流でひかえているのは万城目氏である。ほかの三人が逃した全そうめんは、流れ流れて万城目氏の目前にことごとく淀む。

 皆が逃したそうめんを一手に引き受けさせられる万城目氏の屈辱は察するにあまりあるが、登美彦氏は「ほらほら万城目さん、目の前でそうめんがわだかまってますぞ」などと言い、決して席を替わろうとはしないのである。

 このあたりに登美彦氏の人間的限界がある。


 そのうち、万城目氏のおそろしい力が話題になった。

 「自分の応援している知人たちが最近やたら災難にあう」

 具体例を挙げるのは遠慮するが、たしかにそのきらいはある。

 それにひきかえ、登美彦氏が応援する人たちはみんな幸せになっている。それどころか、読者の方々も次々と幸せを掴んでいく。以前から「登美彦神社」を設立してお賽銭を集めたほうが儲かるのではないかと言われているほどである。

 「人徳と言わねばなるまい」 

 登美彦氏は胸中で呟いた。


 ところが。

 その話題が出てからというもの、万城目氏が盛んに登美彦氏を応援する。

 「森見さん、頑張ってください!応援してます!」 

 あの万城目氏ともあろう人が素直に応援してくれるわけがない。わだかまるそうめんを食べさせられた仕返しに、不幸の巻き添えにする魂胆にちがいない。油断もすきもありゃしない。

 「応援しないでください。けっこうです!」

 登美彦氏は逃げまわって奈良へ帰った。

2015年07月19日

[] 「ジェイ・ノベル」 8月号

 

 

月刊J-novel2015年8月号

月刊J-novel2015年8月号


 特集「商店街ラプソディ」において、森見登美彦氏が文章を書いている。



 商店街は異世界へ通じるトンネルである。

 昔からどうもそんな気がしてならないのだが、「国境の長い商店街を抜けると雪国であった」というような、正真正銘ファンタスティックな経験はまだない。

 先日、知人と焼き肉を食べる約束をして、久しぶりに鶴橋を訪れた――


2015年07月17日

[] 登美彦氏、ビジットする。

 

 雨降り、暑い、ということもあって、

 森見登美彦氏は現在あらゆることに対して無気力になりつつある。

 ところが八月の終わりには次のような行事が予定されているのだ。


 (募集は終了しました)

 オーサー・ビジット校外編 作者と語ろう!

 「森見登美彦さんを迎えて」

 http://www.jpic.or.jp/reading/teens/2015/07/16/103030.html


 登美彦氏は呟く。

 「その日までにはきっとやる気に満ち溢れた男になる、その日までには――」

 果てしてそんなことが可能であろうか。これまでの人生で登美彦氏がやる気に満ち溢れていた期間はほとんどないというのに。

2015年06月18日

[] 小説トリッパー2015/6/30号(朝日新聞出版


 小説 TRIPPER (トリッパー) 2015年6/30号 創刊20周年記念号 [雑誌]


 森見登美彦氏の短編「廿世紀ホテル」が掲載されている。

 大正時代の京都を舞台にした短いお話である。


 奈良の天を覆う梅雨空のもと、登美彦氏は鬱々とした日々を送っている。

 そもそも「梅雨大好き!超愛してる!」という人物は多くないかもしれないが、登美彦氏も梅雨のことはあまり好ましく思っていない。彼が梅雨をきらう最大の理由は、大気に充満した湿気にそそのかされた毛髪が反乱をくわだてることである。登美彦氏も三十路半ばとなって、毛髪の戦略的撤退は着実に進行中であるが、それでもなお若かりし日の栄光を忘れられない一群の暴れん坊たちが梅雨空に向かって立ち上がり、天然巻き毛の本領を発揮する。

 「じつにウザイ。おとなしくしろ!」

 登美彦氏はそんなことを呟きつつ、髪をぐいぐい引っ張る。

 引っ張っても毛髪の性根が治るわけもなく、彼らの頭皮からの離脱を早めるというのに――。