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この門をくぐる者は一切の高望みを捨てよ

森見登美彦日誌RSS

2017年01月31日

[] 登美彦氏、フロンティア文学賞候補作を読み耽る


 一月の終わりである。

 我らが2017年もすでに「十二分の一」を終えた。

 森見登美彦氏は時間に追われるのを嫌悪する者だが、しかし年頭に2017年氏から言われた言葉が頭からはなれない。

 彼はこう言ったのである。

 「すでに新年は始まっている。この確固たる事実を受け容れることです。そして、これまでないがしろにしていた『一月から三月』にこそ、いっそ燃え尽きる覚悟で努力しなさい。なにごともスタートダッシュが肝心。やらねばならぬこと一切を春までに終わらせればビッグな男になれます」

 登美彦氏はカレンダーを見上げて呟く。

 「もう二月か……」


 そんなわけで焦ったり開きなおったりしながら、登美彦氏はフロンティア文学賞の候補作を読み耽っている。

 先日、いくつもの大作が東京からドサッと送られてきたのである。

 残念なことに昨年は「大賞なし」という結果に終わったので、登美彦氏は「今年こそは!」と願いながら読んでいる。選考委員冲方丁さんと辻村深月さんと会うのは楽しみなことである。

 それから、前々回のフロンティア文学賞を受賞した阿川せんりさんの新作も出た。受賞作『厭世マニュアル』と同じく、第二作『アリハラせんぱいと救えないやっかいさん』にも、「阿川節」というべきものが漲っている。

 どうぞ宜しくお願いします。

 

 

厭世マニュアル

厭世マニュアル

 

 

 

 

2017年01月21日

[] イベント、出版、連載のお知らせ

 

  D


 森見登美彦氏が直木賞との対決にそなえて英気を養っている間、さまざまな出来事があった。

 まずは下鴨神社にて、アニメ有頂天家族2」の成功を祈願するイベントがあった。かわいい狸ポンチョをかぶった毛玉たちが大勢集まってお祈りをするとともに、アニメ有頂天家族」の「京都特別親善大使」への任命式が厳かにとりおこなわれたのである。

 冬の糺の森はたいへん冷えこみ、和服姿だった登美彦氏はただでさえ震えていたが、任命式に姿を見せた門川大作京都市長から、

 「第三部はまだですか?」

 と催促されて肝を冷やした。

 まだなのである。どうしようもないのである。

 原作の動向はひとまず脇において、春から始まるアニメ有頂天家族2」を宜しくお願いいたします。


 


 河出書房新社からこのような本が出る。

 池澤夏樹さん、伊藤比呂美さん、町田康さん、小池昌代さんという錚々たる人たちの中に、登美彦氏がこっそり混じっている。これは以前、ジュンク堂書店池袋本店で開催された連続講義を書籍化したものであり、登美彦氏は『竹取物語』について個人的に思うことを語っている。べつにムツカシイことを喋っているわけではないので、竹取物語に興味がある人もそうでない人も、お読みいただければ幸いである。

 

 

小説 - BOC - 4

小説 - BOC - 4


 また、中央公論新社から小説BOCの第四号が発売される。

 特集において森見登美彦氏が「ヴィクトリア朝京都」なるものをさまよう、という強引きわまる企画が展開されている。「こんなもの、すべて妄想じゃないか」と言われても返す言葉はまったくない。妄想するのがお仕事である。

 第四号には新連載「シャーロック・ホームズの凱旋」の第二回、「赤毛連盟(後篇)」も掲載されている。かの名探偵ホームズを文字通り丸裸にする小説を書いてしまったので、今になって登美彦氏はなんだか申し訳なく思っている。しかし今さら手遅れである。

 現在、森見登美彦氏は第三回を準備中である(心のどこかで)。


 最後にイベントのお知らせである。

 大阪南船場のバー「リズール」にて、登美彦氏はトークイベントを行う。以前にも一度、玄月さんに誘われて出かけたイベントである。おそらく何かぷつぷつと喋ることであろう。

 予約制なので、詳細はwebページで確認してください。

  http://www7b.biglobe.ne.jp/~liseur/

  第61回 Creator’s NEST

  日時:2月19日(日) 16時〜(15時半開場)

  料金:ワンドリンク付き2000円

2017年01月20日

[] 森見登美彦氏、直木賞に敗北する


 夜行


 昨日、森見登美彦氏は京都駅新幹線ホームに立っていた。

 ボーッとしていると、声をかけてくる人があった。

 誰かと思えば本上まなみさんだった。

 登美彦氏は驚いて「うわ!」と言った。

 本上さんは笑っていた。

 「これから東京ですか?」

 「今日は直木賞の選考会でして……」

 登美彦氏が言うと、本上さんは「ああ!」と察してくれた。

 それにしても新幹線で本上さんと偶然会うなんて初めてのことである。

 「これが直木賞のチカラか!」

 登美彦氏はそう思ったのである。


 待ち会は文京区某所の某中華料理店の二階で開かれた。

 まるで親戚の家みたいな心地よいところである。

 やがて五時を過ぎると国会図書館の元同僚や各社の担当編集者の方々が集まってきて、みんなで美味しい中華料理を食べた。聞くところによると冲方丁さんもどこかで待ち会をしているらしい。どんなところでやっているのだろうか、冲方さんも同じ緊張感を味わっているのかな、などと考えながら登美彦氏はウーロン茶ばかり飲んでいた。

 登美彦氏が直木賞の候補になるのは二度目で、一度目は『夜は短し歩けよ乙女』で候補になった2007年のことだった。あの頃、登美彦氏はまだ国会図書館の関西館に勤めており、直木賞の候補になったといわれても実感がなかった。だから「待ち会」のようなオオゲサなこともしなかった。しかしあれから十年が経ち、せっかく二度目に候補になったのだから、噂に聞く「待ち会」というものを経験してみようと思ったのである。

 それにしても電話を待つのはイヤなものである。

 落ちるのなら落ちるので全然かまわないのだが、落ちましたとハッキリ言われるまでは落ちていない。なんだか自分がシュレディンガーの猫的な宙ぶらりんな存在になったかのようである。そうそう、こんな感じだった――と登美彦氏は十年前のことを思い返した。

 そして七時過ぎに電話が鳴った。

 まわりの人たちがシンと静まり返る中、登美彦氏は電話を取った。

 

 待ち会は速やかに残念会に変身し、午後九時に散会となった。

 そこから先は、登美彦氏と『夜行』担当編集者ふたりの残念会となる。登美彦氏たちは待ち会の参加者たちに見送られて東京駅へ向かい、午後十時発の寝台列車サンライズ瀬戸」に乗車したのである。

 サンライズが走りだすと東京の街の灯が遠ざかった。

 担当編集者がシャンパンを開けた。

 ふたりはこれまでに出かけた旅の思い出などを語りつつ、シャンパンを飲みながら夜の底を西へ走っていった。彼らは幾度も寝台列車に乗って旅をしてきたが、今回の旅の味わいはまた格別なものだった。

 熱海を通りすぎ、浜松も通りすぎた。

 異世界のような夜がどこまでも続いていた。

 担当編集者が車窓を眺めながら、

 「本当に『夜行』の世界ですね」

 と感に堪えぬように言った。

 車窓を流れていく街の灯を眺めながら、シャンパンを飲むのは素晴らしい。『夜行』を読まれた方は、ぜひ一度サンライズにご乗車されることをおすすめする。

 「今日は充実した一日だった」

 と登美彦氏は思った。


 翌朝、登美彦氏と編集者は岡山駅で降りた。

 サンライズ瀬戸京都に停車しないのだからしょうがない。

 まだ夜明け前の薄暗い街をさまよい、ようやく見つけた喫茶店「ポエム」でモーニングセットを食べた。編集者が棚から取ってきた朝刊には、すでに恩田陸さん直木賞受賞のお知らせが掲載されている。どうして自分はいま岡山の喫茶店の片隅にいるのだろうと不思議な感じがする。登美彦氏はシャンパンの飲み過ぎと睡眠不足であくびばかりしていた。珈琲を飲んで暖まっているうちに岡山の空は白々と明けてきた。

 「岡山を満喫した」

 「満喫しましたね」

 「それでは奈良へ帰るとしよう。このサンライズの切符は落選記念として大事にする」

 「いずれまた」

 「いずれ……あるのかなあ」

 彼らはそのまま東へ取って返した。

 編集者は新幹線東京へ。

 登美彦氏は新幹線京都へ、さらに奈良へ。


 そういうわけで登美彦氏が自宅へ帰り着いたのは午前十時だった。

 へろへろで帰ってきた登美彦氏を妻が迎えた。

 「おかえりなさいませ」

 「落ちてしまった」

 「敗北するのもお仕事ですから」

 「……そうとも。そして日はまた昇るサンライズ!」

 「おつかれさまでした。お風呂が沸いてますよ」


 恩田陸さん、受賞おめでとうございます。

 心よりお祝い申し上げます。

 

 蜜蜂と遠雷

2017年01月03日

[] 年頭之感




謹賀新年



 「ともかく十周年は終わりましたよ」

 筋骨隆々の2016年氏はそう言った。

 「ともあれ、これで前へ進めるわけですな」

 2016年氏は肩の荷を下ろしたようにホッとした顔つきで去っていった。


 「年末年始に立て籠もりたい」

 森見登美彦氏はつねづねこのように思っている。

 思えば立て籠もってばかりの人生であった。

 学生時代は四畳半に立て籠もり、小説家としてデビューしてからは妄想の京都に立て籠もり、仕事に破綻をきたした2011年以降は奈良盆地に立て籠もってきた。そんな登美彦氏にとって「年末年始」という時空はひどくステキなものである。時間の流れがゆるやかに感じられ、みんなが優しくなり、慌ただしい日常から日本全国が切り離されたようになる。クリスマスから仕事納め、大晦日を経て、お正月の三が日。ずっと年末年始を繰り返すだけで生きていけるなら、どんなに素晴らしいことだろうか。

 しかしそういうわけにはいかないのである。


 登美彦氏は妻と一緒に2017年氏を迎えた。

 「明けましておめでとうございます」

 2017年氏は髪をキチンと撫でつけた背広姿で、いかにも仕事ができそうな佇まいであった。昨年、2016年氏はその腕力で登美彦氏を恫喝することによって呪われた十周年の幕を引いたが、2017年氏からは2016年氏にはない狡猾さのようなものが感じられた。

 「これから私の述べることはあくまで参考意見であります」

 2017年氏は森見家の居間でお雑煮を食べながら言うのであった。

 「あなたは毎年こう思いませんか。六月が来たとき、『え!もう一年の半分が終わったの?』と……」

 「思います思います」

 「それはなぜだか分かりますか?」

 「歳を取るにつれて月日の経つのが早く感じられるから……」

 「ちがいます!」

 「ちがうの?」

 「あなたは一月から三月を新年だと思っていないからです。いわば旧年のオマケだと思っている。そして四月がくるとようやく頭が新年に切り替わり始める。だから六月が来たときに、決まって時の流れの速さに驚くのです。そんなのアタリマエではないですか。一月から三月を旧年のオマケとしてボンヤリ過ごすことによって、タップリ三ヶ月分、あなたは世間に遅れを取っているのだから!」

 「一理あるな」

 登美彦氏が言うと、妻も「一理ある」と言った。

 「しかしねえ、エンジンが暖まるには時間がかかるものだから」

 登美彦氏が言うと、妻は「そうですねえ」と言った。


 やがて2017年氏は大きく「先手必勝」と書いた半紙を取りだし、居間の壁にぺたぺたと貼り始めた。やる気に充ち満ちた暑苦しい字体で、森見家の居間にはまったく似合わない。しかし年始早々2017年氏と喧嘩したくないので登美彦氏は黙っていた。

 2017年氏は壁に貼った半紙を見上げて言った。

 「あなたに必要なのはこれです」

 「そうかなあ」

 「すでに新年は始まっている。この確固たる事実を受け容れることです。そして、これまでないがしろにしていた『一月から三月』にこそ、いっそ燃え尽きる覚悟で努力しなさい。なにごともスタートダッシュが肝心。やらねばならぬこと一切を春までに終わらせればビッグな男になれます」

 「うへえ。年末年始に立て籠もりたい」

 登美彦氏は呻いた。

 「わがまま言っちゃいけません」

 2017年氏は厳しい口調で言い渡した。

 「今日のところはこれにて失礼。春日大社にもまわらねばなりませんから」


 玄関先まで2017年氏を見送った登美彦氏が居間へ戻ってみると、妻が「先手必勝」の半紙をいそいそと壁から剥がしていた。妻は正座して丁寧に半紙を折りたたむと、台所のゴミ箱にポイと捨て、登美彦氏に向かって敬礼した。「片付け完了いたしました」

 「それでよし」

 登美彦氏はそう言うと、新しい半紙に次の文言を書いて壁に貼った。

 「読者の期待にこたえない」

 それが新年にあたっての登美彦氏の抱負である。

 

 本年も宜しくお願いいたします。

2016年12月28日

[] 『夜行』を読み解くための「10」の疑問


 夜行


 小学館の『夜行』紹介サイトに、

 『夜行』を読み解くための「10」の疑問

 という新しいコーナーができた。


 こちら→ http://www.shogakukan.co.jp/pr/morimi/10Q.html


 これらの疑問に答えられなければならぬ、ということではありませぬ。

 答えられなくても全然かまわない。

 唯一の答えがあるともかぎらないのである。