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この門をくぐる者は一切の高望みを捨てよ

森見登美彦日誌RSS

2017年01月03日

[] 年頭之感




謹賀新年



 「ともかく十周年は終わりましたよ」

 筋骨隆々の2016年氏はそう言った。

 「ともあれ、これで前へ進めるわけですな」

 2016年氏は肩の荷を下ろしたようにホッとした顔つきで去っていった。


 「年末年始に立て籠もりたい」

 森見登美彦氏はつねづねこのように思っている。

 思えば立て籠もってばかりの人生であった。

 学生時代は四畳半に立て籠もり、小説家としてデビューしてからは妄想の京都に立て籠もり、仕事に破綻をきたした2011年以降は奈良盆地に立て籠もってきた。そんな登美彦氏にとって「年末年始」という時空はひどくステキなものである。時間の流れがゆるやかに感じられ、みんなが優しくなり、慌ただしい日常から日本全国が切り離されたようになる。クリスマスから仕事納め、大晦日を経て、お正月の三が日。ずっと年末年始を繰り返すだけで生きていけるなら、どんなに素晴らしいことだろうか。

 しかしそういうわけにはいかないのである。


 登美彦氏は妻と一緒に2017年氏を迎えた。

 「明けましておめでとうございます」

 2017年氏は髪をキチンと撫でつけた背広姿で、いかにも仕事ができそうな佇まいであった。昨年、2016年氏はその腕力で登美彦氏を恫喝することによって呪われた十周年の幕を引いたが、2017年氏からは2016年氏にはない狡猾さのようなものが感じられた。

 「これから私の述べることはあくまで参考意見であります」

 2017年氏は森見家の居間でお雑煮を食べながら言うのであった。

 「あなたは毎年こう思いませんか。六月が来たとき、『え!もう一年の半分が終わったの?』と……」

 「思います思います」

 「それはなぜだか分かりますか?」

 「歳を取るにつれて月日の経つのが早く感じられるから……」

 「ちがいます!」

 「ちがうの?」

 「あなたは一月から三月を新年だと思っていないからです。いわば旧年のオマケだと思っている。そして四月がくるとようやく頭が新年に切り替わり始める。だから六月が来たときに、決まって時の流れの速さに驚くのです。そんなのアタリマエではないですか。一月から三月を旧年のオマケとしてボンヤリ過ごすことによって、タップリ三ヶ月分、あなたは世間に遅れを取っているのだから!」

 「一理あるな」

 登美彦氏が言うと、妻も「一理ある」と言った。

 「しかしねえ、エンジンが暖まるには時間がかかるものだから」

 登美彦氏が言うと、妻は「そうですねえ」と言った。


 やがて2017年氏は大きく「先手必勝」と書いた半紙を取りだし、居間の壁にぺたぺたと貼り始めた。やる気に充ち満ちた暑苦しい字体で、森見家の居間にはまったく似合わない。しかし年始早々2017年氏と喧嘩したくないので登美彦氏は黙っていた。

 2017年氏は壁に貼った半紙を見上げて言った。

 「あなたに必要なのはこれです」

 「そうかなあ」

 「すでに新年は始まっている。この確固たる事実を受け容れることです。そして、これまでないがしろにしていた『一月から三月』にこそ、いっそ燃え尽きる覚悟で努力しなさい。なにごともスタートダッシュが肝心。やらねばならぬこと一切を春までに終わらせればビッグな男になれます」

 「うへえ。年末年始に立て籠もりたい」

 登美彦氏は呻いた。

 「わがまま言っちゃいけません」

 2017年氏は厳しい口調で言い渡した。

 「今日のところはこれにて失礼。春日大社にもまわらねばなりませんから」


 玄関先まで2017年氏を見送った登美彦氏が居間へ戻ってみると、妻が「先手必勝」の半紙をいそいそと壁から剥がしていた。妻は正座して丁寧に半紙を折りたたむと、台所のゴミ箱にポイと捨て、登美彦氏に向かって敬礼した。「片付け完了いたしました」

 「それでよし」

 登美彦氏はそう言うと、新しい半紙に次の文言を書いて壁に貼った。

 「読者の期待にこたえない」

 それが新年にあたっての登美彦氏の抱負である。

 

 本年も宜しくお願いいたします。

2016年12月28日

[] 『夜行』を読み解くための「10」の疑問


 夜行


 小学館の『夜行』紹介サイトに、

 『夜行』を読み解くための「10」の疑問

 という新しいコーナーができた。


 こちら→ http://www.shogakukan.co.jp/pr/morimi/10Q.html


 これらの疑問に答えられなければならぬ、ということではありませぬ。

 答えられなくても全然かまわない。

 唯一の答えがあるともかぎらないのである。

2016年12月20日

[] 『夜行』が直木賞の候補となる。


 夜行


 『夜行』が直木賞の候補になった。

 『夜は短し歩けよ乙女』から十年ぶりのことである。


 それにしても急に色々なことが動く。

 森見登美彦氏は落ち着かず、奈良盆地の底をうろうろしている。

 「春を待たずに燃え尽きてしまうのではないか?」

 と関係者は心配している。

2016年11月07日

[] 森見登美彦氏、右往左往する。


 

ダ・ヴィンチ 2016年12月号

ダ・ヴィンチ 2016年12月号


 雑誌「ダ・ヴィンチ」において、森見登美彦氏の十周年記念おわり記念特集がおこなわれている。登美彦氏のインタビュー、能登麻美子さんとの対談、さまざまな方からのお祝いコメント等、じつに盛りだくさんの内容である。十周年をさんざん延長した挙げ句にこのような立派な特集をしてもらえるとは思っておらず、登美彦氏は送られてきた雑誌をめくりながら「ありがた申し訳ない」感じに包まれている。「十周年を終わらせるのに十三年かかった」という自分の恥をわざわざ宣伝しているわけだが、もう開き直るしかないのであった。やむを得ぬ!

 ご協力いただいた皆様に御礼申し上げます。


 先週末、登美彦氏は福山、広島の書店を訪ねた。

 温かく迎えてくださった書店員の皆様に登美彦氏は深く感謝している。

 広島カープのパレードを翌日にひかえた広島はすがすがしい秋晴れで、広島風お好み焼きや路面電車の乗り心地を味わうことはできたものの、出版社の皆様が知恵を絞って練り上げたアクロバティックなスケジュールであったがゆえに、書店員の皆様の歓待に後ろ髪を引かれつつも、登美彦氏は疾風のように去るほかなかったのである。いつの日か登美彦氏は広島の街を再訪し、今度は穏やかな春風のようにさまよいたいと願っている。

 また翌日、登美彦氏は大阪の書店をうろうろしてサイン本を作り、グランフロントにある紀伊國屋書店にてサイン会もした。

 紀伊國屋書店の皆様、そしてサイン会にお越しいただいた読者の皆様に登美彦氏は深く感謝している。


 嵐のような時間が過ぎ去って、登美彦氏は奈良の静けさの底にて安らいでいる。

 しかしいつまで安らいでいられるのか。

 次なる締切次郎が登美彦氏を脅かしている。

2016年10月28日

[] 「十周年記念企画」と「王様のブランチ」について


 夜行


 そろそろ『夜行』が全国の書店へ行き渡りつつあるという。

 森見登美彦氏はどちらかといえば明朗愉快な作品のものが多い。考えてみれば『きつねのはなし』は十年前の作品なのである。しかし『きつねのはなし』の原形となった作品はさらに時間をさかのぼって、『太陽の塔』と同時に書かれたので、いわば『きつねのはなし』と『太陽の塔』は双子である。怖い話と愉快な話は登美彦氏の出発点から存在していた。

 

 太陽の塔 (新潮文庫) きつねのはなし (新潮文庫)

 

 とはいえ、怖い話を書く機会は少なかったから、そもそも登美彦氏がそういう作品も書く、ということを知らない人も多いかも知れぬ。そういう人が「ありゃ!?」と驚きつつも楽しんでくれることを登美彦氏は願っている。多少わけがわからなくても気にせずに、長い夜の果てに現れる風景を見届けていただければ幸いである。

 「どうせ作者も全部分かってるわけではないから安心したまえ」

 登美彦氏はそんなことを言っている。


 『ぐるぐる問答 森見登美彦氏対談集』も、どうかよろしくお願いします。

 

 ぐるぐる問答: 森見登美彦氏対談集


 ところで『聖なる怠け者の冒険』『有頂天家族 二代目の帰朝』『夜行』の三作は十周年記念作品である。

 すでに告知されているように十周年記念イベントが計画されている。

 応募要項はこちらの特設ページを参照。

 http://www.shogakukan.co.jp/pr/morimi/

 イベントの詳細は登美彦氏と編集者諸氏が色々悪だくみをしている。

 そもそも登美彦氏が十周年を三年も延長したのが悪いのであり、その点については謝罪するほかないが、それはそれとして応募数が少ないとたいへん淋しいことになって、編集者の人たちとも気まずくなる。各単行本と帯をお持ちの方々は「人助け」と思って積極的に応募していただければ幸いである。イベントが無事に成功するそのときこそ、登美彦氏の呪われた十周年は終わるのである。


 また先日、登美彦氏は「王様のブランチ」の取材で尾道へ出かけ、気持ち良い秋空のもと、坂の町をうろうろしながら『夜行』について語った。

 その内容はおそらく今週末の「王様のブランチ」で放送されるのではないかと思うものの、関西では「王様のブランチ」を見ることができない。テレビに出るというのは落ち着かないものだが、その点、自分の家のまわりで放送されないというのはたいへんありがたい。近所の人に「見たぞ!」と指さされることもないのである。

 「王様のブランチ」が映る地域に住んでいる方々は、急に登美彦氏が画面に出現してぶつぶつ言い出しても、「ふーん」と適当にやり過ごしていただければ幸いである。


 あと小学館の人のご尽力によってCMも作られた。

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