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映画評論家町山智浩アメリカ日記


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2005-02-26 『ホテル・ルワンダ』は現実版『ドーン・オブ・ザ・デッド』だ

TomoMachi2005-02-26

昨日は選挙の票読みと同じ方法でアカデミー賞の予想をしたけど、

「じゃあ、あんた自身はどれがいいんだ?」と思う人がいるかもしれない。

主演男優賞に限っていうと、『ホテル・ルワンダ』のドン・チードルが素晴らしかった。


『ホテル・ルワンダ』は現実版『ドーン・オブ・ザ・デッド』だ。

映画はルワンダで激しく抗争していた政府(フツ族)と反政府軍(ツチ族)の休戦協定が締結された日から始まる。

主人公はルワンダでも最高級のベルギー資本のホテルのマネージャーのポール。

高級な服を着た客が高級な酒と高級な葉巻を楽しむ高級ホテルで働く主人公は、いつものように仕事を終えて自宅に帰る。

しかし、おかしなことにカーラジオからは呪いのような不気味な歌以外に何も聴こえてこない。

家に着くと真っ暗で誰もいない。

遠くから銃声が聴こえる。

ここから映画が終わるまで銃声は一度も止むことはない。

その日、ルワンダ大統領が何者かに暗殺され、これをツチ族の仕業と考えた多数派のフツ族はツチ族皆殺しを始めた。

これが犠牲者百万人と言われるルワンダ大虐殺の始まりだ。

詳しくは柳下くんが訳した『ジェノサイドの丘〈上〉―ルワンダ虐殺の隠された真実』参照。

ポールはフツ族だが妻はツチ族だったので近所のツチ族の人々と共に隠れていたのだ。

ここからポールたちのサバイバルが始まる。

ポールのホテルが『ゾンビ』のショッピングモールとなるのだ。

ホテルは駆け込み寺となり、1200人もが逃げ込んでくる。

ある朝目覚めると昨日までの隣人が殺人鬼と化して襲って来るという恐怖はゾンビと同じだが、ゾンビよりも凶悪なことに、フツ族はAK47やRPGやマチェットで武装している。

撃ちあっても勝ち目はない。

そこでポールは優秀なホテルマンとしての手練手管を駆使し、賄賂や海外とのコネやありとあらゆる知恵を絞って戦い抜く。

監督は北アイルランドの内戦を経験したテリー・ジョージなので隣人同士が殺しあう恐怖を知っている。

ルワンダは国民の半分がカソリックだが、教会も虐殺の現場になり、殺される側も殺す側もキリスト教徒だ。白人の宣教師がツチ族の子供を見捨てて自分だけ逃げる場面もある。

将軍の一人は結構インテリで趣味もいいのだが、それでも民族浄化に加担する。

国連平和維持軍のニック・ノルティに助けを求めても「我々はピースキーパーであって、ピースメイカーじゃない」と言われる。

白人のカメラマン(ホアキン・フェニックス)が虐殺の現場をビデオに収める。ポールが「これで世界の人々がこの映像を見て、何かしてくれますよね」と言うとホアキンは「この映像を見て、『恐ろしいね』と言って、何事もなかったようにディナーを食べるだけさ」と答える。

男は皆殺しにされ、美しい女性達は巨大な檻に集められ、性奴隷にされる。

ポールは最初、自分の家族を守るために隣人が民兵に殴打されるのを見てみないフリをするが、なりゆきで人々を救うハメになっていくところが「シンドラーのリスト」よりもリアルだ。

国連からも見放され、水や食料も尽きかけて、いつ皆殺しになるかわからない状況でも、ポールはプロのホテルマンらしく、綺麗にヒゲを剃り、ビシッとネクタイを締め、まったくいつもと同じように振舞う。

誰も見ていないところでは重責に耐えかねて嗚咽して崩れ落ちるけれども。

もはやこれまで、と思ったポールは愛妻に「奴らに虐殺される前に子供達をその手で殺してやってくれ」と嘆願する。


ドン・チードルはポール・トーマス・アンダーソンやソダーバーグ監督の映画の常連だから心ある映画ファンならご存知だろう。

「ブギーナイツ」ではオーディオマニアでカントリーソング好きの黒人というありえない役で笑わせ、「ラッシュアワー2」では麻雀屋を経営する中国系黒人という役で笑わせ、コメディ演技が上手かったが、この映画では一人の平凡な男が武器を使わずに知恵だけで暴力や政治に立ち向かう姿を見せてくれる。

平凡なところがいいのだ。映画会社はデンゼル・ワシントンウェズリー・スナイプスやウィル・スミスをポール役に欲しがったそうだが、彼らはヒーローだ。絵空事の戦いしかできない。この連中が主演してたら、マシンガンを掴んで敵をバンバン撃ち倒すトンデモ映画になってたかもよ。