Hatena::ブログ(Diary)

映画評論家町山智浩アメリカ日記


音声ファイルの有料ダウンロード「町山智浩の映画ムダ話」。
庵野秀明総監督『シン・ゴジラ』について。

告知やリクエストの受け付けはツイッターhttp://twitter.com/@info_tomomachiで。



映画秘宝連載中の「男の子映画道場」が単行本になりました。
「狼たちは天使の匂い 我が偏愛のアクション映画」です。


町山智浩の映画解説リストです。
現在約800本の映画が50音順に整理され、解説へのリンクが貼られています。
お探しの映画解説はたいていここで見つかると思います。


週刊文春の連載「言霊USA」はオンラインで読めます。

もうじき連載100回になるサイゾーのコラム『映画がわかるアメリカがわかる』はここで読めます。


町山智浩のWOWOW映画塾がスマホのアプリになりました!
iPhone版 Android版


町山智浩のWOWOW映画塾、YouTubeで観られます!

町山智浩の映画塾2(101〜200)

町山智浩の映画塾3(201〜)


集英社WEB連載「町山智浩の深読みシネガイド」



TBSラジオ『たまむすび』に毎週火曜日午後3時から出演中です。


過去のたまむすび

「キラ☆キラ」はYouTubeに残ってます

ポッドキャスト「町山智浩のアメリカ映画特電」は復活しました!
特電ポッドキャストVol.1〜67
Vol.68〜80
Vol.81〜95

ロフトプラスワンでタランティーノと公開飲み会(無修正)

2005-03-07 オスカー最優秀ドキュメンタリー「売春窟に生まれついて」

TomoMachi2005-03-07

今年のアカデミー賞で最優秀ドキュメンタリーに選ばれた“Born Into Brothels(売春窟に生まれついて): Calcutta's Red Light Kids(カルカッタ売春地帯の子供たち)”は、「ドキュメンタリーは客観的であるべきだ」とかヌルいこと言ってやがる奴らの目を開かせる映画だ。


ザナ・ブリスキというイギリス人女性がカルカッタの売春地帯の子供たちにカメラを与えて写真の撮り方を教える。

迷路のように入り組んだ、昼なお暗い売春窟で生まれ育った子供たちの母親はみんな売春婦である。

父親はいないか、いても朝から酒かハッパで朦朧として働かないか、刑務所に入っている。

子供たちは小学校に上がる前から家族のために働かさせる。

朝は4時に起きて、水道もないので井戸に水を汲みに行く。

ゴミ溜めのような家で鍋や食器を素手で洗い、食事の準備をする。

子どもに足枷をはめて鎖で繋いでいる家もある。

幼い弟や妹の面倒をみながら、母を抱きに来た客に酒や茶をふるまってもてなす。

もちろん、子供たちは物心ついた時から母が何をしているのかは知っている。

そして初潮を迎えるとすぐに客を取らされる。

この映画では描かれていないが、男の子も同様だと映画評論家のロジャー・エバートは書いている。

“Born Into Brothels”は、そんな子供たちの生活を、子供たち自身が撮ったスナップ写真を使って描いていく。彼らは、カメラを与えられるまで、「自分を表現する」という行為など思いもよらなかったのだ。

D

子供たちは8人。

スキトラ(写真左から2番目)は14歳で、母が亡くなったので祖母に育てられている。既に客を取らされているが、友達はそのことを話題にしない。

プジャ(一番左)は11歳の明るい女の子。母も祖母も売春婦で、このままなら確実に彼女もそうなる。

ゴール(右から3番目)は13歳だが、理知的で落ち着いた少年。彼は幼馴じみのプジャのことをいつも気にかけている。「プジャをなんとかここから救い出したいんだ」と悲痛な顔で語る。

アヴィート(左から4番目)は11歳の男の子で、絵が得意。カメラを持たせたら抜群のセンスで芸術的才能を発揮した。彼の母親は稼ぎを誤魔化したと疑ったヒモにガソリンをかけられて生きたまま焼き殺された。


ブリスキとこの映画の共同監督のロス・カウフマンは、この子供たちに普通の子供のような楽しさを経験させてあげたいと願う。

朝から晩まで働かされる子供たちを暗い売春窟から連れ出して動物園に出かける。

一生檻に閉じ込められて客に観られて餌をもらう動物たちを見た子供たちは、

「あたしたちと同じね」とつぶやく。

ブリスキは今度は子供たちを海に連れて行く。

そんなに離れてないのに、海に行くような余裕は子供たちにはなかった。

生まれて初めて見た海に大はしゃぎの子供たちはみんな大きな目をくりくり輝かせて本当に可愛い。

本当にどの子も賢くて素直で本当に可愛い。

しかし、彼らは子供でいることが許されない。言葉がしゃべれるようになると同時に母の商売を見せられ、大人同様に働かされる。

思春期と同時に体を売らされる。

どっかの国には、イイ年こいて「大人になりたくない」とか言ってる連中が山ほどいるが,

彼らは子供時代すら持つことができない。


海で無邪気に遊んでから家に帰った子供たちを迎えるのは赤い灯の下で客の袖を引く彼らの母や姉たち。


この子たちを、どうしても学校に行かせてあげたいと考えたブリスキとカウフマンは、子供たちの撮った写真を欧米で展示することにした。悲惨な現状を知ってもらうと共に、寄付を集めて、そのお金で彼らをカトリックの寄宿学校に入れようとする。

しかし、親たちは反対する。自分たちが年を取って売春婦としては稼げなくなるので、早く子供たちに客を取らせたいからだ。

アヴィートは写真の才能が認められ、アムステルダムの写真展に招待されるが「行きたくない」と言い出す。いや、本当は死ぬほど行きたいのだが家族の重圧のため、そう言わざるを得ない。


この映画は貧困をただ記録しただけのドキュメンタリーではなく、具体的に子供たちを救う「能動的な」ミッションである。子供たちの写真展、写真集、それにこの映画の収益が彼らの学費になるのだ。

Kマートでの銃弾販売を中止させた「ボウリング・フォー・コロンバイン」や、マクドナルドにヘルシーメニューを導入させた「スーパーサイズ・ミー」のようにドキュメンタリー映画はほんの少しだけでも実際に世の中をよくすることがある。


しかし、こういう売春窟やスラムはカルカッタだけでなく、アジア、南米、アフリカ、世界中どこにでもある。だから「8人の子供を救ったところで、それは大海からスプーンで水をすくうようなものだから無駄だ」と言って、この子供たちから目を背ける人もいるだろうけど。

http://www.kids-with-cameras.org/


寄宿学校から「エイズの子供は引き受けられない」と言われたブリスキが「そうだったわ。あの子たちはエイズになっている可能性が高いんだ!」と蒼白になる場面も実に恐い。