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映画評論家町山智浩アメリカ日記


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2005-10-09 オスカー男優賞有力候補 悒哀奪疋淵ぅ函グッドラック』のデヴィッ

TomoMachi2005-10-09

ジョージ・クルーニー監督作『グッドナイト&グッドラック』を観る。


50年代のCBSテレビの報道番組『See It Now』のアンカーマン、エド・マローが主人公。

題名の「おやすみなさい。そしてグッドラック」は番組の最後にマローが言う挨拶だ。


舞台は1954年、マッカーシー上院議員によるアカ狩りの真っ只中。

彼は少しでもリベラルな人間を見つけると「ソ連のスパイ」「アカ」「ピンコ(アカっぽい奴)」と決め付けて喚問した。

ソ連が核兵器開発でアメリカに追いつき、中国に共産主義政権が樹立したことで、

アメリカ人は共産主義を恐怖していた。

アメリカ人たちは互いを疑い、密告し、裏切り、それを恐れて沈黙した。

特にユダヤ系や東欧系移民、学者やマスコミ関係者は片っ端から標的にされ、仕事を失い、破滅した。

追い詰められて自殺する者も多かった。


マロー(デヴィッド・ストラザーン)は、自分の番組で、マッカシーを撮った報道フィルムやテープから、彼の恐怖を巧みに使ったプロパガンダや虚偽や脅しのテクニックを抽出して視聴者に見せた。

「我々は恐怖に駆り立てられて、理性なき時代に進んだりはしません」

「共産主義の恐怖はマッカシーが作ったものではありませんが、彼はそれを利用しただけです」

「彼の行動は(アメリカ人同士を敵対させる行為で)敵に利するだけです」

これはマッカーシーへの宣戦布告だった。

マッカーシーに逆らうだけで「ソ連のスパイ」と決め付けられて世間から抹殺される時代だ。これは自殺行為だと思われた。

マッカーシーはCBSに抗議した。マローは番組の全部をマッカーシーの反論に提供した。

マッカーシーは視聴者を睨みつけてしゃべりまくった。

マローを「アカの犬どもの親分」と罵倒した。

「私は238人を公聴会で、367人を議会で喚問した」と狩った魔女の数を自慢した。

そして「我々は誰でも自由に思想を語れる自由の国に住んでいる。それを捨てて共産主義の奴隷になりたいか」と視聴者を脅した。

しかし、誰の目から見ても自由の敵はマッカーシー本人だった。

マローはコメントをつけず、いつもの挨拶で結んだ。

「おやすみなさい。そしてグッドラック」

それで充分だった。

マッカーシーの支持率は急降下し、議会はマッカーシーを「上院の尊厳を傷つけた」と決議し、アカ狩りは終わった。


「マローは僕ら父子の英雄だ」

この映画を自ら製作し、脚本を書き、監督したジョージ・クルーニーは言う。

クルーニーの父はTVのアンカーマンで、クルーニー自身も大学で放送ジャーナリズムを専攻していた。

途中で俳優に転向し、TVドラマ『ER』でブレイクしたクルーニーはTVというメディアに対して人並みならぬこだわりがある。

初監督作『コンフェッション』はデート番組の創始者にして人気番組『ゴングショー』の司会者だったチャック・バリスの自伝の映画化だったが、その前にプロデューサーとして、シドニー・ルメット監督作『フェイル・セイフ未知への飛行』をTVドラマとしてリメイクしている。白黒の生放送ドラマとして。

クルーニーは、ストーリーの舞台となる60年代の冷戦時代にTVで行われていた生放送ドラマを再現しようとしたのだ。

初期のTVではドラマはスタジオから生放送されることが多かった。

NYでリアルなメソッド演技を学んだ舞台俳優たちを

シドニー・ルメットやジョン・フランケンハイマーなどの監督が演出し、

生ゆえに即興を活かした白熱した演技合戦が、ドキュメンタリーのような迫力を生んだ(いくつかの番組はNYのNBCテレビにある博物館で観ることができる)。

それがいわゆる「ニューヨーク派」映画の起源であり、アメリカン・ニューシネマの原点だ。

シドニー・ルメットは『フェイル・セイフ』を映画化する際に、この生ドラマの手法を使った。だから、クルーニーはそのリメイクを製作する際に実際に白黒生ドラマにしたのだ。


そして、この『グッドナイト&グッドラック』も、この映画の舞台となる54年当時に作られた白黒生ドラマのように作られている。

舞台はCBSスタジオ内といくつかの室内に限定され、音楽も生バンドの演奏だけで劇伴がない。

カメラは長いショットで俳優たちのセリフのやりとりと表情を追いかける。


また、タバコ会社の提供した番組なのでマローがタバコを本番中もスパスパ吸うのを強調している。タバコのCMが全面禁止され、映画の喫煙シーンすらカットする今のアメリカのTVでは考えられないことだ(ヘビースモーカーだったマローは呼吸器系のガンで死んだ)。



現在、クルーニーはやはりシドニー・ルメット監督作『ネットワーク』(76年)のリメイクを企画している。

これもTVのアンカーマンをめぐる話で、精神に異常をきたして暴言を吐き始めたアンカーマンをTV局がショーのスターにしていくブラック・コメディだが、クルーニーはこのショーを実際にTVショーのように見せていこうと考えているようだ(オーソン・ウェルズがラジオ・ドラマ『宇宙戦争』をラジオ・ニュースのように作った手法)。


『グッドナイト&グッドラック』がどの程度事実なのかをめぐってアメリカではすでに論議が起こっている。

マローとマッカーシー歴史的評価で、左右の意見がぶつかっているのだ。

また、クルーニーが今、この映画を作った動機のひとつに、彼とFOXニューズ・チャンネルのアンカーマン、ビル・オライリーとの対立があるが、長くなるので今日はここまで。