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映画評論家町山智浩アメリカ日記


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今回はジョージ・A・ロメロ監督『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』を解説します。

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2005-12-06 スピルバーグの「ミュンヘン」は凄かった!

TomoMachi2005-12-06

スティーヴン・スピルバーグの新作『ミュンヘン』を観た。

2005年に観た映画ではベストワンだ。

とにかく強烈で、壮絶な映画だった。


この映画は内容が政治的に危険なので今まで極秘に製作されていた。

ミュンヘン五輪で選手11人をパレスチナ・ゲリラに殺されたイスラエルが報復のため、諜報機関モサドの精鋭5人にパレスチナ人11人暗殺を命じた実話の映画化だ。

1972年、ミュンヘン・オリンピックの選手村に「黒い9月」を名乗るパレスチナ・ゲリラが銃で武装して侵入。イスラエルの選手11人を人質にとった(うち二人は抵抗して射殺される)。

犯人はイスラエルの刑務所に囚われたパレスチナ人の釈放を求めたがイスラエルはこれを拒否。

犯人はドイツ政府と交渉して旅客機を用意させたが、ドイツ側は軍の滑走路で犯人たちを狙撃。

犯人側はヘリコプター2台の座席に縛られた人質を手榴弾とライフルで皆殺しにした。

この報復のため、イスラエル政府は殺された人質11人と同じ数のパレスチナの指導者を暗殺する計画を立て、モサドの5人の精鋭が選ばれた。


リーダーのアブナー(エリック・バナ)はもうすぐ父になる身だが、この任務を引き受ける。

標的の11人は、パリやローマなどヨーロッパの非共産圏に住んでいるパレスチナ人が選ばれた。

アラブや共産圏よりもガードが甘くて近づきやすいからだ。

他の4人のメンバーは、爆弾のプロ、射撃のプロ、書類偽造のプロなどそれぞれ得意技を持っている。

もちろんこの暗殺は違法行為なので、イスラエル政府は資金を最初に与えるだけで、後は一切の連絡を絶つ。アブナーたちは自力で標的を探し、自力で逃げなければならない。

もちろんフランスやイタリアの地元警察に殺人犯として逮捕される可能性もあるが、イスラエル政府は一切関知しないからそのつもりで。このテープは自動的に消滅する。

てな感じで「スパイ大作戦」みたいな痛快娯楽アクションにもなりそうな素材だが、スピルバーグはそうしない。


まず、とにかくバイオレンス描写がリアルで陰惨。スピルバーグだから。

ミュンヘンで11人殺される場面も、暗殺の場面も、弾丸が右の頬から左の頬に貫通して歯を飛び散らせる、みたいな感じで弾丸が人体を破壊する仕組みを徹底的にリアルに(モロに)描写する。


そんな残虐シーンの真っ只中に強引にギャグが入ってくる。スピルバーグだから。

アブナーは銃を抜くのにもたもたしたり、なかなか撃てなくて「お前撃てよ」「いや、お前が先に撃て」みたいに押しつけあったりする。

もっと悪質なギャグも何個もある。

スピルバーグはまず観客を笑わせて、観客が1秒間笑ってる間にものすごく嫌〜な残虐シーンをガンっとぶつけてくる。

すると観客は笑い顔のままそれを見てしまって凍りつく。

その感覚は、友達が道でふざけてたらつまづいて転んで、それを見て思わず笑ったら、

通りがかりのトラックが倒れた友達の頭をグシャっと轢き潰したような感じである。

スピルバーグは「JAWS」の頃からずっと意識的にこれをやり続けてる。

スピルバーグに慣れてくるとそれがマゾ的な快感になります。


ミュンヘン』でスピルバーグとしてはおそらく始めてリアリスティックにセックスを描写する。しかも映画のテーマと深く関わる形で。


殺されるパレスチナの指導者のほうも一人として悪党は出てこない。

みんなインテリで、家族を愛する、要するに普通の人ばかりだ。

なにしろ標的の11人のうち「黒い九月」と直接関係があるのは数人にすぎないのだ(今週のTIME誌が詳しく書いている)。

彼らを殺していくうちにアブナーは自分がテロリストと同じことをやっていることに気づき苦悩する。

パレスチナの要人を電話に仕掛けた爆弾で殺そうとして彼の娘が電話を取ってしまう場面はヒッチコックの『サボタージュ』を引用した、胃がきゅーっと痛くなるサスペンスだ。


復讐は復讐を呼び、果てしない殺し合いは女性や子供も容赦なく巻き込んでいく。

アブナーも仲間を次々に失って追い詰められていく。

テロへの報復はさらに恐怖を拡大しただけだったのだ。


なぜ、スピルバーグが今、この映画を作ったのか? その理由はあまりに明確だ。

アブナーに暗殺任務を与えた上官(ジェフリー・ラッシュ)とイスラエルの首相は「テロと断固戦わなければならない。これも中東の平和のためだ」と言う。

そのセリフはどっかの大統領が言ってることと同じだ。

そして、スピルバーグが『ミュンヘン』で象徴的に写し出すのは、ありし日の世界貿易センタービルなのである。


ミュンヘンで11人を殺した実行犯のうち三人は生きて逮捕されハイジャックの人質と引き換えに釈放された。

この映画では描かれていないが、一人はパレスチナ人同士の内輪もめで死亡、一人は心臓マヒで死亡。一人は今も元気に生きている。

つまり本当に報復すべき相手にモサドは何もしてないのだ。

モサド最強ってのも落合信彦の流したガセだったんだわ。

テロと無関係なイラクを爆撃してオサマ・ビン・ラディンを逃がしたブッシュみたいなもんだ。

(この項続く)