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2005-12-21 ゲイ西部劇『ブロークバック・マウンテン』。男はみんなゲイである

TomoMachi2005-12-21

その夜、ワイオミングのブロークバック・マウンテンは眠れないほど寒かった。

カウボーイのイーニス(ヒース・レジャー)とジャック(ジェイク・ギレンホール)はひとつの毛布にくるまくることにした。

しばらく二人で体をくっつけてじっとしていると温まってきた。

するとジャックがイーニスの手をとって、自分のズボンの中に導いた。

握らされたジャックのものは火傷しそうなほど熱く猛り狂っていた。

イーニスはびっくりして思わず手を引っ込める。

しかし、もみ合ってるうちに二人はいつしか唇を求め合い、最後にイーニスはジャックの中に入った。


「ストリーム!」ではもう話したけど、カウボーイ同士の20年間に及ぶ悲恋を描いたモダン・ウェスタン『ブロークバック・マウンテン』の話。

監督のアン・リーは超大作『ハルク』の興行的失敗で、「干された」(本人談)状態だったが、

この『ブロークバック・マウンテン』で今年の映画賞を総ナメしそうな勢いだ。


舞台は1962年、男は誰でもテンガロン・ハットをかぶっているワイオミング州。

カウボーイのイーニスとジャックは羊の放牧に雇われる。

秋から冬にかけて羊の群れを連れてブロークバック・マウンテンに入り、草を食べさせながら熊やコヨーテから羊を守る仕事だ。

イーニス役のヒース・レジャーは『ブラザーズ・グリム』のひょうきんな弟役がウソのように、渋面で無口でガニマタの、頑固で古臭い西部の男。

ジャック役のジェイク・ギレンホールは子犬のような目をクリクリさせた、ロデオ好きの無邪気なカウボーイ。

テンガロン・ハットをかぶった二人が馬にまたがって美しい緑が輝くワイオミングの大自然の中を進む姿はまったくマルボロのCMそのものだ。


結ばれてしまった翌朝、ジャックは幸福そうだが、イーニスは後悔に顔を歪める。

子供の頃、男同士で仲の良すぎるカウボーイが他のカウボーイからリンチされて殺された死体を見たことがあるからだ。

アニー・プルーが原作小説を「ニューヨーカー」誌に発表したのは1997年だが、

翌1998年、小説の内容が現実になった。

プルーの家に近いワイオミング州ララミーで、ゲイの大学生マシュー・シェパードが二人の男に牧場でリンチされ、フェンスに縛られて絶命するという事件が起こったのだ。

カウボーイは日本のサムライと同じく、アメリカ人の男らしさの象徴である。

カントリー&ウェスタンを聴くような西部や南部の男たちは保守的で過剰に男らしさに執着し、ゲイを憎む傾向がある。


羊の放牧が終わり、イーニスとジャックはブロークバック・マウンテンを降りた。

二人は別れ、もう二度と会わないつもりだった。

刑務所でオカマを試すのと同じで、男二人きりだったからちょっと魔がさしただけさ。

イーニスは幼馴染のアルマ(ヒース・レジャーの婚約者ミッシェル・ウィリアムズ)と結婚する。

それから四年が経った。イーニスには二人の娘もできた。

しかし夫婦の仲は冷め切っていた。

イーニスは物心ついた時からカウボーイとして育てられ、カウボーイこそすべてだった。

しかし、カウボーイの仕事は日に日に減り、道路工事など日雇いの仕事を転々として家族を養うのがやっとだった。

アルマは夫にカウボーイを忘れて、まともな職業について欲しいが、イーニスにとってカウボーイ以外に興味はない。

もともと無口なイーニスは妻に何の愛情も示してやれないまま、昼間から酒をあおった。

そんな灰色の日常のなかで、イーニスがいつも思い出すのは緑あふれるブロークバック・マウンテンのきらめくような日々だった。あそこで俺は本当の男(カウボーイ)だった。


そんなイーニスにブロークバック・マウンテンの絵葉書が届いた。

ジャックからだった。

ジャックは金持ちの農作業機器販売業者のお嬢様(アン・ハサウェイ)に婿入りし、息子をもうけた。

金はあったが、嫁の両親に頭を押さえつけられ、家には居場所がなかった。

「今度、会いに行っていいか?」と書かれたジャックの葉書にイーニスは一言「もちろん」と書いた返事を出した。

自宅を訪ねてきたジャックを見たイーニスはドアを飛び出し、ジャックを抱きしめると狂おしく彼の唇をむさぼった。


それを妻アルマは窓からじっと見つめていた。


それからイーニスとジャックは、妻には「釣り旅行に行く」と称して、年に一回、ブロークバック・マウンテンでキャンプをするようになる。

そこには自動車も生活も煩わしいものは何もない。

雄大な山と川と馬とカウボーイだけ。

ブロークバック・マウンテンの大自然で裸で戯れる二人はエデンの園のアダムとアダムだ。

その色鮮やかな楽園は、灰色の日常とはっきり対比される。


そして、ついに妻アルマはイーニスに言う。

「釣りなんて嘘でしょ!」


でもね、本当に釣りだったとしも、奥さんは嫌だと思うよ。

だって、旦那は自分といるよりも男友達とつるんでるほうが楽しそうなんだから。

女性には悪いけど、男ってみんなこんなものなんですよ。

セックスはしないにせよ、男はいくつになっても男同士で遊んでるほうが、女性といるより楽しいんですよ。

だって、男同士でいることは少年の日々に戻ることだから。

野山でカウボーイごっこをしていた頃に戻ることだから。

カウボーイというものがもはや幻想でしかなくなったこの現代で。


だから、『ブロークバック・マウンテン』は「ゲイを描いた異色西部劇」じゃない。

似たような話は西部劇にはいくらでもある。

ジョン・フォードの『荒野の決闘』のドク・ホリデイは、愛する女性を捨てて、親友ワイアット・アープの助太刀に参加して死んでいく。

サム・ペキンパーの『ワイルド・バンチ』のならず者アーネスト・ボーグナインは全身に弾丸を受けながら「パイク! パイク!」と親友の名を呼びながら彼のもとに這いより、息絶える。

『さすらいのカウボーイ』のピーター・フォンダはカウボーイを辞めて妻のもとに帰り、百姓として家族のために暮らすが、カウボーイ仲間のウォーレン・オーツが危機に陥ると家族を捨てて助けに参じ、やはり死んでいく。

ブロークバック・マウンテン』は、同じワイオミングを舞台にしたマイケル・チミノの『サンダーボルト』と並ぶ、「正統派」現代西部劇なのだ。


ちなみにヒース・レジャージェイク・ギレンホールミッシェル・ウィリアムス、アン・ハサウェイという主演4人全員ヌードあり。70年代の映画はヌードは当たり前だったけど、最近は珍しいなー。