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映画評論家町山智浩アメリカ日記


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2006-01-14 「ホテル・ルワンダ」と「帰ってきたウルトラマン」

土曜日に封切られた『ホテル・ルワンダ』、初日は満員御礼だったようです。


よかったと思う反面、「本当にわかってるのかな?」とも思う。

ホテル・ルワンダ』を観て、「アフリカは悲惨だな。先進国が何かアフリカのためにしてやれることはないか」と思うのは、間違っている。

この映画は、そういう風にも作ることはできたが、テリー・ジョージ監督(アイルランド人)はそう作らなかった。

国際社会や政治の問題としても描かなかった。

最初のシナリオにはルワンダの虐殺の全体像が、あの『トラフィック』にも似た群像劇の手法で書き込まれていたが、監督はそれをバッサリ切って、その代わりに、主人公ポール一人に焦点を絞った。

多数派のフツ族でありながら少数派ツチ族の虐殺に加担せず、ツチ族1200人をかばい通した一人の男、ポール・ルセサバギナさんという男の生き方を見せる映画として完成させた。


わかりやすく言ってしまうと、

「アフリカのことは置いといて、とりあえず、これを観た一人一人が各人の生きている場所で隣人を愛してください。

一人一人がポールさんになってください。普段の日常から。それが始まりです」

ということですよ。


ところが「この映画を観たってアフリカは救えない」とかトンチンカンなことを言ってる人もいるんだよ。困ったもんだ。



孤立無援のポールさんを最後まで支えたのは、愛国心でもキリスト教の教えでもなく、ホテルマンとしての、接客業としての職業倫理だった。

つまり「どんな客も差別しない」ということ。接客業では、店内に入ってきた人を、たとえ客でなくても、どんな服装をしていようと、どんな人種だろうと、基本的にお客様として取り扱うよう教育される。もちろん「他のお客様のご迷惑になる」時は出て行ってもらうこともあるが、「追い出す」のではなく「お帰りいただく」わけだ。

ルワンダは国家をあげて虐殺を推進し、キリスト教教会でも虐殺が行われた。

国家や民族や宗教が、隣人への差別と憎悪を押し付ける時(戦争時はたいていそうだ)、

ポールさんは職業の倫理だけに従うことによって、多数派から独立した判断を貫いた。


『帰ってきたウルトラマン』に「怪獣使いと少年」というエピソードがある。

川崎の工業地帯の河原に一人の老人と少年が住んでいた。

少年は孤児で老人に拾われたのだ。

老人は実は昔、たまたま地球にやってきた友好的な異星人で、そこで暴れていた怪獣を超能力で地中に封じ込めた。

しかし近所の人々は老人と少年を「日本人じゃねえな」と差別し、

少年がパン屋にパンを買いに行っても「お前らに売るものはねえ!」と追い返されてしまう。

そして、ついに近所の住民たちは、異人である老人を恐れるあまり、逆に襲撃し、殺してしまう。


長い間、このエピソードは川崎に住む朝鮮人労働者をモデルにした話だと思われてきたが、

実は脚本家の上原正三氏は沖縄出身で、東京や大阪の工業地帯で暮らす出稼ぎの沖縄人労働者をモデルにして、このエピソードを書いた。

言葉や風俗の違う沖縄人労働者は朝鮮人と同じように日本人から差別され、沖縄名ではアパートなども借りられなかった。実際、襲撃される事件も起こった。


パン屋に追い返された少年がとぼとぼ歩いていると、後ろからパン屋で働く少女が走って追っかけてきて、「はい、パンです」とパンを売ってくれた。

みんな、僕を差別してるのに、

「どうしてパンを売ってくれるの?」 

少年が驚くと、少女はにっこり笑って言う。

「だって、あたし、パン屋だから!」


ポールさんも、なぜ自分の命もかえりみずに1200人を救うことができたのか? と問われたら

「私はホテルマンだから」と答えただろう。

仕事をまっとうする、どんな状況でもそれを貫くことがどれだけ難しいことか。


ポールさん自身は英語版DVDの付録で『ホテル・ルワンダ』を見た人に求めることとして次のように言っている。

「ルワンダを教訓にして、この悲劇を繰り返さないで欲しい」

つまり、ルワンダへの寄付ではなくて、あなた自身の生きる場所でルワンダの教訓を活かせ、と言っている。


この映画の虐殺は「たまたま」ルワンダで起こったが、「アフリカ版『シンドラーのリスト』」と言われているように、このような虐殺はアフリカ、いや「後進国」だから起きたのではない。

世界中のどこでも起こるし、これからも起こるだろう。

そもそも『ホテル・ルワンダ』の監督テリー・ジョージはアフリカへの関心からではなく、北アイルランドで生まれ育ち、カソリックとプロテスタントの殺しあいの板ばさみになって苦しんだ自分をポールに投影して、この映画を企画した。

だからルワンダよりもポール個人に焦点を絞った。

つい、この間も「先進国」であるオーストラリアで群衆がアラブ人を無差別に襲撃する事件が起こった。ボスニアの民族浄化もついこの間のことだし、関東大震災の朝鮮人虐殺からもまだ百年経っていない。もちろんアメリカでもヘイト・クライム(差別による暴力・殺人)は起こり続けている。


ホテル・ルワンダ』という映画が観客に求めているのは、アフリカへの理解や、国際社会の対応よりもまず、

観客一人一人の中にある排他性、つまり「虐殺の芽」を摘むことなのだ。