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映画評論家町山智浩アメリカ日記


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2006-05-06 チベット西部劇「ココシリ」、富士山より高いキャバクラに仰天!

TomoMachi2006-05-06

 6月に日本公開される『ココシリ?』という中国映画のポスターを見ると、何の映画だかわからない。

 どことも知れぬ山の風景、ヒゲぼうぼうの男同士が抱き合っている。

 これ、『ブロークバック・マウンテン』?

『ココシリ』って、「やらないか」「ここが尻だぜ、ばっちこーい!」みたいな世界か?

シリアナ』と二本立てか?


 んなわけないだろ! 

 ……とも言い切れない、異常に男臭すぎる映画が『ココシリ』。

 モロにワイルド・バンチにやさぐれた欧州版ポスター(→)のほうが内容を忠実に表現してるよ!

 英語題名「マウンテン・パトロール」。希望邦題『ヒマラヤ独立愚連隊』。 

 ココシリとはチベットの山岳地帯の名前。

 そこに生息するレイヨウというカモシカの密猟者を追う山岳警備隊の実話を元にしている。

 レイヨウの毛皮は最高級のカシミアとして高額で売買されるので密猟者たちに乱獲され、絶滅に瀕しているのだ。

 警備隊は密猟者追撃の旅に出るが、この仕事は命がけだ。

 密猟軍団は、警備隊員よりも重武装で、自動車もいいのを持っている。

 警備隊なんて屁とも思わないで、ガンガン銃撃してくる。

 それ以上に恐ろしいのはココシリの大自然それ自体。

 ここは標高4千メートル以上、富士山より高い土地だ。

 草木一本生えない。水も食料もない。

 ちょっと走っただけで酸欠で死んでしまう。


 地獄の追撃行に出発する前夜、若い警備隊員たちは酒場で馴染みの女にしがみつく。

 ここでビックリした。

 富士山よりも高いチベットに、日本とそっくりのキャバクラがあるのだ!

 内装も、女の子の衣装も、歌舞伎町のそれとそっくり!

 客はみんなハァハァしてるんだろうな。酸欠で。

 あと、警備隊長の一人娘を演じる少女が超美少女(ハァハァ←酸欠)。

 きっとハリウッドでは今頃、「あの娘は誰だ! 第二のチャン・ツィーにするから連れて来い!」って大騒ぎだろうな。


 そして追撃の旅が始まる。

 地平線の彼方まで何もない荒野を砂埃を巻き上げて走るジープ三台。

 突然、クラッシュするジープ。運転手の胸に弾痕。音もなく撃ってくる敵。

 夜は野営。

 空気が薄いので大気圏外のようにクリアな星空の下、焚き火を囲んで酒を飲んで、歌って踊る男たち。

 ああ、もうこれは何から何までジョン・フォードの騎兵隊映画にそっくりじゃないか!

 実際、『ココシリ』はアメリカではChinese Westernと謳って公開されたのだ。

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 驚いたことに警備隊員はみんなただのボランティアで給料をもらっていない。

 つまり役人でも何でもない、本当に「独立」愚連隊なのだ(それなのに密猟者を逮捕したり射殺してりしてるんですけど……)。

 金がないのでキャバクラの女にせびったりしている。

 女は「いいかげんに、こんなバカなことやめて、あたいと一緒に所帯持とうよ」と泣くが、男は女を振り切って荒野を目指す。

「俺たちは追撃に出るたびに女に逃げられるんだよ」隊長は笑う。「でも、女なんてどこにでもいるからな」その後にはきっとこんな言葉が続くのだろう。

「この仕事は女よりもずっと快感だぜ」


 密猟者たちは標高4千メートルよりもさらに山の上に向かってどこまでも逃げていく。

 しかし、隊長は決してあきらめない。

 燃料が尽きたジープを捨て、徒歩で追う。

 食料も水も銃弾も尽き果てても追う。

 隊員が一人、また一人と荒野に倒れていっても、たった一人になっても追う。

 隊長はジョン・フォード監督の『捜索者』のジョン・ウェインだ。

 『白鯨』のエイハブ船長だ。

 自分の人生も周りの人間もすべて犠牲にする執念の塊。

 レイヨウを守るという目的は消えうせ、追撃だけが彼の人生と化しているのだ。

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 こいつらは狂っている。

 でも、男なら誰だって、多かれ少なかれ狂っているもんだ。

 崖から飛び降りて勇気を競うガキどもと、燃えさかるビルに飛び込んでいく消防士たちの間にどれほどの差があるのか。

 西部劇や戦争映画、ヤクザ映画にスポーツ映画、権力に立ち向かうジャーナリストの映画、みんな根っこでは同じで、命がけの「ごっこ遊び」を続けようとする永遠の少年たちの愚かさと美しさを描いているのだ。