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映画評論家町山智浩アメリカ日記

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2012-11-25 ジョン・ミリアス監督『若き勇者たち』

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映画秘宝EX最強アクション・ムービー決定戦」に、ジョン・ミリアス監督『若き勇者たち』(84年)について書きました。

『若き勇者たち』(84年)の舞台はコロラドの田舎町。牧場、カウボーイ。住民のほとんどは白人。その高校の歴史の教師は黒人だった。

「ジンギス・ハーン率いるモンゴル軍は包囲戦が得意だった。敵を囲い込み、その輪を小さくしながら、内側にいる者を皆殺しにしたんだ」

 教材として掲げられたジンギス・ハーンの絵は監督のジョン・ミリアスの顔になっている。ミリアスは古代から現在にいたる古今東西の戦史のマニアで、戦史雑誌に寄稿もしている。

 生徒がふと窓の外を見ると、空からパラシュートで大量に兵隊たちが降ってくる。ソ連とキューバ、ニカラグアの連合軍によるアメリカ侵攻、「赤い夜明け」(原題)が始まったのだ。

 共産軍は、抵抗するアメリカ人を容赦なく処刑する。親を殺されたジェド(パトリック・スウェイズ)率いる8人の高校生たちはコロラドの山中に逃げ込み、レジスタンスとして、ソ連キューバ軍に抵抗する。当時、アフガニスタンに侵攻したソ連軍とイスラム戦士ムジャヒディーンが戦っていたこともあり、アメリカで『若き勇者たち』はヒットした。

 しかし、映画批評家たちは「これは子どもたちに共産主義への憎しみを植え付けるプロパガンダだ」と酷評した。ベトナム戦争敗北の挫折感は70年代のアメリカを支配したが、1980年に大統領に選ばれたロナルド・レーガンは「強いアメリカ」の復活を掲げ、社会主義のサンディニスタ政権になったニカラグアへの軍事介入、1984年のグレナダ侵攻などを行い、「カウボーイ外交」と呼ばれた。それを反映して80年代のアメリカ映画は、70年代のニューシネマとは正反対に右傾化していった。その最たるものが『若き勇者たち』だった。

 不時着したF15イーグルのパイロットが戦況を説明する。ドイツで「緑の党」が政権を取って社会主義化したのをきっかけにソ連はヨーロッパに侵攻、イギリス以外を支配した。メキシコでも社会主義革命が起った。アメリカではノースダコタの核ミサイル基地がソ連軍に乗っ取られ、いくつかの都市が核で消滅した。ソ連と戦っている中国の人口は既に半分になってしまった……。

 ソ連は恐ろしい!と思わせるこの展開は、当時のレーガン政権の認識に基づいている。脚本をリライトしていたジョン・ミリアス監督はホワイトハウスに招かれてヘイグ国務長官から直々に講義を受けた。ヘイグに会うよう指示したのは『若き勇者たち』を製作したユナイト映画だった。彼らは意図的にレーガン政権のプロパガンダに乗ろうとしていたのだ。

 もともとはそんな話ではなかった。『若き勇者たち』の脚本は、後に『ウォーター・ワールド』を監督するケヴィン・レイノルズが学生時代に書いた『10人の兵士』。敵との戦闘よりも、山に逃げ込んだ高校生たちの内紛や粛清が中心で、ミリアス曰く『蝿の王』のような話だったそうだ。

 敵に電波発信器を呑まされた仲間ダリルと自分たちと同じ年のソ連少年兵を「処刑」するシーンにそれが残っている。マット(チャーリー・シーン)は処刑に反対する。ジェドは少年兵を殺すがダリルは殺せずに悩む。代わりに、すでに殺人マシーンとなったロバート(クリス・トーマス・ハウェル)が無表情で射殺する。撃たれたダリルはロバートにしがみつき、白い冬季迷彩服を血で真っ赤に染める。連合赤軍を思わせる、この映画で最も強烈なシーンだ。

 ミリアスがこの脚本に魅了されたのは、それが彼の子どもの頃からの夢だったからだ。

「俺もガキの頃、2年ばかりコロラドに住んでてね、その頃、ソ連軍が攻めてくるのを夢見ていたんだ。」ジョン・ミリアスは2003年にウェブマガジンIGNのインタビューで『若き勇者たち』を撮った動機について話している。「その後、西海岸のマリブに引っ越したんだけど、そこでも中国が攻めてくるのを想像してたなあ。で、俺たちは山にこもってレジスタンスとして闘うわけさ」

 ミリアスは少数の英雄たちが巨大な力に抵抗する物語が大好きだ。彼が映画界を目指したきっかけは、ハワイの日系人向け映画館でたまたま観た『七人の侍』だった。彼が書いた『地獄の黙示録』の脚本も、最初は米軍からはぐれたカーツ大佐率いる七人がゲリラとして北ベトナム軍に挑む話だった。『風とライオン』も『戦場』も『ジェロニモ』も“独立愚連隊”が強大な正規軍に立ち向かう話だ。右翼だと言われるミリアスだが、彼には左右はどうでもいい。レジスタンスかどうかだ。なにしろ彼は最も好きな映画として、アルジェリアのフランスからの独立運動を描いた『アルジェの闘い』(66年)を挙げる。『若き勇者たち』で女子高生のジェニファー・グレイやリー・トンプソンが囮になってソ連兵を殺すシーンは『アルジェの闘い』へのオマージュだ。

 ジェドたちは母校のフットボール部のチーム名「ウルヴァリン」を名乗ってゲリラ戦を繰り返す。ウルヴァリンが潜んでいるのはアラパホ国立森林公園で、ソ連兵たちがその森の歴史を書いた碑を読むシーンがある。そこは1863年から65年にかけて、先住民アラパホ族とシャイアン族の連合軍が、金を求めて侵略してきた白人たちと戦った場所だ(1864年、白人たちは先住民の集落を襲って女子供160人余りを殺した。映画『ソルジャー・ブルー』(70年)で描かれた「サンド・クリークの虐殺」だ)。つまり『若き勇者たち』のウルヴァリンには白人と戦い続けたインディアンが重ねられているのだ。

 ミリアスは『ジェロニモ』(93年)で最後まで白人との戦いをやめないアパッチ族の戦士ジェロニモを、敵である騎兵隊の少尉マット・デイモンの視点から尊敬を込めて描いた。『若き勇者たち』では、キューバ軍のリーダー、ベラ大佐がその役割になる。伝説的ブラック・ムービー『スーパー・フライ』(72年)のロン・オニール演じるベラはアメリカ市民を弾圧するソ連の指揮官に反発して言う。「私はいつもレジスタンスの側にいましたから」その言葉はミリアスの心情吐露にも聴こえる。

 ミリアスは常にレジスタンスを愛した。『若き勇者たち』でソ連の思想教育官はアメリカ人に「諸君らの建国の父たちは英国の圧政に抵抗した革命戦士だったじゃないか! それを忘れたのか!」アメリカで愛国者Patriotとは独立戦争で英国に立ち向かったゲリラ戦士を指す。独立戦争は英語ではRevolution (革命)と呼ぶ。それは世界最初の民衆による武装革命による政権奪取であり、フランス革命もロシア革命も、アメリカなしには生まれなかった。

 それなのにいつの間にかアメリカは先住民やベトナム人や中南米の人々を弾圧する側に回ってしまった。ベラ大佐はアメリカ人を踏みにじるソ連の将校に「アメリカはベトナム戦争で勝つためには『民衆の心と理性をつかめ』と言いました」と言う。将校は「結局、彼らは負けたよ」と言い返す。それは「心と理性」をつかめなかったからだ。

 

 アメリカが失った「レジスタンス魂」をミリアスは求めた。それで『地獄の黙示録』では米兵をベトコンにし、『若き勇者たち』ではアメリカの高校生にムジャヒディーンとインディアン戦士とアメリカ建国の父たちを託したのだ。