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映画評論家町山智浩アメリカ日記

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2016-06-07 クリストファー・ノーラン『インターステラー』インタビュー

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スマホばかり見てないで、宇宙を見ようよ!

クリストファー・ノーラン監督インタビュー

インターステラー』公開当時に映画秘宝に掲載したものです。

取材・文 町山智浩

――『インターステラー』は最初、スティーヴン・スピルバーグ監督で発表されましたが、どんな経過で企画を引き継いだんですか?

ノーラン もともとパラマウントのために宇宙物理学者のキップ・ソーンが恒星間航行をリアルに描こうとして企画した。それで脚本に僕の弟のジョナサンが雇われたんだ。でもスピルバーグのドリームワークスがパラマウントを離れたんで、僕が監督を引き受けたんだ。

――でも、スピルバーグ的な要素は『インターステラー』にいっぱい残ってますね。父親が子どもを捨てて宇宙への夢に賭けてしまうのも、得体のしれない何かの力に導かれていくのも『未知との遭遇』だし、少女と幽霊の交信は『ポルターガイスト』で……。

ノーラン この映画にはスピルバーグの影響は大きいよ。『2001年宇宙の旅』の影響は誰でもすぐに気づくだろうけど、家族を通じてSFを描く手法も、ファミリー向けのハードなSFというジャンルもスピルバーグが開拓したものだからね。僕は『インターステラー』をファミリー向け映画だと思っているよ。

――滅びかけた地球を救いに銀河の彼方に向かうというストーリーには『宇宙戦艦ヤマト』の影響はないんですか?

ノーラン いや、それは観てないんだ。

――地球が砂嵐によって滅亡しかかっていますが、その原因は?

ノーラン 砂嵐を選んだのは、ケン・バーンズ監督の『ダストボウル』を観たからだ。1930年代にアメリカ中西部を襲った大砂塵の体験者のインタビューを集めたドキュメンタリーで、『インターステラー』の冒頭の老人たちのインタビューはそれを真似ている。ダストボウルは遺棄された農地の表土が風で吹き上がったもので、人間による環境破壊だが、この映画では政治的メッセージが重要ではないので、原因を明らかにしていない。

――ブラックホールには円盤のようなものがついていますが。

ノーラン あれは最新のブラックホール研究に基づいている。キップ・ソーンが提示する科学設定を僕ら兄弟が物語に組み込んでいったんだ。

――『インターステラー』は視覚的に懐かしい映画でした。ロケットは3段式だし、六角形のレンズのフレア(ハレーション)まで写ってるし。

ノーラン 銀河の彼方にカメラがあるんだね(笑)。

――どうして、今回は三段式ロケットとかフィルムによる撮影とか懐かしいスタイルを選んだのですか?

ノーラン それが僕にとってのリアルだからだよ。まず、僕はNASAの記録フィルムを参考にした。たとえば3段式のロケットは60年代のアポロだよね。でも、この作品世界に合ってるんだ。それにレンズ・フレア。あれはアナログのカメラ特有のものだから、デジタル・カメラのそれとは違う。でも、NASAのフィルムにはあれが写ってるんだよ。

――今回は『2001年宇宙の旅』(68年)の頃のように、ミニチュアの宇宙船をフィルムで撮影してますね。

ノーラン フィルムの質感が大事なんだ。現在のデジタル技術よりも、実際に宇宙に行ったらどのように見えるかを重視した。NASAの宇宙船にIMAXカメラを載せて撮影したドキュメンタリーがあったよね? あれと同じカメラが借りられたんだ。実際に宇宙に行ったカメラだよ。だからレンズ・フレアも本物だ。フィルムだからデジタルと違って、ちょっとザラザラしてたでしょ?

――そう! あれがリアルなんですよ!

ノーラン だろ(笑)。それにデジタルだと完全な黒が表現できないんだ。『2001年宇宙の旅』の宇宙は完全な黒だけど、あれはフィルムじゃないと。

――宇宙空間以外もリアルにこだわってますね。氷の惑星のシーンも実際に、セットやCGではなく、アイスランドの氷河でロケしている。吐く息もデジタルで白くするのではなく、実際に極寒の状況で撮影していますね。

ノーラン 大変な撮影だったよ。トラックに撮影機材を全部積んで、マシュー・マコノヒーマット・デイモンと、スタッフ4人プラス2人だけで車に乗って、人が住める土地から遥かに離れた氷河まで行って、ものすごい寒さの中、三日間合宿して撮った。スタッフや俳優は本当に苛酷だったと思うよ。僕は……けっこう好きだった(笑)。だって必要最低限のものしか、持っていけなかったから、本当に極限状態だった。極限状態のシーンを極限状態で撮るのってリアルじゃないか(笑)。

――聞いてると、本当にCGが嫌いみたいですね。実際にカメラの前でそれが起っているのを撮ろうとする。

ノーラン うん。だって違いがわかるから。CGは嫌いじゃないよ。何でもできるからね。でも、何よりも気になるのは「どうしたら人工的に見えないようになるか」だ。僕が、ビジュアル・エフェクツ・スーパーバザーのポール・J・フランクリンに「どうしたらアニメーションっぽく見えなくなる?」と質問したら「そりゃ、いちばんいいのは実物を撮ることだよ」と言われたからね。CGは操演用のワイヤーなどを後から消すだけにして。今回はロボットも操演師がリアルタイムで動かしている。で、後から操演師を消しただけなんだ。

――『サイレント・ランニング』のロボットみたいでしたね。

ノーラン そうそう! あれだよ。ロボットのセリフも現場で声優がしゃべってるんだ。もちろん指の変形などはCGでやってるけどね。CGについていちばん苦労したのは、CGのコントラストをフィルムのコントラストに合わせることだった。デジタルはフィルムと違って黒味の部分が完全に黒くつぶれないから、どうしてもフィルムとのコントラストの差が出ちゃうんだ。いろいろ実験してみたよ。たとえばCGで作った映像をいったんスクリーンに映写して、それをわざわざフィルムに撮影したりね。とにかく妥協して、最近の他の映画みたいにグリーンバックで安易にデジタル合成したくなかった。

――トウモロコシ畑で野球するところから始まるのは『フィールド・オブ・ドリームス』ですね?

ノーラン 確かに。

――父と子の和解も『フィールド・オブ・ドリームス』だし……。主人公は典型的なアメリカの西部の男ですね。あなたはイギリス人なのに、どうしてこんなにアメリカ的なんですか?

ノーラン そういうものは既にアメリカだけのアイコンではないよ。ハリウッド映画を通じて世界的な記憶になったんだ。イギリス人の僕もアメリカ映画で育ったからアメリカ的な映画を作ってる。ハリウッド映画の王道だったビリー・ワイルダーだってオーストリア出身だったじゃないか。『インターステラー』の主人公は要するにカウボーイだけど、あれは『ライト・スタッフ』(83年)のチャック・イェーガーだよ。宇宙パイロットの夢を断たれたカウボーイが再び宇宙を目指す。

――『インターステラー』はこの世界とは違う世界ですよね。自動車などは現在の自動車ですが、学校の教師はアポロが月に行ったことを信じていない。それどころか宇宙開発を憎んでいる。

ノーラン 今の世界が内向的になっているのを誇張したんだ。ここ数十年、科学技術は確かに進歩した。でも、内側に向かっていく技術ばかりだ。たとえば、スマホさ。でも、かつて科学は外を、宇宙を向いていたんだ。

――それでこの映画にはスマホやインターネットが出てこないんですね!

ノーラン まんまり好きじゃないんでね(笑)。だって、ネットのせいでみんな本を読まなくなったじゃないか。書物は知識の歴史的な大系だ。ネットではそのコンテクストが失われてしまう。

――だから『インターステラー』は本で始まり、本がコミュニケーションの重要な道具になっているんですね。

ノーラン その通りだよ(笑)。スマホ世代に僕の『インセプション』(10年)が人気なのは、あれが心の内側へ内側へと向かっていく話だからだと思う。『インセプション』は内側に向かってばかりじゃダメだ、という話なんだけどね。だから『インターステラー』では外に、宇宙に向かうんだ。

――主人公は「地球に生まれたからって地球で死ななきゃならないわけじゃない」と言いますが、「地球を捨ててもいいじゃないか」という過激なメッセージですね。「地球を大切に」というエコロジーからすると。

ノーラン そう言われることを心配してたけどまだ誰にも指摘されてないね。でも、あのセリフはよかったと思うよ。地球を捨てる以外に選択の余地がない状況だから。僕は人類が自分の選択で宇宙に旅立っていくべきだと思うけど。

――人類が内側にこもっていっては進化もしない。そう、この映画には人類の進化というテーマが隠されてますね……。

ノーラン あー、その話はやめてよ! ネタバレだから!(笑)

――最後に『インセプション』の話を聞きたいんですが、あれは『ラスト・タンゴ・イン・パリ』(72年)と『惑星ソラリス』(72年)の影響を受けてますよね? そういえば『インターステラー』の水の惑星やラストの××××××も『惑星ソラリス』ですよね?

ノーラン ああ、『インセプション』は『ラスト・タンゴ〜』と同じ橋でロケした。タルコフスキーでは『ソラリス』だけでなく『鏡』(75年)にも影響された。とにかく『ソラリス』が好きで、ソダーバーグ版もけっこう好きなんだよね。

――『ラスト・タンゴ〜』も『ソラリス』も妻を失った男の話ですが、あなたの映画は『メメント』以来、『インターステラー』まで、主人公が妻や恋人を失う話ばかりですが、どういう心理的な理由があるんでしょう?

ノーラン それ、いっつもみんなに言われるんだけど(笑)、自分では理由がわかんないんだよ(笑)。それは僕のカミさんに聞いてくれないか?(笑)。