大奥(1)

ホモソーシャリティとホモセクシャリティをごっちゃにするない、と敏感なひとたちから怒られるかもしれないけれど、いいじゃないですか、これ。めちゃくちゃおもしろいです。要するに、伏魔殿に介入する田中真紀子のフィクションバージョンといったところか。(と書くとまた誤解を招くか。「フィクション」というところがポイントなのだが。)山岸凉子日出処の天子』で刀自古に期待させられていた――少なくともわたしは期待していた――改革の案を、こちらの吉宗(女)はきちんと持ち合わせていることだし。日本人好みの判官贔屓のセオリーに則って話はこれから進展していくだろうし。またよしながふみ、そういうの大得意だし。んでもって、(これは個人的に注目)「男の美貌」がもたらす力学がきちんとドラマに組み込まれていることだし。(その点で少し『フラワー・オブ・ライフ』は物足りなかった……とは前にも書いた。)ああ、30代の橋本治にこのマンガを見せたかったな。そしたら、言を尽くして褒めまくっていただろうに。
期待度満点の作品。掲載誌「メロディ」も眺めたい。だが我慢する。次巻が出るのを心して待つ!

『ティファニー』の新訳は?

現在、新訳バージョンの『冷血』トルーマン・カポーティ著、佐々田雅子訳、新潮社刊)を読んでいる最中であります。この訳者は、ユージェニデスの『ミドルセックス』でも、安定した力業を披露していることから、安心して読み進めることが出来ます。まあ、その内容についてはとても「安心」などという境地からはかけ離れているのですが。何せ、一家4人殺人に関する、世界初の「ノンフィクション・ノベル」……。(「ノンフィクション・ノベル」のジャンルはわたしが作ったとはカポーティの弁。)
そうなんだ。昔からこの本読みたかったんですよね。だけれども、新潮文庫に入っているそれは、あまりに字が小さくて、「まあ、そのうち改訂版――字が大きいのが出るだろう」と悠長に構えていたのです。で、出たのが、改訂版どころか、単行本での新訳。こ、これは、買わねば! と値段も何のその、飛びついた次第であります。
にしても、どうして同著者の『ティファニーで朝食を』の新訳は出ないんですかね? う、うー。正直、これまた、現在新潮文庫に入っているそれの文章は、あまり好みでない……。少々、古過ぎる印象があります。誰かやってくれないかな?(ややこしい版権の問題とかあるのかな?)

『ティファニーで朝食を』トリビア

ティファニーで朝食を』の魅力的なヒロイン、ホリー・ゴライトリーは、映画ではオードリー・ヘップバーンが演じたが、トルーマンにいわせればミスキャストで、マリリン・モンローのほうが適役だった。この不思議なタイトルは、トルーマンが実際に聞いたエピソードからとったもの。ニューヨークに不案内なある男が、いちばん豪勢で値の張るレストランで朝食をとろうといわれ、たった一つ聞いたことのある場所の名前を口にした。「では、ティファニーで朝食といこうじゃないか」

99年刊『トルーマン・カポーティ』(ISBN:4105390015)より。

映写機も壊れる


ちょっと古い話題。先の10月1日――映画の日ですね――渋谷ユーロスペースで内田けんじ監督作品『運命じゃない人』を観てまいりました。映画自体はたいへんおもしろく(脚本が見事との評に偽りなし!)、そのこと自体に何の問題もなかったのですが、映写機のメンテナンスの為、予告編はまるまるカット、本編のみの上映だったのです。う、うーん。正直、ユーロスペースで予告編を観るのも大きな娯楽のひとつではあったのだけれどなあ。700円を惜しんでのこの始末。しかもものすごく混んでいたし。(ちなみに、係員の人たちはたいへんよくやってくれていました。)そういえば、数年前の映画の日にも券が安いからという理由で『オータム・イン・ニューヨーク』を鑑賞し――妙にしょっぱい気持ちになったことがあります。映画の日には、魔が憑くか。つーか、今回のは単純に事故の一種なんですがね。