高速道路無料化に反対する陰湿さ

十年ほど前、僕は川崎市ー関西間を自ら車を運転して往復することがよくあった。私事なので経費は全て自腹、勿論自動車も自分の車である。当時感じたのは、どうしてこれほど高速道路料金は高額なのか、という疑問だった。

当時の値段は覚えていないので、現在の高速道路料金を調べてみる。

東名川崎から京都南まで、距離は約446km、普通車の高速道路料金は9900円である。これとは別にガソリン代が必要である。だいたい40リットルのガソリンを消費するので、120円/Lで計算すると4800円である。合計13700円である。

一方、新幹線を使い、東京駅から京都まで行ったとする。すると新幹線のぞみで13720円、ひかりだと少し安くなって13420円である。これは東京駅までと京都駅からの私鉄や地下鉄の料金は含まれないので、実際はもう少し高くなる。

これだけを見ると両者の料金には殆ど差はないと見える。しかし、自動車を運転するということは、自動車の購入代金や、車検や駐車料金、税金や保険などといったその他の料金も発生し、全て自己負担である。一方の新幹線を使った場合は、それら全て含めての料金となる。

しかも、忘れてはならないのは、自ら自動車を運転するということは、運転するという労働が生じるわけである。自分で自分に賃金を払うことはあり得ないので普段気にすることはないが、新幹線の場合だと運転士を含むJRスタッフの賃金も混みである。こう考えると日本のドライバーは新幹線などに比べても高額な高速道路料金を支払わされているのが実感できる。

比較に用いたJRだって、国際的な基準で見るとずば抜けて高額な鉄道である。例えばロンドン=パリをユーロトンネルを用いて駆け抜ける高速特急のユーロスターの通常料金はだいたい1万円弱であり、往復切符を買うと片道8000円程度になる(事前予約、現地購入=日本から買うとバカ高い)。暫く欧州で生活したあと日本に帰ってくると、JRや高速道路料金の胡散臭さに目眩をしそうになる所以である。

参考 ユーロスターHPの料金検索(英語)

欧州という話が出たついでに、イギリス人と話していて高速道路の話になると、彼らが普通に話す内容が日本人にとっては羨望の的となる。イギリスの高速道路は一部を除いて完全に無料である。そしてその一部というのは、高速道路では一路線の一部区間のみである。その他に有料なのはトンネルや橋などが数カ所あるにすぎず、通行料も数ポンド(だいたい1000円以内)である。アメリカもイギリスの場合とほぼ同じで、高速道路は基本無料で、一部有料の部分がある。しかし料金は安い。フランスやイタリアなどは有料だが、値段は日本と比較することが無意味なほど安い。

参考 世界の有料道路の制度と運営

民主党政権公約で高速道路を原則無料にすると約束した。3年以内に無料とする。但し首都高、阪神高速道路は例外とする。

これに対して政府自民党からは、財源の裏打ちがないまま無料化するなど無責任である、という声が出て、新聞やテレビもその声に同調しているかのような一方的な報道ぶりである。

アレ、と思う。みんな高速道路料金が諸外国並みになることに反対なんだ。高速道路料金をなくそう、下げようとする政党が出てきたら、こうまでして叩こうとするんだ。茫然自失となるほど不思議である。小泉政権国債の発行残高を公約違反してまで増やそうとも、文句一つ言わなかった人々が、今や高速道路無料化に財源の裏打ちがないなどと言い出して問題視する生臭さ。腐臭がぷんぷんと臭うではないか。

民主党の公約を読めば分かることなのだが、財源の裏打ちは存在する。AERAで長妻衆議院議員にインタビューしている部分を抜き出してみよう。

自民党のイメージは、従来ある予算の山から少しずつ削ってきて新たな政策に回す、というもの。我々はまず、何もないところにマニフェストで掲げた政策の山を作る。少なくともマニフェストの予算はつくわけです。イメージは『削る』ではなく『組み替える』です

そもそも財源とは何か、というと、これは徴税された税金と国債などの借入金である。財源がない、ということは、原理主義的に言うと、徴税と国債などによる収入がない、ということになるから、ここで一つのまやかしが生ずる。正確に言うなら、財源がないというのではなく、高速道路料金無料化にするための予算の振り分けができないということであろう。つまりは予算の振り分けの問題なのである。

振り分けの問題であれば、逆になぜ自公政権は高速道路無料化に対して予算を振り分けなかったのか、という議論が成り立つ。また、どうして高額な高速道路料金を取る一方、天文学的な予算が必要な地方の殆ど使われることのない道路を延長するのか、天下り団体に税金を注ぎ続けるのか、漫画博物館の建設費や維持費などはホイホイ出そうとするのか。

2007年11月、日経ビジネスオンラインに注目すべき記事が載った。「高速道路無料化が実現しない本当の理由 民営化で状況は逆に悪化した」である。日経ビジネスの会員にならないと全文を読めないのだが、次のブログに転載されていて、今では全文読むことが出来る。

Report 高速道路無料化が実現しない本当の理由 民営化で状況は逆に悪化した

高速道路料金無料化というのは、一般ドライバーの願いであり、トラック流通を請負う運送会社の願いでもある。流通コストが安くなるので、一般小売業にも恩恵が出るだろう。

既にETC装置は作られていないという。高速道路無料化になれば誰も買わないからである。ETC事業には多くの役人が天下っている。また道路公団民営化の際、猪瀬直樹を中心とした委員会が紛糾したことも記憶に新しい。どう考えても猪瀬直樹は政府側に寝返ったわけだが、そのあたりの膿も無料化で表に出ることになるのかも知れない。

高速道路無料化に反対し、その財源についてとやかく言う連中には、高速道路料金に纏わる数々の疑惑をどう解決するのか答えてもらいたい。そしてそれは必ず自民党が牛耳ってきた道路利権を焙り出す結果となるだろう。焙り出されたものを見た日本国民が、どう考えるのかと想像すると、次回衆議院議員選挙で下野した自公は二度と復活のチャンスなどなくなるだろうし、それでいいのだと思う。