2008-12-30
螺鈿迷宮
「チーム・バチスタの栄光」「ナイチンゲールの沈黙」に続く3作目だが、原型は「ナイチンゲールの沈黙」の前に出来上がっていて、実質2作目と言う。死亡時医学検索や終末医療がテーマになっている。著者はもともとこうした問題を訴え、社会的関心を喚起するためにこれらのミステリーを書いたと言っているそうだから、まさにこの作品が著者が最も書きたかったテーマだったかもしれない。
「死因不明社会」を読んでからこの作品を読んだこともよかった。死体検索を巡る基本的な問題意識やAi等の知識を持って読むと、いっそうこの小説で言わんとすることがよく理解できる。
立ち上がりは、ウソ臭い賭け麻雀の場面など大仰で無理な場面設定で、「何だこれ?」感もあったが、碧翠院桜宮病院が出てきてからは、快調なピッチで物語が展開し始め、最後は、かたつむりの炎上シーンまで一気呵成に書き上げる。そこに、葵、すみれ、小百合、華緒、日菜、千花、杏子といった花にまつわる女性たちや西遊記を模した三婆など個性的なキャラクターが取り巻き、最後は炎とともに燃えていく鮮やかな色彩感。3作品の中では最もわかりやすく楽しめる最高作品ではないか。
著者の頭の中には、東城大と桜宮をめぐるもっと壮大な構想が出来上がっているのだろう。生き延びた小百合が次はどういう形で作品に現れるのか、また楽しみがひとつ増えた。
- 作者: 海堂尊
- 出版社/メーカー: 角川グループパブリッシング
- 発売日: 2008/11/22
- メディア: 文庫
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●じんめりした病室。淀んだ空気。黴の匂い。僕はあれが屍臭だと思っていた。だがここに来て、自分の思い違いを知った。どうやら「死」とは無色透明、無味無臭なものらしい。(上P59)
●死者の言葉に耳を傾けないと、医療は傲慢になる(上P119)
●患者が亡くなった時に検索せずして何が医学だ。医学は、出自の悪いクセに、今や貴婦人のように振る舞っている。・・・いいか、医学生、医学とは、屍肉を喰らって行き永らえてきたクソッタレの学問だ。(下P56)
●僕が修辞に満ちた文章を綴り、他人の言葉を引用した理由は、単に臆病だからだ。僕は、ウォッカを倍々希釈するみたいにして本質を薄め続けた。医学から背を向けて態度保留の留年を繰り返した。(下P221)