あとから気づくこと

くもり、のち晴れ。
五時に起きて、机へ。
冷たく、強い風が吹き抜ける。冬の忘れ物のような風だ。
枝垂れ桜を残して、ほとんどの桜が散ってしまった。道のきわに吹き寄せられた花びらが渦を巻いている。
女房が実家へ帰る。
義姉とのこと、腹なんか割らなくたっていいんだからね、と伝える。
僕になにを言われようが、もともとそんなつもりはなかったようで。
ちゃんとわかっていらっしゃる。
藤沢周平が本棚から消えてしまうと、折に触れて悔やむことが多くなった。三四十冊から数冊残しておくくらいなら、ときれいさっぱり処分してしまった。その時は、後腐れなくて、気分がよかった。
あれからじき二年。本屋で「蝉しぐれ」や「橋ものがたり」を手に取って、頁を繰っている。未練たらたらだ。
姉妹とはいえ、腹なんか割るのは最後の最後にしたいし、本をごっそり手放すのは威勢がいいだけ。
朝刊の川柳にこんなのが――

 人生を知らずに生きて九十年