ジョン・コリア『炎のなかの絵』

炎のなかの絵 (異色作家短篇集)

炎のなかの絵 (異色作家短篇集)


SF研に入会した当時、紹介文に「ジョンコリアを読みたいです」と書いた気がする。多分そのころ、江戸川乱歩のジョンコリアを紹介する文章を読んで、その勢いでのことだと思う。こうもコリアに興味津々っといった風に書いていながら、コリアが収録されているアンソロジーに手をつけることもなくだんだんと日々は過ぎていき、当時の思い入れも色あせた今日、唐突に読んだわけです。
いわゆるショート・ショートが20編。文章もストーリーも、なんだかとても乾いている。クール、とも言えるかもしれない。
多くの短編に夫婦間の毒殺と手違いというテーマが見られる。これはなんなのだろう。ずいぶんと顕著だから、きっと研究本があるに違いない。
そんななかで、夫婦間の毒殺とは関係ない話だけれど「少女」という短編を一番にあげたい。ある田舎町の夫婦と小さな一人娘が住む家にお客が訪ねてくる。娘は客のことをとても気に入っていて、客の膝のうえに乗ってじゃれてみたりせっせと話しかけたり、妙になついている。夫と妻は「お客さんがお困りだよ。やめなさい」とたしなめるが、客は「いえいえ、私は子供が本当に大好きなんですよ」と愛想がいい。娘も、言う。
「ダディー。あたし、レンヴィルさんが(客のこと)わたしを好きなのを知っているのよ。はじめてお客様に来たその日に、私の耳に小さな声でささやいたんですもの――君のことを食べちまいたいって――」。
娘よりお客への失礼を心配する夫婦を置いて、娘はレンヴィルさんを見送りに、森へと続く一本道を一緒に歩いていった。



(追記)
一昨日の日記の予定表にはびびったけれど、気にせず次はロアルド・ダールの『キス・キス』を読むよ。開高健の翻訳は初めてでドキドキ。


(久)