隕石衝突

 ロシアの隕石爆発ニュースが世界を駆けめぐっている。死者こそ出ていないが、1000人を超える重軽傷者と多数の家屋被害が報告され、当該地域が厳寒の地であることを思うと気の毒という言葉では言い尽くせぬ惨状だ。ドライブレコーダーや監視カメラの映像を見ても「青天の霹靂」なんてものじゃないことが伝わってくる。

 そもそも隕石とは宇宙空間から大気圏を突き抜け、燃え尽きることなく落下した物質の総称だ。
実のところ大気圏に飛び込んでくる天体は0.1mm以下の塵サイズから直径10kmを超える小惑星に至るまで実に多彩で、6550万年前にユカタン半島に落下し白亜紀末の大量絶滅のきっかけとなったとされる小惑星の直径は10-15キロと推定されている*1

 問題はその頻度だが、月面にある数多のクレーター痕を見れば地球でもおびただしい衝突が発生したであろうことは容易に想像できる。とは言え月面クレーターの大部分は38億年以前に生成されたもので、天文学的な時間の経過で考えるならば地球や月への大規模な衝突は十数億年前までにピークを過ぎている。直径1000メートル越えの天体衝突が起こる可能性はかなり低いものだし、過去数万年に遡る現世人類史上でもそれは確認されていないはずだ。*2

 で、今回ウラルの上空高度2万5千メートルで爆発した火球は今のところ直径17メートル前後、質量1万トンクラスの小天体と推定されているようだ。被害のほとんどはTNT500キロトン(広島型原爆の30倍)と推定される空中爆発によって発生したと考えられるが、フライパスによる衝撃波も相当なものだったのではないか。超音速軍用機が音速を突破した際に発生する衝撃波でさえ窓ガラスが割れるほどなのだし、NASAの発表では大気圏突入時の速度は時速6万5千キロと推定している。大気による減速が相当あったはずだが、それでさえ人工物ではあり得ないほどの高速だったことは確かだろう。ちなみに標準大気での音速は時速約1200キロなので、単純換算すると突入時はマッハ50を超えていたことになる。

 隕石爆発で想起されるのは1908年にシベリアのツングースカで起こった大爆発。分かっている限りでも半径30キロの森林が焼失し、2000平方キロ以上の範囲で樹木がなぎ倒されたという空前の爆発だが、諸説ある中で有力なのが直径60-100メートル質量10万トンクラスの小天体(彗星または小惑星)が高度6-8キロで爆発したとする説。今回の事例よりは規模が大きかったと推定されている。

 2/16未明には昨年2/23に発見され「2012DA14」と名付けられた小惑星(直径46メートル質量13万トン)が地球から27,700キロを通過した。爆発規模は速度や質量より運動エネルギーで決まるので単純には比較できないが、仮にこのクラスの小惑星が衝突するとツングースカ並の規模が予想される。空中で爆発しきらずに地表に届いた場合はさらなる規模の災害も想像できる。なにしろ1908年のツングースカはほとんど無人のタイガだったが、21世紀の人口密集地で同じ爆発が起こればその被害は未曾有の規模となるだろうことは容易に想像できる。

 突入20時間前に発見された僅か2〜5メートル、推定質量8トンの「2008CT3」の事例*3もあるが、現状のスペースガード*4では「2012DA14」クラスの天体が事前に発見できる限界サイズであるらしい。さらに小型の天体をセンシングする技術を開発する必要があることは言うまでもないのだが、見つけた後どうするかこそが生存への最重要テーマだろう。

 さて、人心を煽ってナンボのC級メディアやエセ予言者が、なにやらまことしやかに扇動している。
だがそもそも隕石の落下自体は意外な頻度で発生しているので、来年日本に隕石が落ちてくるという"予言"はサイズや隕石の回収にさえ言及しなければまず的中するはずだ。さらに大気で燃え尽きる宇宙塵の突入頻度たるや一日で億を超え兆に達するレベル。地球に飛び込んで来る天体のほとんどは流れ星として目に映れば御の字というほどのものであることを理解しておきたい。トリノスケール*5によれば局所的大被害が起こりえる衝突は数百年ないし数千年に一度、全地球的被害の起こる衝突は1万〜10万年に一度の発生確率だとか。まず根拠のない流言飛語に惑わされないことが肝心だ。
 

*1:インドのムンバイ沖にあるシバ・クレーターを形成した天体の衝突が白亜紀大絶滅の原因とする説も有力

*2:シュメール人の残した粘土板によれば紀元前3123年に小惑星が地球に突入し大気中で爆発。旧約聖書の創世記に名高いソドムとゴモラの滅亡を引き起こしたとする研究があり、それによる小惑星の推定サイズは直径1キロ超とされている。

*3:地球と衝突する前に発見された初めての天体で、スーダンにおいて208個、合計約4キロの隕石破片が回収されている

*4:地球に衝突する恐れのある天体やスペースデブリ(人為的に打ち上げ寿命の尽きた衛星などのゴミ)を観測し、かつまた、追跡を行うこと

*5:1996年イタリアのトリノで開催された国際天文連盟の会議で採択された、地球近傍天体が地球に衝突する確率、及び衝突した際の予測被害状況を表す尺度