眠る梅、もしくは淡い崖。

2009-05-31

歴史学事典の中の南京事件

とあるコメント欄でのやり取り。

Apeman

>正直、はてなダイアラーとwikipediaの編集合戦のない詳細なページとでは、wikipediaの方が権威があると思うので


権威主義者なら歴史学事典の類いでも鵜呑みにしておけばいいのに。


a-kubota
>>Apemanさん

だって歴史学事典高いし。立ち読みするにも分厚い。wikipediaはタダで比較的手軽なのが大きいですね。今回の記事もその手軽さがなければ書いてなかったでしょう。

もちろんwikipediaが歴史学事典より信用ならないという意見は当然なのですが、じゃあ歴史学事典を元に編集すれば多くの人が幸せになれると思いますよ。マジで。

なぜ熱意のある人が紙の事典の電子化をしようとしないのか本当に不思議です。私にはあなた方ほどの熱意がない以上、あなた方にそれを期待するものです。


梅崖

>もちろんwikipediaが歴史学事典より信用ならないという意見は当然なのですが、じゃあ歴史学事典を元に編集すれば多くの人が幸せになれると思いますよ。マジで。


いろんな出版社が歴史学事典出してると思うんですが、事典で南京事件について書いてる人がいわゆる「史実派」の方々だったり、「史実派」の仕事の要約が書いてあったりするわけです。当たり前ですが、「史実派」の南京事件研究が学問的に妥当だと歴史学の世界で認識されているために(だから否定論との併記なんて、ようするに「歴史学」と「トンデモ」を両論併記なんて、なんだかなーと多くの方々が思ってるわけです)。

平凡社『日本史大事典 第5巻』「南京大虐殺」(執筆者・江口圭一) 内容は「史実派」の要約かと。

弘文堂『歴史学事典 第7巻』「南京事件」(執筆者・笠原十九司)内容は笠原氏自身の研究の要約です。



「梅崖」は私です。せっかくなので紹介した歴史学事典の記述を転載します。というか、今手元にあるのは図書館で借りた笠原十九司氏の『南京事件と日本人』(柏書房 2002年)で、この本の中に上の歴史学事典の記述がそのまま載ってますので、それを。(それじゃほんとにこれらの事典に書いてあることかどうか信用できないなんて言う人はいないですよね。)



平凡社 『日本史大事典 第5巻』


「南京大虐殺」(執筆者・江口圭一)


日中戦争で南京占領に際し日本軍によって中国軍民に加えられた大規模な残虐行為。一九三七年(昭和十二)八月、日中戦争は華北から華中に拡大、日本軍は上海で中国軍の激しい抗戦に直面し、大きな損害を被った。十一月上旬ようやく中国軍を退却させると、中支那方面軍(軍司令官松井石根大将)は、指揮下の上海派遣軍(軍司令官朝香宮鳩彦王中将)と第一〇軍(軍司令官柳川平助中将)を、与えられていた任務を逸脱して国民政府の首都南京に向かって急進撃させた。上海戦で疲労し、凱旋の期待を裏切られた日本軍兵士は自暴自棄となり、補給がともなわず現地徴発に頼ったこと、中国侮蔑感情や戦友の仇を討つという郷党意識にとらわれていたことなども加わって、南京への進撃途上ですでに掠奪・強姦・虐殺・放火などの非行が常態化する状況となった。十二月十三日、南京占領に際しては、十七日の入場式に備え、徹底的な掃討を行い、投降兵・捕虜を長江沿岸などで大量に処刑し、多数の一般市民をその巻き添えにし、略奪・強姦・放火を重ねた。さらに十二月二十二日、佐々木到一少将が城内粛清委員長に就任、中国兵の狩出しと処刑を続け、三十八年二月初めに及んだ。犠牲者数については中国側の公式見解は三十万人とするが、戦闘行為による戦死者を除き、上海から南京へ進撃途中から三十八年二月初めまでの期間をとれば、十数万人から二〇万人前後に達するとみられる。この事件は「シカゴ・デイリー・ニューズ」(一九三七年十二月十五日付)、「ニューヨーク・タイムズ」(一九三七年十二月十八日付)などによって報道され、国際的非難を浴びたが、日本では厳重な報道管制を受け、日本国民は敗戦後の東京裁判によってようやくその事実を知らされた。同判決の結果、松井大将が大虐殺の責任者として死刑に処され、南京での裁判で第六師団長であった谷寿夫中将らが処刑された。





弘文堂『歴史学事典 第7巻』


「南京事件」(執筆者・笠原十九司)


日中戦争初期、当時の中国の首都南京を日本軍が攻略・占領した際に中国軍民にたいしておこなった虐殺、強姦、掠奪、放火、拉致、連行などの戦時国際法と国際人道法に反した大規模な残虐行為の総体。南京大虐殺事件、略称として南京事件という。単に南京大虐殺ともいう。


一九三七年(昭和十二)年十二月一日の大本営の下令によって正式に開始された南京攻略戦は、もともと参謀本部の作戦計画にはなかった。激戦三ヶ月におよび、甚大な損害を出した上海派遣軍を独断専行で南京に進撃させてのは、中支那方面軍司令官の松井石根大将と、参謀本部から出向して同軍の参謀副長となった拡大派の武藤章大佐らであった。上海派遣軍は、疲弊して軍紀も弛緩していたうえに、休養も与えられず、補給体制も不十分なままに、難行軍を強いられたため、中国軍民に対するむきだしの敵愾心と破壊欲を増長させ、虐殺、強姦、掠奪、放火などの残虐行為を重ねながら南京に進撃していった。


十二月四日前後に中支那方面軍は、中国軍の南京防衛陣地(南京特別市行政区に重なる)に突入、南京の県城・農村地域から日本軍の残虐行為は開始された。南京城区には四〇万〜五〇万人(南京攻略戦以前の人口は一〇〇万人以上)、近郊の六つの県には一〇〇万人前後(同じく一五〇万人以上)の市民が残留していたが、日本軍はこれらの膨大な中国民衆を巻き込んで、南京防衛軍に対する徹底した包囲殲滅(皆殺し)作戦を実施した。同作戦は、戦時国際法に反して、自ら武装解除した投降兵・敗残兵あるいは武装解除された捕虜までもすべて殺害することになった。一般民衆も敵対行動、不審行動をする「敵国民」と判断された場合は殺害された。日本軍は、十二月十三日南京城を占領した後、十七日の南京入城式に備え、徹底した残敵掃蕩戦を展開、長江沿岸などで捕虜および投降兵の大量処刑を行なった。武器を捨て、軍服を脱ぎ捨てても、中国兵であった者、中国兵と思われた者はすべて殺害したので、多くの市民、難民が巻き添えにされて犠牲になった。さらに日本軍には戦勝の「慰労」として一〇日間前後の「休養」が与えられ、総勢七万人以上の日本軍が南京城内に進駐、勝利者、征服者の「特権」として、強姦、掠奪、暴行、殺戮、放火などの不法行為を行ない、南京事件は頂点に達した。その後、第十六師団が駐屯して軍事占領を続け、三十八年三月二十八日に中華民国維新政府が成立するまで、日本軍の残虐行為は続いた。


極東国際軍事裁判(東京裁判)では、南京事件による中国軍民の死者を二十万以上とし、不作為の責任を問われた松井石根が死刑となった。中国国民政府国防部戦犯軍事法廷(南京軍事裁判)では、犠牲者三十万以上とし、四人の将官が死刑となった。一九七〇年代から八〇年代末にわたり、歴史事実か「虚構」「まぼろし」かをめぐっていわゆる「南京大虐殺論争」が展開され、家永教科書裁判の争点にもなったが、いずれも否定論が敗れた。犠牲者数の確定は困難であるが、現段階の日本側の研究では、十数万から二〇万人の中国軍民が犠牲になったと推定する説が有力である。







私としては、一応転載しましたけれど、a-kubotaさんにはこれで満足してもらえるとしても、D_Amonさん(http://d.hatena.ne.jp/D_Amon/20090528/p1 http://d.hatena.ne.jp/D_Amon/20090530/p1)たちに反発する、新書一冊読む気ないしよく知らないけど「どっちもどっち」的なことをブックマークコメント等でいちいち公言しないといられない方々や、「よく知らないからどっちだかわからないしあったかなかったについて中立または判断保留」的なことを表明する方々が満足するとはまったく思えないのですよね。(一応これも「議論の捏造」による「足止め効果」なんでしょうかね。)


だって、結局のところ、「南京事件FAQ」をはじめ、Apeman氏やゆう氏(や今回のD_Amon氏)等がいままでやってきたことは、ようするにいわゆる「史実派」の研究成果を地道にネット上で紹介することでしょうから。歴史学事典から書きうつすよりはるかに細かくいろいろ紹介されてきたわけで、そういうものに満足できない方々がこのような事典の記述を読んでも・・・というかんじです。(こういうエントリーもありましたが→南京事件否定論者が歴史学者による入門書・研究を読まなくていいと考える論理を忖度する




a-kubota
>>Apemanさん


だって歴史学事典高いし。立ち読みするにも分厚い。wikipediaはタダで比較的手軽なのが大きいですね。今回の記事もその手軽さがなければ書いてなかったでしょう。


もちろんwikipediaが歴史学事典より信用ならないという意見は当然なのですが、じゃあ歴史学事典を元に編集すれば多くの人が幸せになれると思いますよ。マジで。


なぜ熱意のある人が紙の事典の電子化をしようとしないのか本当に不思議です。私にはあなた方ほどの熱意がない以上、あなた方にそれを期待するものです。



そういうわけで、「熱意のある人」たちが「事典の電子化をしようとしない」のだと私は思います(どなたかはしてるかもしれませんがさほど重きをおいてはいないのではと)。


でもたしかに、普通に専門家を信頼する人が簡単に読めるように、「事典の電子化」もいいアイディアかもしれませんね。下の「南京事件 初歩の初歩」でも長いかもしれませんし。ネット上で南京事件の資料等をアップしてきたみなさま、いろいろな「事典の電子化」どうでしょう?(他人まかせすいません)




南京事件FAQ
http://wiki.livedoor.jp/nankingfaq/d/FrontPage


南京事件 初歩の初歩
http://www.geocities.jp/yu77799/nankin/shoho.html


南京事件−日中戦争 小さな資料集
http://www.geocities.jp/yu77799/


南京事件資料集
http://members.at.infoseek.co.jp/NankingMassacre/


南京事件資料館
http://nagoya.cool.ne.jp/whitecray/




ついでに、むかし(一年半前)あった議論のまとめも。そのときの議論も、今回されてる議論と構図というか問題意識はほとんど同じ。エントリ数十本。


南京事件議論まとめ
http://d.hatena.ne.jp/sirouto2/20071228/p2

a-kubotaa-kubota 2009/06/01 20:54 内容を参考にして追記しました。
文章を5W2Hに要約するって、圧倒的に見やすくなるけど、手間のことをいうと大変ですな。