汐の声

「天人唐草」に続いて読む。表題作は猛烈に「怖い」というので有名なのは知っていたが、まさか心霊系のものがそれ程までに恐ろしいとは思えず、気軽に夜読み始めるが、とんでもない失敗であった。
兎に角嫌な感じを出すのが上手いのと、作者得意の腑抜け主人公への厳しい態度の結果として、猛烈に後味が悪くかつ身につまされる感(現実味こそないにもかかわらず)が醸しだされ、滅茶苦茶気味が悪い。
もっとも、一番怖かったのは非現実系ではなく「蛭子」。これは本当に恐ろしい。
後はやはり「鬼」の悲惨さか。最後はそれまでと比べるとやや単純に過ぎる気もするが、他の作品と合わせると作者自身の魂の変遷を見るようで大変良い。
唯一の恐ろしい系でない、「笛吹き童子」も実によく、本書はいずれ劣らぬ傑作揃いで、(恐ろしい系とはいえ)おすすめ。

汐の声 (山岸凉子スペシャルセレクション 2)

汐の声 (山岸凉子スペシャルセレクション 2)

働くことの哲学

誰しも避けては通れぬ「働くこと」に関しての問いを取り上げた本。題材とされる問いは最近かまびすしい、「仕事の終焉」や、仕事を通じた自己実現についてどのように考えるべきか、といった興味を惹かれるものであり、かつ語り口はきわめて平易で分かりやすい。
読み進めるにつれて、仕事というものを通じての意味の獲得の我々にとっての重要性が語られるとともに、取り上げられる問いの背景にあるものとして、最近の「消費」の暴走とアイデンティティへの飢餓感が仕事の意味を変容させる有様が描き出されていく。
働くことを経験する前に是非読みたかった本。

働くことの哲学

働くことの哲学