お宅訪問

 前回のエントリーから一月以上あいだが開いてしまった。この間、3月8日に事務所を閉鎖するというけっこう大きな転機があったので、そのための準備やら、その後の荷物の整理やらで、ゆっくり音楽を聴いたり本を読んだりするゆとりがなかった。オーディオに気を向けることなど何をかいわんや…というのは半分口実。とはいえ、たんなる仕事のめぐりの問題だが、事務所を閉めてからのほうが仕事に追われ、生活すべてを見直すという目的そのものに対峙できないのは事実である。
 
 そんななかでも忙中閑ありで、先週末(3月31日)、リンクさせていただいているkurokawaさんのお宅にお邪魔してきた。奇しくも東京地方に桜の満開が報道された翌日で、それまで引きこもり状態で仕事に集中していたので、電車内から見る桜がやけに鮮やかに見えた。
 というわけで、本題の出張オーディオ・レポート。といっても、ふだんいろいろな機材の音を聴いているわけではないし、人様のオーディオ・システムの音をちゃんと聴くのは今回もふくめて生まれて3度目の経験だから、頼りになるのは自分のところのシステムや、そこから演繹されたイメージでしかないわけで、すこぶるおぼつかないのは言わずもがなである。しかし、kurokawaさんのオーディオ暦は俺と似たり寄ったりだし、音やにたいする感性の拠りどころも比較的近い気がするので、聴く音楽のジャンルの重なりは大きくないとはいえ、音に何を聴くかという部分では共感するところが多い。
 試聴してきたシステムは、Maranz SA-17SI(SACD)+Cord DAC64MK2(DAC)+Primare 121(Int.AMP)+KEF iQ7(SP)。部屋はマンションの一室のオーディオ専用の畳敷き6畳で、足元は大き目のコーリアン・ボードに5cm厚ほどの白大理石を乗せて固めてある。
 こちらで持参した視聴用のCDは以下のとおり。①武満徹《雨の樹》(ニュー・ミュージック・コンサーツ・アンサンブル[NAXOS])、②ツェンダー:シューベルト《冬の旅》にもとづく創造的解釈の試み〜「おやすみ」(ハンス・ツェンダー指揮アンサンブル・モデルン[BMG])、③マーラー交響曲第2番《復活》〜第5楽章(ミヒャエル・ギーレン指揮南西ドイツ放送交響楽団[Hänsler])、④シューベルト弦楽四重奏曲第14番《死と乙女》〜第1楽章(カルミナSQ[DENON])、⑤オレゴン:WinterLight〜Tide Pool[Vanguard]
 もちろん、これ以外にもkurokawaさんの選曲も加わって、かなり多彩なジャンルをカヴァーした。
 全体の傾向としては低音から高音までバランス感覚に優れたピュアな音という印象。音色的にも明るすぎず適度な湿り気を帯びた響きで、透明感もある。KEFのスピーカを聴くのは初めてで、音の傾向の多くの部分はこのスピーカのもつ特性に由来するものだとおもうが、ほかの機器の特徴をストレートに反映するレスポンスの高さもあって、たとえば、CordのDACを通さずにSACDの音をそのまま聴いたときの変化は一目瞭然、響きにふくらみと潤いを付加しているのがCordのDACであることがよくわかる。とくにこのスピーカは人の声の再現性がいい。ヴォーカルも合唱もプレゼンスが確かで定位もいいし子音の肌理もリアリティがある。
 一方で、セッティングも含めて空間再現性にはだいぶ苦心されているとおもう。コンクリート壁に合板を打ち付けた反響の大きい壁に畳敷きの部屋ということで、オーディオ雑誌を読まない俺の勝手な考えだけど、壁方向の響きと床方向の響きがアンバランスで、それが空間的なプレゼンスという点ではかなり不利に作用していると思う。苦心の跡は音にもたしかに現われていて、上下左右の音の定位は過不足なく決まっているし、かぎられた空間内で奥行き側の広がりにも気を配られていることがわかる。しかし、気を配られていることが明確だからこそ、逆にキャンバスの枠内に音が収まってしまっているという印象もある。シロフォンヴィブラフォンだけで演奏される①のCDは意地悪CDで、その振幅の大きい音は空間再現性、とくに定在波についてはごまかしが効かない。kurokawaさんのところの音も、解像度や楽器のプレゼンスには問題はないとおもうのだけれど、かなり音が飽和状態になって、それがスピーカの外にひろがる空間的な響きを犠牲にしてるようにおもう。ためしに、失礼して部屋の境の扉を開けるとそちら方向の飽和はかなり解消されて、すっきりとした空間が生まれた。でも、これだと左右のバランスが悪くなるので難しいところ。
 定在波については、物理的な部屋の条件に依存していまうから、あまり書いてもしょうがないのだけど、せっかくクリアでバランスのいい再生音なので、ちょっともったいないとおもってしまったのであえて書かせていただいた。じゃ、どうすればいいかなんて俺のようなトーシロには具体的な知恵などないのであるが…。
 kurokawaさんの目指す音の方向は明確だし、不利な条件の中で虻蜂取らずの小手先の対処にとらわれず、焦点を定めていらっしゃる音なので、聴いていて気持ちがよかった。

 じつはこの記事の内容はずいぶん前に書いていたのだけど、下書き保存に失敗して全部消してしまった(^^; 仕事も詰まっていたこともあって、きょうになって(4月16日)再度書きました。
 この間、kurokawaさんはSACDをESOTERICのSA-60(!)に換えられているので、音の密度がさらにアップしているのではないかと予想している。

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 で、自分のところのことも、そろそろ書かなければとおもってはいるので、とりあえず予告。
・ELECTROCOMPANIET: AW100DMB
・Counterpoint SA-5.1=upgradeチューン
 この2つは近日中にちゃんと書かないと(^^;