神風の風景 第一章 敷島の大和心

二日後、鹿屋基地に種子島から連絡が入った。
「敵艦載機の編隊、佐多岬より鹿屋に向かう」
すぐに発進命令が出され、Z旗がスルスルと上がる。吉田は医務室からZ旗を見ていた。しかしその時には山の向こうにグラマンF6FとコルセアF4Uが来ていた。離陸直後の戦闘機には空戦能力がない。
指揮所では源田司令が「発進中止!避退せよ!」と必死の指令を出していた。搭乗員達は飛行機から飛び降り、退避する。しかしすでに二機が離陸を始めていた。後ろからグラマンがぴたりと追尾する。
「あぶない」と吉田が思うまもなく菅野が病室から飛び出してきた。
「杉田!不時着しろ!すべりこめ!」
しかしその声は届くはずもなかった。後ろからグラマンの銃撃を受け、滑走路の外れに杉田機は消えた。続いて発進していた宮沢豊美一等飛行兵曹の機も落ちていった。
二人の遺体を収容したのは鹿屋基地の庶務関係を担当していた第八根拠地隊であった。宮崎勇飛行兵曹長が遺体の確認に行くと二人の遺体は壕に安置されていた。
「もっと何とかなりませんか。この人たちは我々の隊にとって大事な人なんだ」
結局遺体の引き取りに志賀淑雄飛行長が来て、二人の遺体は343空に運ばれてきた。
病室に運ばれてきた二人の遺体と対面した菅野の憔悴ぶりは激しかった。特に杉田は菅野の二番機として菅野をずっと護衛してきただけに、菅野の衝撃も大きかった。
「判断が遅れてしまったために杉田を死なせてしまった。申し訳ない」
源田司令は菅野に頭を下げた。
「代わりに優秀なパイロットを補充する」
吉田は何か違和感を感じていた。と言っても源田司令の言葉にではない。胸騒ぎといってもよかった。杉田が生前吉田に語った言葉が耳に残ったのである。
「山本長官に申し訳ない」
杉田がしばしば口にしていたらしいこの言葉に吉田は今、はっきり何かを感じていた。
続く