月の扉/石持浅海
- 作者: 石持浅海
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2003/08/21
- メディア: 新書
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最初から最後まで整然とした、極めてスタイリッシュな本格ミステリである。仄暗い香気を漂わせつつ、物語と論理は飽くまでもまっすぐ進む。全編均一のテンポ・緊張感がもたらす読み心地は上々であり、本格ネタも納得。なるほどこれは評判にもなろう、という出来栄えだ。
一部に人物描写の薄さを指摘する向きがあり、それは確かにその通りなのだが、人物を深く抉っていたら、本作随一の長所である整然とした進行は成立しない。そもそも『月の扉』は、全てを一々文章化するタイプの小説ではなく、かと言って行間に滲ませるわけでもなく、淡々と話を進行することを優先する。唯一の調味料は先述の「香気」であり、これは作品のベクトルからして当然の選択だ。従ってこれ以上望むのは、贅沢やないものねだりを通り越していて賛成できない。無論、『月の扉』はそんなに分厚くない、という事情もある。大長編でこれだったら、私も不快感を覚えたかも知れぬ。
ただ、永く記憶に残りそうにないのも事実。スマート過ぎる。健忘症の脳髄には、痛し痒し……。