不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

神狩り/山田正紀

神狩り (ハヤカワ文庫 JA (88))

神狩り (ハヤカワ文庫 JA (88))

 山田正紀は基本的に、《凄い》ことを表現する能力がなく、《凄いと思った》としか書けない作家である。よって、彼は非常にしばしば、自分が描いているつもりの事柄(テーマとかヴィジョンとか)に一人で興奮しているとしか見えないことがある。『ミステリ・オペラ』等はとても無様であった。B級作家に留まり続ける所以である。ただし、この欠点は、物語の全てをある登場人物のフィルターにかける(=一人称を採用する)ことで、相当緩和される。一人称小説とは、とどのつまり、主人公の主観を描く小説だからである。

 山田正紀のデビュー作である『神狩り』も、神に挑むというSF上の大テーマは、例によって消化不良。しかし、必死に神に挑む一人称の主人公が苦悩する様は、センチメンタリズム爆裂という感じで、溢れんばかりの悲壮感共々、実に印象的である。傑作と言って構わないと思われる。
 ……ただし、この文庫版後書きは「ハァ?」であった。団塊親爺の鬱陶しい自分語り。最悪ですな。