落下する緑/田中啓文
- 作者: 田中啓文
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2005/11/29
- メディア: 単行本
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各編の内容だが、これが非常に素晴らしい。切れ味の鋭いネタを、絶妙な語りと構成、人物造形で面白く料理した作品揃いであり、各編とも水準が全くぶれていないのは凄い。安心して読める高品質のミステリ短編集であり、駄洒落もない(先述のように、一瞬影は落とす)ことから、広くお勧めできる一冊となっている。ミステリ・ファンを驚倒せしめる大作ではないが、誰もが心から楽しめるタイプの作品といえよう。ゆえに傑作であると考える。
以下は余談。作者のジャズに対する愛情が行間から強く立ち昇ってくるのだが、ジャンルこそ違え同じく音楽を愛好する者として、ここには強くシンパシーを感じる。何の根拠もない憶測だが、恐らくこの人は小説よりも音楽の方が好きなのではないか。本当に素晴らしい音楽体験がある人特有の、夢見心地で幸福な気分が、特に幕間の音盤紹介欄に色濃く出ている。小説の中のジャズ演奏のシーンもまた、《音楽する》ことへの喜びに満ちており、まさに、音楽を本当に愛していなければ書けないものとなっている。まただからこそ、そのような音楽の前に佇んだときに、駄洒落を(一応)封印するほどに真面目になれるのだろう。この封印、鮎川哲也への敬意のみによっているのではないような気がしてならない。
あと、一部で不評な装丁だが、私は素晴らしいと思う。音楽の猥雑な感じを出したかったのだろうから、これでいいんです。
ステーションの奥の奥/山口雅也
- 作者: 山口雅也
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2006/11/09
- メディア: 単行本
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主人公と叔父の交流にも、心温まる何か(それは、大きなお友達にも独特の感慨をもたらすだろう)がある。しかし、物語はある場面から一気にバカミスと化してゆく。アレをもっと先に提示し、ルールも(俗説に委ねず)作品内でしっかり提示しておけば、更に完成度は高くなったはずだが……。とはいえ、なかなか楽しめる一編に仕上がっていることは間違いない。この叢書が好きな人には、遠慮なくお勧めできる作品である。