ダイス運こそ力、『アースドーン』!

 今回は『アースドーン』の紹介。今年、アメリカで4版が制作中の根強い人気を持つファンタジーTRPG。また、自分のサークルで息長く遊ばれ続けている現役システムでもあります。


 『アースドーン』の初版が発売されたのは1993年。出版元は『シャドウラン』でヒットを飛ばしたFASA社。日本では1997年からメディアワークスから翻訳版が展開され、オリジナル小説やサプリメントをアレンジしてまとめたものなども発売されました。



 FASA社の倒産によって一度展開が打ち切られるのですが、『シャドウラン』同様に別の会社が新版を発売するなどして息長く続いています。その魅力の一つとして世界設定があります。


 『アースドーン』は『シャドウラン』と同じくドワーフ、エルフ、オークなどが存在する世界観です。しかし、アステカっぽい雰囲気などスタンダードな魔法世界から外しています。そして、一番ユニークなのは魔法関連の設定。この世界の魔法はシャドウランでお馴染みのアストラル界(霊界)を介して行われます。これらの設定が実にSF的でエッジがきいたものでした。これらの設定は、アストラル界をウェブととらえると理解しやすいです。つまり、20年前以上の前の作られた世界設定が現代の方が呑みこみやすいのですね。それだけ斬新的だったのです(逆に言うと時代を先取りしすぎてたのかも?)。


 具体例を見てみましょう。本作のタイトル『アースドーン』はEarth(大地、地球)のDawn(夜明け)の意味で、文明崩壊した社会からの復興の物語です。文明崩壊の原因はホラーと呼ばれる理解不能な邪悪な存在がアストラル界にやってきたことです。クトゥルフ神話の邪神のような奴らがアストラル界を汚染、物質世界も歪めてしまうのですね。ホラーの到来を予言により把握していた人類たちはアストラル界の干渉を受けにくい地下の居住区に避難して、この危機をやりすごしたという流れです。これを、ウェブに置き換えると、異次元から致死的なウイルスにより汚染。電波防壁を施した地下シェルターに避難してやり過ごすって感じでしょうか。

 呪文まわりのルールも複雑なのですが、これもウェブに例えると腑に落ちやすいです。術者が知っている呪文を発動させるためには数手順踏む必要があります。アストラル界にあるスペルマトリックスに呪文をあらかじめ準備し、活性化のための手続きをし、そして発動という流れです。アストラル界をウェブと考えると、呪文はウェブで走らせるプログラムです。ウェブが汚染されているので対ウイルス防壁で護られた領域が必要になります。これがスペルマトリックスに該当します。術者は自分用のスペルマトリックスの容量内でプログラムを走らせるわけです。必要になると思われるプログラムをマトリックスにアップロードさせるのが準備に該当。それを走らせるには、まずパスワードをいれて、最後に実行という形になります。こうとらえると高レベルの呪文は容量食うとか、呪文自体を持っていてもスペルマトリックスにアップロードしていないと急には使えないよとかのルールがよく判ります。


 後、魔法関連の設定で面白いのはパターンという概念。これは英雄譚(物語)を一種のプログラム的な魔法機能として捉えるものと考えています。いや、これじゃ意味が判りませんね。順を追って説明をば。

 PCたちはアデプトという魔法能力を持った英雄たちになります。D&D4版的に説明すれば“パワー源”が“アストラル”の戦士や術者たちなのですね。クラスに該当するのがディシプリンで、ウォリアやウィザード、シーフなどがあります。彼らの能力は魔力によるものなので、例えばシーフは鍵空けを盗賊道具ではなく念動力で行ったりするわけです。

 このディシプリンというものは、英雄道ともいえる哲学であり、英雄パターンであるわけです。例えば『北斗の拳』のケンシロウは英雄です。彼の伝説を元にホクトケンシなるディシプリンができたとします。ホクトケンシはケンシロウの生き様や哲学をなぞることで、超人的能力を得るわけです。ケンシロウの生き様から外れること、例えばヒャッハーと暴力をふるったりすると、この超人的能力を失います。ケンシロウの英雄譚というパターンから魔力を得ているわけで、それとリンクしなくなると力を得られないわけなのですね。しかし、ホクトケンシの規範は狭いかというとそうではありません。ケンシロウだけではなく、ホクトケンシたち自身の伝説によってリンクの幅が増えてくるわけです。例えば、トキのように攻撃ばかりではなく治癒能力を開発するホクトケンシもいるでしょう。また、ストイックな者だけでなく『花の慶次』のような豪傑の伝説もあるとかですね。

 本システムは魔法のアイテムも、英雄譚というパターンをもったものになります。というか、英雄譚を持つアイテムが魔力を持つという感じですね。そして、PCは魔法のアイテムの伝説を追体験することでその秘めた魔力を開花させていくというルールになります。例えば黒曜石製の剣を見つけた。その名前を知ることで切れ味が増す。その剣の持ち主の伝説を知ることで、ホラーに近づくと刀身から光を放つようになる。前の持ち主の英雄の命を奪ったホラーを特定条件で倒すことで、最終的な力を発揮する。魔剣の伝説を自分のものにすることで、その力も己と一体化するという感じです。

 現代にも通じるユニークな設定ですね!



 『アースドーン』は世界設定だけでなく、システムもユニークでした。これがあるから今でもプレイし続けているというか。簡単にいうとダイス運格差社会システムです。

 本システムの行為判定はステップというダイスロールで行われます。例えばステップ8なら2d6、ステップ14なら1d20+1d4をロールして判定を行います。

 ダイスロールの期待値がステップの数字と±1の範囲に設定されているわけですね。

 d20システムで6以下の目を5連続ロールした方や、「ハハ、2d6の期待値は5だろぅ、ハハ」みたいな御仁にとって恐怖なことに、本システムでは固定値、つまり1d10+10みたいなものは存在しないわけです。


 さ・ら・に、すごいことにこのダイスロールにおいて最大の目をだしたダイスは、最大の目を出し続ける限り振り足し続けることができるのですよ!

 例えば、2d6の出目が「3、6」だった場合、6のダイスは振り足し。再度、出目が6の場合、振り足し続けるのです。「2d6の期待値9です」みたいなことや、2d6で39の出目をだすことも可能。

 ダイス運を持つものが最凶の格差社会システムなわけです。


 今年、終了したキャンペーンにプレイヤーとして参加していました。プレイヤーの1人の大学生、彼は“持って”いました。


 彼のキャラのディシプリンはビーストマスター。D&D3.5版のドルイドから呪文を取って代わりに爪攻撃能力を足したような、前線系とはいえないクラスです。しかし、彼のキャラはパーティ内の安定した大火力と見なされていました。PCのデータよりも、本人のダイス運が重要なのです!

 d20を振り足す、振り足す。ボスキャラをその爪で瞬殺すること数回。『君のダイス、それ、ツクダ製やろ、今後使用禁止!』と、ヤングメンに大人げないダダをこねる三十路マスター。そして次回セッション、「あ、でました」と可愛い顔してダイス変更後もしれっと20の目をロールする若人!


 ダイス目格差社会なのです。ゲームバランスはデータよりも、参加者のダイス運量を図って考えるシステムなのです。

 まあ、当然ダイス運なくてもデータを駆使することで見せ場は確保できないわけではないですよ、一応。それに、なんだかんだ言って誰もが大きい目を目指せ、そして出目が低い低いといいながら30オーバーとか出せるシステムなのですよ。


 燃える要素の多い本システム。4版発売でまた盛り上がることを期待しています!