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こら!たまには研究しろ!! RSSフィード Twitter

2006-01-17

[]燃料投下?「画期的」な年金問題解決法 燃料投下?「画期的」な年金問題解決法を含むブックマーク

さて,いつのまにかグルメblogになっているのでたまには少し役に立ちそうな話を.


言論界では様々な問題に「私の画期的な新案」が提唱され続けています.しかし,実はたいていのものは得に画期的ではなかったりするというお話を.

『反社会学講座』の著者であるパオロ・マッツァリーノ氏が自身のweb page

画期的な年金問題解決法を提示しています。多額の資産を持つ老人への年金支給をいますぐ停止して、代わりに勲章をあげようという案。なぜ経済学者はこの案に乗ってこないのでしょう。この案なら年金問題も階級格差の問題も一挙に解決できますし、老人はノドから手が出るほど勲章を欲しがるというインセンティブ(動機を意味する経済用語)も考慮しておりますから、経済理論的にも非のうちどころがございません。こんなのは現実的でない? 教科書に載ってない? 前例がない?

と書かれています.しかし,実はこの手法は「現実的で,教科書に載っていて,前例がある」方法なのです!キーとなるのは「問題は適切に分割して考えなければならない」という社会科学の(経済学のかもしれないけど)常套手段です.

さて,年金を勲章で代替する案ですが,老人,得に富裕層の老人の効用関数次第で二つに分割できます.「多額の資産を持つ老人」に支給される年金をX円とします.


]型佑自発的にX万円支払っても勲章を欲しいと考えている

このばあい,この年金改革案は「お年寄りが欲しいものを国営企業が生産して販売し,その利益を財政収入とせよ」という事に他なりません.要するに,政府が商売をして稼いで財政赤字を補填しろという案です.で,パオロ氏が考える「お年寄りにウレるもの」が勲章だというわけです.つまりは,パオロ氏の提案は「国営企業の利益で財政再建」というものになります.すると,勲章販売ビジネスでいくら儲かるかという問題設定が可能になる.これはこれで面白い視点です.


∀型佑老章をもらうためにX円までは払う気になれない.

この場合には,「100万円くらいしか払う気になれないものをもらってそのかわりに2000万円取られる」というわけですから,1900万円徴税しろという提案に他ならない.つまりはパオロ氏の提案は「富裕層の老人へ増税せよ」というものになります.これは極標準的な世代間の所得再分配の提案ですね.


パオロ氏は経済学者が嫌いだとのことですが,ここまでは経済学の話ではありません.単純に論理の問題です.ここから少しだけ経済学の話をしましょう.


少々混乱してしまっているのかな?とおもわれるのは

>勲章を欲しがるというインセンティブ

>経済学者は金持ちや勝ち組が損をする策には難色を示す

というところかな?勲章をほしがっているなら(,離院璽后年金の代わりに勲章をもらえるというのは「金持ちや勝ち組」にとっても「お得」な話なんです.で,△離院璽垢蓮年金を失ってまで)勲章を欲しがるというインセンティブはない.インセンティブは費用と便益の両方を考慮しなければなりません.インセンティブについては拙著『経済学思考の技術』の1章を参照下さい……とさりげなく宣伝(^^;)

で,さらに経済学の話をしますと勲章販売公社の収益最大化はなかなか難しい.第一に勲章を欲しいのは「普通もらえないから」ですから,年金で購入できることがわかると容易にその価値が低下し,ケース,魯院璽広△傍着してしまいます.お金で買える勲章の価値を維持するビジネスプランが必要です.

で,ケース△砲覆辰疹豺隋イ海譴禄蠧精栃配政策です.所得再分配政策の可否について経済学はたいした知見をもちあわせていません.経済学にできるのは「ある再分配を行うために最も少ない厚生損失ですますにはどうしたらいいか」までです.私自身は経済学者の中では比較的再分配を支持する方なので,老人への増税年金カットによる世代間公平の維持と相続税増税による結果の不平等の次世代繰り越し防止は重要だと考えています*1


あと,細かい話ですが

そもそも社会科学には、唯一絶対の正解というものが存在しません。社会科学自然科学とは違います。

は大変不味いですね.沈みにくい船を造る方法,シャッタースピードをより早くする方法の答えはいずれもひとつではないでしょう.そして,民間貯蓄と民間投資が同額で財政収支が10兆円の赤字の時,経常収支は10兆円の赤字でそれ以外にはないんです.ケースバイケースなんですよ.

あっ,あと本田さんとこでも書いたけどリフレ派ってやめてほしいなぁ……少なくとも岩田さんが自分はリフレ派だと言ってるのを聞いたことないし,僕も言ったこと無い(原田さんは「と呼ばれる」という形ではあるかも……というか積極的に「俺はリフレ派だぁ」って言っている人は稀でしょう)*2

*1:財政学を研究している友人から,この点に関し「徴税と勲章授与をひとつのシステムで行うことによる財政錯覚をねらう」という視点もあり得るとの指摘をいただきました.財政錯覚というのは,例えば事実上の増税に際して本来は負担であるのに負担であることが認識されず,増税されたと思わないといったケース(要するに朝三暮四的な話です).財政錯覚を使って財政改善というのも結構古典的な話ですが……この場合には,勲章をもらう代わりに数千万円の年金受給権を喪失することが負担では無いというかなりの錯覚が必要.さらに,そのような錯覚がいつまでも続くというのもかなり難しいと思います.

*2:この点については田中先生よりご批判をいただきましたリフレ派という単語にはそのような経緯があったのですね.僕としては方法論の共性をもつという意味での「学派ではない」と言う意味で「リフレ派という言い方は変だ」との感想を書きました.

aoiaoi 2006/02/07 23:36 >沈みにくい船を造る方法,シャッタースピードをより早くする方法
私の知る限りこれらは工学であって自然科学ではないのですが、いかがなものでしょうか。

Yasuyuki-IidaYasuyuki-Iida 2006/02/08 01:35 ん〜工学って広義の自然科学かと思ってたんだけどそうでもないのかな.じゃぁ別にx+y=3をみたす実数(x,y)とかでもいいです.

minmin 2006/02/14 12:24 工学・医学などは応用科学で自然科学の原理を利用する方法論だと思います。数学も論理手法であって自然科学ではないと私は感じております。
参考までに
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%87%AA%E7%84%B6%E7%A7%91%E5%AD%A6

Yasuyuki-IidaYasuyuki-Iida 2006/02/15 09:56 なるほど.確かに数理科学はメタ科学と考えた方が適切かも知れませんね.後日(1/29)のエントリに示したように,「○○科学だから答えはいくつ」という思考自体がダメだとはっきり書いcyったほうがわかりやすかったなぁ.

TimTim 2006/02/22 17:08 結局、「勲章を欲しがるというインセンティブ」をどの程度に見積もっているかどうかだけの話に思えるのですが。ケース1とか書きながら、勲章そのもの、名誉そのものに対する価値は認められないという前提で解説なさっているような。混乱云々ではなく価値観の相違に過ぎない気がします。

Yasuyuki-IidaYasuyuki-Iida 2006/02/23 09:51 >勲章そのもの、名誉そのものに対する
>価値は認められないという前提
全然違います.もう少しちゃんと読むように.勲章その物の主観価値の大小によって勲章システムの持つ意味が変わるところが味噌なのです.