2010-02-28
■[economics]『日本経済復活―一番簡単な方法』反響へのリプライ

2月17日に発売されました,勝間和代氏・宮崎哲弥氏との共著『日本経済復活―一番簡単な方法』(光文社新書)に数多くのレスポンスをいただきありがたい限りです.飯田単独でリフレ政策について語ってもこれだけの反応が得られることはないでしょう.この本でより多くの人に議論に注目頂けるようになったのではないかと思います.
- 作者: 勝間和代,宮崎哲弥,飯田泰之
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2010/02/17
- メディア: 新書
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もちろん批判的な意見もたくさん寄せられています.なかでもしっかりと返答をしなければ行けないと思うのが,
です.
「アゴラ:飯田泰之氏への質問 - 池田信夫」へのリプライ
池田先生の指摘は,
(勝間氏の提言を)それを「まったくそのとおりです。見事な説明ですね」などと持ち上げている飯田氏は、こういう勝間氏の「提言」が正しいと考えているのでしょうか。「アゴラ」のスペースを開放するので、お答えいただきたいものです。
とのことです.そのつもりだったのですが,アゴラの他のエントリと比べて著しく長いのと岩本先生の指摘にも言及したいので,自分のブログに書きますです.該当箇所は,
『日本経済復活―一番簡単な方法』p142-143
勝間 例えば極端な話では、インフレになるまで定額給付金配り続けるとか。最初は貯蓄されて使われなかったとしても、どんどん貯まって残高が100万円超えりしたら、みんな必ず使い始めますよね。そうするとだんだん需要が出てくるわけです。つまり企業がモノの生産を増やす。
最初は、生産設備も余ってますしヒトも余ってますから、なかなかインフレにならないかもしれない。なら続けましょう。インフレにならないとお金配り続けられるんで、どんどんとお金が溜まっていきます。するとちょっとぐらい無駄遣いしてもいいかということで、徐々にモノを買い始めるんですね。で、それが加速してくると企業は「結構なんか売れるんじゃない?」って思い始めると、じゃあそろそろ設備投資しますかってことで、設備新しくしたりヒトを雇ったりする。
でもそれも最初のうちは今デフレで現金貯め込んでいるんで、内部留保取り崩してなんとかなっちゃうんですよ。それでも足らないぐらい盛り上がったら初めてここで資金需要なんですよ。それをなんかデフレから脱却するのはいきなり資金需要が必要だみたいな話をしてて、ここはまず大間違いなんですね。
飯田 まったくそのとおりですね。説明の巧みさはお見事ですね。専門的には勝間さんの話はワルラスの法則と呼ばれています。今需要が足りないって言ってるのは、みんながモノを欲しがってないっていうことですよね。こういう財やサービス、モノの世界で需要不足なときは、必ず貨幣の需要が過剰になってる。つまり、みんな物ではなくお金を欲しがってる。財・サービス、貨幣、資産の全てが同時に需要不足になるのは不可能なんです。からなずどこかで需要超過になっている。現在は貨幣が需要超過の供給不足。この需要を財・サービスか資産のどちらかに流してやらないと行けない。
宮崎 ちょっと聞くと当たり前のことをいっているように思えるけど、モノに対する需要過小の裏には「必ず」カネに対する需要過剰がある。両者は表裏の関係にあるというのがこの話のミソですね。
勝間さんの指摘は「いくらお金を刷ってもインフレは起きない」という強い命題を否定するために「インフレを起こす方法がある」という反例を挙げているものですから,論理的に正しいのではないでしょうか.無税国家云々とかバーナンキの背理法はもともと(植田和男先生の指摘する)「資源配分への悪影響、中央銀行の財務状態をへの配慮等を無視してよければ、デフレの克服はたやすい。」という認識よりも以前の素朴なデフレ不可避論への批判方法として登場したものです.
さらに,勝間さんの発言をうけての僕の「まったくそのとおりですね。説明の巧みさはお見事ですね。」は勝間さんの説明が「ワルラス法則」の直感的な説明になっていることに感動*1しているものなのですが…….
問題は適切に切り分けられなければならない
もちろん池田さんの指摘は当該箇所での僕の発言の意味を問うたものではなく,「飯田は金融・財政一体での脱デフレ提言に賛成なのか反対なのか?」という質問だと思います.これについては,岩本先生のtwitter上での指摘,
iwmtyss:@iida_yasuyuki お忙しいところすみません。私は,勝間氏,高橋氏,飯田さんの考え方が切り分けられるといいかな,と思っています。
がそのヒントを与えてくれていると感じます.現在,経済論壇で「リフレ」と言われる政策は3つに分けられるというのが僕の理解です.この3つの切り分けについては,
もご参照下さい.手短にまとめると,リフレ政策は
- 【モデレートなリフレ政策】0金利の解除条件を明確にし,その遵守のための法的措置を講じる
- 【標準的なリフレ政策】コミットメントに裏付けをあたえるために量的緩和・為替介入を併用する
- 【強力なリフレ政策】貨幣発行益を直接家計・企業部門に注入したり(いわゆるヘリマネ的な財政拡大),為替レートを大幅な円安水準で時限的な固定相場制を設定したりする
の3つに切り分けるべきだというのが僕の見解です.
ここで僕の温度差をはっきりさせておきましょう.【モデレートなリフレ政策】【標準的なリフレ政策】について僕は強く賛成ですし,アカデミックにも根拠があり,大きな副作用も示されていない.両政策に関する「問題」は後述のコミットメントの可否のみであり,その解決のために全力を尽くすべきだと考えています.
多くのリフレ論への批判は【強力なリフレ政策】に集中していますが,批判の多くはヘリコプターマネーへの副作用や急激な為替変動のリスクに関するもので【モデレートなリフレ政策】【標準的なリフレ政策】に対する批判にはなりません.これからは,
を分けて論じるように(賛成派批判派ともに)注意する必要があるのでないでしょうか*2.さて,問題の【強力なリフレ政策】に関する僕の「温度」ですが,まとめると
- そこまでやらなくても何とかなるでしょう(理由は→こちらを参照)
- 財政政策はその効果について鋭意研究中
財政政策に十分な効果があれば,ごく小規模な貨幣発行益の活用で強い脱デフレ効果が得られるので,副作用以上に便益が大きいと考えられるけど,
の指摘の通り,本当にはっきりしない.ただし,日本に関する研究では積極的に効くという主張は少なく,自分自身の分析でもどうも乗数は低下しているようだというところからどうも僕は「ごく小規模な貨幣発行益の活用で強い脱デフレ効果が得られる」と言う気にはなれないのです.というわけで……
僕の主張!
このふたつをさっさとやれ! コミットメントを強固で信頼できるものにするための方法をありとあらゆる角度から検討せよ! 【強力なリフレ政策】まで必要かどうかはこの二つが実施された後で考えればよし.
というものになります.
ちょっとだけ専門的な話
ここで,仮に乗数が小さいとしてもそれがマンデルフレミング効果によるならば……金融緩和と財政支出の組み合わせは大きな脱デフレ効果を発揮することになる.これをもって【強力なリフレ政策】の有効性を主張する事も出来ます.ただし,乗数が小さいのがマンデルフレミング効果かどうか(少なくとも僕は)まだ決めかねています.
もしかしたら中立命題かもしれないなぁ……と.仮に乗数低下が中立命題ならばリカード型の政府では財政政策は効かない.非リカード型の財政政策ルールに(またも!)コミットする必要が出てくるので期待される政策効果の実現への道のりはさらに遠くなりますし,現行の日本の財政よりもさらに放漫な財政を想像するのはちょっとむつかしいので実現現可能性が低い.
というわけで,とりあえず現在の飯田の研究方針としては,非リカード型家計と開放経済変動相場制の両方を含んだDSGEモデルの構築とそれを用いた政策効果分析*3となっています.
【感想】『日本経済復活 一番かんたんな方法』 -岩本康志のブログへの感想
岩本先生の懸念は
区別しておきたいのは,144頁からくわしく議論されている,インフレ目標をはじめとする5つのルールと,そのルールを守る具体的な手段のことである(本のなかでは区別はついていると思うが,読者のために強調しておく)。学界では,ルールが守られるという前提で,それぞれのルールがどういう効果をもつのか,どのルールが優れているか,ということは盛んに研究されている。しかし,ルールが守られるという前提で書かれている論文が多数あっても,ルールが守られることが保証されたことにはならない。
のように現代的な金融政策の論文(の多く)が前提とする「ルール」をどのようにして民間経済主体に周知させ信頼してもらうかという点に集約されているように感じます.
岩本先生のエントリにも引用されている植田提案「1%を超えるまでゼロ金利を継続すると宣言してはどうか」*4を例にとるなら,
ためにはどうしたらよいかという問題になるでしょう.
この様に整理したところで,僕としては岩本先生とどこに意見の相違があるのかわからなくなってしまう……と思っていたところ,次のエントリである「インフレ目標」は中央銀行のコミュニケーション手段 -岩本康志のブログと併せてを読むと何となくわかってきた感じがします.
これは想像なのでどんどん批判頂きたいのですが,岩本先生は経済学の枠組みの中で「守られ,信頼されるルール」が示されていないことをもって,金融政策への提案は未完成な主張であると指摘されます.これはこれで全くその通り.一方,僕は「守られ,信頼されるルール」を作るためには狭義の経済学だけではなく,あらゆる方法を動員して行くべきだと考えます.つまりは,
ならば「皆を確信させるための方法」を考えることに勢力を注ぐべきだと思うのです.
その答えは経済学以外の分野……法学・政治学・行政学から心理学・マーケティングから答えが出るかもしれない(もちろん経済学で答えが出るかもしれない).そのために,問題を狭義の経済学界(学会)の外にも知らしめ,より多くの知見をもって政策の継続性の信頼を得る方法を考えるようにしなければならないと思うのです.経済学者が経済学以外の知見をあてにすると言うのは少々不純ではありますが,政策に関する期待(予想)・信頼・継続性の担保といった分野について経済学は必ずしも最先端の科学的理解に達してはいないかもしれない.さらに,このような信頼を高める方法は政治やメディアの中にあるかもしれない.
だから僕は誰とでも話をしたいし,誰からでも影響を受けたいと思うのです(もちろん影響も与えたい).
*1:実際にビジネスをしている人の直感がビシッと経済理論に重なっているのを見た時ってなんか感動しませんか? 経済学ちゃんと機能してるよ! みたいな
*2:それにしても我ながら自分のネーミングセンスのなさに泣けてくる.誰かこの3つの政策それぞれに名前をつけてくれないですかね……かっこいいのを希望.
*3:同研究は内閣府経済社会総合研究所(ESRI)での和合肇先生,矢野浩一氏,松前龍宜氏,岩田安晴氏,佐藤綾野氏,岡田靖氏との共同研究です.研究成果は5月以降日本経済学会,日本経済政策学会等で順次報告していきます.最終的な野望としては……短日にかわる政策分析・予想のベースラインモデルになってくれないかなぁ.
*4:岩本先生は植田提案通りの1%に近い立場とのことですが,CPIの上方バイアスを考えると1%では低すぎるというのが僕の意見です.




一上響 北村冨行 小島早都子 代田豊一郎 中村康治 原尚子 「ハイブリッド型日本経済モデル:Quarterly-Japanese Economic Model (Q-JEM)」
www.boj.or.jp/type/ronbun/ron/wps/data/wp09j06.pdf
「インフレーション・ターゲティングを導入しているニュージーランド、カナダ、英国、スウェーデンの中銀は、その導入当初、インフレ期待の安定を重視する観点から、足許の物価安定に向けて厳格な運営を試みていたが、その後徐々に、中期的な物価と実体経済の安定をめざす運営に変貌していった。すなわち各国の中銀は、実体経済の安定にも配慮して、たとえ足許の物価が目標から乖離するようなことはあっても、それを無理に安定化するのではなく、時間をかけて緩やかに安定化することをめざした運営を行うようになっている。このような政策運営方法とインフレーション・ターゲティングを採用していない主要国の政策運営方法は収斂してきているとの評価もされている。」
上田 晃三 「インフレーション・ターゲティングの変貌」
http://www.boj.or.jp/type/ronbun/rev/data/rev08j11.pdf
失業率が高い状態で、インフレにしてしまうことは失業者や低賃金労働者の生活を追い込むことになります。政策として取るべきではないでしょう。
小泉時代にはGDPデフレーターはマイナスであっても、2007年4月には失業率3.9%まで下がりました。
政策としては失業率を下げることを優先すべきです。
ニュージーランド、カナダ、英国、スウェーデンでは、失業率が高いままの、雇用なき景気回復になっています。
>「守られ,信頼されるルール」を作る
この課題は如何に達成されるべきか。
これと同種の議論を展開しているのが、制度派経済学、例えば比較制度分析だと私は考えています。
青木昌彦インタヴュー(山形浩生interviewer)「青木先生、比較制度分析ってなんですか?」『経済セミナー』647号(6-7頁)で、青木は、制度(=ルール)を、人々が自身の行動の基礎にするとともに、人々の間で共通のものとなっている、認識・期待・予測であると述べていたからです(これは私の読解が正しいことが前提です)。
現在の、日本社会(=各プレイヤー)が経済合理性に基づく行動が広く行き渡っている社会であるということの証明、そして、日銀・政府の行動が信頼できるということの証明、この二つが証明できれば、良いではないか、と考えます。一つ目は従来の経済学(学部で少しかじっただけなので誤っているかもしれません)で証明できるのではと思います。というより、一つ目はもう証明済みですか?
二つ目は、A.グライフのような歴史制度分析と伝統的な経済史の手法(研究史の徹底的なフォローと厳密な史料分析)を活用すれば、日本の制度としての日銀の機能、つまり日銀がどれほど社会からの信頼を確保しており、その信頼をどの程度現在まで担保しているのか(先生の、昭和恐慌の研究もそのひとつに入るかと)、が証明できると僕は思っています。
これを証明できれば、日銀にリフレ政策を採用するよう日銀を説得することができるのではないか、と考えています。長々と駄文失礼しました。
というわけで、分類コンセプトがよくわかっていないのですが、具体例として書かれている政策案に関しては、
・口先リフレ
・証拠金付き口先リフレ
・実弾投入型リフレ
という印象を受けました。……法的措置を「口先」なんて形容したら不謹慎かもしれないですけど。
参院選の争点が、アカデミックな理論に裏づけされた経済政策であることを、心の底から願う。
例えばコアコアCPIがプラス1%に達するまで金融緩和を継続するという法律を作り、達成できなければ日銀総裁の首を賭けるというのは?
結局のところどうやって日銀は「ちょうどいい」
インフレを起こせるんでしょうか。
自殺禁止法が存在しても無意味なのと同じように、
実態に即していないのならWATERMANさんの言うような罰則を課した所で
インフレ期待値を動かせるようにはなかなか思えないのですが。
歴史上のデフレとその脱出にはいくつか事例がありますが、インフレ目標がデフレ脱出に有効と学問上認識されだしたのは最近のことだろうと思います。つまり明確な形でインフレ目標を掲げることをせずとも、現代日本のような長期デフレを脱出した経験が人類には存在するわけです。
たとえば江戸時代の享保改革期のデフレ、19世紀のヴィクトリアン均衡と呼ばれる時代のデフレ、20世紀前半の世界恐慌、これらいずれのデフレも通貨供給量の増大によって克服されています。
江戸時代は貨幣改鋳、19世紀は新たな金鉱の発見と金抽出の技術革新(当時通貨供給量は貴金属の保有量で制約されていました)、世界恐慌は金本位制の離脱。
最後の金本位制離脱については、現代で言うと為替レートの切り下げ、円安誘導政策に相当します。昨年勝間さんが政府に提言されたデフレ脱出案にも円安誘導政策が含まれていますね。
円安誘導政策の景気に対する効果がどれぐらいのものか、政府の試算も出ているようです(図表では円高がどれだけGDPを押し下げるか、となっています)。
http://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je09/09f12130.html
どの国でも通貨安は景気に良いようですね。景気が良くなれば消費が活発化しますから、物価は需要と供給の関係からインフレ圧力を受けるでしょう。当然この過程で雇用も回復しています(消費増大に呼応して商品を増産するには、労働力という生産手段が必要だからです)。
よってalphaさんの疑問に対する一つの案として、インフレ目標や為替レート目標(110円-120円ぐらいが目安です)を掲げて、インフレになるまで通貨供給量の増大や為替介入で円安誘導するという、市場に対するメッセージを送る方法が上げられると思います。
こうして政府日銀にはその気になれば必ずインフレを起こす手段が存在するわけですから、政府日銀が協同してインフレ目標を掲げることにより、必ず市場はインフレ期待を抱き、経済行動を瞬時に変化させることでしょう。
トラックバックを送ったところエラーになってしまったので、こちらで報告させていただきます。
http://d.hatena.ne.jp/bewaad/20100304/p1
ご高覧いただければ幸いです。
実弾投入(by SMAP/Vさん)リフレについては
・財政が実際どの程度効くか
・コミットメント強化効果
次第です.前者についてはMFか中立命題かによって結論が変わってくるので態度保留.後者については「より副作用がないと考えられる方法で同じ効果が達成できるのならそっちを選択すべき」と思います.
>ゼロ金利も量的緩和も時間軸政策もやり
これはbewaadさんの見解に全面的に反対です.常に早期解除をしたがり,かつ「継続的なインフレ」とはとても言えない状況で繰り返し解除したと言う点で,これまでの日銀の時間軸&量的緩和はeasy talkにすぎません(それでも一定の効果があったのだから)これを強化すればいっそうの効果が得られるでしょう.さらに,CPI上昇率が0%を少し超えただけでの解除は「デフレ下での引き締め」に他なりません.