ブログトップ 記事一覧 ログイン 無料ブログ開設

こら!たまには研究しろ!! RSSフィード Twitter

2012-07-15

[]マンデル・フレミング効果ではないかもしれない マンデル・フレミング効果ではないかもしれないを含むブックマーク

 消費税増税がほぼ既定路線となったことで,それを財源とした財政出動に向かいつつある今日この頃.あれ?社会保障とか財政再建のための増税なのに公共事業に使っちゃったら意味ないんじゃないの?というそもそもの疑問はさておくとして,公共事業による財政出動の景気への影響は90年代以降低下していることが指摘されています*1

 かつてはそれなりに効いていたとおぼしき財政政策の効果が低下したのはなぜか.経済学者だと乗数低下と聞くと中立命題かマンデル・フレミング効果が思いつくわけです.しかしながら,中立命題は……日本ではその成立要件である「合理的な消費者」の割合が低下しているという報告が多く,どうも乗れない*2

 すると,乗数低下の要因はマンデル・フレミング(MF)効果,つまりは財政支出による為替レート変動の影響である・・・といいたくなる.そして乗数低下の原因がMF効果だとしたら,十分な金融緩和と組み合わせることで財政政策は高い有効性を発揮できるということになる.でも……ほんとに? ちなみにデータ面では財政出動から為替という明確な影響は,日本では,あまり見られない.


 ここで少し話をマクロから産業まで落としてみましょう.産業別活動指数分類の「公共・建築・土木活動指数」と「民間・建築・土木活動指数」を時系列的に分析します*3. 図は,公共建築土木活動指数がある月だけに2.3ポイント*4低下したときに,1ヶ月後から24ヶ月後の民間建築土木活動指数が何ポイント低下するかを表している.公共建築土木がある月(だけ)に2.3ポイントあがると,民需の建築土木はかなりの長きにわたり,最大0.9ポイント低下する.


f:id:Yasuyuki-Iida:20120715132118p:image


 なお,建築・土木業界における官業と民業のシェアは1対1.7.すると,公共事業が1増えると民間事業は0.7減少するということになる・・・ものすごく単純化すると1兆円公共工事は0.7兆円の民間工事の減少を招くということ.マクロの景気に与える影響は1/4強にすぎないということになる.財政政策が効かないのはコレが原因かもしれない.だってそもそも「影響関係が建設土木業界の中」だけで閉じちゃってるんだもん.

 なぜこんな不思議なことになるんだろう・・・ちなみに反対の影響,「民間の工事が増えると公共工事が減る」という影響関係は観察されない(有意ではないがむしろ公共工事は増える).一番考えやすい要因は建設土木業界の供給能力が限られており,公的な事業でそのリソースを使うと,民間事業が供給能力の点で不可能となるという解釈だ.供給制約による文字通りのクラウディングインというわけ.

 ちなみに長期的には公共投資インフラが整備されることを通じて指摘私的投資をクラウディング・インするとされる.しかし,こっちの効果もどうも80年代以降落ちているみたいだ(HananoHatano(2010, Public Policy Review6(1))).この効果の低下が,インフラ整備の生産性への影響が低下したことによるのか,実は公共投資が供給制約により私的投資を直にクラウドアウトするようになったからなのかはちょっと研究したいとこ.


 このようなクラウディング・アウト財政政策の効果低下の主因だとすると,2つの全く異なる政策インプリケーションが提示されることになる.

  • 近年海外で再注目されている「これまでは効かなかったけど,流動性制約流動性の罠の下ではちゃんと効く」という研究は日本には当てはまらない.だって,効かないのは「日本型財政政策」だから
  • 財政政策」そのものが効かなくなっているんじゃなくて,建設・土木による財政出動が効かなくなっているだけ!ちゃんと供給余力があるところに支出すれば効くかもしれない

どっちが政策論としてリーズナブルなんだろう.これには追加的な分析が必要なところ.財政支出の中身を変えるというのが可能かどうかがポイントになる.もっとも,業界内で閉じてしまわないちゃんとした公共事業になったとたんにがっちりMF効果が出ちゃうって可能性も否定できないですが.

*1:今もまだ有効か(1以上の乗数効果をもつか)についてはまだ議論が分かれるかもしれないですが,低下したという点についてはメタ分析をしてみてもかなりロバストIida and Matsumae ESRIDP#209

*2:畑農(2004, フィナレビ74),Yano, Iida and Wago(2010, ES World Congress)など

*3:二変数レベルVAR(6)のIRF.同時点制約はコレスキー順序民間→公共.ちなみに階差で分析しても結果はだいたい同じ.3/4クラウドアウトとまではならないけど(6割くらいになる分析が多い).ほかの変数もいれた分析は今まともな論文として書いてるのでしばしお待ちあれ.

*4:1S.D.分

通りすがり通りすがり 2012/07/15 17:22 上記引用文献の出典はHanano(2010)ではなくて、Hatano(2010)ではないでしょうか。

それと、「影響関係が建設土木業界の中だけで閉じている」というのはどうしてですか?
他産業の指数を回帰分析の説明変数に取り込んだ結果、そのような結論に至ったとおっしゃっているのでしょうか?

Yasuyuki-IidaYasuyuki-Iida 2012/07/15 19:26 ご指摘さんきゅう.質問はよくわかりません.どういう意味での質問?

通りすがり通りすがり 2012/07/15 19:38 質問は、「公共・建築・土木活動指数」と「民間・建築・土木活動指数」を2変数VARで分析された上記のグラフの結果をもって、「影響関係が建設土木業界の中だけで閉じている」とおっしゃられているのでしょうか?
ということです。

Yasuyuki-IidaYasuyuki-Iida 2012/07/15 20:53 あぁ.IIPとか公的サービス含む分析でも同じだよ.VARの手続きの詳細をblogで紹介するのがめんどいだけ.そういうのは論文でやること.

Yasuyuki-IidaYasuyuki-Iida 2012/07/15 20:54 あと三活入れても.

通りすがり通りすがり 2012/07/16 07:42 ありがとうございます。わかりました。
しかし、とするならば、大変失礼ですが、学術研究者として言葉に対する繊細さがあまりにもなさ過ぎるのではないでしょうか。

ブログとはいえ、先生のような世間に対する影響力のある方が、(本記事に限らず)やや舌足らずな記述や誤植の多い文章をネット上に発表されている事には些か違和感を覚えます。
もちろん、ご多忙の合間を縫ってブログを書かれているものと存じますが、公開される前にもう少し推敲に時間をかけてはいかがでしょうか。
大学の先生もなさっているのでしたら、学生さんの教育上の観点からも、ぜひ言葉を大切にしていただきたい。

くだけた言葉で書かれるのは結構と思いますが、正確な事物を伝えるような言葉を使わなければ、非ぬ誤解を生むこともあります。

今後のご活躍に期待します。

通りすがり2通りすがり2 2012/07/18 00:30 供給が足りなく要因として、建設業法による縛りがあるのではないか、と思います。官工事では、一定額以上のものについては、専任で資格をもった技術者等を現場に貼り付けなければなりません。需要が急増しても、資格保持者はすぐにはそれにあわせ増えないので、業者が受注できる限界がすぐに生じてしまいます。現に、国交省も技術者の専任の要件を緩和する旨の通達を震災後だしているはずですが、それ以上に技術者が不足しているんじゃないでしょうか。

domodomo 2012/08/09 13:36 しっかりサポートしてくれる方までいらして、飯田先生も自由がききますね。これまで通りでも私には有り難い限りです。
素人が知ろうと意欲益々増す…ってか(笑)

だだだだ 2012/08/10 14:39 この視点はなかったな・・さすが飯田先生  ただ、供給能力の制限がかかるということは、建設土木業者が公共工事が今後継続的に増える事なんて無い と思ってるからでは? 田中先生がチャンネル桜でおっしゃっていたように国土強靱化省を作って、継続的な財政政策を行うと信用させれば(法律も作って)建設業者さんも人を雇って設備投資して供給能力増やすのではないでしょうか?
今後も先生のご活躍お祈りしております

domodomo 2012/08/12 23:00 震災姉歯震災で公共工事の需要は必要性という意味では増えただろうと推察します

しかし実際は不況下ですす、被災地以外の民間工事が増えるかどうか…居抜きも多く聞きます…需要に供給が追いついてきたのかも…?

すでに先進国ですからインフラ整備は新設工事と修繕工事に分けて考えて。80年代からのバブル期新設→修繕にシフトしている可能性で…土木建築での財政政策の多少の効果低下はあるかもと…

考えてみると修繕としての財政出動が抑制可能か分からず…(データも拾った事無く恐縮ですが)

crcscrcs 2013/12/11 20:06 2012年度GDP確報値の大幅下方修正のカラクリ
http://anond.hatelabo.jp/20131211155004

供給制約が意外な形で現れているというエントリーがありました。私には内容の真偽までは分からないですがもし本当なら興味深いです。

crcscrcs 2013/12/11 20:08 2012年度GDP確報値の大幅下方修正のカラクリ
http://anond.hatelabo.jp/20131211155004

供給制約が意外な形で現れているというエントリーがありました。私には内容の真偽までは分からないですがもし本当なら興味深いです。