人々が持つ4つの誤解

選挙の経済学

選挙の経済学

去年訳本が出たブライアン・カプランの『選挙の経済学』(原題:The Myth of the Rational Voter)は、人々の経済に対する理解に誤った偏りがあることを示している。
つまり、人々は必ずしも合理的な考えを持っているわけでなく、通常非合理的な考えを持っているというわけだ。この本の第3章では、アメリカ国民と経済学者の両方に意識調査を行い、その調査結果から一般人の持つ信念に誤った偏りがあることを明らかにしている。

カプランが指摘する人々の持つ経済的な偏りは次の4つだ。

1.反市場バイアス市場メカニズムがもたらす経済的便益を過小評価する傾向

 利己的な行動を行う企業が市場における競争を通じて公共の価値に貢献していることは経済学者には常識だが、一般の人には理解されていない。人々は必要以上に企業家や銀行家、流通業者などを利益に群がる悪人と判断しがちである。

2.反外国バイアス:外国人との取引による経済的便益を過小評価する傾向

 国際貿易や国際投資、移民の受け入れによる経済的利益は経済学者には常識だが、一般の人には理解されていない。人々は外国人を我々から搾取する悪人と見がちである。

3.雇用創出バイアス:労働を節約することの経済的便益を過小評価する傾向

 経済学者は、一定の経済的価値を生み出すための労働者が節約され、より少ない労働者と時間で大量の生産を行うことを経済の進歩と考えるが、人々はどんな仕事でも奪われることは社会的悪とみなす。

 例えば、工場の機械設備の進歩はより少ない労働者で大量の生産を行うことを可能とするが、それによって労働者が今までやっていた仕事を奪われることを一般の人々は悪とみなす。経済学者は、解雇された労働者が新しい職場で新しい経済価値を生み出すことの方を重視する。

4.悲観的バイアス:経済問題の厳しさを過大評価し、経済の(ごく最近の)過去、現在、そして将来の成果を過小評価する傾向

 経済学者は、様々な困難に直面しているにもかかわらず社会は確実に進化していると考えているのに対し、一般の人々は報道などで指摘される経済的脅威に過剰に不安になり、遠い昔を理想化する傾向にある。

国際経済学はこの4つのバイアスの中でも特に反外国バイアスに対応するものである。外国との貿易や移民の受け入れがもたらす経済利益について、人々はその恩恵にあずかっているにもかかわらず、何かをきっかけにすぐに保護貿易や移民排斥の支持に回ってしまう傾向がある。現在のように国内景気が冷え込んでいるときほど人々は反外国的な考え方に共鳴しやすくなってしまうものなのである。

国際経済学は、貿易利益や労働・資本移動がもたらす経済的利益について理解を深め、反外国バイアスを矯正しようとするものだ。そういう意味では難しい学問であるけど、とても重要な学問といえるんじゃないかと思います。

今日はこの辺で