新小児科医のつぶやき

2018-06-18 女神伝説第2部:佐竹次長の計画

シノブ部長は猛然と夕食準備に入りました。その手際の早いこと、見事なこと。

    「ミサキちゃん、なにか苦手なものはある?」
    「とくにありませんけど」
    「じゃあ、ちょっと待っててね。そうだ良かったらマルコさんも来てもらったら。マルコ氏もこの話に加わってもらった方がイイと思うの。それにミサキちゃんがここで晩御飯食べちゃうと、マルコさんの御飯困るでしょ」

それもそうだ、

    「うほぉ、シノ〜ブの作った御飯は楽しみだ」

ただ四人前となったので、佐竹次長が買い足しに出かけ、ミサキは息子さんのお相手。そうこうしているうちに、

    「ゴンバ〜カ」

やられた。これは『このバカ』と言ってる訳でなく『こんばんわ』が訛ったものです。どこをどう訛ればこうなるかわかりませんが、ほんと、マルコの日本語には進歩と言うのが見られません。むしろ退化している気がします。

でも、そりゃそうかもしれません。仕事場でも家でもすべてイタリア語で済んでしまいますから、日本語を話す必要性がない気がします。それは、それで良さそうな気がしますが、子どもが出来た時にちょっと困りそう。日本語も覚えてくれないと・・・それはさておき、シノブ部長がずらっと料理を並べたところで、

    「ウン・ビリンディシ」

佐竹次長が空気に合わせて乾杯してくれましたが、そうだ今日は通訳がいるんだ。それは頑張るとして、とりあえずは和やかな雰囲気で食事は進みました。息子さんもお客さんが来て大はしゃぎでしたが、やがて疲れて眠ってしまいした。息子さんがいなくなったところで、まずはシノブ部長と推理を重ねた『偽カエサル・イコール・ガラティア王デイオルタス』説を興味深く聞いてくれました。ここで佐竹次長が、

    「偽カエサルだが、ユッキーさんも話さなかったことがあると思うんだ」
    「どんなこと」
    「古代エレギオン王国は偽カエサルによって滅ばされたってことだ」

たしかにそうなります。それも偽カエサルの勝手な都合で滅ぼされ、危うく国民がすべて奴隷にされるところでした。

    「ユッキーさんがそこまではっきり話さなかったのは、小島本部長が偽カエサルを本物のカエサルと信じ込んでいるのを、友達として気配りしているで良いと思う。まあ、二千年前の話だから本来なら今さらもエエところの話だからだ」

そう、本来は済んでしまったお話なんだ。

    「でも、偽カエサルは再び現れた。偽カエサルは魔王を失った代償に小島本部長だけではなく、シノブや香坂君まで配下に置こうとしている懸念がある。だからボクやマルコ氏にとっても他人事ではない」

マルコも含めて深くうなづきました。

    「シノブや香坂君が考えている懸念は二段階で、まずは籠絡した小島本部長を使ってシノブや香坂君の取り込みを狙い、これが拒否されたらクレイエールを潰して失業者にしてでも引っ張り込もうだ」

これもうなづきました。

    「ここについてだが、小島本部長からの誘いの可能性はあってもクレイエール攻撃の可能性は低そうに思う」
    「どうしてですか」
    「ボクは偽カエサルがアッバス財閥と関係していないと見てるんだ」

偽カエサルの現代での正体も、アッバス財閥の有力者でそれらしき人物の候補もシノブ部長が調査課を使って調べてますが杳として不明です。

    「そこは佐竹次長、見方が甘いんじゃないですか」
    「推測ばかりになってしまうのだが、クレイエールを攻撃する気ならラ・ボーテを手放さないと思うのと、株主総会で敗れた後に株を手放すこともないと思う。小島本部長だけでなくシノブや香坂君も手に入れたいのなら重要な橋頭保だからだ」
    「その辺は資金繰りが・・・」
    「そうだ。普通ならそう見るが、相手がアッバス財閥なら話が変わる。ラ・ボーテの維持や株買い占め資金程度は、はしたカネだからだ。つまりはアッバス財閥とは直接関係がないと見たい」

そっか、クレイエール攻撃の意図を持っているのなら、またイチから始めると時間がかかるものね。

    「それと偽カエサルの動きに不審な点がある。あのバーでシノブと香坂君が居合わせたのは偶然かもしれないが、非常にアッサリと小島本部長を口説くのに成功している。ならばだ、ラ・ボーテみたいな回りくどい事をしなくとも、まず直接口説くべきだろうし、それが失敗してからカネのかかる動きに切り替えるべきだろう」

さすが佐竹次長、冷静な分析です。

    「偽カエサルは仕事を請け負っただけじゃないだろうか。先ほど、アッバス財閥とは直接関係はないとしたけど、アッバス財閥ないしそのパトロンの依頼を受けて動いた可能性はあると思う。つまりはグルリと話が戻って来るが、偽カエサルが目的としていたのはエレギオンの金銀細工師であったと考えてる」
    「でもそれだったら、まずマルコを口説いたら」
    「これはマルコ氏に確認しておきたいのだが、クレイエールの居心地はどうですか」
    「クレイエールはボクに敬意をもって待遇してくれてると感じてる。工房建設についても、ボクの意見を完璧に反映してくれてるし、どんな仕事にするかもボクに一任してくれてる。工房の維持費の心配も、弟子の給与の心配もしなくて良い。さらにミサ〜キがいるし、コト〜リにはマンチーニ枢機卿の一件で世話になってる。ここから動く気はない」
    「マルコ氏、ありがとう。そういう状態のマルコ氏を引き抜くには、単にカネを積んだだけでは難しいところがある。引き抜きは当人が今の職場に強い不満がある時に成立するが、そうでない時は容易ではないんだ」
    「なるほど」
    「偽カエサルも現状のマルコ氏をカネだけ積んで引き抜くのは難しいと判断したのだと思う。そこで取った作戦がマルコ氏の居心地を悪くするだったんだ」
    「えっ、たったそれだけのためにクレイエールを潰そうとしたのですか」

スムーズに会話が進んでいるように思うかもしれませんが、ミサキとシノブ部長が通訳として頑張ってます。

    「偽カエサルが考えた計画は、ラ・ボーテを台頭させクレイエールに取って代わろうとするものだったのは明白だ」
    「それはわかりますが、かなり大げさというか、大掛かり過ぎるというか」
    「ここで偽カエサルの報酬を考えて欲しいのだが、成功報酬による請負料だと見て良いと思う。その他の費用、たとえばラ・ボーテを急速に大きくするための資金はあくまでも必要経費になる」
    「えらい巨額の必要経費ですね」
    「偽カエサルの計画はおそらくこうだ。ラ・ボーテを急成長させ、クレイエールに取って代わる費用は大きいが、その費用はラ・ボーテから回収できるんだ。結果で言えばクライアントはこれを了承している」

たかがと言ったらマルコが怒るかもしれませんが、職人一人引き抜くためにこれだけ大掛かりな計画を立案したのに驚かされます。

    「偽カエサルの計画は壮大だが大きすぎたと考えている。ただ大きくしたのは理由があったと見ている」
    「どんな理由ですか?」
    「偽カエサルの本当の目的はクレイエールを潰すのじゃなくて、乗っ取るつもりだったんだ」
    「でも、さっき潰すって」
    「それはクライアントへの説明のための方便。ラ・ボーテがクレイエールに取って代わっただけでは偽カエサルの懐に入るのは請負料だけだ。それじゃ、つまらないからクレイエールを乗っ取る事で利益を得ようとしたのだ」
    「それが株主総会の騒ぎに・・・でも、株買い占めとなると相当な資金が」
    「これはクライアントから必要経費で引き出せないし、引き出してしまうとクレイエールの利益もクライアントに行ってしまう。そこで、ラ・ボーテをとことん利用して担保にし資金を作ったと見て良い」

話の整理が必要なのですが、偽カエサルはラ・ボーテを急成長させるための資金をクライアントから必要経費として引っ張り出し、急成長したラ・ボーテを担保にクレイエール乗っ取りを企画したことになります。

    「そうなると、偽カエサルは困ってるのじゃないですか」
    「そうだ。ラ・ボーテは潰れてしまったから必要経費の回収は不可能となってるし、株主総会でも敗れてしまったからクレイエール乗っ取りも夢と消えた。買い占めていた株の売却ぐらいじゃ損失の穴は埋めきれないと思う。さらに、そういう請負業は実績が重視されるから、今回の失敗は今後の仕事に差し支える」
    「でも、それとコトリ部長の引き抜きはどう関連するのですか」
    「最悪、埋め合わせの一部に使う気かもしれない」
    「埋め合わせって?」
    「偽カエサルがガラティア王デイオルタスであれば、偽カエサルに小島本部長に対する愛情など無い。単に好き者として小島本部長を弄んだに過ぎない。実年齢は別として小島本部長は若くてお綺麗だ。さらに、偽カエサルは女神を宿す女性がこの後どうなるかも知っているはずだ」
    「どうなるのですか」
    「死ぬまであのままって事さ。せいぜい三十歳ぐらいまでしか歳を取らないんだよ。永遠に若さと美貌が変わらない超が付く美人は高く売れる。これはシノブや香坂君にも同様の価値が付く」
    「たしかにそういう意味での価値はあるかもしれませんが、それだけで巨額の損失の穴埋めにはならないと思いますが」

佐竹次長はため息をつきながら、

    「小島本部長やシノブ、香坂君はオマケだよ。偽カエサルは今回の依頼の失敗の最低限のフォローを考えているで良いと思う」
    「最低限とは」
    「本来の目的であるマルコ氏の引き抜きだよ。これがクライアントの契約目的だからだ。そこで最低限の目的を果たした事にし、クライアントへの御機嫌取りに永遠の美女三人を差し出すってところかな。たぶん、そういうのを大喜びするクライアントだと見て良いと思う」

ミサキは思わず、

    「イヤだぁ、そんな狒々親父の人身御供なんて絶対にイヤだ」
    「サタ〜ケ、ボクのミサ〜キをそんな目に遭わすなんて絶対に許さない」
    「ボクだってシノブを守ってみせる。ここで確認したいことがあるのだけど」

佐竹次長とは一緒にお仕事をしたことはありませんが、さすがに営業部随一の切れ者です。シノブ部長があれだけベタ惚れするのが良くわかります。

    「香坂君、小島本部長の様子は?」
    「毎日ルンルン状態にしか見えません」
    「そうか・・・まず小島本部長に関しては二つの可能性がある。一つはユッキーさんの見立て通り、近いうちに小島本部長が偽カエサルと見抜いて目覚めてくれること。そうなれば話はシンプルになる。そっちはそっちでまた厄介になるかもしれないが、対魔王戦の再現パターンかな」
    「もう一つの可能性は?」
    「偽カエサルに完全に籠絡されてしまった場合だ。この時にはシノブや香坂君が懸念しているように、小島本部長が引き抜きの手先として現れることになる。だが、この時には断固拒否して欲しい」

ミサキはうなづきました。狒々親父のオモチャになんかに絶対になるものか。

    「ここからが、問題というか危険になるのだが、偽カエサルはマルコ氏をあきらめないから、非合法的手段に訴えると見ている。非合法的手段を使うのなら、マルコ氏だけではなくシノブも香坂君も危ない」
    「どんな手段を考えておられますか」
    「誘拐だよ。リスクは高そうだが、これで身代金を要求する訳じゃないから、三人を連れてそのまま国外脱出ってところだろう」
    「警察の保護を頼んだらどうでしょうか」
    「難しいだろうな。所在も、名前も、関係も不明な偽カエサルに誘拐される可能性があるなんて訴えても誰も信じる者はいないだろう」

警察は無理そうなのはミサキにもわかります。佐竹次長の話も全部推測だけで何の根拠もありませんから。

    「警察は事件が起これば動いてくれるけど、それまでは期待できないから自衛手段が必要になってくる。ただなんだが・・・」
    「誘拐されない方法を考えれば良いのじゃないですか」

佐竹次長は考えをまとめてるようです。

    「現実問題として偽カエサルが手荒な手段を選べば防ぎきれないと考えてる」
    「そんなぁ」
    「ただここで一つポイントがある。誘拐のターゲットは三人であって四人でない点だ」
    「どういうことですか」
    「おそらくボクは誘拐のターゲットにならない」

そう言われてみればそうだ、

    「そこで計画がある」

佐竹次長の計画の骨格は、もし誘拐するとしたらなるべく三人一緒にするのが前提です。もしくは数日ぐらいのごく短期間です。偽カエサルの誘拐目的は国外連行ですから、逃亡のための手段も一体化しているはずだから、おそらく誘拐すればその足で国外逃亡を図るはずです。

    「どういう手段で国外逃亡を」
    「飛行機は難しいと思うから船を使う公算が高いと考えてる」

そこで誘拐された時点で素早く警察に通報して、偽カエサルの誘拐団を捕まえてもらおうです。その通報役が誘拐対象にならない佐竹次長です。

    「つまりは誘拐される前提で準備をしておこうというのがボクのプランだ」
    「そうは上手くいくのでしょうか」
    「不確定要素が多い部分がある計画だが、他に方法が思い浮かばない。たとえばだ、夜に小島本部長が香坂君の家に訪ねてきて、ドアを開けた瞬間に誘拐団がなだれ込むって想定もあるんだよ。そうなった時にこれを防ぎきるのは容易ではないからね」

なるほど、そういうケースも想定しているんだ。それこそ拳銃でも突きつけられたら一巻の終りだろうし。なんか非日常的な話だけど、腹くくったらそれぐらいはやりそうな気がする。

    「そこでマルコ氏に頼みがある」
    「なんでもするぞ。カラテかジュードーでも覚えるのか、それともニンジュツか」
    「覚えたいなら紹介もしてあげるけど、今からじゃ間に合わないよ。そうじゃなくて・・・」

佐竹次長のプランを聞いて、

    「それなら、まさしくボクの仕事だ」
    「悪いが急いでくれないか」
    「もちろんだ。ミサ〜キとシノ〜ブの命がかかっているようなものだからな」
    「マルコの分も忘れずにな。偽カエサルは最悪、マルコ氏と小島部長だけ連れて逃げる可能性もあるから」
    「わかったが、中身は」
    「ボクの知り合いにこういうのを趣味にしている奴がいてね。今作ってもらってる。もうすぐ出来上がるから、工房に届ける」

佐竹次長は最後に。

    「プランはリスクが非常に高い。実際に起れば不測の事態、思いがけないことが起るのも十分に予想される。その時は臨機応変に対応して欲しい。もちろんボクも最善を尽くす。なんと言ってもシノブがかかっているからね」

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2018-06-17 女神伝説第2部:偽カエサルは誰?

    「お邪魔します」
    「いらっしゃい。シノブ、香坂君がいらっしゃったぞ」

出迎えてくれたのは佐竹次長。この若さで営業一課長から営業部次長に昇進されておられる余裕のエリートです。いつも思うのですが、佐竹次長の昇進は異例のスピードなんですが、とにかく奥様のシノブ部長が本部長で執行役員の重役なもので目立たないのです。ここのところカエサル対策でしばしばお邪魔させて頂いているので、どう思っているか聞いてみたのですが、

    「あははは、シノブは天使だよ。人が天使に勝てないのは当たり前。一緒に暮らしているだけでも良くわかるもの。そんな天使を奥様にしているだけで世界一の果報者。肩書が下になっている事なんて、どうでも良いことなんだよ」

家での佐竹次長は家事も育児もキッチリ分担されておられます。これについても、

    「そう言われるのが恥しいよ。だって、シノブがやる方が十倍ぐらいは手際が良くて、ボクが頼み込んでやらせてもらってるんだよ」

ミサキが家に上がらせてもらうと、佐竹次長がお茶菓子を用意して持ってこられるので恐縮してしまいす。

    「気を使うほどの事じゃないよ。考えてごらん、シノブが持ってきたら重役が運んでくることになるから、もっと気をつかうだろ」

シノブ部長と話をさせて頂いてる間は佐竹次長は息子さんと遊んでおられます。佐竹次長は愛妻家でもありますが、これでもかの子煩悩として社内では有名ですが、それがよくわかります。本当に幸せそうな御家庭で、ミサキもマルコとこんな夫婦になりたいといつも思っています。ここのところシノブ部長と調べているのは、あの偽カエサルが誰かと言う問題です。あの男がカエサルでないのはユッキーさんが明確に否定してくれました。

    「ミサキちゃん、私はカエサルがエレギオンを滅ぼしたのはゼラの戦いに勝った後とずっと思っていたの。でもユッキーさんの話じゃそうじゃないのよね」

どうしてもローマ史を調べないといけなくなってるので、ミサキも段々詳しくなってきています。これでも歴女の会のメンバーですから、やっと歴女らしくなったってところです。焦点はファルサルスの戦いからのカエサルとその他の有力武将の動きです。

    「ミサキちゃん、おさらいだけどファルサルスの戦いがあったのが紀元前四八年八月」
    「これに敗れてエジプトまで逃げたポンペイウスが殺害されたのが同年の九月二九日だから一か月ぐらいですね」
    「そしてポンペイウスが殺害された数日後にカエサルはアレキサンドリアに到着したとなってるわ」

当時のエジプトはプトレマイオス王朝の末期ですが、カエサルが到着した頃にも内紛というか、内戦状態でした。

    「ここからが有名な話になるんだけど、カエサルはクレオパトラ七世を愛人にするのよね。カエサルの事だからクレオパトラも好きだったんだろうけど、クレオパトラを立てた方がエジプトが安定すると判断したんだろうぐらいに見てる」

カエサルがクレオパトラ派になったために起ったのがアレキサンドリア戦役で、カエサルはプトレマイオス十三世を撃破し、プトレマイオス十四世とクレオパトラの共同統治体制にしています。

    「アレキサンドリア戦役は紀元前四七年二月のナイルの戦いで決着が付いたと見て良いと思うけど、この年の六月までカエサルはエジプトに滞在を続けることになるの。戦後処理もあったと思うけど、同時にクレオパトラと遊んでいた時期になるのよね」
    「おそらくユッキーさんが言っていた、カエサルがクレオパトラと遊んでいたの期間ですから、偽カエサルがエレギオンに来たのはこの間だと見て良いと思います」

カエサルがファルサルスの戦いで勝った後に逃げるポンペイウスをエジプトまで追ったのは自然の流れだと見ますが、そこで起ったアレキサンドリア戦役は計算外の出来事と見るのはシノブ部長と意見が一致しました。ついでに言うとクレオパトラとの出会いもです。

    「ところでシノブ部長。ローマ軍団ってよく言いますが、何万人ぐらいの単位だったのですか」
    「何万人? そんなにいないよミサキちゃん。カエサルの時代の編成は、まず百人隊が基本にあってこれが六つ集まって大隊を形成していたの。この大隊が十個集まったのが軍団だよ」
    「じゃあ、一個軍団って六千人ですか」
    「この辺は編成になるから細かいことを言いだすと長くなっちゃうけど、当時の主力は重装歩兵で、この主力兵の数が六千人ぐらいと考えておいたら良いと思うわ。これに騎兵部隊とか、補助兵種の軽装歩兵部隊が加わる感じかな」
    「じゃあ、一個軍団は六千人でイイのですね」
    「そうなんだけど、カエサルの軍団は少し違うの」
    「もっと多かったのですか?」
    「逆よ、もっと少なかったの。軍団って戦えば戦死者や負傷者が出るじゃない。とくにカエサルの軍団は九年間もガリアで戦っていたし、ファルサルスの決戦前にもスペインでもポンペイウスの軍団と戦っているの。戦うたびに欠員が生じるんだけど、原則としてカエサルは欠員補充をしなかったの」
    「戦いは数が多い方が有利じゃ・・・」
    「カエサルの考え方は違っていて、欠員による数の力の低下より、大隊とか百人隊の一体性を重視していたの。だから、ポンペイウスとの決戦に臨んだ頃のカエサルの軍団は三千五百人ぐらいじゃなかったかの推測もあるわ。その代り、歴戦の強者ばかりだから兵の質は飛び切り高かったぐらいだよ」

へぇ、そうなんだ。なにか戦いに関しては上杉謙信みたいなイメージが湧いてきたけど、ちょっと違うんだろうな。たしかに謙信は戦にはムチャクチャ強かったみたいだけど、戦略音痴みたいなところがありますからね。

    「ちょっと寄り道しちゃったけど、カエサルがエジプトで思わぬアクシデントに巻き込まれていた時に突発事態が起るのよね」
    「ポントス王フェルナケス二世による小アジア侵略ですね」
    「ポントス王国は黒海の南東部の沿岸にある国だけど、ミトリダテス六世の頃に隣接するボスボロス王国を併呑しさらに黒海沿岸を制覇してしまったの」
    「一種の英雄ですか」
    「そうとも言えない事もないけど、共和政ローマと対立関係になり三次に及ぶミトリダテス戦争が起るの。ポントスも強くて、第三次の時はルクルスが十一年戦っても決着が付かず、ポンペイウスが乗りだしてようやく勝ってるぐらい」
    「ミトリダテス六世はどうなったのですか」
    「息子のフェルナケス二世に殺された。フェルナケス二世は父の遺骸をローマに差し出し、ポントス・ボスボラスの支配を認めてもらってるんだけど、ポンペイウスとカエサルの争いが起ると。父が広げた領土の奪還を目指して動き始めたの」

うん、うん、フェルナケス二世は父を殺して王座を奪い、父の遺骸までローマに差し出しているのに、父の復讐戦を目指したってお話なの。まあ時代と言えばそれまでだけど、

    「ここでポイントなんだけど、カエサルもファルサルスでポンペイウスに勝った後に小アジア方面に有力な留守部隊を置いていたの。ポントス問題はカエサルだって気にしていたわけなのよ。ところがアレキサンドリア戦役が起ったので引き抜いちゃった」
    「全部ですか」
    「ううん、最初は三個軍団だったんだけど、二個軍団を引き抜いちゃったのよ。その一個軍団しかいない小アジアにポントス王フェルナケス二世が攻め込んできたぐらいかな。留守部隊はポントス軍と戦ったけど紀元前四八年十二月に惨敗。アンティオキアに逃げ込んでるわ」

こりゃ大事件だ。カエサルは紀元前四八年十月にポンペイウスを追ってアレキサンドリアに上陸し、その後に引き続いてエジプト内戦に巻き込まれ、アレキサンドリア戦役を戦ってるんだよね。これが紀元前四七年二月に決着が一応着くんだけど、

    「シノブ部長。ポントス王がローマ軍団を撃破したのはアレキサンドリア戦役の真っ最中ですよね」
    「そうよ」
    「だからポントス王の小アジア侵略を見守るしかなかったのはわかりますが、カエサルが動いたのは紀元前四七年六月。つまりポントス王が小アジアでローマ軍団に勝ってから半年後、ナイルの戦いからでも四か月後になりますよね」
    「そうなのよ、カエサルはポントス王フェルナケス二世が小アジアに勢力を広げて行っても悠々とクレオパトラと遊んでたわけなの」

カエサルの動きも不可解です。まあ、最大のライバルであったポンペイウスが亡くなったから、ポントス王が少々蠢動してもクレオパトラとのロマンスを優先させたと言えなくはありませんが、凡人ならそういう事をすればしっぺ返しがくるものです。たとえば、似たような行動を取ったアントニウスはオクタビアヌスに敗れ去っています。この辺は歴史学者もカエサルの行動に明確な理由を付けにくくて困っているようですが、歴史としては結果オーライで、

    「カエサルは紀元前四七年六月にエジプトを立ち、八月にゼラの戦いでポントス軍に圧勝してるわ」
    「有名な『ヴィニ、ヴィディ、ヴィチ』ですね」
    「そう、『来た、見た、勝った』の世界史に名を残す名言を残しちゃったわけ」

こんな結果を残されたのではクレオパトラと遊んでいたカエサルを非難するのは難しくなります。歴史研究をしている訳ではありませんから、カエサルが何を考えてクレオパトラと遊んでいたかの理由付けを考えてもしかたありませんが、クレオパトラと遊んでいる最中にエレギオンなんかに攻め寄せる理由も時間も無いのは確認できます。どう見たってエジプトに居るカエサルの次の軍事目標はポントス王であり、その前にエレギオン王国なんかに関わる時間も余裕もないからです。そうなると、あの夜に現れた偽カエサルは誰だになってきます。

    「ミサキちゃん、エレギオン王国に軍団を率いて現れそうなのは、とりあえず二人いるわ。ポントス王フェルナケス二世と小アジアにいたカエサル軍の指揮官」
    「でもフェルナケス二世は否定しても良いと思います。ユッキーさんははっきりとローマ軍団と仰ってましたし、シチリアの強制連行もセットになってますから」
    「そうよね、だとすれば・・・指揮官のグナエウス・ドミティウス・カルウィヌスになりそうなんだけど・・・」

ドミティウスは小アジアでフェルナケス二世の牽制を命じられたものの、アレキサンドリア戦役に手持ちの三軍団のうち二軍団を引き抜かれ惨敗を喫し、アンティオキアに逃げ込んでいます。

    「ドミティウスならローマ軍団を率いてるし、当時はアントニウスの上席だったから可能性はあるんだけど、フェルナケス二世に敗れた後はアンティオキアに逼塞状態なのよね。ここで問題なのはドミティウスが率いてた軍団」
    「たしか第二十二軍団だったんじゃ」
    「第二十二軍団として正規軍に編入されたのはアウグスツスの時代で、カエサルの時代にはまだ第二十二軍団は存在しないのよ」
    「じゃあ、ドミティウスはどんな軍団を率いていたのですか」
    「ここが煩雑というか、ハッキリしないところなんだけど。正規軍になる前の第二十二軍団なの」

シノブ部長の説明によると第二十二軍団が設立されたのがなんと紀元前四八年、つまりはカエサルとポンペイウスの内戦が勃発した年になるそうです。その設立者はデイオタルスであり、これは正規の第二十二軍団になってからも名称がデイオタリアナとなっているので確実です。

このデイオタルスなんですが、小アジアの中心部あたりに位置するガラティア西部のトリストボギイ族の族長になります。このガラティアはかつては王国であり、盛衰は色々ありましたが、紀元前六四年にローマの属国になり王国は解体されています。解体され時に三人の族長の支配に代わったのですが、おそらくその一人ないし、その息子ぐらいがデイオタルスだろうと推測されます。ガラティアは北をポントスと接しているため、ポントス王国と接しているため、その支配を受けた事もありますが、第三次ミトリダテス戦争の時にポンペイウスに協力し、デイオタルスはガラティア王として認められます。

    「そうなるとデイオタルスはポンペイウスのクリエンティスですか」
    「おそらく」
    「じゃあ、軍団を作ったのもポンペイウスのため」
    「時期的に他の可能性を考えにくいし」

このデイオタリアナ軍団がファルサルスの決戦に参加したかどうかは不明ですが、

    「ポンペイウスもポントス王国の動向に注意していた可能性があるから、決戦には参加しなかったんじゃないかと見ている」

ガラティア王国というかデイオタリスは、ポンペイウスに忠実と言うよりローマに忠実でしたから、ポンペイウスが敗れたらカエサルにあっさり乗り換えたぐらいとシノブ部長は考えています。

    「そうなるとドミティウスは当初はカエサル軍団二つとデイオタリアナ軍団を率いていたのが、アレクサンドリア戦役の援軍のためにカエサル軍団を派遣し、デイオタリアナ軍団のみで決戦を行ったことになりますか」
    「そうなるんだけど、デイオタリアナ軍団の位置づけが問題なのよ。デイオタルスはポンペイウスに協力してポントスのドミテウスと戦った時には友邦軍として記録されてるの」
    「その功績でガラティア王として認められてますものね」
    「私の見方になるけど、デイオタリスはポンペイウスのためにデイオタリウス軍団を作り、ポンペイウスがファルサルスで敗れた後にカエサルに付いた時にデイオタリウス軍団はカエサル軍に属したと思ってる」
    「じゃあ、ドミティウスがポントス王ファルナケス二世に敗れた時はデイオタリアナ軍団と、ガラティア王国軍を率いて戦ったぐらいでしょうか」
    「そう考えてる。カエサルが二個軍団をアレキサンドリア戦役に二個軍団を引き抜いたのは、ガラティア王国軍がいたからだと思う」

なるほど。デイオタリアナ軍団はカエサルの軍団になっていたからドミティウスが率いる必要があり、さらにデイオタリアナ軍団はガラティア王のデイオタリスが作ったものだからアレキサンドリア戦役に投入しにくいってところと見てもよさそうです。

    「ここで大きな問題はドミティウスがファルナケス二世に敗れた後なんだけど、ドミティウスがアンティオキアに逃げ込んだのは史実として、デイオタリアナ軍団がどこに行ったのかよ。敗兵がアンティオキアに付いて行かなかった可能性を考えてる。デイオタリアナ軍団はおそらくガラティア兵で構成されてるから、デイオタリスの下に逃げた可能性もあると考えてる」

シノブ部長も微妙過ぎるというか、あくまでも可能性の一つとしていますが、デイオタリアナ軍団はポンペイウスのために作られた軍団ですから、装備や軍制はローマ軍団そのものじゃなかったかと考えています。

    「ミサキちゃん。私も最初は消去法からドミティウスの可能性を考えていたのだけど、ドミティウスがローマ軍団を率いてエレギオン王国を攻める理由が思いつかないのよね。ドミティウスはポントス王フェルナケス二世との戦いに敗れ後はカエサルに軍事で使われることはなく、オクタビアヌスの時代でも軍事では奮わないのよ」
    「でもアンティオキアで軍団の再編成に努めていたとか」
    「それも考えたけど、カエサルは軍団が消耗した時に補充再建するより新たな軍団を作るのが基本なの。正規軍団ならまだしも、ファルサルスの後に寝返った、デイオタリスの私兵軍団をわざわざ再建するのは違和感があるのよね」

シノブ部長の説は、見かけがローマ軍団と同じデイオタリアナ軍団は、ポントス王フェルナケス二世との戦いで敗れた後に、実質的なオーナーのデイオルタスが再建に努めたんじゃないだろうかです。

    「この辺もハッキリしないのだけど、ドミティウスが敗れた後にポントス王国はガラティア王国に侵攻したと思うの。カエサルが来るまでに小アジアの六十%以上を占領したとなってるし。デイオタルスにすれば、なんとしても自前の軍団を再建して、ポントス王国軍を追い出す必要が生じたんじゃないかと思ってるの。だって頼みのカエサルはクレオパトラと遊んでるし」

ミサキの頭の中でこれまでの矛盾点が解消されていく気がします。エレギオン王国に現れた謎のローマ軍団。カエサルを名乗る男に率いられていますが、やったことは手荒な軍資金強要です。カエサル指揮下のローマ軍団では考えにくい行動ですが、デイオルタスなら可能性は十分あります。軍団の再建のためには軍資金が必要ですし、ガラティア王国はポントス王国に踏みにじられていますから、どこか他所で調達する必要があります。エレギオン王国が目を付けられたのは、小国の割にはリッチそうぐらいでしょうか。

    「ユッキーさんはカエサルに書状を送ったって言ってたじゃない。あれって、本当はデイオルタスに奴隷として売り飛ばされそうなのを救ってくれの内容じゃないかしら」
    「そうかもしれません。ユッキーさんも少し話を飾った可能性があります。コトリ部長と違ってユッキーさんはカエサルを名乗る男にかなり怪しんでいましたから、本物のカエサルに早い段階で書状を送っても不思議ないと思います。ですから王国破壊の代償としてシチリアに新たな居住地を提供したぐらいです」
    「私もそんな感じがする。カエサルはポントス王フェルナケス二世の撃破のためにデイオタリアナ軍団が必要だったからデイオルタスの行為を黙認したけど、その代わりにデイオルタスから再建されたデイオタリアナ軍団を召し上げてしまったぐらいに思うわ」

デイオルタス自身は王位も王国も保持されましたが、カエサルへの反感は持った可能性があります。紀元前四四年にはカエサル暗殺で告発されていますし、紀元前四五年のカエサル暗殺後はマルクス・ブルータスを支持しています。

    「ミサキちゃん、これ以上は証拠がないけど、偽カエサルはガラティア王デイオルタスと結論しても良い思うの」
    「わたしもそう思います」

そこまで話し時に佐竹次長から、

    「香坂君、良かったら晩御飯食べて行って。心配しなくてもボクが作るんじゃなくて、シノブに作ってもらうから」
    「そんなぁ、夕食まで御馳走してもらったら悪いです」
    「いやね、今日の話を耳にしながら、ちょっと思いついた事があるから聞いて欲しいんだ」

そこにシノブ部長も、

    「食べて行って、えっと、これはブライダル事業本部長命令です」

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2018-06-16 女神伝説第2部:首座の女神のお出まし

山本先生には日曜日の午後三時の御自宅に訪問する事になりました。またあのマンションに行くことになると思うと、それだけで気が重いのですが、前の時ほど危なくないはずです。ただ、

    「加納さんも御在宅なの」

出来れば不在が望ましかったのですが、シノブ部長によると、コトリ部長の心配事の相談と聞いて、無理して時間を作ってくれたみたいです。有難迷惑なんですが、それだけコトリ部長を心配されている加納さんを騙すことになるのに心が痛みます。シノブ部長が迎えにきて頂いて山本先生のマンションへ。エレベータの中で、

    「また来ることになるとはね」

シノブ部長も同じことを考えておられるようです。インターフォンを押すと加納さんのお出迎え。何度お会いしても、その美しさに目を瞠らされます。リビングに案内されてシノブ部長の方を見てみると、眩いばかりに光り輝いています。『いきなり』って思ったら山本先生と加納さんがソファに崩れ込みました。

    「なにをするつもりだ輝く女神。こんなところで一撃を放てばどうなるか知っておるだろう。そなたのコントロールではどこに飛ぶかわからん。壁や天井なら大穴が空く程度でまだ済むが、床に当たれば、このマンションがどうなるかわからん。確実に死人が出るぞ」

首座の女神も輝く女神の一撃の威力とコントロールの悪さを良く御存じのようです。

    「失礼については重々お詫びしますが、コトリ先輩が非常事態なのです」
    「なにがあった」

ここからバーでガイウスと呼ばれる男とコトリ部長の出会い。願掛けカクテルの話、会社での変貌ぶり、さらにマルコの推測を話しました。

    「私もミサキちゃんも記憶が封じられています。まずコトリ部長はカエサルと信じ込んでいると思われます。でもそうでない可能性があるのは、今お話した通りです。あの時のカエサルを知っておられるのは首座の女神様しかおられません」
    「そういうことか・・・ふぅ、今日はユッキーでイイよ。あなたがたが心配するのは良くわかったから、あれだけ無茶したのも全部許してあげる」
    「ありがとうございます」

首座の女神の雰囲気が変わった。今日はユッキーさんとして話してくれそうだ、

    「当時の情勢としてギリシャからオリエント諸国はポンペイウス派が多かったの。エレギオンも海賊退治の時にポンペイウスのクリエンティスになっていたのよ。カエサルとの対立が決定的になってローマからポンペイウスが移ってきた時もそれは変わらなかったわ」

昔を思い出すような話しぶりです。

    「エレギオンもポンペイウスの求めに応じて資金提供を行ったわ。クリエンティスだったから当然とも言えるし、あれだけの軍事力を背景に要求されたら断るなんて選択枝はなかったもの」
    「周辺の国々も横並びだったんでしょうね」
    「そうよ。そして決戦は始まったんだけど、ファルサルスの戦いで敗れたポンペイウスは、エジプトまで逃げたものの暗殺されて終ってしまった」
    「歴史的事実ですね」
    「ポンペイウスに勝ったカエサルはオリエントのポンペイウス派の一掃というか、取り込みを行ったのよ。あっという間にカエサル派に靡いて行ったよ」

小国が生き残るにはそうするしかありません。

    「エレギオンにもカエサルの使者が来たから、カエサルに恭順する事を誓い、軍資金提供にも応じたわ。わかるかな、エレギオンはたしかにポンペイウスに加担したけど、周辺諸国と横並び程度の加担だし、ポンペイウスが敗れた時も横並びでカエサルに靡いただけなの」

わかりますが、そこに何か問題でも、

    「また来たのよ。それもカエサルを名乗り軍団を引き連れて。あれが本当のカエサルかどうかはコトリと意見が分かれたけど、ローマ軍団の脅威は現実だからとにかく交渉に当たったの」

カエサルと称する男が誰なのかについて、ユッキーさんとコトリ部長の見解は分かれたんだ、

    「あの交渉は不自然なところが幾つもあったのよ。資金提供の追加だけなら使者で十分だでしょ。それと正直なところ、ポンペイウスとカエサルに既に行った資金提供で金庫にはもうカラッポ状態だったのよ」

エレギオンに要求された資金提供はそれほど大きかったんだ。

    「そしたらね、カエサルへの忠誠の証として資金提供を行えって言うのよね。そこで既に資金提供は行ったと言ったら・・・今でも覚えてるけど、あの男の表情に意外って表情が浮かんだのよ」
    「どういうことですか」
    「あれはその前にカエサルに資金提供を行ったのを知らなかったからだと思うわ。そしたらね、さっと表情を消して、

      『さらなる忠誠の証を求める』

    こう言い直したのよ。この時の交渉が難航したのは、無い袖は振れない状態だった事に尽きるわ。カネさえあれば払ったら済むんだけど、無いカネを払うのを要求されて、これをなんとか断る交渉になったからなの」

こりゃ厳しい交渉だ。ポンペイウスに勝ってローマの覇者になっているカエサルが軍団を引き連れて『カネを出せ』と来ているのに、カネがないのですから。

    「払いたくとも払えない事情を説明したんだけど、全然納得してくれなくて、エレギオンが財宝を隠してると決めつけられ、カエサルへの反抗勢力だとも言い出したの。挙句の果てに、

      『カエサルにあくまでも逆らうのなら、エレギオンを滅ぼすだけでなく、国民も抹殺する』

    ここまで言い出す始末なの」

う〜ん、英雄カエサルにして違和感アリアリの交渉だ。

    オリハルコンを求めたんじゃないですか」
    「オリハルコン? オレイカルコスのことね。はははは、あれは単なる真鍮よ。今なら六四黄銅だよ。たしかにあの当時に六四黄銅を作れる技術は先進的だったけど、真鍮はどこまで行っても真鍮に過ぎないよ」
    「でも、六四黄銅を使ってニセ金貨を作ってカエサルが資金源にした話もありますが」
    「出来るわけないじゃないの。それで騙せるのなら、トットと支払ってお引き取り頂いたわ」

それもそうだ、

    「結局交渉は決裂になったのよね」
    「えっ、コトリ部長はシチリアへの強制移住で国民の命を救ったって言ってましたが」
    「ああ、それ。コトリも義理堅いね。表向きというか、国民への説明がそうしとこうってコトリと約束しただけ。実際は交渉決裂だよ。さすがに、もう時効でイイと思うよ」
    「都市が破壊されたのは?」
    「あの男が執念深く隠されていると信じた財宝を探したのと、少しでも金目のものをかき集めるため。まあ何にもなかったから、腹いせに都市ごと壊しちゃったぐらい」

カエサルとエレギオンの交渉の様相はコトリ部長から聞いた話とかなり異なります。

    「では、コトリ部長がカエサルに抱かれて交渉をまとめたお話は?」
    「コトリがどんな説明をしたかは知らないけど、交渉の途中でわたしとコトリにあの男は目を付けたのよ。あの時もコトリと意見が分かれたんだけど、とにかく国の存亡がかかってるから、女の武器を使っても少しでも交渉を有利に運びたいとコトリは主張したのよね。わたしも女の武器も必要とあれば使うのは躊躇わないけど、どうにも抱かれ損になりそうだから反対したの」

どうもコトリ部長の話と微妙に食い違います。

    「あの時は不思議だったな。わたしとコトリは好きな男のタイプは不思議と被るのよ。でもあの男だけは意見が綺麗に別れちゃった。どういう理由か知らないけど、コトリはあの男に魅かれまくっちゃったの」
    「そう言えば、コトリ部長はカエサルと名乗る男が『抱かせろ』と要求したのを男らしいって言ってました」
    「そこもおかしな点なのよね。カエサルは好きになった女なら、相手が人妻でも口説きまくった男だけど、きっちり手順を踏む男なのよね。引っ張り込んで押し倒すなんてのは論外で、ちゃんと落としてから抱くのよ」

それも聞いたことがある。好きな女を口説くためなら、高価なプレゼントのために莫大な借金を重ねても気にもしなかったらしい。

    「エレギオン国民が助かったのは」
    「あれは助かったんじゃないわ。抹殺は単なる脅しで、最初からそんな気はなかっただけ。だって抹殺するのは手間と時間がかかるし、儲かる訳でもないでしょ。労働力としてシチリアに強制連行されただけ」
    「まさか、奴隷として」
    「には、ならなかった。これも不思議な点だけど、連行中にカエサルに書状を送ったら、シチリアに着いた頃には植民者扱いにするって命令が下ってたの」

これだけ話が違うのなら、

    「コトリ部長は抱かれたのは一晩だけって言ってましたが」
    「まさか、しばらくは向こうの陣営で暮らしてたよ。まあベッドで国民の抹殺を中止させるのに成功したって言うものだから『ハイハイ』って聞いてあげてた。イイ思いをしたのは事実みたいだし、どれだけ効果はあったかは不明だけど、人身御供になってくれたんだから、素直に褒めてあげた」

肝心な点の確認をしておかなければ、

    「ユッキーさん、エレギオンに来た男はカエサルですか」
    「そう名乗ってた」
    「でも、カエサルらしく無い気が」
    「本物のカエサルかどうかって質問? それなら答えは簡単、別人よ。カエサルはあの時はエジプトでクレオパトラと遊んでた。エレギオンなんて来るわけないじゃないの」

やっぱりあの男はカエサルじゃなかったんだ。

    「どうしてコトリ部長はカエサルと信じ込んでいるのですか」
    「それはね・・・これは絶対にコトリに言っちゃダメよ。聞いたかもしれないけど、コトリの出自は大変なところからスタートしているの。わたしもコトリをなんとかしてあげようと頑張ったつもりだったけど、当時ではなかなかね」

これはアラッタ時代の話だ。

    「これは出自と関係ないかもしれないけど、コトリって有名人に憧れるというか、弱いのよ。ところがね、わたしもコトリも記憶は遥か五千年以上を遡っちゃうんだけど、いわゆる世界史に名を残すような大人物と会った事もないし、ましてや抱かれるような関係になったことはないの」
    「カエサルも?」
    「カエサルだけじゃないよ、ポンペイウスやオクタビアヌスも近いところにいた事はあるけど見たことすらないの。歴代ローマ皇帝だって、ハドリアヌスが通るのを遠くで見ていたぐらいだよ。まあ、この辺は神殿で女神やってたから、出歩く範囲がどうしても狭くってさぁ」

言われてみればそうだ。ユッキーさんは首座の女神、コトリ部長は次座の女神で、常に祭祀と政治の中心にいたので、そうそう出歩くわけにはいかないものね。

    「エレギオンの時もそうだったし、シチリアに移ってからもそうだった。わたしなんてパレルモにさえ行った事ないんだもの。まあ、コトリはタラントぐらいまでは出かけたこともあったみたいだけど、ローマなんて話に聞いただけ」

この辺はパクス・ロマーナの世界になっても女性が旅するのは大変みたいなところもあったんだろうな。

    「コトリにとってエレギオンの最後を過ごした男はカエサルであって欲しいのよ。長過ぎる記憶の中でコトリにとって唯一の晴れ舞台みたいな感じかな。たぶんだけど、そうであって欲しいの願望が記憶を少し変形させていると思うわ」

なんかわかる気がする。コトリ部長がカエサルに抱かれた話だって、たまたまユッキーさんが覚えているから、こうやって事実関係がわかるけど、二千年前の話なんて、本来は誰も確かめようがない話だものね。それに今回みたいに偽カエサルが現われなかったら、確かめることさえない話だもの。

でもユッキーさんの話を聞いて、カエサル問題はさらに厄介になった気がする。あの偽カエサルはコトリ部長にとっては本物なんだ。二千年も夢見ていた本物なんだ。これをミサキが『実はニセ者』って言ったところで、どうにかなるかに自信がありません。ここでユッキーさんに偽カエサル登場による影響の懸念をしてみました。冷たく突き放されるかと心配していましたが、

    「それは困ったわねぇ。気持ちはわかるけど、わたしではどうしようもないわ。わたしがコトリに言っても聞いてくれると思えないし、あなたたちなら、なおさらでしょうし」

ユッキーさんとコトリ部長の関係は親友であり盟友ではありますが、とにかく付き合った期間が長すぎて、今じゃまともな会話になりにくいところがあります。

    「最悪のケースとしてクレイエールが潰れるのは覚悟しておいた方がイイかもしれない。でも・・・」
    「でも、なんですか?」
    「コトリは賢いのよ、だから知恵の女神なの。あのコトリをいつまでも騙せるとは思えないのよ。必ずどこかでボロが出るはずだし、それに気が付かないコトリじゃないわ」
    「でも恋は盲目って言うじゃありませんか」
    「うふふふ、そういう面はコトリにもあるけど、一方で恋の大ベテランなのよ。今は待つのがイイと思う。そうそう、かなり長くお話しちゃったから、誤魔化すのは大変だと思うけど頑張ってね」

そう言われてユッキーさんは消えられました。そこからミサキとシノブ部長がどれだけ大変な目をして誤魔化したかは・・・置いときます。ああ、ユッキーさんを呼び出すためのサインを作るの忘れてた。次があったら、またこれやらなきゃならないとは。トホホホ。

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2018-06-15 女神伝説第2部:ガチの作戦会議

今日はシノブ部長のお宅にお邪魔してます。カエサル問題をゆっくり相談したかったのです。まずマルコの立てた偽カエサル説にシノブ部長も基本的に賛成してくれました。

    「そうなると問題はコトリ先輩の恋をどうするかになるのよね。本物のカエサルより落ちる人物でも、今わかっている限りで言えば、かなりの人物よ。それであれば邪魔するのは良くないわ」
    「そこなんですよね。ただ、『かなりに人物』かどうかも判断するには情報が乏しすぎる面があります。そもそも本当にアッバス財閥の有力者かどうかさえわからないじゃないですか」

シノブ部長も調査課を使って調べてくれているようですが、自称カエサルの現在の地位や名前は杳として判明していません。

    「それと偽であっても前に考えたことは起る可能性はある」

神をスタッフとして欲しい自称カエサルは、コトリ部長だけではなくミサキやシノブ部長も引き抜きに来るだろうし、これに応じなければクレイエールは潰される危険性があります。

    「少し話を整理しましょ。とりあえずの要点はコトリ先輩にカエサルが偽物である可能性を伝えるかどうかよ」
    「伝えるべきだと思います」
    「でもコトリ先輩は信じないかもしれないわ。ここを下手にこじらせてしまうと、二度とコトリ先輩と話も出来なくなるかもしれないの」
    「では、やはり」
    「そうなんだけど、どうやってお出まし願うかが難しいのよね」

とにもかくにも首座の女神にお出まし願うのは、毎度毎度大変です。ミサキやシノブ部長のように宿主である人と一体になっていてくれたら話は簡単なのですが、山本先生の体の中で住んでる状態で、こちらから直接連絡する方法がまずありません。前にコトリ部長が首座の女神は隠居状態と言う表現が今さらながら良くわかります。首座の女神がお出ましになる時には、山本先生に眠ってもらう必要があるのですが、これが出来るのもまた首座の女神だけ。ミサキには出来ませんし、シノブ部長ではどうも力の加減が悪く、山本先生を傷つけかねないのです。

さらに複雑なのが加納志織さんの存在。加納さんに眠った主女神がおられるのですが、山本先生と御夫婦ですから、もし同席すれば眠ってもらわないといけませんし、加納さんを眠らせることが出来るのも首座の女神だけです。ここ何回か、加納さんの留守を狙って首座の女神を呼び出していますが、あんまり使うと、これも宜しくありません。

    「まだ問題があるのよね。山本先生とは何度か会ってるから知り合いではあるのだけど、友達って程の関係じゃないのよ。私でもその程度だし、ミサキちゃんとなるともっと関係は薄くなるの」
    「コトリ部長がいてこその関係ですものね」
    「舞子の決闘の後は、会う理由はあったけど、カエサル問題じゃ理由にならないのよ」
    「たしかに」
    「たとえばだけど、山本先生の家を訪問するのさえ、コトリ先輩抜きじゃ理由が立たないのよ」

次に首座の女神に会う時にはコトリ部長抜きが望ましいですし、たとえコトリ部長を誘っても来られるかどうか不明です。コトリ部長も首座の女神と用事も無しに積極的に会いたがらないところがあります。

    「ミサキちゃん、否定材料ばっかり並べて申し訳ないと思うけど、ここのところ、なんだかんだで首座の女神に何回か会ってるじゃない。お出ましになる時は山本先生の意識はなくなるのだけど、山本先生も意識が無くなる自覚はあるのよね。いつも誤魔化してるけど、それもそろそろ限界になってる気がしてるの」

カエサル問題はミサキにもシノブ部長にも大きな影響があると懸念しています。もちろんコトリ部長もそうなんですが、とにかく山本先生にしろ、加納さんにしろ人としては無関係なのです。

    「でも会わないと本当に困った事態になります。会ったから解決するとは限りませんが、会わないと話が進みません」

シノブ部長もウンウンと考え込んでしまわれました。ようやく顔を口を開かれたので何か上手い方法でも思いつかれたかと期待したのですが、

    「なんにも思いつかないわ」

やっぱりねぇ。

    「でもユッキーさんには会わないといけないわ」
    「でも、どうやって」
    「正面から行くしかないと思うの」

シノブ部長も最初は山本先生を誤魔化し、加納さんを遠ざける方法をあれこれ考えておられたそうですが、どうしても無理が出てしまうとのことで、これはミサキも同意見です。

    「会いに行く名目は、嘘偽りなくコトリ部長について心配事があるにするわ。これなら山本先生に相談しても不自然さは少ないし、山本先生に相談する事でユッキーさんにも要件が伝わるじゃない」
    「加納さんは?」
    「いなければラッキー、おられたらユッキーさんになんとかしてもらう」
    「首座の女神がそれでも、お出ましになられなかったら」
    「一撃を喰らわせる」
    「ちょっと、ちょっと待ってくださいよ、シノブ部長が一撃を放つと翌日まで意識を失われますし、当たったところは大変な事になります」
    「それはユッキーさんも知っておられるから、撃つ前に出て来ざるを得なくなる」

シノブ部長らしくない強引なやり方ですが、そこまですれば首座の女神は出て来ざるを得なくなるのは確実です。

    「ミサキちゃん、ここで頼みがあるの。行くのは今度の土曜か日曜で私が連絡を取るから、山本先生が納得しそうなコトリ先輩の心配事を考えておいてくれる」
    「ミサキがですか」
    「私はウソを考えるのは下手なの」
    「ミサキも得意じゃ・・・」

とは言うものの、すべてシノブ部長にお任せでは申し訳ありません。やはりコトリ部長は知恵の女神だとつくづく思いました。これぐらいの事は、山本先生の家に行ってからでも思いつきそう。

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2018-06-14 女神伝説第2部:マルコの推理

コトリ部長とカエサルの関係が気になって仕方ないのですが、コトリ部長はいつも通り、いや気のせいか、いつも以上に快調に仕事をこなされているように感じます。もともと人間業とは思えないスピードで仕事をされますが、これがさらに加速されている感じです。さらに微笑みに輝きが増しているように感じてなりません。コトリ部長の微笑みは魔王の心理攻撃中でも絶えることはなかったのですが、ミサキが見てもさらに魅力が増しています。それこそ見る者を陶然とさせるほどの微笑みです。

なんとか、その後のカエサルとの関係がどうなっているかを聞きだしたいのですが、五時が来るとサッサと帰られます。いや、あれはイソイソと帰られるように見えて仕方ありません。会社を出る時の微笑みを何度か見たのですが、ミサキがそう思うせいか、愛しい人のところへ飛んでいくように見えます。誰かを連れて飲みにいくのもバッタリと無くなってしまいました。歴女の会にも顔を出されません。シノブ部長からも会うたびに、

    「コトリ先輩から何か聞いた?」

こう聞かれるのですが、そういうプライベートな話題に触れさせてもくれない感じです。ミサキもコトリ部長の秘書役みたいな仕事は既に終わっており、そうなると本部長と課長代理ですから、同じジュエリー事業部でもそうそう話をすることもないのです。もちろんゼロではありませんが、仕事上の必要な会話だけで済ますと次の仕事に飛んで行ってしまわれます。

シノブ部長に相談したいのですが、まだまだ子育て中で夜に飲みに行くなんて、そうそうは出来ません。首座の女神との相談も考えましたが、呼び出すのが大変な上に、コトリ部長の恋を挫折させたいのか、それとも成就させたうえで、マルコとミサキがアラブに連れて行かれないようにの相談かもあやふや過ぎる状態です。こんな状態で相談したところで、

    「それはあなたが決めること」

これ以上の返答があるとは思いにくいところです。そこでマルコに相談してみたのですが、

    「その男は本当にカエサルなのか?」

マルコはエレギオンの五人の女神が宿主を渡り歩いて現在まで生き残っている話までは信じてくれています。

    「ミサ〜キ、仮にカエサルだとしたら、カエサルが死んでからも引き続いて新しいカエサルが登場することになるじゃないか。あれだけの英雄がポンポン生まれていたら、ローマ帝国は永遠に滅びないよ」

これは確実に一理あります。コトリ部長は延々と次座の女神をされておられたので気が付きにくかったのですが、古代ローマ帝国にはカエサルに匹敵するような皇帝は二度と現れなかったと見て良さそうです。

    「こう考えるのはどうかしら。カエサルは英雄だけど、動乱の時にしか活躍できないタイプだとか」
    「そういう種類の英雄もいるけど、カエサルはそうでないと思う。それにローマ帝国も滅びる寸前まで平穏無事だった訳じゃないだろ」
    「じゃあ、ブルータスに暗殺されたのに愛想を尽かしてローマ帝国から出たとか」
    「それも無いとは言わないけど、古代ローマ帝国を取り巻く国々にもカエサルが出たとも思えないよ」
    「だったら、だったら、中国に行ったとか」
    「そりゃ、インドだって行こうと思えば行けるけど、無理がないかい」
    「たしかに」

マルコのカエサルはどこに行っていたのかの問いかけは、一蹴するには重すぎる物があります。

    「でもコトリ部長は見た瞬間にカエサルとわかったみたいだよ」
    「騙されてるんじゃないかなぁ」
    「どういうこと?」
    「神の起源はミサ〜キの話を信じる限り五千年以上は余裕で遡る」
    「そうみたいだけど」
    「神は例外的な場合を除いて増えない」
    「そうだよねぇ」

マルコは少し考えてから、

    「しかしミサ〜キとシノ〜ブはコト〜リが作ったんだよね」
    「そうらしい」
    「だったらカエサルも腹心を作ったんじゃないか」

マルコがここまで冷静に物事を分析できる人とは初めて知りました。これは惚れ直しそう。

    「カエサルはたしかに名門であるユリアヌス一門の出身ではあるが、ユリアヌス一門の勢力自体は大きくなかったで良いと思う。カエサルがガリアを征服し、内乱を勝ち抜いたのはカエサルの力量であるのは間違いないけど、あれだけの成功を収めるには優秀なスタッフが必要だよ」
    「そうよね、でもカエサルはそういうスタッフの育成にも優れていたとされているわ」
    「士官は育成できても、将官の育成は難しいんだ。どうしたって個人の力量にかかる部分が多いからね。だからカエサルは促成で将官を育成するために力を分け与えて新たな神を作った可能性は残る」

今日はマルコに感心しっぱなしなんですが、

    「でもマルコの説に一つだけネックがあるわ」
    「なんだい」
    「コトリ部長はカエサルに会ってるし、抱かれてるのよ。二千年前とはいえ間違えるかしら」
    「コト〜リは間違っていないと思う」
    「どういうこと」
    「コト〜リが二千年前に会ったのはカエサルではなかったんだ」

マルコの話が頭の中でつながっていきます。カエサルと古代エレギオンの関係でシックリ来ないのはエレギオン王国を国民ごと抹殺しようとした点です。カエサルも裏切りを繰り返す部族や勢力に対して果断な処置を取っていますが、エレギオン王国はポンペイウスに与していたとはいえ、カエサル軍団が迫ると降伏して求められるものを差し出しています。それなのに単に降伏させるだけでなく、国民抹殺まで考えるのは余りにもカエサルらしくないのです。

    「だとすると、コトリ部長が会ったカエサルとは」
    「カエサルの影武者みたいなものじゃないかな。コト〜リだってその自称カエサルに会ったのは一度きりだろうし、シチリアに移住してからもカエサル本人に会っていない可能性が高いよ。つまりは本物のカエサルを見たことがないかもしれないんだ」
    「じゃあ、本物のカエサルは?」
    「ブルータスに殺された。ブルータスもまた神だったんじゃないかな」

今夜ほどマルコが頼もしく見えたことはなかったかもしれません。コトリ部長がエレギオンで会ったカエサルは、カエサルが作った神で、カエサルの影武者としてエレギオンに派遣されてことになります。

    「一つわからないのが、どうしてエレギオン国民の抹殺をしようとしたのかしら」
    「おそらくカエサルからの命令ではないと思う。単に軍事的な威圧だけの命令を受けていたんじゃないかなぁ。でもそれじゃ、くたびれ儲けだから、私腹を肥やそうとしたんじゃないかと思う。しかしその前に本物のカエサルの要求に差し出した後だから、たいした財宝は残っていなかった」
    「あっ、そっか、これをエレギオンが財宝を隠していると邪推した偽カエサルは国民抹殺の脅しをかけたんだ」
    「おそらくそうだと思う。そこで都市中を探しつくすために、エレギオン王国を徹底的に破壊して財宝を探した」
    「でもそんな事をすれば本物のカエサルが怒るんじゃない」
    「本物のカエサルは忙しかったんだよ。おそらくエレギオン王国が反抗したから、住民には温情をかけてシチリアに強制移住としたが、都市自体は見せしめのために破壊したとの報告を信じたんじゃないのかな。言っちゃ悪いが、エレギオン王国程度がどうなったかを確認するほどカエサルはヒマじゃなかったんだ」

これなら話にすべて筋が通るわ。マルコえらい、マルコ愛してる。

    「ミサ〜キ、ラ・ボーテからの一連の騒動もカエサルにしたら手際が悪すぎると思わないか。たとえミサ〜キの言う通りに、女神であるコト〜リを部下にしたかったにしろ、やることが大仰すぎる気がするんだ。カエサルならもっとスマートにエレガントに事を運ぶと思うよ」
    「マルコの言う通りだわ。マルコ、だ〜いすき、お礼に今晩は寝かさないわよ」
    「ミサ〜キ、それはお礼なのか」
    「ミサキを愛していないの」
    「愛してるよ」

マルコの話は全部推測だけど、これならすべて辻褄が合うのは間違いない。どちらにしても確認しようがないものね。もし確認するには・・・首座の女神なら何か知ってるかもしれない。でもそうなると、またなにか作戦を考えないと。う〜ん、頭が痛い。

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