昨日は予算院会ネタを1回休みましたが柳沢大臣と安倍総理の答弁の拠り所とした聖書である医師の需給に関する検討会報告書をやっと読み終わりました。この検討会に名を連ねた委員は、
池田康夫 慶應義塾大学医学部長 泉 陽子 茨城県保健福祉部医監兼次長 内田健夫 社団法人日本医師会常任理事(第13回〜) 江上節子 東日本旅客鉄道株式会社顧問 川崎明徳 学校法人川崎学園理事長、社団法人日本私立医科大学協会長 小山田恵 社団法人全国自治体病院協議会長 水田祥代 国立大学法人九州大学病院長 土屋隆 社団法人日本医師会常任理事(第1〜12回) 長谷川敏彦 日本医科大学医療管理学教室主任教授 古橋美智子 社団法人日本看護協会副会長 本田麻由美 読売新聞東京本社編集局社会保障部記者 矢崎義雄 (座長) 独立行政法人国立病院機構理事長 山本修三 社団法人日本病院会会長 吉新通康 東京北社会保険病院管理者、社団法人地域医療振興協会理事長 吉村博邦 北里大学医学部教授、全国医学部長病院長会議顧問
以上の15人です。読んで納得したのですが、この報告書をベースに答弁したのなら、答弁内容が何故批判されたのかも本人は理解していないかもしれません。また安倍総理が何度も強調した100億円の医師「確保」対策費も、この報告書をかなりベースに作られているのがわかります。いかに素晴らしい報告書か紹介していきたいと思います。
報告書のタイトルが「医師需給に関する・・・」ですから、この報告書で余る余ると幾度と無く繰り返される医師の数の推測をまず引用します。
現状の医学部入学定員で推移すれば、無職や保健医療関係以外の業務に従事している医師を除いた全ての医師数(医療施設以外の従事者を含む医師数)は、平成27年(2015年)には29.9 万人(人口10万対 237人)、平成37 年(2025年)には32.6万人(人口10万対 269 人)、平成47 年(2035年)には33.9万人(人口10万対 299人)となると推計される。また、医療施設に従事する医師は、平成27年(2015年)には28.6万人(人口10万対 227人)、平成37年(2025年)には31.1万人(人口10万対 257人)、平成47年(2035年)には32.4万人(人口10万対 285人)となると推計される。
表にしてみます
年 | 医師総数 | 人口10万人対医師数 | 医療施設での人口10万人対医師数 |
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平成27年 | |||
平成37年 | |||
平成47年 |
実に念入りな過剰予測で、今から20年後にOECDの現在の平均にも追いつかない計算です。また医師数の計算の注釈にはこうも書かれていました。
なお、平成10年に行われた検討では、医師の労働力提供を70歳までとしていたが、医師・歯科医師・薬剤師調査における現在の回答状況及び就労状況にかんがみ、今回は上限を設定していない。
次に医師以外でも感じ始めている絶滅危惧種である小児科、産科、麻酔科の動向についても検討しています。
小児科 | 産婦人科 | 麻酔科 |
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小児科については、平成16 年医師・歯科医師・薬剤師調査では、14,677人と平成14 年調査に比べ、約200 名増加している。病院に従事する医師は、この間に8,429人から8,393 人と約40人減少しているが、各年齢階級における病院に従事する医師の割合の変化は明らかではなく、臨床研修制度の開始により診療科に従事する医師の就職が遅れた影響がうかがわれる。 | 産婦人科については、出生数の減少が続く中、平成16年医師・歯科医師・薬剤師調査では、10,163人と、平成14年調査に比べ、455人減少している。また、この数年は、新たに就職する医師は年間約300 名程度と、相対的に低い水準で推移している。「臨床研修に関する調査(中間報告)」においても、進路を決めている者のうち、約5%が産婦人科を志望しており、臨床研修制度開始の前後で、新たに産婦人科を志望する医師の傾向に変化は見られない。分娩に関与する常勤医師数について、日本産科婦人科学会は平成18 年6月に、約8,000 人であるとの調査結果を発表している。 | 麻酔科については、平成16 年医師・歯科医師・薬剤師調査では、6,397人となっており、平成14 年に比べ、310人が増加している。また、臨床研修制度の開始直前の平成15 年に医師となり、麻酔科に従事している者は 339 名であった。「臨床研修に関する調査(中間報告)」においては、進路を決めている者のうち、約6%が麻酔科を選択しており、増加傾向にある。 |
読みにくくて申し訳ありませんが、要は「足りている」の結論です。小児科医不足、産科不足、麻酔科不足なんてどこにもありませんし、堅実に増加しているからまったく問題無しの御託宣です。この御託宣を基に答弁すれば天下無敵と考えたのでしょうし、「医師が余っている地域を具体的に挙げてみよ」なんて質問が出るとは予想だにしていなかったことがわかります。
続いて医師の需要の見通しを読んでみます。
今回の需要の見通しの検討においては、国民皆保険とフリーアクセスが確保されている中、現状で総量としては、基本的には国民が必要としている医療を提供しているものと仮定し、医師の勤務時間の現状と、勤務時間のあるべき姿とのギャップを現状の医師数に上乗せした人員を現在の医師必要数と置いた。必要医師数の算定に当たっては、医師の勤務時間を週48 時間とおいた。これによれば、平成16年(2004年)において、医療施設に従事する医師数が25.7万人(病院勤務16.4万人 診療所勤務9.3万人)(医療施設以外の従事者を含む医師数 26.8万人)であるのに対し、医療施設に従事する必要医師数は26.6万人(医療施設以外の従事者を含む必要医師数 27.7 万人)と推計される。
結論としている必要医師数は、総数で27.7万人、医療施設の従事者で26.6万人で十分余るとの計算です。ちなみのこの数字は平成16年で医師総数27万人、医療施設の従事者25.7万人ですから既にほぼ達成しています。厚生労働省の「医師は足りている」の強烈な根拠の裏付けが麗々しく書かれています。この報告から導き出される結論は「足りているのに不足感があるのは偏在である」になるのは容易に推測がつきます。
さらに需要の見通しについて解説が加わります。
なお、上記の推計は、医師が医療機関において過ごす時間のうち、診療、教育、他のスタッフ等への教育、その他会議等の時間を勤務時間と考え、これを週48 時間までに短縮するのに必要な医師数から求めたものである。また、仮に、休憩時間や自己研修、研究といった時間も含む医療施設に滞在する時間を全て勤務時間と考え、これを週48時間までに短縮するには、医療施設に従事する必要医師数は31.8万人と推計され、前述の25.7 万人との差は6.1万人(病院勤務 5.5万人、診療所勤務 0.6万人)となる。しかしながら、休憩時間や自己研修は、通常は勤務時間とは見なされない時間であり、これらを含んだ時間を全て勤務時間と考えることは適切ではない。
ここが問題になった柳沢答弁の根拠かと考えます。笑ったらいけませんが、労働行政の大元締めである厚生労働省が設定した週間の労働時間がいきなり48時間なのには驚かされます。労働基本法の40時間を設定段階から8時間もオーバーしています。それはとりあえず置いておきますが、問題部分の
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しかしながら、休憩時間や自己研修は、通常は勤務時間とは見なされない時間であり、これらを含んだ時間を全て勤務時間と考えることは適切ではない。
どういうことかと言えば、お役所なんかでステレオタイプとしてありそうな風景で、就業時間中に仕事が途切れて雑談している時間なんかがあります。あれは使用者側からは休憩時間に見えますが、実際はいつでも新たな仕事が発生すれば待機している時間となります。そういう時間は休憩ではなく労働時間になります。売り場などで暇なときに店員同士が雑談している時間なんかも含まれると解釈すれば良いかと思います。
休憩時間と定義した時間は、使用者が仕事や指示を与える事が出来ない時間なのです。この報告者が「休憩時間」とみなした時間はどういう解釈で行なわれたかが問題です。空き時間に仕事をしていないように使用者側が見えたとしても、拘束して待機させているのなら立派な労働時間です。この報告書はもっとも基本的な労働の概念を勝手に定義を変えているとしか見えません。
また自己研修の時間の考え方は明確には定義がされていないかもしれませんが、悪評高い経団連のWEの提案にさえこう書いてあります。
自分の興味がある分野の研究や自己啓発などを自発的に行うこともある。これらの時間は、会社の業務ではないからといって、一概に「労働時間」ではないともいいきれない。場合によっては、こうした研究や自己啓発が本人の職業能力の向上に繋がり、業務に役立つことも十分に考えられるからである。
医師の自己研修は自分の趣味を伸ばす時間ではありません。自らの医師としての能力を高める不断の努力です。医師の能力の維持向上はすべては患者の治療のためであり、仕事に直結する業務です。これを労働で無いと定義することは医学の向上への否定につながるといえます。一番不利益を蒙るのは患者である事は言うまでもありません。
もう一度報告書の要点をまとめます。
- 平成47年でようやく現在のOECD平均に達する程度の医師数しかいないのに「医師は足りているとした」。
- 小児科、産婦人科、麻酔科は不足しておらず新規供給も十分とした。
- ほぼ現在の医師数でも週48時間労働になるとした。
- 待機時間や待機時間を利用した自己研修時間をすべて休憩時間と定義した。
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「彼らは15人のユダである」