コムスンショック

恥ずかしながら今回の報道があるまでコムスンという会社を知りませんでした。だから報道があったときも、名前の語感からセコムみたいな警備会社や、サムスンみたいなIT系企業を頭に描いたぐらいです。もちろんそうではなくて介護業界の最大手企業である事はまず理解しました。

後は記事からの泥縄なんですが、この会社はバブル期にジュリアナで一山あてた会社の末裔で、介護事業が始まると素早く参入し、短期間のうちに巨大化したようです。そうであればこの会社は昔から医療に関与した事業をベースに拡大したのではなく、異業種からの新規参入を果たしていた事になります。

ジュリアナで一山あてた事も、異業種からの新規参入も批判する気はサラサラありません。私が気になったのは、そういう機を見るに敏な経営者をもってしても、介護事業は儲からない事業になっている事です。医療の慣習とか常識に囚われない発想であったから急成長したのでしょうが、そういうセンスをもってしても、不正に手を染めないと事業利益を確保できないのが介護事業になっているのではないかと言う事です。

コムスンの手口は詳細に報道されており、それがどれほどあくどいかは報道内容をある程度信用しても良いかとは思っています。ただしコムスンの影に隠れるように他の大手介護事業業者も同様の手口を使っており、この事からそうでもしないと介護事業は既に成り立たない業種になっていると考えます。そちらの方が問題として大きい様な気がしています。

急成長をするためには莫大な資金が必要です。逆の意味の自転車操業で、事業所からの収益だけでなく、その収益を担保に資金を調達し、さらなる成長を行なう必要があります。急成長するためには展開した事業所が確実に収益を生み出す事が信用の源になります。介護事業がスタートした当時はそういう事が可能であったと考えます。異業種からの参入ですから、この経営者は介護事業を将来性のある成長分野と判断したに違いありません。とくに初期はそうであったと考えます。

しかしもともとの医療関係者はある程度眉に唾していたと考えています。今時、医療に関連する事業で、いつまでも美味しい事業はありえないという経験からです。厚生労働省の常套手段で、当初はおいしい条件で新規参入を促し、ある程度軌道に乗った時点で次々と梯子を外されるのは幾度も経験しているからです。そういう経験から介護事業だけは別枠であるはずが無いと言う事です。

厚生労働省朝令暮改の梯子外しは、日医衰退後、もうほとんど誰との事前相談も無く、一片の決定事項で唐突に行なわれます。厚生労働省自身は「巧みな政策誘導」と自負しているようですが、政策に振り回される方にすればたまったものではありません。ある事業政策に手を出し、そこでの収益を基に事業計画を立てても、猫の目のように方針が変われば計画が齟齬し、大きな損失を出します。おかげで10年単位の長期計画なんてとんでもない事になっています。

好意的に考えればコムスンの経営者は、こういう厚生労働省の病的な体質を十分理解していなかったと考えています。「そんな事をされれば事業が成り立たない」という政策変更をごく平然と厚生労働省は行ないます。コムスンにしてみれば、従来の政策での利益を当てにして事業計画を立てていたわけですから、寝耳に水の大事件となります。

元が異業種から参入で、普通の感覚で「ひと儲け」を考えていたのですから、体質的に福祉事業というより、収益事業としての傾向が濃厚であったはずですし、急成長の目的は収益増加と介護業界でのガリバーになる事が目的であったはずです。ただし現段階ではガリバーに成長中なだけで、展開している事業が想定どおりの収益を確保しないと自転車操業状態の資金繰りが一遍に悪化します。

収益が減る方向の政策変更後も、従来の収益が確保できないと事業が維持できないとなれば、サバイバルのために不正な手段を用いるのは世の常です。これは憶測ですが、もともと小規模に行なっていた不正な手段を、大々的に組織的に用いる方向に傾いても不思議ありません。真面目にやれば事業ごと崩壊するからです。

コムスン自体も体質的に問題はあったでしょうが、今回のコムスンショックで私は基本的な疑問を持っています。はたして真面目に介護事業に取り組めば適正な利益を確実に上げられるかです。真面目に取り組むだけで適正な収益が上がる事業を、不正な手段を用いて濡れ手に粟を狙ったのならコムスンはただ糾弾されるだけで問題はありません。そうではなくて、真面目にやったのなら収益どころか損失の出る状態であれば介護事業そのものの終幕になります。

終幕になれば現在参入している事業者も手を引いていきます。とくに異業種からの参入組は出来るだけ早く見切りをつけて、事業を売り払い、新たな有望な事業に資金投下を考えているはずです。医療界からの参入組と違い、この事業に執着する必然性は無いからです。これは医療に執着せざるをえない医師などとの大きな違いです。

在宅医療推進政策の大きな要であるはずの介護事業の将来に、大きな疑問符がついたのがこのコムスンショックではないでしょうか。