のぢぎく県 但馬情報

この新聞社の記事を取り上げると御機嫌の悪い読者がおられるのですが、この記事はよく書けていると思います。例によってWeb掲載はまだなので、手打ちで御紹介します。9/27付け神戸新聞より、

但馬の公立病院 再編開始前に暗雲

但馬には県立病院や赤十字病院がない上、民間の医療機関も少なく、市町が運営する九つの公立病院が医療を支えている。ところが2004年度から2年間で医師が計21人も減少。診療科の縮小や夜間救急の廃止などが相次いだため、「思い切った医師の集約化を図る必要がある」として昨年7月、市町村や病院幹部、県の医療政策担当者が連携し「医療確保対策協議会」を設立した。県内でも始めての試みといい、2月に再編計画をまとめた。

「医師の集約化」にあたっては、大学病院の医局から派遣を受けている医師は自由に動かせないため、県が人事権を持つ県養成医師を対象とすることに。県養成医師は、県が学費を負担する代わりに卒業後の一定期間、僻地での勤務を義務づけている医師で、大半が但馬に派遣されている。

2月末にまとまった再編計画では、規模の大きい豊岡病院(豊岡市)と八鹿病院(養父市)に県養成医の一部を集め、緊急・重症患者への急性期医療を担当。それ以外の病院は、急性期を過ぎて病状が落ち着いた患者らへの慢性期医療を担う。最も規模の小さい出石(豊岡市)、梁瀬(朝来市)、村岡(香美町)の三病院は、常勤医師数を、病院維持に最低限必要な3人に減らす、とした。

それから7ヶ月計画実行を前に、豊岡、朝来市内の5病院を運営する公立豊岡病院組合の幹部は「計画とは異なる部分もある」とする、なぜか。

縮小対象の3病院のうち出石病院では、再編計画に反対した院長が辞職し、再編を待たずに4月から3人体制に。村岡病院でも5月、基幹病院でありながら医師不足にあえぐ豊岡病院に補充される形で、医師一人が転任。ほかの病院でも医師が退職するなど現実の医師不足に計画が追いつかず、再編の要である「医師集約」の前提が崩れつつある。

梁瀬病院では10月から、内科医3人のうち2人が集約化で減るのに加え、残る1人も退職を希望。常勤医が外科医2人だけとなり、縮小計画をさらに下回る見込みだ。既に9月から時間外救急を中止しているが、再編に当初から反対していた同病院の木山佳明院長は「ほとんど医師が増えない豊岡、八鹿病院に急患が集中すれば間違い無く"パンク"する」と憤る。

時間外の急患が増える事になる八鹿病院の岩井宣健院長も「中核病院としての使命を果たす−と言い切れる体制ではない」と漏らす。

また県医務課の今井雅尚課長も「19人中18人の養成医を但馬に派遣するなど、できる限りのことはしている。これ以上、ない袖はふれない−という部分もある」。

事態は、既に地元の市町や病院の手に負えない状態。さらに調整役の県にも抜本的な手だてがないところまで来ている。

2月にまとめたという但馬の医療確保対策協議会報告書があります。その3ページに21人の医師減少のもう少し詳しいデータがあります。


2004.4 2005.4 2006.6
185 177 164 21


見ての通りで、2004年度中に8人、2005年度中に13人と加速度をつけて減少しています。この医師減少による影響も列挙されています。
  • 救急


    1. 【日高病院】時間外救急患者受入制限。
    2. 【出石病院】22時以降の救急患者受入制限。
    3. 【香住総合病院】21時以降の救急患者受入制限(自粛要請)。
    4. 【浜坂病院】21時以降の救急患者受入制限(自粛要請)。


  • 小児科


    1. 【豊岡病院】7人→5人体制。非常に厳しいNICU(新生児集中治療管理室)対応となっているが、さらに2人退職予定である(H19.4〜)。
    2. 【八鹿病院】4人→1人体制。時間外救急に対応できない。小児科の医師不足は産科にも影響を与え、H18.11月には19年度の産科休止を発表したが、H19.4月以降の県からの小児科医派遣決定により、H18.12月産科の継続を発表。
    3. 【香住総合病院】診療体制縮小(嘱託医による週4日対応)。【浜坂病院】内科医師により対応(H18.11〜)。


  • 産科


    1. 豊岡病院、日高病院、八鹿病院で対応。
    2. 【八鹿病院】小児科の医師不足は産科にも影響を与え、H18.11月には19年度の産科休止を発表したが、H19.4月以降の県からの小児科医派遣決定により、H18.12月産科の継続を発表(再掲)。


  • その他


    1. 【豊岡病院】消化器科を総合内科に統合(H18.7〜)。呼吸器科診療体制縮小。
    2. 【八鹿病院】神経内科・耳鼻科診療体制縮小(H18.4〜)。
    3. 【日高病院】外科診療体制縮小(H17.6〜組合内応援診療)。入院患者受入制限。
    4. 【出石病院】入院患者受入制限。【和田山病院】外科診療体制縮小(H18.4〜出張診療で対応)。
    5. 【香住総合病院】入院患者受入制限(病床102床のうち稼働半分程度)。耳鼻科・産婦人科・眼科診療体制縮小(出張診療で対応)。
    6. 【浜坂病院】眼科外来休診。整形外科、耳鼻科診療体制縮小(大学等の出張診療で対応)。入院患者受入制限(病床110床のうち稼働半分程度)(H18.4〜)。
そのような影響を受けての再編計画ですが、
  1. 350床以上規模病院(豊岡、八鹿)の取り扱い


    1. 24時間365日の急性期医療を担当する。
    2. 慢性期医療を担う病院の外来機能等を支援する。


  2. 100床規模病院(和田山、日高、香住、浜坂)の取り扱い


    1. 50床程度運用を原則とし、慢性期医療を担当する。
    2. 和田山病院、日高病院については、特色ある医療機能の分担を考慮し、100床程度を維持する。


  3. 50床規模病院(出石、梁瀬、村岡)の取り扱い


    1. 慢性期医療を担当する。
    2. 病院として存置する。
    3. 常勤医師は3名を原則とする。
    4. 運用にあたっては、医師確保の状況に応じて、設置者が、病床規模、病床種別を決定することとする。
    5. 朝来市域の病院(和田山、梁瀬)は一体的に運用する。
    6. 村岡病院は、村岡区の4診療所(兎塚、川会、原、柤岡)の診療体制を維持するための支援を行う。


  4. 移行期間


    1. 平成19年10月1日から新体制に移行する。
    2. 現行の許可病床を上限として、病床規模、病床種別については、設置者が移行期間に協議会で協議のうえ、実情に応じた体制とする。
机上案としては良かったのでしょうが、記事にもある通り反対意見もあり、さらなる医師減少が加わり、豊岡、八鹿へ集約される医師は計画通りに進んでいません。進んでいないと言うより、進めようとしたら集約対象の医師が医師がいなくなったとした方がより適切かとおもいます。

梁瀬病院の木山佳明院長のコメントである、

    「ほとんど医師が増えない豊岡、八鹿病院に急患が集中すれば間違い無く"パンク"する」
ですが、今年の7月の公立豊岡病院組合の受診データがあります。


時間外患者数 時間外救急車受入数
7月合計 1日平均 7月合計 1日平均
豊岡 1629 52.5 215 6.9
日高 57 1.8 0 0
出石 104 3.4 3 0.1
梁瀬 227 7.3 25 0.8
和田山 207 6.7 21 0.7
2224 71.7 264 8.5


単純計算ですが、再編計画により豊岡病院の時間外受入数は1ヶ月で、
  • 時間外患者数:1692→2224
  • 救急車受入数:215→264
になります。1日平均でも、
  • 時間外患者数:52.5→71.7
  • 救急車受入数:6.9→8.5
この再編計画は記事にある通り、豊岡病院への医師集約化は実質効果が乏しい代わりに、他の病院の戦力ダウンによる救急受け入れ低下が確実に進んでいます。もっともこの数字は単純計算とは言え日高と和田山が救急を中止する前提ですが、再編計画でもそのあたりは微妙な表現ですからなんとも言えません。

もう一つの基幹病院である八鹿病院について目ぼしいニュースが拾えなかったのですが、ここでは医師募集がHPに長年出ています。

八鹿病院が基幹病院としての機能が既に失われしまっているとの話は去年からありますが、この募集医師数を見るとしっかり裏付けていると考えられます。

最後に県医務課の今井雅尚課長のコメントを再掲すると、

    「19人中18人の養成医を但馬に派遣するなど、できる限りのことはしている。これ以上、ない袖はふれない−という部分もある」
県の養成医なんですが、これはおそらく自治医大卒業生で、毎年2人で9年分で18人です。ちょっと算数が合わないのですが、一時、兵庫医大にも養成枠を置いた時代もありましたから、その辺の兼ね合いかとも考えます。これが但馬にほぼ総動員されているのですから、県としても手駒がないとの言い分は理解できます。

この手の集約案は全国各地で計画され、実行に移されつつあるようですが、先行モデルとも言うべきのぢぎく県但馬地方は打つ手さえ無くなりつつある事が浮き彫りにされています。