新小児科医のつぶやき

2008-04-05 事故調第三次試案パブコメ募集始まる

「医療の安全の確保に向けた医療事故による死亡の原因究明・再発防止等の在り方に関する試案−第三次試案−」に対する意見募集についてとして4/4からパブコメ募集が始まりました。その「おわりに」の部分に、

本制度の確実かつ円滑な実施には、医療関係者の主体的かつ積極的な関与が不可欠となる。今後とも広く関係者はもとより国民的な議論を望むものである。

そうまで言ってもらっているわけですし、政府の意図として「これで決まりで法案提出」との情報もマスコミから漏れ出ていますから医師としても腹を括って対応する必要があります。おそらくですが事故調設立も政府の「医療危機への対策」の成果として、次期総選挙のアピール点に持ち去れるのは必至ですから、不本意な事故調を「医師救済の切り札」みたいな事を言わせない抵抗の実績を作らなければならないと考えています。

そのためにネット医師ができる事は一つでも多くのパブコメを送ることです。「どうせ無視される」と考えてられる方も多いでしょうし、実際もそうかもしれませんが、漏れ聞くところで判断する限り、無視できない影響をパブコメは与えているようです。またパブコメは内容はもちろんの事ですが、数も大事です。一人でも多くの協力者が出る事を祈りながらエントリーを書きます。

第三次案もツッコミどころがテンコモリというか、ツッコミどころでないところを探すのが難しいぐらいですが、ここで総花式に列挙しても参考にならないのであえて一点に絞ります。「医療安全調査委員会以外での対応(医療事故が発生した際のその他の諸手続)について」にこう書かれています。

医療死亡事故が発生した場合の民事手続、行政処分、刑事手続については、委員会とは別に行われるものである。なお、捜査機関との関係については、別紙3参照。

私は別紙3の「捜査機関との関係について」のみに焦点を絞ります。

まず冒頭部です。

  • これまで医療関係者を中心に、医療安全調査委員会(以下「委員会」という。)と捜査機関との関係について明確化を求める意見が多く寄せられている。
  • 今回の制度は、委員会からの通知を踏まえ、捜査機関が対応するという、委員会の専門的な調査を尊重する仕組みを構築しようとするものである。そのためには、委員会は適時適切に調査及び通知を実施する必要がある。今回提案しているこのような仕組みが構築されれば、以下のようになる。

「以下のようになる」と言うからには読ませていただきましょう。この別紙3はQ&A形式で3つの質問に答える形式になっています。どこからこの問が考案されたかは不明ですが、三次試案の提案に際し必要にして十分と考えたのであろう事は間違いありません。まず問1からです。

問1

 捜査機関は、捜査及び処分に当たっては、委員会の通知の有無を十分に踏まえるのか。また、故意や重大な過失のある事例その他悪質な事例に対象を限定するなど、謙抑的に対応すべきではないか。

ここで事故調試案で頻用される「謙抑」ですが、意味としては、

    へりくだって控え目にすること。

ここでの問いの趣旨は捜査機関(警察)が刑事捜査に乗り出すに当たり、事故調の権威に対して「へりくだって控え目」な態度をした方が良いかの質問です。よく読むと変な日本語なのと、誰が主語なのか真剣に悩むところですが、答えを見ていきます。答えも3つに分かれています。

  1. 今回提案している仕組みにおいては、委員会の専門的な調査により、医療事故の原因究明を迅速かつ適切に行い、また、故意や重大な過失のある事例その他悪質な事例に限定して捜査機関への通知を行うこととしている。また、委員会の調査結果等に基づき適切な行政処分を実施することとしている。
    なお、委員会からの通知は、犯罪事実を申告し犯人の処罰を求める意思表示としての「告発」ではない。

  2. 医療事故についてこうした対応が適切に行われることになれば、刑事手続については、委員会の専門的な判断を尊重し、委員会からの通知の有無や行政処分の実施状況等を踏まえつつ、対応することになる。

  3. その結果、刑事手続の対象は、故意や重大な過失のある事例その他悪質な事例に事実上限定されるなど、謙抑的な対応が行われることとなる。

まず1.です。これは三次試案本文にあるのですが、医師法21条を改正して「異状死」の届出は事故調に報告すればそれでよいとする案としています。そのうえで、悪質で警察の捜査が必要と判断されたものは「通知」するとなっています。この通知は「告発」でなくあくまでも「通知」であるとの内容です。

次の2.は刑事手続きに対し、

    委員会からの通知の有無や行政処分の実施状況等を踏まえつつ、対応することになる。

この捜査機関との関係については別紙3のみでしか説明はなく、「対応することになる」は法的背景に基づいたものではありません。医師法21条は改正すると明記されていたのに対し、捜査機関との関係はあくまでも紳士ルール程度に基づいた希望的観測であると書いてあります。

その次の3.は、

    事実上限定されるなど、謙抑的な対応が行われることとなる。

二次試案でも非難の的であった捜査機関との関係は、三次試案でもまったく改善されていない事を明らかにしています。ちなみに現在の捜査機関でも医療への操作は「謙抑的」とされています。謙抑のさじ加減はすべて捜査機関の裁量であり、事故調ができても捜査機関が「謙抑的」とさえ判断すればいつでも刑事的手続きは行われるという事です。


次に問2に移ります。

問2

遺族が警察に相談した場合や、遺族が告訴した場合に、捜査機関の対応はどうなるのか。

ここの問は二つのケースからなりたっています。つまり、

  1. 警察に相談した時
  2. 警察に告訴した時

それぞれに対しての答えが書かれています。

  1. 委員会の専門的な調査により、医療事故の原因究明が迅速かつ適切に行われることになれば、遺族から警察に対して直接相談等があった場合にも、遺族は委員会による調査を依頼することができることから、警察は、委員会による調査を勧めることとなる。

  2. また、遺族から告訴があった場合には、警察は捜査に着手することとなるが、告訴された事例について委員会による調査が行われる場合には、捜査に当たっては、委員会の専門的な判断を尊重し、委員会の調査の結果や委員会からの通知の有無を十分に踏まえて対応することが考えられる。

まず「相談」に関しては事故調を勧めるのは「ありえること」だとは思います。ただし勧める義務は警察にありません。あるともどこにも書いてありません。そういう制度にするとも書いてありません。あくまでも事故調が出来たら「そうなるだろう」の希望的観測に過ぎません。

「告訴」も同様です。「尊重」とかと書いてありますが、あくまでも

    対応することが考えられる

あくまでも問1にあった「謙抑的対応」を事故調側が期待するだけです。どこにも警察側の対応を具体的に抑制する法的根拠については言及されておりません。警察が法的根拠に基づき刑事手続きを行なえば無力であるという事です。


問3です。

問3

委員会の調査結果を受け、行政処分が刑事処分より前になされるようになった場合、検察の起訴や刑事処分の状況は変わるのか。

ちょっと分かり難いかもしれませんが、三次試案本文では行政処分の範囲がすごく広がっています。ここもツッコミどころなのですが、話が拡大して収拾が付かなくなるので今日はその点は置いておきます。ごく簡単に理解してもらえば、従来は刑事処分や民事で問題になった件に関して行政処分が行なわれていましたが、事故調成立後は調査結果だけでバンバン行政処分が出てくると思えば良いか思います。

そうなると刑事処分より先に行政処分が行われる事が増えるというか、捜査機関が「謙抑的」に動いた場合には普通はそうなると思えばよいかと考えます。えらく捻った問ですが、答えが書いてあります。

  1. 現在、医師法等に基づく処分の大部分は、刑事処分が確定した後に、刑事処分の量刑を参考に実施されているが、委員会の調査による速やかな原因究明により、医療事故については、医療の安全の向上を目的とし、刑事処分の有無や量刑にかかわらず、医療機関に対する医療安全に関する改善命令等が必要に応じて行われることとなる。

  2. この場合、検察の起訴や刑事処分は、行政処分の実施状況等を踏まえつつ行われることになる。したがって、現状と比べ大きな違いが生ずることとなる。

これはごく簡単に行政処分を参考に刑事処分を考える事になるので、行政処分が出た時点で確実にアウトで、なおかつ従来より厳罰になる可能性がありえると解釈できます。そういう点に関しての表現は妙にマイルドで、

    現状と比べ大きな違いが生ずることとなる。

最悪と言うか普通に考えればそうなるのですが、行政処分に応じた刑事処分の基準が検察内で作られるかと思います。この程度なら刑事処分相応とか、この程度なら求刑はこれぐらいだとかです。検察だけではなく裁判官もそうで、この程度の行政処分なら刑はこの程度みたいな相場です。穿って考えると、この点が一番捜査機関を「謙抑的」にさせる部分かと思います。医療訴訟は捜査が厄介なので、事故調からの行政処分を待って刑事手続きに入るという手順の成立です。そうすれば証拠はすべて事故調がお膳立てしてくれますし、刑の程度も行政処分という明快な目安ができます。民事も同様かもしれません。


はっきり言って捜査機関との関係については何ら具体的な制度は設計していないと言えます。制度ができれば「そうなる、そうなる」としか書いておらず、「そうなる」ための具体的背景については記載無しです。一部報道で検察と話をしたなんて曖昧な話が流布されていましたが、言っては悪いですが単なる口約束です。口約束は双方の了解事項について玉虫色の解釈を十二分に持たせる余地が生じます。条文に明記されてさえ解釈は多々に分かれるというのに、誰も実際の内容を知らない口約束なんかを「確約」とか「了解」とか言われても困ります。

「謙抑的」が大好きな事故調ですが、「謙抑的」の担保を口約束しか取らず、それで「安心せい」の言い分はこれだけの制度を作るに当たり、極めて不十分な姿勢であると私は考えます。医師法21条改正まで言及しているのですから、捜査機関との関係の明瞭な法的整備を行うことが事故調成立の必須の条件です。


皆様におかれましては、三次試案についてパブコメ応募を是非お願いしたいと思います。今日のエントリーはわりと分かりやすくて書きやすく、なおかつ事故調のキモに当る部分と考え取り上げました。もちろんこの部分以外についてもパブコメしてもらって構いませんし、捜査機関との関係には触れずに他の部分にパブコメして頂いてもかまいません。一通でも多くパブコメが送られるように御協力お願いします。


もうひとつ、これもアピールを頼まれているので書いておきます。

これもある筋の情報からですが、一番頑張って欲しい日本産婦人科学会が三次試案に転びそうの話が伝わってきています。三次試案本文の字句で譲歩が見られたから「妥協しよう」との意見が幹部で有力とのことです。日本産婦人科学会が転んだら日和見の学会が雪崩を打つ可能性は大です。反対意見の幹部からの悲鳴リークとしてよいかと思っています。事故調巡る状況は日医だけではなく、医学界幹部が妥協に走り始めている危機的状況です。

パブコメを送っても「結論ありき」の御用会議への効果は限界があります。法案として提出された時に最後の頼みの綱は政治家になります。烏合の衆の評価も有りますが、医療現場の危機打開と再建をめざす国会議員同盟なるものがあります。呉越同舟超党派集団ですが、この集団は政治家にとって重要な共通の利害を共有しています。医療崩壊による「痛み」が選挙に向けられた時に非常に役に立つカードなんです。そういう意味で烏合の衆かもしれませんが、最低限の期待はできるかと考えています。つうか、使えそうなものはなんでも利用したいというのが本音です。

この政治家集団のシンポジウムがあり、4/11までの期限付きですがご意見募集しています。こちらの方にも余力があれば投稿してくださるとありがたいです。「溺れる者は藁をもつかむ」と言いますが、こんな藁でもつかまないと事故調は成立してしまいます。

どうかお願いします。

BugsyBugsy 2008/04/05 09:03 昨日の朝日新聞ですが、
医療事故立ち入り権との見出しがありました。
「医療機関への立ち入り検査の権限を明記し、カルテ提出も指示する。」

十手をもって乗り込むのか、制服をきた警官が来るのか、公安のようにダンボール箱を多数持ち込んで大人数でいらっしゃるのか、さぞやマスコミの皆様はお待ちかねのことでしょう。患者側を代表する有識者も勇躍されることでしょう。

マスコミの取材に対して患者は「こんな病院とは思わなかった。信用していたのに許せない。」と涙ながらに答えるでしょう。患者も激減し、ひとつひとつ病院がつぶれて行くわけです。

「謙抑」的に捜査に来たとしても やはり白昼堂々とでしょうね。
世論が騒がねば 次から次へと味をしめますわな。

CaesiusCaesius 2008/04/05 10:50 全てを枠にはめようと必死だな と思う。医療に裁判とか合わないのに

サルガッソーサルガッソー 2008/04/05 10:54 水を差すつもりはありませんが
>パブコメを送っても「結論ありき」の御用会議への効果は限界があります。
これは特に感じます。
著作権物のダウンロードを違法化するかのパブコメでネットユーザーが大反対したにもかかわらず「反対意見も多いけど、世界的な流れ(根拠不明)だから必要」という結論が出ています。

逆に業界団体等がコピペでパブコメを出した場合には「こんなに賛成意見があった。ぜひ実施せねば」となり我田引水にしか使われない制度となっています。

やらせが発覚して頓挫したタウンミーティングもそうですが、
結局官僚の手にかかると都合の悪い制度は形骸化するということですね。

元ライダー元ライダー 2008/04/05 11:32 このままでは医師、法曹、官僚、国民それぞれ同床異夢の事故調ができるでしょうね。
事故調が誰のために、何のために必要なのかということが未だに理解されていないんでしょうね。事故に遭った患者のためでもないし遺族のためでもない、もちろん医師のためでもない。現在の患者さん、未来の患者さんが萎縮医療ではなく、十分な治療を受けられるようにすることが目的であるべき。そういう基礎が共通認識になっていない。医師側が渋々妥協してできた事故調ではその目的を達せられない。「謙抑的」な医療が続くだけです。このまま事故調が成立したとしても、むこうのほうから「刑事免責、保険(もちろん患者負担)を活用した事実上の民事免責」を言い出すまで「謙抑的」な医療をエスカレートさせるのが上策と思います。自然にそうなるでしょうが。

日本産婦人科学会まで日和そうだということですが、つくづく医師は性善説に立っているんだなと思います。司法の善意を期待している。今まで何度裏切られたんでしょうね。性悪説に立っている人々に対しては、こちらもその人々に性悪説で相対しないと足元をすくわれます。

BugsyBugsy 2008/04/05 11:33 医療現場の危機打開と再建をめざす国会議員連盟での議事録を拝見しました。
医師の皆さんが随分突っ込んだ発言をされています。
メジャーな内科、外科、産科といったところです。内容にある病院機能の集約化といったご意見には100%賛成は出来かねますが、それにしても随分時間のかかる分厚い資料だと思います。

さて私はマイナー外科医でその領域特有な問題点があるのですが、そういった各診療科ごとの問題を専門外の医師だけでは抽出しきれないと思います。
従って自分の診療科の立場から見た事故調の問題点をパブコメとして送るつもりです。
官僚を経ず、直接政治家に意見を届けるというのはやはり喫緊の課題でしょう。
週末の宿題ですね。
単なる不満のガス抜きとされねば良いのですが。

moto-tclinicmoto-tclinic 2008/04/05 11:56 わたしも頑張って書いてみたいと思います。この手のものは、何回か書いたことがあって、その都度、手ごたえの無さにがっかりさせられたものですが、皆さんがお書きになるということなら、なんとなく励みがありますし。

YosyanYosyan 2008/04/05 12:15 皆様が御指摘の通りパブコメに「虚しさ」を抱かないではありませんが、事故調のシステムはすべての医師に覆いかぶさるものです。何を言っても無駄として声を上げなければ、無条件で賛成と見なされます。それは「虚しさ」よりもっと大きな損失と感じます。せめて反対の声がこれだけあるという証拠だけでも列挙させておくのは最低限の抵抗と思います。「あの時、何も言わなかった」だけは言わさない様の意味もあります。

それと政治家への提言も余力があれば是非お願いします。考えようによってはパブコメより効果が期待できるかもしれません。極論すれば同じ内容でも良いと思います。内容はもちろんですが「多くの声」を聞かせることが政治家を動かす力になると思います。多くの声があっても動かないかもしれませんが、無いと絶対に動きません。

私もまた週末の宿題とします。

なんちゃって救急医なんちゃって救急医 2008/04/05 12:20 私の所でも連携しさせていただきました。http://case-report-by-erp.blog.so-net.ne.jp/20080405

このエントリーをベースに、パブコメを送りました。4月12日のシンポの演題にもエントリーしてみました。議員のMLでも提案しています。

YUNYUNYUNYUN 2008/04/05 12:22 一言説明。

> 行政処分を参考に刑事処分を考える事になるので、行政処分が出た時点で確実にアウトで、なおかつ従来より厳罰になる可能性がありえると解釈できます

そこはYosyan先生の誤読と思います。
一般的に刑事政策理論として、行政処分や社会的非難など他の方法による事実上の制裁を受けた場合は、刑事処分は重くする必要がないという考え方があり、実際に事案によっては起訴猶予、起訴しても判決は量刑軽め、執行猶予付きにするという運用が行われているため、
医療についても同様の扱いを 期待する という趣旨と解されます。

もちろん、これは厚労省側の勝手な期待なので、警察庁や検察庁や裁判所の手を縛る法的な効果はありません。

YUNYUNYUNYUN 2008/04/05 12:34 > 医学界幹部が妥協に走り始めている危機的状況です

ここは医療ブログですから、仮に医師の立場に立って考察いたしますに(患者側、厚労省には、それぞれの立場から別の意見があることと思います)、

医師が妥協できるのは、最低限、この事故調が刑事訴追の既存ルートを「法的に」制約するものとなる場合ではないでしょうか。無闇な刑事訴追が無いことが保障されるなら、行政処分の強化も受け容れる。
具体的には、こういう法律が作られるとよいと思います。
1.医療に関する(業務上)過失致死傷罪を親告罪とする。
2.医療安全委員会による「刑事手続き相当」意見を、刑事捜査着手および起訴の要件とする。

あと、民事紛争解決を本気で促進したいなら、こういう法律も必要。
3.民事の医療紛争では、訴訟に調停(or認定ADR)を前置強制する。

そういうものが全くないのに、妥協しようという態度は、端から見ていて、ちょっと理解しがたいです。
なぜ、上記のような立法をせよと要望しないのですか。
私は外野に過ぎませんので、当事者である医師の人たちが、それでよいと言えばいいようなものですが、、、、

太いムチ[刑事裁判]と、細いムチ[医療安全調査委員会]に喩えると、
今まで太いムチしかなかったので、細いムチを作りました、よかったら使ってください。
それに対して、「私は太いムチのほうが好みです」という人も居れば、「両方使わせてもらいます」という人も居るでしょう。
細いムチを作った目的は、太いムチを使わせないことにあるのですから、
太いムチをへし折ってしまう(実体法的に業務上過失致死傷罪を廃止する)か、
それが難しければせめて、
普段は使えないように鍵を掛けてしまっておく(訴訟法的に刑事捜査・起訴を制限する)のでなければ、意味がありません。

以前にどなたか医師の方が、この制度を評して「ムチで打つのを軽くしてくれ というようなものだ」とおっしゃいましたが、「軽くする」どころの騒ぎではない。
太いムチがあるところへ、わざわざ細いムチを差し出して、両方で私を打ってくださいと言う、
そういう制度を自ら希望する医師たちって、マ ゾ としか、言いようがないのではありませんか。(@。@)〜* *

YosyanYosyan 2008/04/05 12:40 YUNYUN様

ありがとうございます。泥縄式に訴訟知識が嫌でも増えているのですが、元々体系的に学んだものではなく、どうしても細部でボロが出るので、こういうfollowは大変感謝しております。

話は変わりますが、後期高齢者医療制度の混乱もそうですし、事故調についてもそうですが、その真に意図するものについて長大なお役所文を読解する必要があります。本当に読解力が必要です。法律は多くの人に決定的な影響を及ぼすものであり、その施行に関しては十分な説明が必要では無いかと思います。つまりわかりやすいように説明する責務が施行者にあるんじゃないでしょうか。

医療ではそれを強力に求められています。いわゆるインフォームド・コンセントです。これは御存知のとおり、非常に高いレベルでの患者の理解を求めており、なおかつ理解の悪いものがおり、十分な理解を得られなかったら医師の説明不十分であるとされ断罪されます。

医療と法律を同列にするのは無理があるかもしれませんが、それでも医療より法律が軽いとは思えません。法律は医療と異なり、その同意と言うか決定は代議員により行なわれますが、説明は代議員に留まらず主権者である国民にもなされてしかるべしものではないかと思います。

なんちゃって救急医なんちゃって救急医 2008/04/05 13:00 あと、民事紛争解決を本気で促進したいなら、こういう法律も必要。
3.民事の医療紛争では、訴訟に調停(or認定ADR)を前置強制する

というYUNYUN先生のご意見は、大変参考になります。
このご提案は、言ってみれば、離婚で裁判を起こすには、調停が必須という制度のようなmのでしょうか? 

そうだとすれば、このあたりの法の根拠を参考にして、より具体的な代案を出していくことが可能にならないでしょうか?

CNNCNN 2008/04/05 16:24 私も主旨に賛同して、パブコメや政治家への投稿をしたいと思います。
Yosyan先生の呼び掛けの輪が広がって行くことを期待しています。
皆さん、短くても良いから、言いたいことを言いましょうよ。

YUNYUN先生のコメント、全く納得させられました。

nuttycellistnuttycellist 2008/04/05 17:03 医療事故調の規模は、官僚のプランでは、中央に20名、地方に10名の非常勤職員で構成するものとなるようです。彼等は、年2000件の調査件数を想定しているようですから、10地方に分けられるとして、一地方で200件。果たして、これでやってゆけるのかどうか。もしかすると、医療事故調のコストも、医療費ないし医療機関から徴収することを想定しているのかもしれません。

2005年にWHOの出した、医療事故調査組織のガイドライン素案で示された、ありうべき医療事故調の姿から大きく外れていることは確かなように思えます。拙ブログで議論しました。

http://nuttycellist.blog77.fc2.com/?q=WHO#entry856

以前、このブログの議論でもあったかと思いますが、医療事故の原因究明を通して、再発防止をするための機関と、遺族・患者とに理解を求め、和解するための機関とが、ごっちゃになっている。そこで大きくボタンを掛け違えているように思えます。

Med_LawMed_Law 2008/04/06 09:36
医療安全大いに結構です。但し、医療というのは関係者が複雑に入れ込む構造をしてます
患者だけでなく、すべての当事者の権利関係を調整しないと、医療は崩壊します。

患者
医療従事者
病院(病院経営者)
保険者(医療費支払側)


患者が自身の安全、知りたい要求を通したいなら、相対する当事者へ相応の負担、補償を行う対策をセットにしないと、一方的なものとなります。医療従事者・病院は崩壊するでしょう

全く議論の俎上に上がってませんが、
対策のための費用はどこから出てくるのでしょう?
対策のための人材はどこから湧いて出てくるのでしょう?
事故調で全くの無責と判定された場合の、国家補償はどうなるのでしょう?
(医療機関・医療従事者は、単に刑事捜査が入るだけで大損害を受ける可能性大です)

医療事故調に先立つモデル事業で死因解明を行った報告書の一例です。
http://www.med-model.jp/kekka/jirei10.pdf
地域評価委員会委員が14人、うち臨床評価医が4人、病理解剖にあたって病理医が3人、法医学者が1人。
この解剖費用、人材への謝礼も当然のように十分な支払いをされてない。

長くなるけれども、千葉大学法医学教室の悲鳴に似た司法解剖に対する指摘を引用したい
http://www.m.chiba-u.ac.jp/class/houi/teigen/vol_02.html
(以下、引用)
司法解剖のインフラ整備に必要な条件

要旨

国から納付される司法解剖の経費を巡っては、その額の異常さのみならず、納入方法に関しても大いに問題があり、それが司法解剖のインフラの未整備につながっていると考えられる。法人化された現在となっては、大学法人への適正価格での経費納入が図られ、かつ、それが司法解剖のインフラ整備に使用されるような適正な納入方法が取られるべきである。



法人化前までの経緯

法人化前は、国立大学で行う司法解剖は文部科学省に所属する公務員の行うべき公務であると考えられていた。しかし、その運営経費の国への請求は適切に行われていたわけではない。社会通念から考えれば、各法医学教室ごとに、解剖を行うために必要な、施設維持費、人件費等を毎年算出し、解剖数が増加してきた場合、その分の拡充を要求するというのが必要な措置であった。しかしながら、日本の法医学教室には諸外国と違って会計担当の専属事務官はおらず、また研究・教育を本務とする大学サイドから見れば、大学の予算を持ち出してまで警察捜査に協力するのは異常だという見方もあったため、司法解剖の増加に見合った人員、設備の増強はなされることはなかった。それどころか、解剖数は増加したのに、文部科学省の行政改革のため、人員は削減された法医学教室が多い。また、解剖における感染症対策や廃液に対する対策もなされず、かつての報道でホルマリンや廃液垂れ流しが問題となったこともあった。このように、司法解剖のインフラ未整備は深刻な状況であり、明治〜昭和初期の原始状態のまま維持されているか、それより悪化した状態にあるといえる。例えば、千葉大学法医学教室では、僅か解剖台1台と医師2名で、千葉県内の約85%の司法解剖を行っている状況にあるが、この医師2名とて、解剖のために雇用された人員ではなく、研究、教育のために雇用された人員であるという矛盾を抱えている。

解剖に必要な経費に目をやると、諸外国では1体当り20〜30万円の解剖経費が必要とされ、日本における経費も同程度であると考えられている。従来、文部科学省から支出された経費は、職員の人件費(解剖のための人員枠は皆無)、施設維持費、研究・教育費としての教室費、解剖の消耗品代(解剖当必要経費)であり、具体的な金額を示すと、当教室においては平成15年度では、解剖体当必要経費80万円と、教室費160万円の合計240万円であった。この僅かな経費と、解剖専用の人員なしという悪条件の中で、年間150〜180体の解剖を行っていたわけで、無料ボランティアのような運営がなされていた。

一方で、警察から納付される経費も存在はしている。しかし、その内訳は、東京以外での司法解剖では、解剖委託費(=解剖コスト、検査代)ゼロ円、解剖謝金(文書作成料)7万円である。「遺体は研究・教育目的で無料で大学に寄付しているし、警察や検察からの司法解剖の嘱託は法律上個人への嘱託とされる以上、個人への謝金納入だけで何が悪いのか」という横暴な意見も聞くが、一方で、同じように嘱託されて行われる精神鑑定においては、大学病院へ納付される検査代と個人謝金としての鑑定書作成料(1ページ1万円程度)は別々に算定されているし、東京都における司法解剖においては1体当り、20万〜30万円の経費が納入されている矛盾もあるのである。このように、国(警察)が負担する経費は余りにも低額で、理不尽なものである。

また、額の低さだけではなく、経費の納入方法にも大きな問題があった。既述のように司法解剖においては、大学へ納付される解剖経費は皆無であり、大学教授の個人謝金(文書作成料の名目)として7万円が個人へ振り込まれていたのだが、社会通念上は、解剖経費として必要な20万円相当は、大学へ納入されるべきであり、その費用は解剖数が増加した場合には、人員、設備などのインフラ整備のために活用されるべきであるのだが、そのようなことは、国から国への経費の納入が法的に困難との理由から実現できなかった。また、教授個人に振りこまれた謝金も、解剖専用の人員(医師、歯科医師、解剖補助、検査技師など)を雇用する人件費とするにはあまりに低額であった上、個人謝金とされた以上、それを教授個人の所得にしても、解剖とは無関係な研究費に流用しても構わないとされ、結局この謝金が司法解剖のインフラ整備に使われることは不可能だったのである。

それにしても、国から国への経費の移動が困難だから、司法解剖の整備ができないのも仕方が無いとの論理に甘んじたことは如何なものであっただろうか?この点に関して、殆ど問題点を指摘できなかった法医学者にも問題があったが、もし仮に、司法解剖を嘱託する警察が主体となって、解剖数を増加させた時に、文部科学省と折衝しながら、司法解剖の人員、設備の充実化を図っていたら、司法解剖のインフラ未整備の問題は発生しなかっただろう。結果的には、極めて長い年月の間、警察はなんら他省庁と主体的に折衝することなく、勝手に解剖数を増加させてきただけである。そのため、司法解剖は、大学の研究・教育活動に支障を与えないだけの数を遥かに飛び越えて行われている。


法人化後の経過

法人化後は、法医学者は大学法人の職員として働いており、大学法人の本務は研究・教育業務とされている。国から独立した法人が発生し、しかもその運営交付金が年々削減されて行くことが決められている以上は、外部嘱託者である警察は、民法と、警察法施行令にしたがって、解剖経費を法人に納入しなくてはならない筈であり、そうでなければ、学生から徴収した授業料の捜査協力への流用が愁眉の的となる日も近いだろう。しかしながら、法人化前に、行政サイドによる折衝や検討がなされなかったこともあり、何ら対策が練られずに法人化に移行したのが現実である。それどころか、法人化に伴なって、解剖体当必要経費は打ち切られ、千葉大学法医学教室では前年度に240万円あった大学からの分配金は僅か60万円となり、危機的となっている。また、警察からの予算措置も今のところない。この状況が今後も継続するようであれば、司法解剖のシステムは数年で壊滅するであろう。
(引用おわり)

TOMTOM 2008/04/06 12:38  例えば交通事故などでもめた場合、刑事責任や損害賠償責任が争われ、“加害者”が無責と判定されたのに、行政処分だけは行われる場合があります。曰く、「この3つの判断は別々のものだから」と。また、同じ事件の刑事裁判と民事裁判で判決が違うという事もしばしばあります。よく指摘される問題ですが、これはおかしいと私は思っています。充分な調査をした、しかも金銭や刑事罰など「より重大」と考えられるポイントに携わる第三者から見て「無責」と判定された者が、「他の見方」からは何らかのペナルティを科せられるのは論理的にも矛盾しているし、それは言ってみれば「私設裁判」であって法治国家の本来あるべき姿からはあまりにもかけ離れているからです。
 なぜそんな事か起こるのか? いろいろな見方があると思いますが、私は「訴える側に何のリスクもペナルティもない」のが最大の問題であると認識しています。つまり、Med_Law様の仰る、
>患者が自身の安全、知りたい要求を通したいなら、相対する当事者へ相応の(中略)補償を行う対策(以下略)
>事故調で全くの無責と判定された場合の、国家補償(以下略)
これを、原告側に負担させればよいと私は考えます。
勿論、国民の「裁判を受ける権利」を制限しようというのではありません。

1.医療紛争は全てまず事故調の判定を必須とすること
2.ただし事故調の判定如何によらず、“被害者(と主張している者)”が裁判を起こすことは制限しないこと。(これは私の個人的意見では×なのですが、これを制限するのは憲法上も社会通念上も困難と思いますので)
3.(正しく機能する事故調が構築できたとして)事故調で「無責」と判定されたのに裁判を起こした“被害者”は、裁判でもやはり負けた場合、要求した損害賠償と同額を“加害者(として訴えられた者)”に支払う事。
4.刑事捜査に関しては、同じく無責と判定された“加害者(として訴えられた者)”は、刑事捜査担当責任者*個人*に、賠償を請求できること。

これ、実は医事紛争だけでなく、痴漢冤罪とか、その他最近多発する“あまりにも気の狂った裁判”全てに適用すべきと考えているのですが、いかがでしょうか。

 ただこの話には重大な懸念があります。「正しく機能する事故調」が構築できないと、全く役に立たないどころか裁判の二重化になって我々の負担が増えるだけなのです。そうなっちゃ困るので、では、今から私もパブコメ作ります。

TOMTOM 2008/04/06 14:20 本スレの議論からはそれますが...
この件に関する読売新聞の社説です。
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20080405-OYT1T00696.htm
>(一部抜粋)医療機関と患者・家族が相互不信に陥る現状は不幸であろう。納得できる説明を聞きたい、という遺族の思いに応えつつ、かつ、医師がみだりに訴えられないような仕組みが要る。

不幸、ってオマエ。さんざん煽ってきたくせに。マスコミっていつもこうな。

AnybodyAnybody 2008/04/07 12:34 事故調は司法制度とどれだけ調整できるかがポイントのように思われます。
それ以上に大事なのが、トンデモ鑑定医をいかに抑え込むか、市中病院の実情を熟知した臨床家を鑑定人に採用してもらうにはどうしたらいいのかということではないでしょうか。

YosyanYosyan 2008/04/07 13:07 Anybody様

司法との関係は立法と言う手段さえ行なえば可能です。後はそこまで政治家が判断を踏み込めるかだけです。医師としては踏み込ますようにひたすら運動という事になります。ある意味問題は単純です。

医療側の問題の方が実は深刻で重大です。某所で第二次試案の対案を練りかけたことがあるのですが、審査制度と言うか、審査委員の人選システムでハタと行き詰ってしまいした。どうすれば公平中立で現場の実情を熟知した医師を効率よく選抜するかの良案が浮かばないのです。

イメージとして福島大野病院事件の時や、奈良大淀病院事件の時のようなネット上の討論はどうかと提案しましたが、これはああいう特殊事例であったからこそ成立した形態で、すべての医療事故にあれをやる事は不可能です。数が増えればそのうち見向きもされなくなります。

現場の一線の医師は多忙です。とくに訴訟で注目される産科なんて、審査委員で抜けただけで持ち場が崩壊しかねません。そうなると二線以下の医師、すわわち学会の重鎮や日医幹部クラスしか出せない事になります。さらに言えば学会の重鎮を飛ばして現場の中堅医師が選出されるシステム自体が医学界としてはリアルでは非常に難しいところがあります。この年功序列はまだまだ固いですからね。

そうなると審査体制自体がトンデモになる危険性を多大に含みます。医師もある年齢以上になると自分の流儀以外への許容性が極端に低くなりますから、事故への見解も医師によりかなり違う事が容易に予想されますし、外科系医師の方がその点はわかりやすいと思います。この偏りを是正する方策が思いつかないのです。

三次試案の年間予想審査数は2000〜3000件なんて平気で書いていますが、それを審査するには延べで1万人近くになります。そんなものがどうやって出てくるか、その質をどうやって確保するのか。ちょっと途方にくれています。強いて言えば学会毎に担当が一番マシのような気もしますが、それで良いのかどうかもなんとも言えません。

AnybodyAnybody 2008/04/07 14:30 Yosyan様

>司法との関係は立法と言う手段さえ行なえば可能です。

確かにそうなのですが、事故調は厚労省が勝手に作っただけ、司法手続とは無関係というスタンスを法務省がとらないか気になります。

>審査委員の人選システムでハタと行き詰ってしまいした。

トンデモ裁判官もいるのだろうと思いますが、名誉のためなのか、自己満足なのか、単に臨床を知らないのか分かりませんが、普通の裁判官の判断を誤らせるような鑑定をしてしまう医師の存在はわれわれの内部で解決すべき問題なのでしょうね。自分のいる環境だけを基準にせず、現実に存在するいろいろな医療機関のレベルも考慮に入れて謙抑的に意見を述べるという姿勢が広がればいいように思うのですが。