新小児科医のつぶやき

2008-04-18 「30分ルール」からのJBM

「30分ルール」だけでも十分すぎるほどのJBMなんですが、「30分ルール」に基づくさらなるJBMがあるようです。

私レベルで医療訴訟に「30分ルール」が適用されたのを初めて知ったのは神奈川帝王切開賠償訴訟です。しかし医療訴訟での「30分ルール」はもっと以前から確立していたとの情報があります。有力関係者筋からの情報ですが、この訴訟でも一審段階で患者側が「30分ルール」を持ち出した時点で病院側は白旗ムードで、控訴はしましたが形作りだけだったとされています。二審で子宮内感染の意見書を出したものの実質審理無しで結審し、完敗必至と観念していたとの事です。ところが子宮内感染症で4割も削減され、損害保険枠内で賠償が済み、小躍りして祝宴が行なわれたとの話を聞いています。

そんな話を聞いて「へぇ〜!」と思うしかなかったのですが、「30分ルール」が平成9年当時からあった事を裏付けるコメントを実は、、様から頂きました。

この裁判のウラの教訓はもう一つありまして、、、。

例えば、緊急C/Sを決定した時点で他科(例えば整形外科が交通事故の患者を緊急オペ中)がオペ中で物理的余裕が無ければ、緊急C/Sのために、そのオペを中断させるか、執刀直前ならそのまま待機させなければ裁判に負けるというものです。

夜間当直帯でオペが一列しかできないなら他科の患者も排除しつつ緊急C/Sを捻じ込まなければならんというものです。この裁判開始当初頃?同じ県内で若手だった自分は口うるさく上司に言われたものです。この裁判のウラの教訓として、、、。

『こっちは1分1秒単位で命がかかっている。死ぬぞ!裁判負けるぞ!こちらは何度も提言したがオペ室が断ったんだからね!裁判!裁判!!』

はっきり言って身の毛もよだつ内容です。産科医の方々にはもう常識なのかもしれませんが、10年以上も遅れて知った者としてはまさにビックリ仰天です。本音で言うとこのコメントだけならネタの可能性も考えなければなりませんが、別筋から当時でも訴訟では「30分ルール」が確立していたとの裏付け情報があり信用できる情報と判断しました。

内容は読んでの通りですが、あえてエッセンスを取り出せば、

    「30分ルール」のためには他の診療科の手術でも中断するのが注意責任義務である

私もそれなりの年数を医師として働き、小児科医ではありますが勤務医経験も少なからずあります。小児科医ですから手術室と言っても自分の患者の手術見学に行ったり、帝王切開手術での分娩に立ち会う程度ですが、医師の常識として一度始まった手術を他の手術のために中断するなんて話は聞いたことがありません。余ほどの緊急事態で、行なっている手術を中断するリスクを帳消しにするほどなら絶対無いとは言えないでしょうが、個人的には見たことも聞いたこともありません。

現在行なっている手術を中止すると言うのは、単に手技を中断するだけではありません。物理的に手術室を空けなければなりませんから、手術中の患者を手術室から運び出し、どこかで管理しなければなりません。手術中ですから清潔操作の問題は元より、必然的に手術時間・麻酔時間の延長は避けられませんし、今どきの事ですから家族への説明も必要です。家族によっては容易に納得してくれない方も当然おられると思います。当然ですが手術中にガラガラと院内を移動させられる患者に発生する不測の事態も考えられます。

もちろんどんな手術であってもと言うわけではないでしょうが、

    例えば整形外科が交通事故の患者を緊急オペ中

この程度では直ちに手術を中断しなければならないようです。整形の手術は外科手術でも清潔操作にとくにウルサイ診療科の一つのはずですが、その程度ではおそらく「医療慣行に過ぎない」と退けられるのだと思います。

JBM史上でもトビキリのランクかと思いますが、この話の元になる判決はあるのでしょうか。かなり具体的な内容なので、根も葉もない都市伝説とは思えません。10年前なら今より医師の訴訟に対する感覚は鈍い時代ですから、そういう感覚でも震え上がらせるほどの判決が産科医に、とくに神奈川県であったと考えるのが妥当です。

誰か御存知の方がおられれば補足情報下さい。

LTLT 2008/04/18 09:23 他の手術を中断・・・絶句。
事務作業を中断するのとは全く違うというのを裁判官はわかっているのだろうか?
手術の中断を余儀なくされた患者・家族からは、うまくいっても危険にさらしたとして裁判、不幸な結果になれば重過失ものの裁判として訴えられます。
なお、手術室をあけるための中断作業でさえ30分はかかるでしょうけど。

うらぶれ内科うらぶれ内科 2008/04/18 09:51 両判決とも「保険の範囲内」というとことが味噌のようですね。賠償金を先に決めておいてから辻褄を合わせているのだと邪推します。それでよいのか裁判官殿。

ssd666ssd666 2008/04/18 10:04 「体の方を軍服に合わせろ」式の論理が法の実態ですからな。
美しい法理論が合わないのは、現実の方がおかしいからだという手合いと、医療関係者が共存できる世界は存在しないでしょう。

Yosyan先生へYosyan先生へ 2008/04/18 11:19 10年以上昔の上司からの伝聞でもあり、肝心なところをわざとぼかして書かざるを得ないので(書きたいのはやまやまですが)、文意が伝わり難かったと思います。この話の元になる別件の判決(当時は裁判)は(当時の私の知る範囲で)存在しません。この裁判に関しての上司からの一忠言です。確かに当時(私は某公立病院で無料で土日も緊急C/Sしてましたねー(笑))は産科でも訴訟はまだ今ほど身近なものではなく、その時点でここまで言った上司達はこの裁判にかなり衝撃を受けたのでしょう。(その後も今でも覚えているので私もそれなりに)
上司の意図としては『たとえ他科がオペ中で、物理的要因で待ったをかけられても、その他科のオペを止めるなり先にC/Sを捻じ込むなり、或いは待機要員以外でも強引に緊急招集するなり(オペ室Nrs.や麻酔科のDr.のこと)できる限りのことをしないと産科医として負けるぞ』『自分の力の及ぶところではなく、病院の物理的容量(或いは管理者)の責任である、というところまでやっておかないとダメだ。』というものです。この裁判例においてはどうだったのか?正確なところも是非知りたいですね。また、今後も夜間など他科が長時間のオペをしていた場合どうなるの?という点でリスクマネージメント上『C/Sは別物』としないと今時イカンと思います。*そもそも今時、産科をやっていてはイカンとも思いますが。

YosyanYosyan 2008/04/18 11:40 Yosyan先生へ様

これは私の早トチリだったようで申し訳ありません。それでも10年前にそれだけに危機感をもたれていた上司がおられたのは尊敬に値します。

>自分の力の及ぶところではなく、病院の物理的容量(或いは管理者)の責任である、というところまでやっておかないとダメだ。

こういう思想は最近やっと一部に広がってきましたが、これは今の話ではなく10年前ですから本当に素晴らしい上司だったと思います。

そもそも「30分ルール」は現在では「努力目標」として明記されていますが、現在の努力目標を10年前に適用するのは筋違いかと考えられます。もちろん「努力目標」を「遂行義務」として取り扱うのがトンデモなんですが、10年前に「30分ルール」が医師の常識として存在したかどうかが疑問です。

>今後も夜間など他科が長時間のオペをしていた場合どうなるの?という点でリスクマネージメント上『C/Sは別物』としないと今時イカンと思います

これもそうで「30分ルール」に縛られると常に手術室は一列あけておくだけではなく、一列分のスタッフを常にスタンバイさせておく必要があります。理想ではあるでしょうが、現実は理想とは対極にあるわけですから、

>そもそも今時、産科をやっていてはイカンとも思いますが。

こういう結論になってしまうのが余りにも厳しい現実です。

元外科医元外科医 2008/04/18 11:46 さすがにこれは都市伝説では(笑)

本当に確定判決であれば恐ろしいです。
今は手術はしていませんが、腹部大動脈瘤破裂とERで診断して、手術室と麻酔医が空いていて
輸血在庫があっても手術決断から執刀までは30分くらいはかかっていましたね。今なら説明と同意書と文書作りで同じくらい時間取られるようですが。うらぶれ内科さんのいうとおり裁判では結論=判決が先にありそれに合わせて証拠を採用し法律解釈を構成していくのだと聞いたことがあります。敗戦でもリストラされないで腐敗した司法は国を滅ぼしそうです。

BugsyBugsy 2008/04/18 12:21 通常勤務時間と夜間はマンパワーが格段に違っています。

夜間の緊急オペは各診療科の取り合いでよく喧嘩しました。オペ伝票書いたら 即オペ室にダッシュです。
どの科のオペを優先させるかということになると 最終的に麻酔科のドクターが決定します。
トリアージと言えるかもしれません。

>その他科のオペを止めるなり先にC/Sを捻じ込むなり、
産科医ではない外科系のオイラも内心同じような事を考えています。緊急オペの順番が来るまで生きた心地がしません。

こういった30分ルールは麻酔科医師の責任問題にも敷衍するのかなあ?

そりゃ うちだってオペナースは育成してますが、夜間は簡単には捕獲できません。
専用のオペ室を常時確保してあって うちの科専属の麻酔科医師も24時間別途待機してある。
あー無理無理。

都市伝説?都市伝説? 2008/04/18 12:40 他科がオペに入っていてC/Sが待たされてその間時間が経過するなんて事が今後あったらどうします?
しかも祝日夜間。オペ室側は(今までもそうだったし)一列しか対応不可と主張。或いは2列なんとか掛け持ちやDr.を機械出しにして(泣)対応中にC/S入れてって時は?
20分、21分、22分、、、

YosyanYosyan 2008/04/18 12:53 都市伝説?様

設定の答えは判決文的には神奈川の訴訟で可能です。

『帝王切開が必要になった時点で手術室が○○時まで使えないのは××医師は十分知っており、その時点で他の医療機関に直ちに連絡を取り、連絡を取った時点から手術準備を行なっておれば「30分以内」に手術が可能であり、患児に重篤な後遺症が残らなかった事に高度の蓋然性が認められる。』

「30分ルール」がある限り、この程度の拡大解釈はありえます。責任回避のためには周辺の医療機関を含めて「30分以内」で対応できなかったことの記録を残さないといけなくなるかもしれません。

周産期センター周産期センター 2008/04/18 12:59 などで病院機能評価の項目で、「周産期専属の麻酔科医師を確保している」なーんて届けていて実際に「周産期麻酔医」の枠として雇用していても実際は普通の麻酔医なんてありますか?他科の麻酔で手が離せずC/Sが遅れたらいいの?
あるいは周産期センターにもかかわらず麻酔科医師が全員on callで(運が良ければたまたま他の業務としての当直)到着までどうかんがえても30分以上(他の都道府県から通っていたりして、、)なーんてありますか?産科が悪い?麻酔科が悪い?両方悪い?
上手くギリギリ避けていた弾もいつかは命中します。

YosyanYosyan 2008/04/18 13:57 周産期センター様

実情と「30分ルール」が乖離している事は言うまでもありません。今回の二審判決でも意見書の威力で「30分ルール」に対し微妙な態度を示していますが、少なくとも後出しシミュレーションで「30分ルール」が可能であれば過失とされます。

これに対応するにはJBM的には、その状況でどんなに努力しても「30分ルール」が守れなかった事を証明する必要があります。それには具体的にどんな事をすれば良いのか、さらにはそれだけで過失認定されないのかは、訴訟をやってみなければ分かりません。

10年ドロッポ10年ドロッポ 2008/04/18 16:07 周産期センター様、
>上手くギリギリ避けていた弾もいつかは命中します。

…言わせたいんですね。
あたらなければ、どうという事はない!

moto-tclinicmoto-tclinic 2008/04/18 16:15 産科医は、変な話、この判決を楯に、麻酔科医に並列麻酔を強要できそうですね。
10年以上前の上司の先生の思惑は、そっちだったりして。
産科医よりも麻酔科医が逃散しそうなお話です。

>>moto-tclinic先生>>moto-tclinic先生 2008/04/18 16:46 >>10年以上前の上司の先生の思惑は、そっちだったりして。
残念ですが違います(そんなにポジティブではありません)。純粋に訴訟回避目的です。

moto-tclinicmoto-tclinic 2008/04/18 16:52 そうでしたか、失礼しました。
10年前だと、そのくらい言う元気な先生もいたかも、って思ったんですが、昔から深刻だったんですね。

BUNTENBUNTEN 2008/04/18 17:19 手術中断なんて素人目にも無茶な気がしますが。orz

匿名希望麻酔科医匿名希望麻酔科医 2008/04/18 19:14 >産科医は、変な話、この判決を楯に、麻酔科医に並列麻酔を強要できそうですね。
ヨコハマのとある病院では、30分判決にまけてからは、帝王切開のためだけに、麻酔科医を当直待機させています。麻酔科は、日中の並列麻酔を拒否。緊急帝王切開がはいると、もっとも安定している手術(たいてい外科の長時間消化器手術)から麻酔科医スタッフを引きはがし、鵜飼い自科麻酔にしていました。(術者や外来病棟係の一人に麻酔医をやってもらい、何かあったら、麻酔科がコンサルトする)たいてい30分あれば、帝王切開が終わるので、その間血圧とか酸素飽和度をみていればいいだけです。(逆にそういう安定した手術でないと麻酔科医を引き剥がせない)
私も、できるかぎり帝王切開を優先して麻酔をかけます。イレウス、アッペは先に申し込んでいても、帝王切開を先にやります。帝王切開は、1時間あれば、必ず終わるけれど、他の手術は予想外に延長することがあること、帝王切開は2人以上の命がかかっていることからです。裁判に負けることよりも、赤ちゃんに何かあったら、がっくりしますから。
手術中断はありませんが、機械出しを引き剥がし、各科機械出しというのは、あります。

そもそも、長い手術が始まると当直医と事務に手術不能を伝え救急をストップし、産婦人科病棟にも、これからしばらく手術場が埋まっているから、(麻酔科や手術室看護師を手配するのに時間がかかるから)早めに連絡をいれてくれるように根回しするようにしていました。

ここりんここりん 2008/04/18 20:05 並列麻酔ってよくやってました☆筋弛緩とかあんまりいらないOPは、外回りナースがバイタルみてるの。でもおーいって呼べば隣の部屋とかにいるし、安心でしたけど。麻酔科の先生って大変だけど、一緒に仕事して、いろいろ勉強になりました。ありがとうございます。

ナース二人夜勤体制のOP室でしたが、ひとつOPやってる途中、緊急C/S!!待てませーんということで、産か医一人だし、手洗いナースほしいと言われ、ナース呼び出す暇がなく、ICUの麻酔科引っ張り出し、一人で、赤ちゃん出るまで器械だしをし、その後外回りして、一人でガーゼカウント、器械カウントした思い出があります。もうひとつのOPは器械だしDrにお願いしてです。
やればできるじゃんなんて思ってましたが、今思うと危ない綱渡りでした。
無事でよかった。良き(?)思い出です・・・

moto-tclinicmoto-tclinic 2008/04/18 21:47 わたしは、900床の国立病院の皮膚科で、形成が無い病院で、年配の部長の下でのナンバー2が長かったんで、皮膚科医にしては、いろんな手術やったほうだと思うんですが、オペ室では常にないがしろにされてましたねー。
手洗い看護婦つかないのは茶飯事、へたすると、外回り看護婦もついてもらえなくて、ウンテンや研修医といっしょに身を小さくしてやってました。まーそりゃ、命にすぐに差し障る手術は、たしかに少なかったですからねー。
麻酔科の常勤も不足してた病院で(外科が麻酔科のポスト取っていたので他科の麻酔は受けない。ついでに言うと、形成のポストも整形が取っていた=形成の診療はしない)、かといって全麻任せられるような気の利いたウンテンは皮膚科には入ってきませんから、ひとりで腰麻やらケタラールやら駆使して、四苦八苦したなあ。
おかげで今、一人院長で、毎日手術手術でも、看護婦も雇わず、全部自分ひとりで回すのに、苦労しませんけどさ。
とにかく、大学→国立しか知りませんからねー。開業するときに、看護婦だけは絶対に雇うまい、と固く心に決めてました(^^;。まあ、いまは、お客さんとして看護婦さんが結構いるんで、その点感謝ですが。
で、まあ、そういう元皮膚科医の目線としては、麻酔科医や機械の引き剥がしなんて、一度やってみたかったなあ、なんて、不謹慎なこと、つい思ってしまうわけです。

moto-tclinicmoto-tclinic 2008/04/18 22:19 しかし、麻酔科医がいなくて、30分ルール守れませんでした、って言ったら、「産科医ひとりでも、自分で麻酔掛けて帝王切開しろ!」なんて判決出たりしませんかね?
むかーし、まだ開業産科医が、帝王切開までしてたような時代には、そういう先生も実際多かっただろうし。

わたしの父親の口癖は「理屈と絆創膏はどこにでもくっつく!」で、叱られたときに言い訳しようとすると、余計にひっぱたかれたものでした。この手の判決読んでると、ときどきそのこと思い出します。

とおりすがりとおりすがり 2008/04/19 00:39 「30分以内にお届けできない場合は料金は戴きません」
なんてのは、今じゃ宅配ピザだってやってないってのに。「1分でも過ぎたらOUT」ってのは大抵は厳しすぎ。まして腹開いて手術してる最中に30分以内に終われと言われてもねえ。

10年ドロッポ10年ドロッポ 2008/04/19 14:21 匿名希望麻酔科医様、
…確かにスゴイけど、辞めちゃった方が遥かに手っ取り早いような…。

moto-tclinic様、
…涙で曇ってモニターが見えまっしぇん。

BugsyBugsy 2008/04/19 14:33 moto-tclinic様
>ひとりで腰麻やらケタラールやら駆使して、四苦八苦したなあ。
自分も以前は経験しましたが、今では麻酔科医以外が麻酔をかけてなんかあったら
訴えられて負けますよ(涙)。
だから病院の勤務医は苦労してるんです。

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