佐賀と滋賀

どちらも賃金不払い問題ですが、

    佐賀:出勤記録改竄による時間外賃金不払い
    滋賀:名ばかり管理職による時間外賃金不払い
今日は滋賀の三六協定問題などは置かせて頂きます。どちらも不正があっての賃金不払いですが、元になった不正は、
    佐賀:刑法156条(虚偽公文書作成)に該当の可能性
    滋賀:労基法41条(労働時間等に関する規定の適用除外)に該当しない管理職扱い
どちらも労働基準法37条違反となり是正勧告を受けていると考えます。どちらがより重い不正かは法律的には分かりませんが、感覚的には出勤記録を改竄した佐賀の方が重いように感じます。

労基局の是正勧告が行なわれた後の対応ですが、佐賀の方は、

病院は1年前に佐賀労働基準監督署から是正勧告を受けたが、不払い額算定が難航しているとして未払い分を支給していない。支給する日から2年より前の分は労働基準法の時効を適用して支払わない方針

佐賀は不払い額の算定が確定し、支給が決定した日から2年前までの不払い賃金を支払うとしています。つまり時効の針を止める気はなく、不払い賃金の時効は2年ですから、支給日が遅れれば遅れるほど支給額は減っていく勘定となります。現在の時点で1年分は時効になっている計算であり、年間約1億4000万円、月間約1200万円、1日で約40万円が時効で消失し続けています。

滋賀は5/30付け京都新聞によると、

名ばかり管理職」を改善
滋賀県3病院 残業代支払いへ

 滋賀県立成人病センター(守山市)が、管理職の医師に残業代を支払わないなど「名ばかり管理職」の状態になっているとして大津労働基準監督署から是正勧告を受けた問題で、県病院事業庁は30日、同じ状況にある他の県立2病院も含め残業代を支払うことなどを決め、改善計画書を同監督署に提出した。

 改善の対象となるのは、ほかに小児保健医療センター(守山市)、精神医療センター(草津市)。

 計画書では、病院長を除く管理職の医師40人の残業代(休日勤務を含む)と、医師103人全員の宿日直勤務の割増賃金について、時効になっていない2006年4月1日にさかのぼって本年度中に支払うとしている。

 また、医師らを残業させる際に必要な労使協定を来年3月末までに結ぶことや、退社時間を明確にするためにICカードを導入することを盛り込んだ。

 谷口日出夫病院事業庁長は「今後、指摘のあった事項の是正に向け、着実に実施していく」としている。

この記事のポイントは、

  1. 是正勧告のあった成人病センターだけではなく全県立病院の名ばかり管理職の未払い賃金を払う
  2. 適用期間は2006年4月1日から
  3. 改善計画は5/30付けで出された
滋賀への是正勧告内容は、

法条項等 違反事項 是正期日
労基法32条 時間外・休日労働に関する協定の届け出なく、時間外・休日労働を行なわせていること。 20.5.末
労基法第37条 部長職以上の医師について、時間外・休日及び深夜の割増賃金を」支払っていないこと。なお、宿日直勤務時に通常の労働に従事した場合についても同様の事(平成18年4月1日に遡及して支払うこと。)。 20.5.末
指導事項 労働者の労働時間について、『労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準』に基づき適正に管理すること。 20.5.末


滋賀県
  1. 是正期限を守って改善計画書を提出
  2. 未払い賃金の時効の針は勧告された内容で止めている。
未払い賃金の時効の針の問題はもうやったので簡単にしておきますが、使用者側が自ら止めるか、該当する労働者が自ら法的手続きを行なって止めない限り民法上はドンドン進んでいきます。この時効を積極的に利用しているのが佐賀で、利用しなかったのが滋賀になります。賃金不払い問題に対する姿勢の違いが鮮やかに示されています。

佐賀と滋賀の賃金不払い問題への対応を表にまとめると。

佐賀 項目 滋賀
刑法156条(虚偽公文書作成)に該当する出勤記録の改竄 不払い理由 労基法41条に該当しない名ばかり管理職
労基法37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金) 労基法違反 労基法37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
1年前 是正勧告 2008.4.18
不払い額の算定に難航 改善計画 今年度中に是正
算定が終了し支給日を基点として過去2年間のみ 支払い法 2006.4.1以降
進めるに任せる 時効の針 止める

おそらくですが、佐賀の担当者は滋賀の担当者を「お人よしも度が過ぎる」と鼻で哂っているかと思います。滋賀のような対処を行なえば、担当者は議会で吊るし上げられますし、吊るし上げられた結果、歴代の出勤記録担当者の責任問題に波及します。佐賀方式で未払い賃金を時効で消去すれば、議会に出向く必要もなくなりますし、担当者の責任問題も部局内だけの話になり、その上、2億8000万円を節約したと内々では褒められる可能性さえでてきます。

では滋賀の対処はそんなに間抜けな対応かと言えばそうとは思えません。佐賀の担当者の対応は不払い額を減らすと言う一点ではメリットがありますが、そのことにより、

  1. 労基局から是正が不十分として告訴される可能性がある
  2. 連動して虚偽公文書作成が表面化する可能性がある
労基局の処分も他の病院の対応を先例にする可能性があり、滋賀が示した姿勢は佐賀への影響が出ないとは限りません。

それより何より重大な事は、ネット時代に佐賀の対応を見知った医師がどう動くかの問題が出てきます。この医師不足の御時世に「聖地認定」がなされた佐賀の県立病院にどれだけの医師が今後集まり、また現在いる医師がどれだけ留まるかです。佐賀は多寡を括っているのでしょうが、医師ネット世論の影響で入局者がいなくなったところもあります。まだこれからどうなるか分かりませんが、滋賀の方が「損して得取れ」でポイントを稼いだと思ってしまいます。