苦笑

ssd様のところからで6/13付け毎日新聞地方版からです。

北九州市:「36協定」協議再開へ 市立病院3労組に申し入れ /福岡

 北九州市の南本久精病院局長は12日の市議会本会議で、市立4病院の職員に時間外勤務を求める際に必要な労使協定(通称「36協定」)の締結に向け、三つの職員労組に協議再開を申し入れたことを明らかにした。病院局によると、申し入れは今月で、協議再開は十数年ぶり。柳井誠議員(共産)に答えた。

 労働基準法36条は、使用者が労働者に時間外勤務を求めるのに先立ち(1)労働者の過半数でつくる労組(2)過半数の労働者の代表−−のいずれかと書面で協定を結ぶよう求めている。

 しかし市は「勤務医は自らの判断で時間外勤務をしている」(南本局長)とみていたことに加え、労組との交渉がうまく進まなかったこともあり、長く協議を中断させていた。

 南本局長は「労働基準法に定められた法定労働時間を超えて勤務させる場合、36協定を締結する必要があることは承知している。締結に向け、労組と協議を開始した」と答弁した。【平元英治】

ssd様が既に美味しいところを論評してますので、二番煎じとして出きるだけアングルを変えて注目したいのは、

労働基準法36条は、使用者が労働者に時間外勤務を求めるのに先立ち(1)労働者の過半数でつくる労組(2)過半数の労働者の代表−−のいずれかと書面で協定を結ぶよう求めている。

別にこの記事の記載が変と言う訳ではなく、労基法の36条にも、

第36条

 使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、これを行政官庁に届け出た場合においては、第32条から第32条の5まで若しくは第40条の労働時間(以下この条において「労働時間」という。)又は前条の休日(以下この項において「休日」という。)に関する規定にかかわらず、その協定で定めるところによつて労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる。ただし、坑内労働その他厚生労働省令で定める健康上特に有害な業務の労働時間の延長は、1日について2時間を超えてはならない。

  1. 厚生労働大臣は、労働時間の延長を適正なものとするため、前項の協定で定める労働時間の延長の限度その他の必要な事項について、労働者の福祉、時間外労働の動向その他の事情を考慮して基準を定めることができる
  2. 第1項の協定をする使用者及び労働組合又は労働者の過半数を代表する者は、当該協定で労働時間の延長を定めるに当たり、当該協定の内容が前項の基準に適合したものとなるようにしなければならない。
  3. 行政官庁は、第2項の基準に関し、第1項の協定をする使用者及び労働組合又は労働者の過半数を代表する者に対し、必要な助言及び指導を行うことができる。

ここにも労働者の代表の資格として、

  1. 労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合
  2. 労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者
こうなっていますから三六協定を結ぶ労働者側の資格の表現として間違いはありません。おそらくですが三つの職員労組を合わせると過半数を超えるか、三つのうち一つだけで過半数を超えているのだと考えています。何が気になるかと言えば、前からの疑問であったのですが、対象となる労働者の範囲です。労基法36条には、
    当該事業場に
こういう表現で書かれています。今回の事例で考えると当該事業場とは病院だと考えられます。病院と言う事業場は資格によって別れた職能集団の側面があり、大雑把には
  1. 医師
  2. 看護師
  3. 臨床検査技師放射線科技師を含む)
  4. 事務職員
他にも薬剤師、栄養士などがいますが、まとまった数としては上記の4集団があります。この4集団は業務として重複する部分はもちろんありますが、基本的に独立した職能集団を形成しており、集団間の人事の交流はありません。当然といえば当然ですが労働環境に対する利害も異なってきます。私が知らないだけかもしれませんが、病院単独でこの4集団をまとめあげた労組が存在するとは聞いた事がありません。労組があったとしても職能別であり、職能別と言っても医師の労組があることなど極めて稀な存在といえます。

記事にある

三つの職員労組

とはおそらくですが、看護師、事務職員、臨床検査技師ではないかと考えます。ここでなんですが、上記の4つの職能集団のうち最も数が多いのは看護師だと考えられます。これもおそらくですが看護師だけで過半数を占める可能性があります。看護師の労組加入率は病院によって異なるかもしれませんが、看護師の結束力は医師なんかと異なりこういう局面では強く、労働者代表選出の2つ目の条項である「労働者の過半数を代表する者」を選出する時でも圧倒的な強みを発揮する可能性があります。

労働基準法施行規則に

第六条の二

 法第十八条第二項 、法第二十四条第一項 ただし書、法第三十二条の二第一項 、法第三十二条の三 、法第三十二条の四第一項 及び第二項 、法第三十二条の五第一項 、法第三十四条第二項 ただし書、法第三十六条第一項 、第三項及び第四項、法第三十八条の二第二項 、法第三十八条の三第一項 、法第三十八条の四第二項第一号 、法第三十九条第五項 及び第六項 ただし書並びに法第九十条第一項 に規定する労働者の過半数を代表する者(以下この条において「過半数代表者」という。)は、次の各号のいずれにも該当する者とする。

一  法第四十一条第二号 に規定する監督又は管理の地位にある者でないこと。
二  法に規定する協定等をする者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続により選出された者であること。

  1. 前項第一号に該当する者がいない事業場にあつては、法第十八条第二項 、法第二十四条第一項 ただし書、法第三十九条第五項 及び第六項 ただし書並びに法第九十条第一項 に規定する労働者の過半数を代表する者は、前項第二号に該当する者とする。
  2. 使用者は、労働者が過半数代表者であること若しくは過半数代表者になろうとしたこと又は過半数代表者として正当な行為をしたことを理由として不利益な取扱いをしないようにしなければならない。

ここ規定されているように、「労働者の過半数を代表する者」になるには、

    法に規定する協定等をする者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続により選出された者であること。
相当な確率で看護師代表が選出される可能性があります。そうなると三六協定を締結するに当たり医師の意見は基本的に反映されない事になります。もちろん看護師代表であるからといって、医師や事務職員、臨床検査技師の意向を必ずしも完全に無視すると限りませんが、上記したように異なる利害の独立した職能集団ですから、一番優先させるのは看護師の利害であって不思議ありません。これは看護師がエゴイズムと言っているわけではなく、他の職能集団が代表となっても起こりうる現象です。

基本的な疑念は、利害が異なる職能集団が混在する職場においてもやはり単純多数派が代表になるかどうかです。もっとも病院の場合には看護師の利害で三六協定を結んでも、他の職能集団において格別不利になる条件は考えにくく、とくに医師なんかからすれば驚天動地の桃源郷の協定になる事はまず間違いないでしょうから、その点はさほど懸念しなくとも良いかもしれません。

もし懸念するとすれば、三六協定の時間外労働の上限は目安があっても決まりはありません。一般に1ヶ月で45時間程度とされていますが、もっと多くしても労使さえ納得すれば締結可能で、60時間程度であっても違法ではありません。さすがに100時間とか200時間にすれば労基局も締結を認めないとは思いますけどね。そういう中で職種別に時間外労働の協定を変える可能性です。そんな事ができるかどうかはもちろん分かりません。

まあこの懸念も看護師が1ヶ月30時間、医師が60時間とされても医師からはまず文句が出ないでしょうから、心配するほどの事はないかもしれません。本当の問題は結ばれた三六協定が守られるかどうかですが、

    「勤務医は自らの判断で時間外勤務をしている」(南本局長)
こういう意識の市当局ですし、好生館の件でも反応が薄い九州の勤務医事情ですから、三六協定も医師にとっては紙として存在するだけになりそうです。労働基準法は泥縄式の勉強で得た結論として、労働者を守る法律ではありますが、勝手に守ってくれる法律ではありません。労働者が自ら汗をかいて「守ってくれ」と訴えでなければ有名無実の法律です。

記事にある北九州の場合でも少なくとも十数年の間は三六協定が結ばれていない事が分かります。発覚したのは市議会であり新聞記事に掲載されても労基局は微動だにしません。100%間違い無く労基法32条及び37条違反が公然と行われていますが、そんな些細な事に労基局は関心を寄せ無いという事です。つまりどんな内容の三六協定を結び、そんなものを無視した労働実態があろうとも、労働者が「おそれながら」と訴えでない限り「ただの紙」と言うわけです。まあ、三六協定締結に直接関係する労組の方々は協定遵守に努力するでしょうが、蚊帳の外の労働者は「そんなのかんけ〜ね〜」にほぼ確実になります。

もっとも嫌味を書いていますが、労基法の知識などない、ほんの数年前では私もそうでしたからこれは「致し方ない」と苦笑しています。