新小児科医のつぶやき

2009-02-25 横浜市救急医療センター

横浜市救急医療センターとは

  1. 夜間急病センター
  2. 救急医療情報センター

この2つを合わせたものを言うようです。この二つは指定管理者制度で運用されていますが、とりあえず指定管理者制度とはwikipediaによると、

指定管理者制度(していかんりしゃせいど)とは、それまで地方公共団体や外郭団体に限定していた公の施設の管理・運営を、株式会社をはじめとした営利企業・財団法人・NPO法人・市民グループなど法人その他の団体に包括的に代行させることができる(行政処分であり委託ではない)制度である。

どうにも「委託でなく代行である」と言われてもどう違うか良く理解できないのですが、おそらく委託より裁量権が広いんだろうぐらいに解釈しておく事にします。それでもってその横浜市救急医療センターにドタバタ騒動が起こっているようです。事の発端は2006.2.7付神奈川新聞より、

 横浜市救急医療センター(中区桜木町)の指定管理者候補に同市内の病院でつくる「市病院協会」(荏原光夫会長)が決定したことをめぐり、同市内の開業医らが中心の「市医師会」(今井三男会長)が医師派遣に「協力できない」と反発している。「病院」と「開業医」の対立を受けて、市会委員会では6日、医師の人員確保や選定方法に疑問を呈する指摘が相次いだ。

 同センターは1981年に夜間急病センターとして開設され、市が医師会の協力を得て「市救急医療財団」(現・市総合保健医療財団=今井理事長)を設立した経緯がある。センダー運営はこれまで医師会員の派遣などで成り立っていた。

 ところが、今回の指定管理者選定では同財団は次点となった。医師会が開業医ら約2千人を擁するのに対し、病院協会は115の病院が加盟する。

どうもなんですが、病院協会と医師会が指定管理者指定を巡って争い、医師会側が負けるという事が起こったようです。指定管理者は公募で行なわれるようですから、条件が良ければ病院協会が勝っても不思議ないのですが、これまで運用してきたとの自負のあった医師会がある程度怒るのはあるかもしれません。この後に医師会が協力したかどうかは分からないのですが、この経緯も伏線にはなっていると考えます。

医師会に勝った病院協会ですが、ここが不祥事を引き起こします。2008.9.12付神奈川新聞から、

 横浜市は十二日、市救急医療センター(中区)を管理運営する市病院協会の指定管理者を取り消すことを決めた。市の補助金不正受給をはじめとする一連の不祥事で、同協会は市に指定管理者の辞退を申し入れていた。市は同日開かれた市会常任委員会で報告したが、各委員は融資審査会に市職員が参加していた経緯などを重視。「不正を見逃した」などとして、市側の責任を追及する声が相次いだ。市側は「チェック体制が不十分だった」などとして謝罪した。

 新たな指定管理者は来年七月までに決まる見込みで、それまでは同協会が管理運営を続ける。

 市によると、病院協会は病院情報システム更新事業などで執行額を水増し請求し、約五百七十万円を不正に受給した。

どんな内容の不正受給なんですが、横浜市会議員の広報紙から引用してみると、

 市の調査で、病院協会は2003〜06年度にかけて、市民向けの医療機関情報を掲載したホームページの更新や治療計画書の普及・作成システム開発などをめぐって、市の補助金約550万円を不正に受給したことが発覚。

 また、同協会が指定管理者になっている市救急医療センター(桜木町)の研修室改修工事が、同協会と「一心同体」とする神奈川健康福祉経営協同組合(健福協)を経由して発注され、発注額の1割が健福協に入るなどの不正が明らかになりました。さらに、同協会の会計担当理事の塩原和夫氏が理事長をやっている病院が、看護師宿舎として市から無利子融資を受けたマンションが健福協の倉庫に使われていたことなども発覚しました。

よくある古典的な手法ですが、病院協会もそれを行なったようです。結果として、

    市救急医療センター(中区)を管理運営する市病院協会の指定管理者を取り消すことを決めた

横浜市も不正に対して颯爽と断を下したまでは良かったのかもしれませんが、ここから迷走が始まります。2008.12.26付神奈川新聞より、

 横浜市は二十六日、市救急医療センター(同市中区)の指定管理者の再公募について、「応募がなかった」と発表した。「医師不足」が主な理由という。市健康福祉局は「今後のスケジュールは未定だが、早急に対処したい」と説明している。

 市は今後、問い合わせをした事業者などを中心に聞き取り調査を行い、応募がなかった原因を分析。その上で、市の選定委員会を開き、再々公募を行うか、特定の事業者を指定する非公募とするかを審議する。

 補助金不正受給事件による市病院協会の指定管理者取り消しで市は十月、医師会や救急告示病院など約二百の事業者に文書などで通知したが、応募はゼロだった。複数の事業者が医師不足に加え、「患者数が減った場合のリスク分担が不明確」と指摘したことから、年間の患者数が2%以上減った場合、減収分を市が負担するなど公募条件を変更。十二月三日から二十五日まで再公募に臨んだが、応募はなかった。

再公募しても誰も応募者がなかったということです。再公募と言うからには最初の公募もあったのですが、その時の理由として二つあげられています。

  1. 医師不足
  2. 患者数が減った場合のリスク分担が不明確

医師不足は横浜市としてもどうしようもないとしても、リスク分担はまだなんとかなるとして再公募時に加えられたのが、

    年間の患者数が2%以上減った場合、減収分を市が負担

じつはこれについても問題はあるようで、2008.12.3付神奈川新聞(Yahoo版)には、

委員の一人は「2%が妥当かどうか不明」と指摘。市側も「数字に特に根拠があるわけではない」と説明

オイオイと言いたくなるような話ですが、2008.12.2に行なわれた第2回選定委員会議事録には、

  • 現指定管理者の実績では、看護師数は最低でも5名必要であるが、新たな指定管理者の運営において、もし患者数が2%を超えて減少した場合、診療報酬も減少するため、「横浜市救急医療センター指定管理者業務基準」に基づく「横浜市救急医療センター指定管理者公募説明会質疑応答一覧」に記載している1診療科1名以上の看護師の配置が困難になることが予想される。
  • 医療従事者の確保が困難な中、確保するためには手当を増額する必要があるなど人件費の増額は避けられない。こうしたことから、看護師1人分相当である2%という数字には一定の根拠がある。 

こう書かれているのはもしかして「ドンブリ勘定」の疑念が出てきます。この辺はマスコミの編集権の問題も絡んできますが、判断が微妙なところです。とにもかくにも応募者ゼロのため横浜市が取った対応は、2/24付神奈川新聞(Yahoo版)より、

 横浜市は二十三日、市救急医療センター(同市中区)の指定管理者が再公募でも応募がなかったことを受け、補助金不正受給問題で指定管理者の取り消し処分が決まっている市病院協会を二〇〇九年度末まで管理者とする方針を明らかにした。今年七月に予定していた処分実施を延期し、「不適当」と認定した事業者に業務を継続させる極めて異例の措置。市の見通しの甘さや、ずさんのそしりを免れない対応に、市会からは責任を厳しく追及する声が上がっている。

 市は引き続き指定管理者選定を急ぐが、三月上旬に第三回市救急医療センター指定管理者選定委員会を開催。再公募でも応募がなかった原因を検証したうえ、センターへの指定管理者制度導入の継続が妥当かどうかや、市の直営(業務委託)にすることも含め運営方法を再検討する。

病院協会の補助金不正受給を理由に指定管理者の取り消し処分を行なったものの、誰も新たに指定管理者に名乗り出るものが無かったため、

    今年七月に予定していた処分実施を延期し、「不適当」と認定した事業者に業務を継続させる極めて異例の措置

苦渋の上の「異例の措置」である事はわかるのですが、

ずさんのそしりを免れない対応

ここまで言うのはどうかと外野にいる者は思います。病院協会が指定管理者の取り消し処分を受けた理由は補助金不正受給ですし、この辺は感覚なんでしょうが、あの時点で取り消し処分は「重すぎた」と言うことでしょうか。たしかに厳重注意ぐらいに留めておけば、公募しても応募がないと言うドタバタ騒ぎはなかったでしょうが、それで良かったのかの問題は出てくるように感じます。

横浜市の計算違いは、2006年時点では医師会と病院協会が全面対決するほど人気があったはずの横浜市救急医療センターの指定管理者が、たった2年で誰も引き受けたがらないものに変質した事です。強いて横浜市の不手際を上げるとすると、この2年の変化を洞察する事が出来なかった事になります。それと記事情報だけでは判然としないのですが、公募のハードルになっているのは、

  1. 医師不足
  2. 患者減のリスク分担

この二つがあげられ、横浜市が再公募の時に改善したのは「患者減のリスク分担」です。横浜市の対策が十分であったかどうかの評価は私にはわかりませんが、指定管理者の候補者にとっては「医師不足 > 患者減のリスク分担」じゃないかとも考えています。費用ももちろん重要ですが、引き受けても医師を手配できる自信がどこもなく、横浜市への返答は「リスク分担」をあげながら、本音は「医師不足」としている可能性です。

ただ収支決算も平成19年度のものが横浜市救急医療センター事業概要の52ページにあるのですが、

    収入の部:4億9783万7548円
    支出の部:5億358万7273円
    収支差額:△574万9725円

この収入のうち横浜市指定管理料が1億3555万5000円となっています。年間3万3988人が受診し、患者単価平均が1万562円であっても横浜市救急医療センターだけの経営で言えば1億4000万円ほどの赤字が出ている計算になります。患者はどうも減少傾向にあるらしく、今回の公募条件では指定管理者の負担額はやはり同程度ないしそれ以上になるともされています。

医師の手配に四苦八苦した上に赤字確実の指定管理者に誰も手を挙げなかったと受け取る事が出来ます。この赤字額も実に興味深い金額でして、病院協会が記事情報で確認できる補助金不正受給額の

約五百七十万円を不正に受給した

これにほぼ匹敵します。ここからは完全に憶測なのですが、病院協会が医師会に喧嘩を売ってまで指定管理者の座を奪ったのは、こういうカラクリによる旨みを計算した可能性を考えます。2006年当時が黒字会計であったのかどうかは不明ですが、赤字であってもその他のメリットがあれば経済的に引き受けるメリットが生じます。その前の医師会の時にはどうであったかなんて調べようがありませんが、何かあったから病院協会は2006年に指定管理者を獲得したとも考えられます。だからこそ医師会も激怒したと言うわけです。

ところが補助金不正受給が表沙汰になれば、当然のように補助金運用の厳格化が行われ、補助金運用による旨みが消えうせた事は十分考えられます。つまり厳格化により、横浜市医療センターの指定管理者になっても表も裏もない赤字事業の請負になってしまったとの考え方です。赤字事業の請負となれば、慈善事業みたいなものですから、医療経営の厳しい中で手を挙げるものなど誰もいなくなったと考える事もできます。

もちろん真相は不明です。

りゅうりゅう 2009/02/25 10:26 横浜市の救急医療センターの指定管理者が2006年4月から病院協会に変更されたのは、確か深夜時間帯の診療中止が原因だったと思います。
それまで内科小児科は午前6時まで診療していたのですが、深夜帯は患者が少なく一次救急患者も各基幹病院で対応するようにしろと言う横浜市の方針に医師会が反発したということだったと思います。
参考ブログ記事 http://zzz.livedoor.biz/archives/50327796.html  

当時、横浜市は赤字市営バス路線の廃止などいろいろと市の赤字縮小のための手を打っていましたが、患者の少ない割には人件費のかかる深夜帯廃止はその一つでした。
にもかかわらず、医師会が指定管理者に手を上げたとは存じませんでした。
病院協会が指定管理者になった時には、当時市内の勤務医でしたので急病センターに出務可能かどうかの確認を取られました。
もちろん不可と返答したのですが、それまでは横浜市急病センターの出務医師の公募はされていませんでしたが、2006年以降は民間の医師派遣にも募集が散見されるようになりました。

Med_LawMed_Law 2009/02/25 11:38 >年間の患者数が2%以上減った場合、減収分を市が負担

もうちょっと条件があるのでしょうけど、この文面だけだとS銀行が不良債権処理に使った厭らしいスキームがそのまま使われたりするかもしれません。
不良債権に瑕疵担保条項が付いて、期間内に損がでるなら全額国が負担するというのであれば、リスク債権を持ち続けるより、倒産させてしまった方がリスクが少なくなるというもの

中途半端に頑張るより、患者数を減らした方がリスクが少なくなる。。。。。
市が患者の受け入れを期待するのと反対の効果が起こりそう。
もちろん、こんなの当たり前の想定のはずなので、細かい規定があるような気はしますが・・・

banch1banch1 2009/02/25 12:07 時間外診療に関しては各自治体とも情勢は似たり寄ったりかと想像します。

あほらしくてやってられないというのが本音の医師会に対し、
それでは困るので是が非でもやってくれと誠意すら見せずにあつかましくせまる行政。
なんらかのインセンティブを提示するのが筋でしょう。
なんでもホイホイ引き受けるのはアホだけですよ。

自治体の医療施策について民意を問うような場面が増えてくるんだと思います。

banch1banch1 2009/02/25 12:15 続き
時間外診療に関して怖いのは、医師資格更新制度導入とそれに時間外診療実績が加味されること。
これやられたら、医師会ひとり負けです。

YosyanYosyan 2009/02/25 12:40 りゅう様

2006年当時の事情の情報ありがとうございます。指定管理者制度の導入は、横浜市の経費節減の狙いと、それに反発する医師会の何らかの軋轢があったとするのがよろしいようです。軋轢と言うか交渉の過程で、泣き言を言うのは市側だと考えていた医師会に対し、たまたまなのか根回ししたのか、病院協会が名乗りを上げて指定管理者になったぐらいが裏舞台の様な気がします。

そうなると2006年の指定管理者の公募に医師会が落選したのは、医師会にとって良かったのかもしれません。新聞記事の医師会幹部の怒りの声は、あくまでも一部の救急医療センター保持派のためのパフォーマンスで、本音はこれで厄介払いであったかもしれません。本気で奪還したいのならサッサと今回の騒動で名乗りをあげれば済む事です。

そこまで悪意に取らなくとも、こういうものは前から続いていれば維持しようとムキになりますが、一度手放してしまうと、負担を背負ってまでやる気がなくなったと考えた方が良いかもしれません。一切手を引くは、対内的にも対外的にもよくありませんから、スタンスとして誰かがやるのに手を貸すぐらいに変化しているのかもしれません。手を貸す相手に交渉したほうが、横浜市と交渉するより容易でしょう。

元もと保健所長元もと保健所長 2009/02/25 15:30 応「招」義務について、昭和49年に福岡市長からの照会に回答した厚生省医務局長通知があります。
ごく簡単に言ってしまうと、休日夜間診療所・当番制の存在と周知が応招義務免除の要件の一つと言うことです。
医師会が非協力の状態のままで、市内医療機関で応招義務違反にこじつけた民事訴訟が提起されると、少し苦しくなるかもしれませんね。

---------------------------
(昭和四九年四月一六日 医発第四一二号)(福岡市長あて厚生省医務局長回答)
昭和四十八年九月十九日付け福衛庶第八三○号をもつて照会のあった標記については、左記のとおり回答する。

休日夜間診療所、休日夜間当番医制などの方法により地域における急患診療が確保され、かつ、地域住民に十分周知徹底されているような休日夜間診療体制が敷かれている場合において、医師が来院した患者に対し休日夜間診療所、休日夜間当番院などで診療を受けるよう指示することは、医師法第十九条第一項の規定に反しないものと解される。
(後略)

BugsyBugsy 2009/02/25 18:14 公立病院の指定管理者ってどっかで聞いたことがあるなあと思っていたら
横浜市のお隣の川崎市では 市立多摩病院では 私立医大ですが聖マリアンナ大学が指定管理者になっています。まあ大学病院だから医師とスタッフの規模が充足するんでしょう。

逆に申せば公立病院の指定管理者になろうとすれば 各臨床科に過不足なく医師を配置しなければならないわけで 会員数2000人を誇る医師会といえども満遍なくそれぞれの診療科に医師を補充するのは無理なんじゃないでしょうか。特に心臓外科や脳神経外科なんざ そんなにいませんよ。絶滅危惧種なんです。

他の都道府県の病院でも指定管理者を募集していますが、複数の医師を一度にあらたに補充できるコネのある人って うーん、いますでしょうか?

http://www.kanaloco.jp/localnews/entry/entryxiiinov0811374/
 「川崎市の指定管理者制度で二〇〇九年度に更新される施設と、新規に導入される施設の合わせて六十九施設で運営を希望する民間事業者を募集したところ、八割弱にあたる五十四施設で応募がいずれも一団体しかなかったことが十八日分かった。」

採算性の問題も大いに関係するでしょう。

僻地精神科医僻地精神科医 2009/02/25 20:11 りゅう さま。
小児科の深夜時間帯の診療中止 ですが、
この事件も関係あるのでは?
(元記事が残念ながら古いので参照できないですが、事実のようです)
インターネットのごく一部で有名な横浜モデルのようです。


20 名前:名無しさん@6周年:2005/12/10(土) 00:35:36 ID:ReAkDz7U0
小児科崩壊の実例として、
横浜の例をはっときますね。


横浜市に1億円賠償命令 救急医療施設で診察ミス
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050929-00000211-kyodo-soci
市と小児科医に1億円と介護費用などとして月々30万−50万円を今後支払うよう命じた。

【小児医療】4歳児に障害、市と医師に「一生涯介護費を」
http://amaterus.jp/cgi-bin/news/patio.cgi?mode=view&no=2696


その結果・・・・・・・・

救急医療センターの深夜診療を廃止/横浜市
http://www.kanalog.jp/news/local/entry_12521.html

だから「いやならやめろ!」なのです。
ちなみに、このセンターの医師は小児科でもあった。

小児科の医者でさえ訴えられて賠償になってるのに
他科の医者が小児を診るわけがないぞ。
割り箸も心筋炎もあるしな。


21 名前:名無しさん@6周年:2005/12/10(土) 00:55:51 ID:wrG5pA9J0
>>20
貴重な発表ありがとうございます
われわれ実地医家は、>>20先生のお教えを肝に銘じなければ、
生きていけない時代だということがよくわかりました

では、次の発表をお願いします

moto-tclinicmoto-tclinic 2009/02/25 20:36 >【小児医療】4歳児に障害、市と医師に「一生涯介護費を」

これはちょっと、原文貼り付ける価値があるのじゃないかと思われるので、貼ってみます。
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【4歳児に障害 「一生涯介護費を」】
 横浜市救急医療センター(同市中区)で夜間に診療を受けた4時間後に病状が悪化し、重度の後遺症を負った当時4歳の男児と両親=同市西区=が市と医師に約2億円と介護費用の支払いを求めた訴訟の判決が29日、横浜地裁であった。小林正裁判長は「急性喉頭(こう・とう)蓋炎を疑うことなく漫然と帰宅させ、救急診療所の医師としての義務を果たさなかった」として医師の過失を認め、総額約1億500万円に加え99年6月から一生涯、男児の介護費用を毎月10〜56万円支払うよう命じた。
 判決は、本当に大丈夫かと医師に念押しした母親に、医師が「大げさだ」と言って取り合わなかったと認定。「当時、急性喉頭蓋炎を発症していた高度の蓋然(がい・ぜん)性があり、慎重に診察していれば疑うことができた」とし、「人的物的設備の整った施設に転院させるべきだった」と述べた。
 医師は83年に医師免許を取得し、小児科クリニックを開業しているが、当日はセンターの協力医として診療を行った。
 判決によると、男児は高熱を出し、のどの痛みを訴え、嘔吐するなどしたため、99年3月27日午後8時過ぎ、両親に連れられセンターを受診。医師は急性咽頭(いんとう)気管支炎と判断し、帰宅させた。母親は「肩で息をしているのに平気なんですか」と尋ねたが、医師は「4歳ぐらいでのどが苦しいなんて言うかな」「お母さんまで神経質というか親子そっくりだね」などと取り合わなかった。
 しかし、男児は深夜になって「おのど、どうしたんだろう」と呼吸の苦しさを訴えた。 父親が救急車を呼んだが、到着直後にぐったりし、別の病院に搬送されICUに入院。 一命は取り留めたものの、低酸素性脳症の後遺症で四肢にまひが残り、言語表現ができなくなり、排泄や寝返りにも介助が必要になった。
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>医師は83年に医師免許を取得し、小児科クリニックを開業しているが、当日はセンターの協力医として診療を行った。

めまいがしてきます。。。

moto-tclinicmoto-tclinic 2009/02/25 21:00 「肩で息をしているのに平気なんですか」てのは、呼吸補助筋を使った努力呼吸だから、たしかに疑うべきですが、こういう会話って記憶に頼るわけだから、本当のところどんなやり取りだったのかは、何も証拠残ってないし・・
「確かに言ったけど取り合ってくれなかった」と患者側に言われれば、レコーダーに記録残してでもおかないと、あとで反論できません。

最善の方法考えると、咽頭炎の患者全例に、レントゲンか内視鏡で、その時点では喉頭蓋の腫れがまだ無かったことの記録ですが、さてどうやったものだろう。。
なんちゃって救急医先生のところからの引用コピペですが、似たような判例。
【急性喉頭蓋炎民事訴訟の判例】
http://homepage3.nifty.com/medio/watching/hanrei/160121-2.htm

さらにこれ入院中。
【急性喉頭蓋炎訴訟 被告作成のHP】
http://www.geocities.jp/takeno_saiban/index.html
 急性喉頭蓋炎疑って入院中の窒息ってことになると、疑って入院した時点で、とりあえず輪状甲状靭帯穿刺くらいは、してしまったほうが良いのではないだろうか?・・

moto-tclinicmoto-tclinic 2009/02/25 21:18 例によってやや脱線ですが、基幹病院勤務医逃散のあとを埋めようと、開業医が手伝い始めたら、似たような話が起きてもおかしくはないんでしょうね。
わたしは84年の医師免許取得なので「83年医師免許取得」の小児科開業医先生のはなしは、身につまされるのですが、その頃って、急性喉頭蓋炎って、いまみたいに「救急の地雷」扱いじゃありませんでした。小児心筋炎もそう。
勉強して知識のupdate心がけてる先生は多いと思いますが、私の世代の(耳鼻科以外の)医師で「急性喉頭蓋炎」知らない開業医の先生がいたとしても、わたしは驚きません。

りゅうりゅう 2009/02/25 21:30 僻地精神科医さま、
ご指摘ありがとうございます。
この当時、横浜市内の小児科医でもあまりこの件について話をした記憶がないのですが、やはり医師会が指定管理者を避ける一因になったと考えられます。
ちなみに加古川市とは違って控訴はしていただけたようで、

横浜市救急医療センター医療過誤:元患者が逆転敗訴−−東京高裁 /神奈川
毎日新聞 2008年12月27日
http://mainichi.jp/area/kanagawa/news/20081227ddlk14040253000c.html
 横浜市救急医療センター(横浜市中区)を受診後、急性喉頭蓋(こうとうがい)炎を発症し後遺症で両手足がまひした市内の少年(14)と両親が、市側に賠償を求めた訴訟の控訴審で、東京高裁は26日、1審・横浜地裁判決(05年9月)を取り消し、少年側逆転敗訴を言い渡した。南敏文裁判長は「特徴的な症状が現れておらず、発症の可能性を疑って診察すべきだったとはいえない」と判断した。
 判決によると、99年3月、当時4歳の少年は高熱とのどの苦しさなどを訴え受診。帰宅後、舌の奧にある喉頭蓋が腫れて気管などがふさがる急性喉頭蓋炎から低酸素脳症を患い、まひが残った。1審は「急性喉頭蓋炎の疑いを全く持たず漫然と帰宅させた」と担当医の過失を認め、約1億500万円の賠償などを命じていた。
◇畑沢健一・市医療政策課長の話 市の主張が認められたと考える。

りゅうりゅう 2009/02/25 21:38 moto-tclinic様、
先日の小児科地方会の発表で、こども病院(ひょっとしたら他の2次3次病院だったかも)では喉頭蓋炎は入院してファイバーなどで診断が付いた時点ですぐ挿管するということでした。

moto-tclinicmoto-tclinic 2009/02/25 21:38 >りゅう様
 ちょっと、ほっとしました。情報ありがとうございます。
 非医師の方々には、「ほっとしました」というのは不謹慎かもしれないですが、これはほんと、勤務医どころか開業医も辞めたくなる判決なんです、医者側からは。

 ところで、エントリー本文の、
>同市内の開業医らが中心の「市医師会」(今井三男会長)が医師派遣に「協力できない」と反発している。
 というのは、市医師会が指定管理者を獲得したかったんじゃなくて、これをきっかけに救急医療センター業務から逃れたかっただけじゃないでしょうか?

moto-tclinicmoto-tclinic 2009/02/25 21:49 >りゅう様
 さらに安心しました。ありがとうございます。
 小児の挿管ってしたことないんですが、PALSでは「小児はあごが発達してないんで成人より喉頭蓋確認しやすい」と確か習いました。軟骨発達してないから、輪状甲状靭帯切開禁忌ですしね。だから早めに挿管しとくのかな?
 成人じゃどうなんでしょうかね?やっぱり診断ついた時点で挿管かなあ・・現場はどうなんでしょう?

gryphongryphon 2009/02/25 22:30 ご報告。すでにご存知の方も多いでしょうが
今週末の「朝生」が、医療崩壊をテーマにします
http://www.tv-asahi.co.jp/asanama/

Level3Level3 2009/02/25 22:36 >先日の小児科地方会の発表で、こども病院(ひょっとしたら他の2次3次病院だったかも)では喉頭蓋炎は入院してファイバーなどで診断が付いた時点ですぐ挿管するということでした。

りゅうさん,
「喉頭蓋炎の小児の挿管」は指導医クラスの麻酔科医でもほいほい引き受けられるものではありません.「言う(書く)は易し,行なうは難し」だと思います.小児の場合,協力を得られる可能性は少ないでしょうから,いくらかの鎮静が必要になると思われます.その上で危うい気道にアプローチしなければなりません.一歩間違えば,換気不能→心停止です.また,ファイバースコープガイド下の挿管にしても熟練していなければ,易々とできるものではありません.

moto-tclinicさん,
麻酔下なら多くの場合小児の気管挿管は成人の場合より簡単です.しかし,覚醒下となれば話は違います.気道の危うい状態で適切な鎮静をしなければなりませんから非常に気を遣う作業になります.

moto-tclinicmoto-tclinic 2009/02/25 22:44 >Level3様
 ご教示ありがとうございます。そうすると、わたしなんかが考えるには、疑い持った時点で、とりあえず輪状甲状靭帯穿刺とかして留置しておくのが、無難なんじゃないかと思うのですが、そういうのはありでしょうか?
 いま調べたら、ミニトラック?なんて便利なキットもあるようですが・・
http://www.smiths-medical.jp/product/kokyuu.html

お弟子お弟子 2009/02/26 05:42 3年前からupdateしていない知識でものを語れば、気管切開するキットのたぐいで当時の時点で小児に適応のある物はなかったかと。当然ながらノドを傷つけるわけで、争いになった場合、緊急避難的に行なった場合にその行為がどの程度考慮されるかですね。

moto-tclinicmoto-tclinic 2009/02/26 08:55 うーん、気管切開は、小児に限らず緊急気道時には避けるべきで、輪状甲状軟骨切開または穿刺なんですが・・(輪状甲状靭帯切開と気管切開は違います)
JATECでは12歳以下では輪状甲状靭帯切開禁忌となっていますが、いまPALSのtext確認したら、advanced interventionとしてcircothyrotomyが挙げられてるから、PALS的には可なのでしょうか?・・いやたしかこちらでも禁忌だったような記憶があるのですが。。
しかし、輪状甲状靭帯穿刺のほうは、どちらも可というか緊急気道時には推奨されてるはずで、上にあげたページにもミニトラックの下にクイックトラックっていうのもあって、こちらは「小児用」があります。
昔(私が研修医のころ)は、トラヘルパーって商品しかなくて、こちらは日本のトップ社から医療用具として厚労省承認とられてて、その添付文書
http://www.info.pmda.go.jp/ygo/pack/21800BZZ10005000_A_01_01/21800BZZ10005000_A_01_01?view=body
みても、「小児は適応外」とはされていないから、むしろ穿刺すべきときにしなかったほうが、罪に問われやすいのではないかなあ。

YosyanYosyan 2009/02/26 10:22 実戦的にはクループは要注意の病気です。開業医としてはどの程度の段階で病院に紹介するのかの見切りが問題になります。月齢、年齢、診察上の重症度、カレンダー上の問題、家族の理解も判断要素に入ってきます。かなり濃いムンテラを時間をかけて行なっています。なんと言っても判断を誤れば死に直結しますからね。

入院してからは挿管するかしないかが焦点になります。挿管のタイミングは遅れると挿管自体の難易度が格段に上りますから、担当医は悩ましい判断を迫られる事になります。挿管すれば安全策ではありますが、抜管まで入院が長期化します。ましてや気切などになれば後が大変です。見るからの重症例なら悩む余地はないのですが、開業医が大事を取って紹介してきた程度の判断が難しいところです。ピークを乗り切れば普通の風邪とあんまり変わらないところがありますからね。

個人的には幸いな事に気切まで至った経験はありません。もっとも挿管には難儀した事は何度かあります。なかなか押し込めないんですよね、あれだけ腫れていると。だから挿管のタイミングも小児科医としても、麻酔科の応援が期待できる時期かどうかの条件も考慮に入れておくのも重要です。挿管困難で立ち往生すれば窒息死しますから。